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第16話.何とでも言い過ぎぃい!!
しおりを挟む今だにノシイシに突き飛ばされた苦い思い出がまだ記憶に新しいままだが、ザリナス山の麓を俺達は馬車で目指す。
途中からは馬車を降りて少しだけ道から逸れて移動する。
長らくこの依頼を冒険者達が受けているためか、薄っすらと道が出来上がっているために依頼現場は分かりやすかった。
「このあたりかな?」
森を抜けるとそこには草原が広がっていた。
緩やかな傾斜が続いており、所々では岩肌や土が露出している。
「魔力石は紫色に光っているらしいから見つけやすいかもな」
「初めての依頼ですからしっかりとこなしましょう」
「よーしお前ら、早速探せ探せー」
「貴方も探すんですのよ?」
「魔物の警戒もしておこうな~」
「分かっておりますわ」
セリシアはバットを腰から背中へと持ち替えた。
よく見たらバットの入る鞘ベルトがマントの裏から覗かせていた。剣はない、バット以外の武器を持つべきだろうに。
ミュリオは、ポーチからグローブを取り出して装着。
鉄製のグローブで攻撃力は高そうだ、あれで殴られたらひとたまりもないだろう。殴られないようにしなきゃ。
各々、採掘道具を手に持って準備は完了。
「あら、あちらには川があるのですね」
「本当だ、後でみんなで生まれたままの姿で水浴びしようかっ」
「生まれたままの姿にしてケツバットして差し上げましょうか?」
「ごめんなさいっ!」
さあさあ、楽しい採掘作業に入りましょう。
すぐさまに俺は岩肌のほうへとかけるとした。
しかしパーティを組んで最初の仕事が採掘作業とは地味なものだな。
とはいってもいきなり魔物退治に赴くのも不安だしこんなもんでいいのかな? 如何せん、パーティリーダーとしてどうすべきなのかが分からないな。
セヴィンがどうやっていたのかを思い返すもSランクパーティは受ける依頼の質も違ったから、比べるのは難しい。
「おっ、これか」
三つほど爪のついた小さな鍬で土を何度か掘り起こしていくと、固いものに当たった。
手に取って土を払ってみると、陽光に照らされたそれは紫色の光を放つ。
魔力石で間違いない、触っていると手に伝わってくるは穏やかな温もり。魔力が蓄えられているのだ。
大きさは手のひらサイズ、これくらいは割りと大きいほうであるらしくおそらくそこそこいい値がつくはず。
人の顔くらいのサイズとなれば値段も跳ね上がるらしいが、そう簡単には見つからないだろうな。
そういうのは岩肌の中を探ってみればいいらしいが、岩肌の掘削は骨が折れる。余裕があったらそっちのほうをやってるが、一先ずは土の所にしよう。
見つけたらきちんと土は埋め戻して、整地して、と。
ふぅ、たまには暖かな陽光の下で土いじりというのも悪くないものだな。
「そっちはどうだー?」
「二個見つけましたわー! あはー! また一個!」
「虚無」
セリシアは楽しそうに鍬でどんどん土を掘り返していっていたが、ミュリオはというと、仮面は悔しそうな表情の模様を浮かべていた。
「お、魔物かっ……?」
草原には似つかない青色のぷるぷるとした球体が草の中に紛れ込んでいた。
見るからに弱そうな魔物だ。
くりっとした目が合う、いわゆるスライムというやつではなかろうか。
「おっ、やんのか?」
「きゅー」
スライムは突進。
しかし、ぷるんっと音を立ててスライムは弾かれてしまった。
ふふっ……魔物がみんなこういうのだったらいいんだけどな。
「お゛る゛ぁ゛あ゛!」
後方では容赦のない怒声と衝撃が走っていた。
振り返ってみると、セリシアはバットを振り下ろしており、バットの先にはおそらくスライムであっただろう何かの欠片があった。
うまくバットを使いこなしてるじゃないか、もう少しちゃんとした武器に変えてほしいんだけどね俺としては。
「たー」
ミュリオのほうでもスライムとの戦闘が始まっていた。
とはいって、果たして戦闘になっているのやら。スライムたちが殴り飛ばされたり蹴飛ばされたりと、次々と星になっていく。蹂躙ってやつだね。
「きゅー!」
「ふっ、逃げろ逃げろ。まあ魔物は倒せばいくばか能力値の上昇につながるとは聞いたけど、こういうのは流石に大したもんにもならんだろうな」
スライムを軽く蹴って追い払う。
今は魔力石のほうが大事だ。
そうしてある程度魔力石を取り終えて、川の近くで一旦休憩のために腰を下ろす。
「いい運動になったなあ」
「魔力石もたくさん採れましたわね」
それぞれ持っていた小袋はほぼ満杯だ。
若干少なめのミュリオはなんだか悔しそうに小袋の中身へ視線を落としていた。
他にも同じく魔力石採掘の冒険者がきていたので途中からは採掘範囲が少し狭まったのもあったが、まあ成果としては十分ではなかろうか。
その冒険者パーティは既に草原から立ち去っている、聞くと次は薬草採取と魔物退治らしい。
