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序章 俺は普通の高校生なので。
序章17 適応異なる異なら不る因子 ②
しおりを挟む「でも、ミスってどういうこと? その、普通にしてればそんな簡単にバレたりはしないわよね」
法廷院たちへと問いかける。
「そうだな。今にしてみれば俺も若かったのだろう――」
「あ、また例の語りですね、はい、どうぞ」
同じ高校生であるはずの高杉君はやたらと老成した仕草でまたスッと遠い目をした。その意図を敏感に察知し速やかに続きを促す希咲は、この短時間で聞き手役がかなり板についてきた。
「うちの空手部は中々に成績のいい部でな、この学園の中でも所謂本気系と呼ばれる部活動なのだ。学園自体が設立して十数年程度のまだまだ新設校と呼ばれるようなうちの学園ではあるが、空手部はその学園設立当初から活動をしている、我が校ではそれなりに伝統のある部なのだ」
「あ、そうなんだ。あたしが入学した時ってなんかやたら格闘技の部活多かったからそういうの全然知らなかったわ」
「そうだな。今ではそこの弥堂のおかげでファッション感覚の軟派な格闘部は大分減ったが、本気で活動をしていたのは空手部に柔道部とあとは精々ボクシング部くらいで、残りはもう過ぎ去ったがここ数年の格闘ブームの影響で設立された遊びでやっているような部活なのだ」
「はー、そうだったんだ。なんか全部一緒くたに見ちゃってたわ。ごめんね」
「よい。直接的な関わりのない者には意外と知られていない、そういうことは間々ある」
知ろうとしなければ得られない知識、こうして偶発的に遭遇しなければ知らないままであること。
希咲は自分が1年間毎日通った学園でもまだまだ知らないものは多くあるのだろうと、自身の通う学園への理解をより深めることを決める。今後自身が卒業をして何年か経てば自分の弟や妹たちの進学先の選択肢として、当然この私立美景台学園もその候補に挙がってくる。その時にしっかりと自身の母校となるこの学園を紹介できるように、もっと色々知っておかねばと『うん、うん』と頷き胸中に留め置く。
「つまり空手部は本気で武を志す者たちの集いであったのだが、そうすると当然俺好みの屈強な男たちが多くてな」
「あっそ」
「今時――という風に思われるかもしれぬが、そういう気質の運動部であるから当然上下関係には厳しい」
「まぁ、ありがちよね」
「うむ。なので当時――俺が在籍時の去年は一年生だったわけだが――下級生の俺たちはなかなか組手などをさせて貰える時間やスペースは与えられなくてな、専ら基礎トレーニングや雑用仕事が主な活動となっていたのだ」
「は? ちょっと待って、てことはあんた今二年生? あたしとタメ? 先輩だと思ってたわ」
三年生として見たとしても実年齢の割に老成していて、制服を着ていないと高校生としてすら認識されないことに慣れていた高杉はスルーした。
「当時の三年生は空手部歴代最高の黄金世代と謂われていてな、元々幼少から空手の経験のあった俺などは彼らとの本気のぶつかり合いを望んでいたのだが、道場や部室などの清掃、トレーニング器具の手入れ、それに先輩方の道着の洗濯などの雑用仕事に日々を追われ、生憎そのような機会には恵まれなかったよ」
「はー、やっぱそういうもんなのね。度合の差はあるだろうけどサッカー部とかもそういうのはあるって聞いたわ」
希咲は自身の幼馴染でクラスメイトの紅月 聖人から彼が所属するサッカー部の話をたまに聞いていたので、脳裏でその話を想起し照らし合わせる。
「先輩の言うことは絶対!――とか、あたしもちょっと苦手だけど、ふふっ――あんたは絶対無理よね? 誰の言うことも聞かなそうだもの」
