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序章 俺は普通の高校生なので。
序章44 falso héroe ②
しおりを挟むしばらくするとテレビから流れる音の調子が変わった。意識がそちらに戻る。
どうやらCMへ移ったようだ。
野卑な男の怒鳴り合う声が切られ、女児を装った女の甲高い声が響き耳を刺す。
聞き覚えのある声だ。
その声に紐づいた記憶が浮かび、そういえば忘れていたとスマホを引き寄せ一つのアイコンをタップする。
数秒すると今しがたテレビから流れてきたのと同じ声のタイトルコールがスマホから響く。
――スマホ用アプリゲーム『魔法少女プリティメロディ☆ドキドキお~るすたぁ~ず』だ。
頭の悪そうな一部のひらがな表記に毎回苛つかされるが、基本的に女児向けの作品なので仕方がないと自身を諫める。
タイトル画面をタップしゲームを起動すると、すぐにログインボーナスの取得画面に変わる。
常に複数種類のログインボーナスが開催されており、一つ取得すると次のログインボーナスの取得画面に移る。この作業を繰り返す。
弥堂はグッと歯を噛み締めた。
(まとめてギフトボックスに放り込んどけばいいだろうが……! 何故毎回ホームに行くまでに十数回タップさせられねばならん……⁉)
効率という宗教に囚われた弥堂は、「おかえりなさいお兄ちゃんっ☆」と言いながらにこやかな笑顔で手に持った宝石のような石をこちらに差し出してくる画面の中の少女を憎々し気に睨みつけた。
カッカッカッと画面を小刻みに指で打つ。どうやら爪が少々伸びてきたようだ。
弥堂が無駄連打をしているうちにCMの方も終わりを迎えるようだ。お決まりの台詞が聴こえてくる。
『世界を救うために魔法少女を集めよう! みんなの力をメイたちに貸して~!』
チッと舌を打つ。
「魔女め……」
思わず怨嗟が口から漏れ呟きとなる。
プリメロシリーズの中の1作である魔法少女プリティメロディ☆フローラルスパーク、その主人公となる魔法少女の正体である愛花 芽衣。
並居るプリメロシリーズの他作品ヒロインと比べても、頭一つ以上飛びぬけた戦闘能力を持つ歴代最強の魔法少女だ。
しかし、弥堂はどうにもこの愛花 芽衣という女が気に食わなかった。
間の抜けた調子で語尾を伸ばす喋り方も癪に障るし、高校生にもなって自分は魔法少女だなどと名乗り、フリフリヒラヒラとしたピンク色の衣装で街中を徘徊するイタイ女だ。そして出しゃばりな女でもある。
ようやくホーム画面が表示されるとボイスが自動で再生される。
『わたしたち、卒業しちゃうんだね…………でもね、メイはこれからもずっとお兄ちゃんと一緒だよ……』
画面に現れた、制服姿で胸に卒業証書を抱いた少女が潤んだ瞳で弥堂へと喋りかけてくる。
――【期間限定SSR】愛花 芽衣【卒業してもずっと……】だ。
「勝手に喋るな。誰が貴様の兄だ。馴れ馴れしいぞ」
極端に物が少ない一人暮らし用の薄暗い部屋で、スマホの中の二次元の女の子にお返事をする男子高校生が居た。
だがそれも無理はない。
35万円だ。
2週間程前まで開催されていた【期間限定!卒業ガチャ】の目玉である、この【SSR】愛花 芽衣【卒業してもずっと……】を入手する為に弥堂が投じた金額が35万円なのだ。
ギリと歯を軋ませる。
そもそも弥堂としては原作であるアニメシリーズのプリメロに興味はないし、こういった類のアプリゲームにもまったく関心がない。
しかし弥堂が所属する部活動であるサバイバル部の廻夜部長に、部員として必修であるとしてアニメDVD全巻の視聴を義務付けられ、サバイバル部としての社会貢献活動の一環としてコンテンツを買い支える必要があるとこのゲームのプレイを命じられている。
課金という形で魔法少女へ金を貢ぐことがどう社会貢献に繋がるのかは弥堂には皆目見当がつかなかったが、稀代の策士である廻夜部長には何か考えがあるのだろう。
命令をされてしまっては末端の構成員である弥堂としては否やはない。粛々と実行するだけだ。
だが、それでもやはり思う所はある。
弥堂はホーム画面上でこれでもかと主張をしてくる派手なバナーをタップした。
すると画面が切り替わり次に表示されたのは本日アップデートされたばかりの新しいガチャ画面だ。自動でサンプルボイスが再生される。
『今年も同じクラスになれたねお兄ちゃんっ。また一年間よろしくね!』
――【期間限定SSR】愛花 芽衣【胸騒ぎの新学期】だ。
ゴンっと、テーブルに拳を落とす。
(貴様は先月卒業しただろうが……! なにが新学期だ、ふざけやがって……!)