若い冒険者達ではあったがフットワークの軽さからしてベテラン冒険者に違いない。俺達のような駆け出しとは大違いだね。
しかしまあ、こうして伸び伸びしていられるのもセリシアについていけば衣食住が安定するってのが大きいわけだけれど。
ああ、このまま魔王退治なんかしないでまったりちびちび冒険者稼業をやっていければいいんじゃなかろうか。
「そういやお前らはなんで冒険者になろうと思ったんだ?」
「冒険者って……楽しそうじゃありませんか」
「んー、どうなんだろうね」
「わたくしが幼い頃は母上がよく絵本を読んでくださいました。冒険者がドラゴンを倒す物語でして、わたくしは正直……滾りましたわ」
ドラゴン関連の依頼があっても今は絶対受けないからな。
「父上も母上も、貴族のわりに仕事優先で全然かまってくださいません。屋敷でただただ過ごすよりも冒険者になって外の世界に触れて、絵本のような世界を味わいたいのです」
その碧の瞳は眩いほどに輝いていた。
純粋さの宿っている瞳だ。元々綺麗だった瞳が、一層綺麗に見えた。
俺の目とは大違いだな。ちなみに俺の目は腐りに腐った魚を十数年煮詰めてできたような目だと言われた事がある。
「ふっ……」
思わず笑みがこぼれる。
ここは俺も何か言ってやろう。
「じゃあついでに俺と大人の世界を味わってみないかい?」
「死ねですわ」
「くぅーん……」
満面の笑みで言われた。
そういうのが好みの方なら喜んでいただろうが残念ながら俺は違う。
「実際に今日は冒険者をやってみて楽しかったですわ。魔物もこの手で退治できましたし」
嬉しそうにバットを掲げてそう言う。
「ミュリオはどうです?」
「楽しい」
「ふふっ、これから頑張っていきましょうっ。ついでにこいつを更生して立派な冒険者にしてさしあげましょうね」
「おいおい、俺の更生なんて必要ないよ~」
「頑張る」
ぎちぃ……っとグローブを握るミュリオ。
「が、頑張らないで……」
ふとその時。
何やら奥の森のほうで音がしたかと思いきや、巨大な獣がやってきた。
川の水や魔力石を求めてきたのだろうか。
「あら、とても大きい魔物ですわね!」
「あれは……」
どこか、見覚えがある。
「あのリボン……」
「魔物もお洒落をするのでしょうか……?」
「いや、あれは……俺を襲った魔物だ!」
「あらあら、それはそれは」
「ウケる」
「ウケんな!」
咄嗟に姿勢を低くして魔物の様子を窺った。
「どうしますの?」
「バットを貸してくれ」
「バットを? ご自身の剣は?」
「鈍い痛みってのはいたぶるにはちょうどいいのさ!」
「うわっ」
あいつのせいで死にそうな思いをしたんだ、ここはあいつにも痛みをふんだんに分からせてやらなくちゃなあ!
こいつらに何度もケツを叩かれた事だし、その鬱憤をあいつのケツで晴らしてやるとするぜ!
「二人はここで待っててくれ、ここは俺とあいつとの戦いだ」
「はぁ」
興味なさそうだなぁおい。
まあいいけどさ。
俺はぴょんっとすぐに川を渡って匍匐前進で少しずつノシイシの後方へと回った。
奴は気づいていない。
川にうまく俺の匍匐音がかき消されているのだろう。
いい位置に立てた。
慎重に立ち上がり、俺は構えては――ノシイシのケツにバットを振った。
「ブブル~~~ッ!?」
「はーっはっは!! 昨日はどうも!! お前のせいでこっちは大変だったんだからなぁ! おるぁあ! ケツを三つに割ってやるぜぇ!」
「ブッブル! ブブルルル!!」
「あ~ん? ノシイシ語は分からねぇよ! 日本語で話せ日本語でぇ!」
更にケツをバシバシ叩いていく。
ふんっ、やっぱりこいつは見掛け倒しだな。
何度もケツを叩くと、反撃もせずにノシイシはただ只管に逃げるだけだ。
だが油断は禁物。前は油断したせいで思わぬ反撃を食らってしまったのだからな。
「いくら魔物相手とはいえ、痛めつけて追い回すなんて畜生ですわね……」
「畜生ゴミクズ男」
「何とでも言えー!」
ふははー、俺は正当な復讐を果たしているだけだぜー!
「カス」
「クズ」
「ゴミ」
「ボケ」
「アホ」
「ゴミクズから生まれたゴミクズ」
「ゴミクズを十数年煮詰めてできたゴミクズの上澄み」
「燃やすしかないけど燃え切らないしぶといゴミクズ」
「百年に一度のゴミクズ」
「今年最高のゴミクズ」
「一味違うゴミクズ」
「冒険者の中でも最もゴミクズであり、ゴミクズ値はカンスト」
「ゴミクズの擬人化」
「何とでも言い過ぎぃい!!」
思わず二人に振り返って反論をするや、
「いてっ!」
魔物は俺の背中を蹴ってそのまま森の中へと逃げてしまった。
くそう……逃がしたか。
まあいいさ、あれだけ痛めつけてやったおかげで気分はとっても晴れやかだぜ。
あー暖かな陽光が気持ちいいねえ。
セリシアとミュリオの視線は冷たいけれど。
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