そう揶揄うような調子で人差し指を立てて、弥堂へと悪戯そうな視線を向ける。
「お前と一緒にするな。上司・上官の言うことは絶対だ。厳格な規律がなければ組織は維持できん」
「軍人かあんたは。てか、どの口が言ってんのよ……」
今度は半眼になり懐疑的な視線で刺してくる。弥堂はそんな希咲を、『ただし、スパイである自分は必ずしもそれに従う必要はないがな』と胸中で呟き鼻で嘲笑った。そんな自分の仕草に今度は眉を吊り上げ「あによっその態度」と言い募る、コロコロと表情を変える彼女の顏から面倒そうに視線を外し、希咲 七海に対する印象を上書きした。
「弥堂の言う通りだ。規律は大事である。規律を守ること、守ろうとすることによって遵法精神や公徳心が養われ、それに雑用とは謂え他者の為に労働をすることで奉仕の精神を身に付けることもできる。精神修養もまた自己を高めてくれるものだ。現在の巷で『精神論』などと一括りに謂われると悪いイメージが先に連想されてしまうようになったが、その総てが軽視されていいようなものではないと俺は考える」
「そうだ。人間は何をするにしても肉体を操作することによって行動をする。その操作精度と継続性を担保するのは精神の強度だ。辛いのならばやらなくてもいい、出来なくてもいいなどと謳う連中が増えたが、そいつがやらなくても出来なくても環境が保たれるのは、他の誰かがそのやらなかった分を肩代わりして日常を維持しているだけだ。自分が放棄した分の精神負荷を代わりに負っている者がいる可能性がある。それを忘れてはならない」
「でもだからって全ての人が同じことを出来るわけじゃあないんだ。自分が出来たからってお前も出来るはず、だなんて理屈で安易に押し付けられた荷物に潰されてしまう人だっている。その出来なかった人の出来ることを見つけて、居場所を作ってあげることの出来る寛容さと懐の深さ・広さも社会には必要だとボクは思うね。だってそうだろぉ?」
「この会話部分だけを切り取ったらあんたたちがまともな人間に見えるから怖いわね。テレビとかSNSでご立派なこと言ってる人たちの中にも、あんたら3人みたいに頭おかしいのが居る可能性もあるってことよね……あたし人間不信になりそうよ」
精悍な顔つきで議論する男3人に希咲は人間の恐ろしさを垣間見た気がした。
「まとも……ふっ――まとも、か――」
「そこだけ抜き出すな。褒めてねぇっつーのよ」
そう言いつつも、高杉君が再度遠い目をして虚空を見上げたのを希咲は察知し、尚も法廷院と議論を続ける自身の隣に立つ弥堂の制服のブレザーの腰あたりを掴んで、クイクイと引っ張り黙るように合図する。引っ張られた弥堂が鬱陶しそうに希咲へと顔を向けたことにより会話が切れ、それによって場に出来た静寂を受け取って高杉が話し出す。
「俺は決してまともな人間などではないのだ。大きな罪を犯してしまった。代表は不当だと擁護してくれたが、そんなことはない。全面的に俺に非がある」
その言葉に込められた罪人と名乗った男の想いが言葉に重量を持たせ、空間に伝わり場の空気を重くさせたように希咲には感じられた。より神妙な面持ちで無言で先を促す。
「去年のある日のことだ。部活終了後いつも通りの雑用を熟そうと、先輩方の使用後の更衣室の清掃を終わらせ、洗濯の当番であった俺は脱衣かごに放り込まれた全員分の道着を回収していたのだ。だが、その中に金丸先輩の道着だけが入っていなかったのだ」
「金丸……」
「金丸先輩はな、当時の黄金世代と謂われた先輩たちの中でも飛びぬけて強いエース的な存在であった。金丸先輩はとても強い男であったが、少々大雑把で忘れっぽいところがあってな、そんなところもキュートなのだが、まぁ、きっと脱いだ道着を脱衣かごに入れ忘れてしまったのだろうと、俺はそう推察をして彼の個人ロッカーを見てみることにしたのだ」