新しいガチャのネタにさえ出来れば、辻褄を合わせることなどどうでもいいとばかりの潔い運営会社の態度を軽蔑する。
おまけに――
(魔法少女は数十名いるはずだ……なのに何故2週に1回こいつだけ新バージョンが追加される……⁉)
しかもすべて期間限定だ。
プリメロシリーズに詳しい廻夜部長の話では、どうもこの作品は愛花 芽衣の人気でどうにか存続しているらしい。恐らくそのあたりの事情が絡んでいるのだろうが、その度に数十万円使わされるのは堪らない。
だが、サバイバル部の掟として、『天井は必定。推しは出るまで引け』と定められている。
ならば自分に拒否権はない。やるしかないのだ。
弥堂はこのゲームで一番金のかかる女をコンプすることを余儀なくされていた。
ちなみにこのゲームのガチャでは200連まで回すとピックアップ対象のキャラをポイント交換で手に入れられるのだが、漢の中の漢である弥堂はゲーム内に用意されたお知らせやHELPなどは一切読まないので、本当に当たるまで金を注ぎ続けていた。
彼は廻夜の言う『天井』というゲーム用語を知らないので、天井知らずに金を突っこめという意味で解釈していたのだ。
弥堂は画面の中の『1回300ジュエル』と書かれたボタンを見て目を細める。
このようないくらでも複製可能な電子データの絵に、しかも何が出てくるかわからないようなものに1回300円とは。
弥堂は戦慄する。
しかも前回は当たるまでに35万円を投じた。その金額ならちょっとは名の知れた画家の絵画作品を購入することも可能なはずだ。
(常軌を逸している……)
桜の木の下で振り向きながらこちらに手を差し伸べてくる愛花 芽衣を睨みつける。
(大体こいつは何故プレイヤーを兄などと呼ぶ……?)
識者である廻夜の話では、この作品は女児向けの作品だったはずだ。どういうことなのかまるで理解が出来ない。
さらに最近はこの女が魔法少女の姿で出てきているところをとんと見ない。
制服だの水着だの、他にわけのわからないコスプレ姿のイラストばかりが増えていく。
(お前は魔法少女だろうが……仕事をしろ!)
画面内でこちらに笑いかける戦う気など欠片もない顏に怒りが湧く。
廻夜の命令でアニメ作品を視聴した時もそうだったが、弥堂はとにかくこの愛花 芽衣という少女を認めることが出来ない。
この女のことを考えると愚痴と不満ばかりが出てくるが、そんな彼女を推しているのには理由がある。
喋り方が気に食わない。
戦いに対する姿勢が気に食わない。
敵に情けもかける。
金がかかる。
だが――
(――だが、強い……!)
