異世界帰りのダメ英雄

智恵 理侘

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第二部:第四章

42.魔王と共に。

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 石島さんも加わってきたる戦闘についての話し合いが始まるのだが、その前に。

「彼女は異世界で敵だったのだろう? 大丈夫なのかい?」
「た、多分、大丈夫かと」

 敵を倒しに行く上で、援軍に加わるのが魔王となると石島さんの警戒も高まっていた。
 そう警戒しなくてもいいと思う。
 魔王は裏切ったりなんてしないだろう、雨宮真央としての生活は守りたいはずだ。
 少なくともその辺を考えれば、信用はしていい。

「しかしやはり前回の戦闘でいくつかあった女の子の目撃情報は彼女か」
「はい、すみません、報告できなくて」
「自分の正体を隠す、それも魔王であるのなら仕方がないな。だが、少し気になる事が一つあるんだが」
「なんですか?」

 作戦本部のテント内にはもう魔王が入っている。
 彼女を一瞥しながら、石島さんは口を開いた。

「……魔王っていうと、どれくらいの強さなんだ?」
「どれくらいというと……そうですね、俺がもう一人いると考えてくれれば」
「ほう、ならそこらの魔物は容易く退治できるほどの腕の持ち主か。もしかして前回の魔物、退治したのは彼女か?」
「は、半分は……」

 ごめんなさい、全部です。
 俺は何もしてないのがばれたら怒られるのが怖くて嘘つきました。

「こちらとしても、扱いが難しいな。君はどう見る?」
「俺は……今は、信用していいと思います」
「彼女の抑制は任せる、頼むぞ」

 一応は、受け入れてもらえたようだ。
 このまま魔王と合流し、俺達は作戦について話し合うとした。
 街では非常時に備えて職員達が待機しているらしく、いつでも魔物対応、避難対応はできるらしい。

「――奴らは我が対応する、援護は貴様とその女だ。魔物を取り逃がした場合は貴様らが対応せよ。夜襲といった形を取るために今夜動くぞ」

 てきぱきと指示するところはやはり魔王。
 地図には赤線を引いて、敵の居所から襲撃による戦闘範囲、被害が予測される範囲も書かれている。
 これを見ると、ウドェンとソヴァンは前に鳥の大型の魔物――リデオルを退治した廃工場近くにいるようだ。
 あの辺りはひと気も少なく身を潜めやすい、何かするには絶好の場所であろう。

「ちょっと待ってください、私ならまだしも英雄様も援護とはどういう事ですか?」
「どういう事も何も、貴様らは所詮我の援護くらいしかできぬだろう?」
「見縊らないでくださいまし! ここは英雄様が指揮をとるべきです!」
「英雄英雄五月蝿いな」
「そもそも英雄様に敗北した魔王が指揮をとるなんておかしい話です!」

 にらみ合いが始まった。
 魔王は魔王で誰かの下につくなんていうのはそのうちに秘めた矜持が許せないのであろう。

「ううむ、我々としては魔法が使えない分強力な魔物の対処は任せたいんだが、魔王と言われた君がいきなり指揮を取るというのも、不安が生じないと言えば嘘になる」
「信用に足らんのは承知の上だ」

 腕を組んでどこか威張りだす魔王。
 何がなんでも自分が先頭に立ちたいという意思が見受けられる。

「浩介君はどう思うかい?」
「俺は……」

 魔王と石島さんを交互に見て、考え中。
 うーん……魔王よ、そんなに睨まないでほしいな。

「そもそも魔王は信用できません! 英雄様、やはりこの戦いは魔王を外すべきでは?」
「けど戦力は一人でも欲しいし、魔王もあいつらとは、敵対関係になってるんだろう?」

 敵対しているならこっちも利用して戦力に加えるべきだ。

「魔王、ここは俺に従ってくれ。お前がいきなり出てきて指揮をとるとなると混乱を招くかもしれないしさ」
「……むぅ」
「素直に従いなさい魔お――あっつぃですわぁ!?」