屈強な男たちの集まりである空手部最強の男をキュートと称したことについて、希咲は気付かなかったフリをした。
「仕事とはいえ他人の個人ロッカーを見ることなど本来よいことではない、しかしおっちょこちょいな金丸先輩のことだ、道着を洗濯に出し忘れたことを失念して翌日替えの道着を持ってくることも忘れてしまうかもしれない。そうしたら彼は洗っていない道着で過ごさなければならなくなる。それは可哀想だと思い、俺は少々出過ぎた真似だが彼のロッカーを開けてみて、もしも鍵がかかっていたらそれで諦めようと考えたわけだ」
「そういう考えや気遣いはまともなのよね……恐ろしいわ」
「ロッカーの鍵は開いていた。そして予想した通り先輩の道着もそこに入っていた。そこまではよかったのだ。だが、そこで気付いてしまったのだ……その時部室に居るのは俺一人、当番は俺だけで全部員はもう既に下校済みだと……恥ずかしい話だが、魔が差してしまった。許されることではないが、そうとしか言えない。情けない限りだ」
「えっと……何か――物を盗っちゃった……とか?」
その状況から考えられる罪となると、ほぼそれで間違いはないだろうと予測がついたが、頭のおかしな集団に属する頭のおかしな男ではあるが、そういったことをするような印象は抱いていなかったので、希咲は少々意外な結末だと思った。
だが、高杉は沈痛な面持ちで頭を振り否定する。
「違う――いや、そうであった方がまだマシだったのかもしれん。俺は己自身に、己の弱さに打ち勝つことが出来ずにとんでもないことをしでかしてしまったのだ……」
「いっ、一体何を……」
おそらく次の言葉で明かされるであろう真相に、ゴクリと喉を鳴らした。
「金丸先輩は汗っかきでな……練習後はいつも道着は水浴びでもしたかのように濡れそぼっているのだ。それを忘れていた俺はロッカーにあった先輩の道着を結構な勢いをつけて取り出してしまった。他人のロッカーを勝手に開けているという後ろめたさもあったかもしれない、そして憧れの金丸先輩のロッカーを覗き見ているという興奮も確かにあった。俺はそれらから逃れる為に早く作業を済ませたかったのだろう。少々力を入れ過ぎて、ハンガーに吊られた先輩の道着を引っ張ってしまった。それがよくなかった」
「んん? 道着が破れちゃったってこと? でもそれくら――」
「――そうではない! 道着は無事に取り出せた……だがっ! 勢いよく引っ張りすぎた道着が、その袖が俺の頬を打ったのだ!」
「――ん? ……んん?」
「当然金丸先輩の道着に打たれた俺の頬は、道着に染みこんでいた先輩の汗で濡れた。並外れた分泌量であった。顔を濡らす先輩の青春の残滓と匂いに俺は茫然自失した。まるで先輩の胸に頭を抱かれているようだと……そして。そして頬から垂れてきたその先輩の汗が俺の唇に触れた時、俺は――反射的にそれを舐めとってしまった。そこで……俺の理性は消し飛んだ――」
「は?」
「気が付いたら俺は全裸となり、頭上高く掲げた先輩のソレを両手で搾り上げ、先輩のソレから放たれる熱き迸りを全身で受け止めていたのだっ‼」
「き、気持ち悪い……」
高杉の渾身の罪の告白に希咲は顔を青褪めさせ、カタカタと震えながら弥堂の背後に隠れた。
「ごめん、むり。ほんとむり。もうほんきできもちわるい。まじむりぃ」
涙目で弥堂の制服をぎゅっと握って彼を盾に少しだけ顔を覗かせながら、しかしそうとしか言えなかった。
「尤もだ。俺はどんな誹りも受け止めねばならない。今でも悔やまれる」
「てか、ホモバレして追い出されたみたいな雰囲気出してたけど全部100%あんたが悪いんじゃない。男と女でも、女と男でも、女と女でも、どの組み合わせでも気持ち悪すぎてムリなんだけど」
本気の悔恨を滲ませるその男にもはや配慮もクソもなく事実を述べる。