過日に視聴した『劇場版プリティメロディ☆お~るすたぁ~ず』を思い出す。
全シリーズの魔法少女が集結し力を合わせて世界を救うというキャッチコピーだった。
劇中で愛花 芽衣以外の他の魔法少女が敵に操られて襲ってくるというピンチに陥ったのだが、どうするのかと思ったら彼女一人で操られた数十名の魔法少女ごと全ての敵をなぎ倒すという暴挙に出た。
結局そのまま力づくで決着をつけ、劇中に登場した味方の魔法少女たちを号泣させた。
公開時に劇場へ見に行ったという廻夜の話では、劇場に応援に来ていた他の魔法少女のファンである小さなおともだちたちも号泣していたらしい。
そんな逸話を持つ恐ろしい女だ。
今回の新規カードにしてもそうだ。
弥堂はガチャのサンプル画面の『キャラ詳細』ボタンを押す。
そこに記載された今回の【期間限定SSR】愛花 芽衣【胸騒ぎの新学期】の驚愕の性能を見て顔を顰めた。
まずはメインとなるスキル。
属性無視、防御無視、素早さ無視の敵全体への先制強攻撃だ。
おまけにアビリティでスキル発動前に自己強化バフ、敵の防御ダウンデバフが発動し、スキル使用後にはスキルゲージ上昇に大幅な補正がかかり、さらに与えたダメージの30%分自身の体力を回復する。
弥堂の計算が正しければ、装備の組み合わせ次第でこのスキル攻撃を毎ターン使用することが可能になるはずだ。
(今回もか……)
廻夜流に謂うのならば今回も紛うことなく『ぶっこわれ』だ。『もうこいつ一人でいいんじゃね?』というやつだ。
毎度この女ばかり性能が飛びぬけているのは先ほどの大人の事情なのだろう。
運営会社のその方針はわからなくもないが、しかし――
(今回も完凸までか……)
アビリティをフルスペックで発揮させるためには同カードを全部で5枚重ねる必要がある。
何故まったく同じ絵を何枚も入手しなければならないのかと、この手のゲームの風習に疑問を持ちつつ弥堂は単発ガチャを連打し始めた。
そもそも文句があるのならそこまでやらなければいい話なのだが、効率という信仰に狂った弥堂としてはそうもいかない。
今回のこのカードを所持しているのとしていないのでは、周回効率に大きな差が出る。
ランキングなどの他人との勝ち負けはどうでもいいが、もっと効率が出せる手段があるのにそれをしないというのは我慢がならないのだ。
この作品に興味はない。
ゲームというものにも興味がない。
実際プレイしていても何一つ楽しさなど感じない。
だが、作業をするのならば最大効率を出さねば気が済まない。
弥堂 優輝とはそういう男であった。
ということで、特に他にお気に入りの魔法少女がいるわけでもない弥堂は、性能面を考慮した結果この愛花 芽衣を推さざるをえない状況に追い込まれていた。
上司である廻夜の命でこのプリメロシリーズ全作品の視聴を終えている弥堂だが、なにもお気に入りのキャラクターが一人もいないわけではない。
弥堂は敵キャラである『ヒボウ中将』というキャラには一定のリスペクトをもっていた。
プリメロシリーズのほとんどの作品に登場する敵組織の幹部で、中将の位についていながらロクに部下を与えられていないので、毎回怪人一人を引き連れて戦場に身を投じるバリバリの現場派だ。
弥堂から見れば彼の仕事ぶりは細かいことを指摘すればぬるいと感じる点は多々あるが、それでも己の役割を全うする為に敗北が約束されているような戦いに毎回あの手この手と工夫をして挑み続けるガッツには一目置いていた。
彼が勝利したところを一度も見たことがないが、あともう少し手段を選ばずに非情に徹することが出来れば、違った結果になった戦場もあったように思える。
自分ならばどうするか――
弥堂は鋭い眼差しでガチャを回しながら、もしも魔法少女フローラルメロディこと愛花 芽衣と戦うことになった場合のシミュレーションをする。
(正面からの直接戦闘は駄目だ。奴の戦力は圧倒的だ)
なにせ作中では戦闘機が発射したミサイルを素手で掴み握り潰していた。その際に発生した爆発でもかすり傷ひとつ負わない。
そんな化け物と肉弾戦をするだけ無駄だ。
ならば――
(ここはやはり精神的に追い詰めるべきか……)
強大な戦闘能力を持っているとはいえ、中身はただの女学生だ。奴の弱点はメンタルだ。