 魔王は容赦なくセルファに熱いコーヒーをぶっ掛けた。
 もしかしたらそのコーヒーが俺にぶっ掛けられる未来もあったかもしれない、よかったよかった。

「よかろう、従ってやる。不服だが」
「先陣は俺達三人でいいな? 前衛は俺とお前でセルファが魔法補助だ」
「我々は君達の戦闘が予測される場所の周囲警戒にあたる、北東側――街の方向には進行を阻止のために部隊配置をしておく」

 どれほどの戦闘になるかは定かではないが、念には念を入れているのだろう、広範囲で警戒態勢を敷いている。
 交通規制も既にされているようだ、これならばのびのびと戦えるな。
 それに廃工場付近一帯は空き地か森か廃墟、街と違って色々と気にせず戦える。

「英雄様、苑崎さんは戦力に加えないのですか?」
「あの子は……うん、一身上の都合で」
「一身上の都合!?」

 マジックは戦闘向けではないんでね。
 アパートを出る時は部屋からじっとこちらを見ていたけど、連れて行くには危険すぎるので駄目だ。
 しかしできればもう一人――フェイも来てくれればもっと心強かったんだが。
 連絡してみたら、

『バイトが入ってますので』

 の一言で電話を切りやがった。

 ちょっとは手伝って欲しいもんだぜ、街の危機に繋がるかもしれんってのに。
 それぞれ役割も決め、俺達は車で戦闘地点の100メートル手前まで送ってもらうとした。
 魔王は後部座席の窓側から、食い入るように外を眺めていた。
 ノリアルじゃあ体験できない光景だ、満足のいくまで見るがいいさ。

「貴様に敗北した理由を突き止めるのもあって、この世界で暫し過ごそうと思ったが、そもそも我々魔族は、いや――我は、一人で戦っていたのだな。本当の仲間など、友など……いなかった」
「友達ができた感想は?」
「悪くない。今日は今日子に我の正体を正直に打ち明けてみた」
「ほー? どうだったよ」

 魔王は溜息をついて手に顎を乗せる。
 ほんの少し沈黙を置いて、

「まぢウケる、だと。信じたのかどうか、分からなかった」
「それ……信じてないんじゃない?」
「どちらにせよ、友人関係に影響はなく安心している」
「じゃあそのお友達が次の魔王幹部だな」
「くだらん事言うな」

 後ろから蹴りが飛んでくる。
 助手席に座ったのは間違いだったか、椅子越しでも魔力を込めた蹴りは中々のもの。

「英雄様、強大な魔力が二つ、この先にある山の麓あたりに」
「んじゃあこの辺りで降りたほうがいいか」
「じゃあ私はここで陣取りするわねえ」

 管理人さんがこのあたりにいてくれるとあるとそれだけでちょっとした安心感があるな。

「ええ、お願いします。魔物が潜んでいる可能性もあるので、お気をつけて」
「ちっこいのなら大丈夫なんだけどねえ」

 車から降りて先ずは周囲の警戒。
 セルファは探知能力を使い安全確認は一先ずできた。
 管理人さんは車の中から銃火器を取り出し、車は道路の真ん中に停車させたままにするようだ。
 一つのバリケードとして利用するつもりか。
 あたりも電灯は少なく、今は車両の光のみ。
 この辺りは民家もなく夜の静けさだけが包み込んでいる。
 山へと伸びるこの長い道路、進めば廃工場などの区域に入るであろう。
 そこからが、俺達の戦闘の始まりでもある。

「行くぞ貴様ら」
「貴方が先導しないでください! 英雄様、どうぞ私達を導いてください」

 ノリアルでの、一つのしきたりみたいなものがある。
 偉い人ほど前を歩くっていう。
 この場合は俺が先頭に立って歩くわけだが、正直……暗い夜道を先陣切りたくないなあ。

「イグリスフは出しておこう」
「……いつ見ても忌々しい剣だ」
「そりゃどうも」

 しかし不思議な気分だ。
 一度衝突して、そして倒した相手と今共に行動している。
 こっちはニート、そっちは女子高生と大分変わってしまったなあ。
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