「しかし俺の罪はそれで終わりではない。そこで終わっていればまだよかったのかもしれないな――」
「またそのパターン? あたしもうホントにやなんだけどぉ」
泣きが入った七海ちゃんは弥堂の背中に完全に隠れ、彼の制服を握る手にさらにぎゅっと力を込める。
「おい、邪魔だ。放せ」
「むりぃ。ちょっと隠れさせてよ。あたしもう鳥肌すっごくて――」
そう言いながら弥堂は嫌そうに顏を希咲へと向けたが、彼女は「ほらっ」と制服の袖を捲り露わになった自身の腕に浮き出たものを見せてくる。そんな彼らの様子には構わずに高杉の独白は続く。
「俺の行いも悪かったが、運も悪かったのだろう。普段忘れっぽい金丸先輩がな、珍しく忘れ物を思い出して部室に戻ってきたのだ。道着の出し忘れを思い出したのか、それとも他に忘れ物があったのかは今では定かではないが、しかし彼はそこで見てしまったのだ。開け放たれた自分のロッカーの前で全裸で転がり、自分の道着にむしゃぶりつく俺の姿を」
「やだやだやだきもいきもいきもい、むりむりまじむり」
「あぁ、そうだな。お前の言う通りだ。きっと金丸先輩もそう感じたであろう。しかし勇猛果敢な男である金丸先輩はな、嫌悪感に囚われながらも無法を働く俺を成敗しようと殴りかかってきたのだ」
「あたしだったらムリね、そんな現場に遭遇したら気絶しちゃうかも。少なくとも泣く。絶対泣く」
「気合を発する先輩の叫びに俺は我に返ってな。なんてことをしてしまったのだと。制裁は甘んじて受けようと拳を構えこちらに迫る先輩を黙して待った」
「当たり前よ。そんなんで暴力はいけませんとか言われても納得できないわ」
「しかし……しかし、そこで俺はまた魔が差してしまったのだ――」
「は? ちょっともうやめてよぅ、もうやだぁ」
拳を強く握って後悔の強さを示唆する男の様子に、希咲はまた弥堂の背後にサッと顔を隠し、彼の背中に頭を押し付け対ショックの姿勢をとる。弥堂は死んだ目で希咲と高杉、どちらにもうんざりとした。
「迫りくる先輩の鬼の形相を見てな、ふと思ってしまった。思いついてしまったのだ。先は精神修養だの奉仕だのと言ったがな、だが俺の中には強い男と全力で戦いたいという望みがあった。その時の俺は未熟で、俺の中にあるその望みを抑えきれなかったのだ。俺を殺さんばかりの気合で向ってくる本気の中の本気の空手部歴代最強の男と仕合う機会など、きっとこの先ない、と。そう思い至ってしまったらもう俺の未熟な精神では自制が出来なかった。俺は先輩を迎え撃ってしまった、全力全裸で」
「頭おかしいんじゃないの」
「結果だけ言ってしまえば、俺が勝った。気が付いたら気を失い床に倒れ伏した先輩の傍らで、俺は先輩を仕留めた正拳突きを放った右拳を握りしめ佇んでいたのだ」
「金丸先輩かわいそう……」
七海ちゃんは顔も知らない卒業生の先輩を本気で気の毒に思い、眉をふにゃっと下げると悲しみを紛らわせるため、弥堂の背中をよく手入れされキレイに伸ばされた人差し指の爪でカリカリした。弥堂はイラっとした。
「その時確かに己の罪の大きさを感じていた。しかし、それ以上に充足感があった。許されることではないがな。先輩は強かった。先輩の拳は何度も俺の肉体を突いた。鋭く重く、硬くて太い素晴らしい拳であった。その先輩が俺の身体に残した残滓が鈍い痛みと熱を発し、闘争で火照った俺の身体は鎮まることはなかった。そこで目に入った。先輩の顏についた、俺がつけた痣が――俺はもう我慢できなかった。とにかく鎮めたかった。俺は先輩の制服を脱がそうと彼に覆いかぶさり、そして――」
「は? うそでしょぉ……」
嘘だと思いたい、そう信じたくなるほどに凄惨なその先の予想に血の気は引き、聞きたくない事実から耳を塞ぐことも忘れ茫然とする。