彼女のメンタルを破壊するための有効な手段を考える。
ここはベタだが、友人関係から攻めていくのが有効だろう。
彼女の友人たちにデマを流してやって人間関係を滅茶苦茶にしてやるべきだ。
まずは交友関係を調べ上げ、愛花 芽衣の友人が放課後一人で下校している時にでもそっと忍び寄り耳元でこう囁いてやればいい。
『愛花 芽衣は共産主義者だ』と。
だが待てよと、思いとどまる。
相手はただの女子高生だ。そんなことを言ってもピンとこないかもしれない。TPOを弁える必要がある。ならばどのようなデマを流すのが有効だろうか。
女子高生から貰った缶コーヒーを一口飲み、弥堂は思考を深める。
(そうだな……)
『愛花 芽衣は援助交際と不倫をしている』、『愛花 芽衣はバイトテロをしている』、『あの女はお前の男と寝ているぞ』、『愛花 芽衣は名誉男性でミソジニスト』、こんなところだろうか。
最後のものはちょっと意味がよくわからないが、たまにSNSでこんなことを喚いている者がいる。そいつらは老若男女に漏れなく嫌われているようなので大体合っているだろう。
こうしてデマを流して彼女を孤立させることが出来れば、人々の為に戦うというモチベーションを奪えるだろう。
出来れば彼女のクラスメイト全員を買収して、彼女をシカトするように仕向けたい。
廻夜部長が以前に言っていた。
『フルシカトはマジきつい』と。
まるで自分が経験したことがあるかのように、消沈した重苦しい口ぶりだったように見えた気がしたが、彼はトレードマークである大きなサングラスをかけているせいで表情が読みづらい。恐らく気がしただけの気のせいだろう。
しかし、彼ほどの男がこうまで恐れるのだ。有効な手段に違いないと弥堂は確信する。
実行に移すには標的の周辺の人間に詳しい者が欲しい。奴の協力を得る必要がある。
弥堂は真剣な表情で単発ガチャを回しながら、脳内で作品の考察を深め出来の悪い二次創作を展開していく。
普段の弥堂であれば女児向けのアニメ作品に思いを馳せるなど無駄なことだと断じて決してしないことだが、今こうして魔法少女への造詣を深めているのは、なにも脳が疲弊しているからでも、ガチャ沼に心を壊されておかしくなっているからでもない。
今考えているテーマは来週に部内で発表を求められている課題にも合致するからだ。
同時に進められるのは効率がいいとほくそ笑む。
その課題とはサバイバル部の本来の目的となる重要な活動だ。
新学年になり部長である廻夜は言った。
ここまでの活動で日常で起こり得る災害などに対する備えは出来た。そして今期からは現実に起こる可能性はかなり低いもっと荒唐無稽な状況への対策をする、と。
その手始めとして週明けに会議(参加者二名)が行われることになっている。
そしてその第一弾となるテーマが、『普通の高校生として平穏な日常を送っていた僕がある日突然魔法少女と出会った件』だ。
題名の通りにもしも日常の中で魔法少女に出会ってしまった場合に、サバイバル部員として取るべき適切な対応とは何かということについて互いの意識を高め合っていくのだ。
ちなみに第二弾のテーマは『普通の高校生として平穏な日常を送っていた僕がある日偶然宿泊したホテルが爆破された件』となる。
そういった背景があり弥堂は部長の廻夜から参考資料として大量の魔法少女に関する本やDVDを渡され、全て目を通すことになったのだ。
今居るこの部屋もつい先日までは大きな紙袋数袋分のそれらで溢れていたのだが、どうにか睡眠を放棄することで全てを消化し廻夜へと返却を済ませたばかりである。
ということで、みんなのために戦う魔法少女を社会的に破滅させて孤独死に追い込むために必要な協力者について思考を戻そうとしたところで、スマホの操作を誤り戻るボタンをタップしてしまう。
先ほどのガチャのサンプル画面に戻ってくると、ちょうどそこに例の協力者の姿が見えた。
愛花 芽衣の肩の上に座る謎の小動物。
何の動物の突然変異種なのかわからないが、眉間にアイスピックを突き刺したくなるような小憎たらしい顏をしている自称魔法少女のマスコット。
シリーズ各作品に登場し、本人はあくまで偶然であると供述しているものの、第一話で必ずと言っていいほど敵を引き連れて逃走してきて、平穏に暮らす無関係な少女を巻き込むのだ。
そしてそのままなし崩しに少女たちを戦場へと連れ込む死神のような奴だ。
名を『ぽよ汰』といいファンたちの間では無能の中の無能と言われているらしいが、弥堂は少し違った見方をしていた。
おそらく奴はスパイだ。
でなければ、説明がつかないことが多い。
この作品はもう20年近く続いている。それはそのまま奴のキャリアとなる。もうベテランだ。
そんな経験豊富な雄が、毎回毎回人質にとられたり、魔法少女の変身アイテムを紛失したり、他にもあるがそういったつまらないミスを何度も繰り返し、味方である魔法少女を窮地に追いやるはずがない。
仮に本当に無能なのだとしたら、そんな間抜けが戦場で長年生き残れるわけがないのだ。
間違いなく奴はスパイだ。
奴の協力を取り付けることが出来れば、愛花 芽衣の周辺の人間関係を切り崩していくことも容易になるであろうし、上手く手引きをさせれば自宅に盗聴器や隠しカメラを仕込むことも出来るかもしれない。
さらに彼女の家族やペットを攫う場合には内通者がいればやはり都合がいい。
日替わりでどこかの部位を切り落として自宅の庭にでも毎日投げ込んでやれば効率よくあの女を弱らせることが出来るだろう。
なにせ飼い犬が脱走して数時間行方がわからなくなっただけで、もう戦えないと戦闘を拒否するような素人だ。確実に奴を戦闘不能に追い込めるだろう。
それを放映したら炎上からの謝罪コンボ間違いなしな残虐ファイトのプランを立てる。そしてとりあえずここまででいだろうと一区切りする。
これ以上の具体案は実際に遭遇してから決めるべきだ。決め過ぎては柔軟性が損なわれる。
廻夜部長から求められた『もしも魔法少女と出会ったらどうするか』という課題。
廻夜としては魔法少女の味方となる視点でどうするかとテーマを掲げたつもりだったのだが、弥堂は何故か自然と魔法少女と敵対する側の視点になっていた。
恐らく正義の味方に敵対されるような後ろ暗い自覚が多分にあるのだろう。
思考を打ち切った弥堂はガチャを再開しようとスマホに指を伸ばす。
すると所持していたガチャを引くためのジュエルが無くなっていたことに気付く。
チッと舌を打ち、スクールバッグの中からコンビニのロゴの入ったビニール袋を取り出しテーブルの上でひっくり返す。
袋から零れ出てきたのは大量のプリペイドカードだ。
(なにが、みんなの力を貸せだ)
みんなの力とは要は金だろう。小さな子供たちに金を要求してどうする。弥堂はこの作品の運営会社の正気を疑った。
だが、待てよと思考を巡らせる。
もしかしたら、子供の内に世の中は金だという真実を教えるための教育作品なのかもしれない。
このゲームにしても、どう考えても子供にガチャを回して目当てのキャラを当てることは無理だ。
だが中には、年齢を詐称してアカウントを偽造し、親のクレジットカード情報をちょろまかして登録して、そしてガチャを回すという手段を思いつく子供もいるかもしれない。
目的を達するためにはあらゆる手段を講じる必要があるということを子供の時から学べる教育作品なのかもしれない。
なるほどと、弥堂は一定の理解を示した。
『もう一回引く』のボタンを連打しながら、弥堂はコンビニ袋からプリペイドカードと一緒に購入しておいたEnergy Biteを取り出す。
弥堂が嗜食しているバランス栄養食で、本日の晩飯だ。
今日も長丁場になりそうだとプリペイドカードの総額を確認しつつ、パッケージを開けブロック状の中身を齧る。
だが、先程バイトの雇い主へ身内の盗撮写真を送り付け脅迫することによって10万円のボーナスの支給が約束された。資金は十分にある。
さらに今後は希咲 七海を使って馬鹿どもから金を巻き上げることも出来るようになる。そのように彼女と取引をした。
希咲から貰った缶コーヒーを一口飲む。
先日大爆死をしたばかりだが、それらを見込めば今回も攻めていける。
もとより退く道はない。
極端に物の少ない薄暗い部屋の中で、死んだ目でブロック食品を齧りペタペタと一定間隔でスマホを触る男の姿を、すっかり放置されたノートPCのディスプレイの灯りがぼんやりと照らしていた。
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