「そして――そこに他の先輩方が現れたのだ」
「え? あ、はぁ……」
「おそらく忘れ物を取りにいった金丸先輩の戻りが遅くて様子を見に来たのだろう。部室に戻ってきた先輩たちが目にしたのは、気絶して制服を開けさせられた金丸先輩と、それに覆いかぶさる全裸の俺だった。もちろん先輩方は激昂し俺に襲い掛かってきた。空手部史上最強の世代と謂われた先輩たちが。俺は当然の報いだと思った。だが、しかし、そこでまた悪魔の囁きに負けてしまったのだ! 俺は拳を握った! 全力全裸で‼‼」
「頭おかしすぎる」
「気が付いたら、空手部史上最高の黄金世代と呼ばれた先輩方は全員が床に倒れ伏していた。満身創痍の俺だけが立っていた、二つの意味でな」
「しね」
「まぁ、そこまでいくとかなりの騒ぎになっていたようでな、野次馬も幾人かおり、空手部顧問の箕輪先生が様子を見に現場へ来られたのだが、箕輪先生は空手四段でな、フルコンタクトの大会で全国3位にまで辿り着いたことのある猛者なのだ。当然俺は先生にも襲い掛かったがまぁ、普通に負けてお縄になったという次第だ。ふふっ、あの時の箕輪先生の拳――今思い出しても滾るぞ」
「クズじゃん……ただのクズじゃん……」
希咲は両手で顔を覆うとへなへなと脱力し弥堂の足元にしゃがみこんでしまった。この男もこの場に居るクズの一人なのだが、希咲はもう疲労と失望と生理的嫌悪感で、何かに摑まっていなければ心が保てないと弥堂の学生服のズボンをぎゅっと掴む。
それを弥堂は嫌そうに見下ろしたのだが、もういっぱいいっぱいな七海ちゃんはそれに気付くことはなく、せめてパンツだけは誰にも見せないような姿勢を保つだけで精一杯であった。
「まぁ、そのあと先輩たちは幸いなことに大きな怪我もなく先に帰されてな。俺は箕輪先生に聴取をされそこで自分がホモであること、前から金丸先輩のことを愛していたこと、そして今日箕輪先生のことも好きになったことを告白したのだ。騒ぎが空手部以外の者にも知られてしまい部内だけで治めることは難しくそこでは謹慎の仮処分を言い渡され、そして数日の協議の結果、俺は一週間の停学と退部処分の沙汰となった」
「よくそれで済んだわね。退学になってもおかしくない気がするんだけど」
希咲は弥堂の足の間から懐疑的な視線だけを向こう側に放つ。
「うむ、教師にまで殴りかかってしまったからな。俺も退学を言い渡されても甘んじて受け入れようと思っていた」
「まぁ、種明かししちゃうと三田村教頭なんだよね。彼女すっかり流行りの勘違いポリコレやジェンダーに染まり切ってるもんだから、同性愛者である高杉君を全力で擁護したそうだよ。それこそ校外にも届いちゃいそうなくらいでっかい声で。んで、表沙汰にしたくない学園側が多様な方面に最大限にご配慮した結果、退学は免れたと。そういうわけさ」
「はっはっはっ。白井は随分と教頭を嫌っているが俺は彼女には感謝しなければならないな」
「なにそれ。あんた実は全然反省してないでしょ」
法廷院の加えた補足に朗らかに笑う高杉に胡乱な目を向ける。弥堂の足の間から。
「てか、何が過剰な配慮は必要ないよ……おもいっきり恩恵受けてんじゃない……」
「フフフ。言ったろぉ? 弱者は許され守られるべきだって。それが証明された出来事と云えるねこれは。だってそうだろぉ?」
「ハッハッハッ、面目ないっ」
「もうやだ……ここクズしかない……」
わけのわからないやべぇクズどもに絡まれたと思ったら、そこに別口のやべぇクズが乱入してきて事態は拗れるばかり。
「真面目に聞いて損した……はやくかえりたいよぅ……」
彼女の心からの願いが人気の少ない廊下に響いた。
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