異世界帰りのダメ英雄

智恵 理侘

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第二部:第一章

27.真央で魔王な学生生活。

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 心神は屋上で寝ているようだ、もったいないな。
 授業というのは実に興味深かったのだが、あやつも学んでおいて損はないものを。
 人間の知識とは授業によって培われていくのだな。
 この世界の人間はノリアルの人間よりも頭がいいかもしれん。
 理科の授業も興味深いな。
 物体そのものについてなど考えた事もなかった。
 我は今までどれも路傍の石が如く扱っていたが、そういったものの知識を深めるのは重要だな。
 電気は雷魔法を用いてノリアルで応用できないものか。
 この世界……まだまだ調べる必要があるな。
 しかしこの我が掃除をする事になるとは……だがこれも人間社会に溶け込むには致し方のない事だ、我慢しよう。
 飛鳥は……いないか。
 我には一日中引っ付いていたがそう心配しなくてよいものを。
 飛鳥がいないと少々心細いものもあるが、ここはクラスメイトとの交流をするのも悪くはないか。

「そこのお前」
「え、私?」
「今日は楽しかったな」
「そ、そうだね……」

 何だ貴様、学校が楽しくないのか。
 というかこやつは誰だ。
 なんとなくで話しかけてはみたが席も遠くで真央の記憶でも話した記憶が無い。
 真央よ、もう少しクラスメイトと幅広い交流をしていれば良いものを。

「ま、真央さん……でいいんだよね?」
「魔王だ」
「そうよね、真央さんよね。眼鏡掛けてないし雰囲気違うものだからちょっとびっくりしちゃった」

 人は眼鏡でそれほど雰囲気が変わるものなのか。

「眼鏡外すと、綺麗ね真央さんは」

 綺麗、か。
 複雑な気持ちではあるが、褒められるというのは悪くない。何よりまだ我の中に残っている真央が喜びを感じている。

「貴様も綺麗だぞ」
「そ、そう?」
「肌の状態も良い、髪質も十分な手入れによる艶やかさがあり貴様の目、鼻、口、全体の美しさを映えさせる要素となっておるな」
「そ、そんなに褒められると照れるなぁ……」

 こやつの名前は……ふむ、石島唯か。
 男子の目を見る限り、クラスでの評判も悪くはなさそうだ。
 今後とも接していても損はあるまい。

「して、唯よ」
「ん? 何?」
「このゴミ袋はどこへ運べばいい?」
「ああそれね、裏口出てすぐ隣にゴミ捨て場あるからそこに置いてきてね。あれ? 前にもやった事なかったっけ?」
「忘れたのだ。今後とも何かあれば教えてくれ」

 人間同士の、感謝の示しを見ていたが、その中で右手を軽くあげるような動作があった。
 それをしてみよう。

「感謝」
「ど、どうも……」

 む、そこはかとなく反応は悪いような。
 女性はそれほど多用する動作ではないのか。
 それにしても人間が多いな。
 一つの場所に集中する光景は戦場以外では然程見慣れんものだった。
 浮かべる表情もまた一人一人違う、笑顔の者もいれば浮かない表情をする者も。笑顔の者は大体が「やっと授業終わった~」などと口々に言うものなのだな。
 我としてはやっとどころかあっという間であったが。

「ここが裏口か」

 ノリアルと空気が違うために、外の空気を吸いにいくのも心地よさはやや少ない。
 街中よりはマシなのだがな。

「あれー? 雨宮じゃーん」
「む?」

 女子数人が建物に凭れかけていた。
 掃除は終えたのだろうか、だとすればよほど掃除の手練とみた。

「おー? またイジられにきたのかー?」

 この種族の髪は黒、しかしこやつらは金髪から茶髪とやけに派手だ。外国人でもないだろう、髪に着色をしているのだな。
 我を蔑むような目で見てくる、良い気はしない。

「なんだよ、返事しろよなー!」

 頭を鷲掴みにしてくるや、乱暴に振り回してくる。
 ふむ、なるほど。
 こやつらが――真央を追い込む原因の一つか。
 ならば敵と見てよいな。

「その手を離せ、無礼者」
「は? 聞いた? ぶれいものだってぇ! ウケるんですけどー」
「反抗期かなー? キャハハ!」

 皆が下衆な笑いをしている。
 弱者を一方的に甚振り高揚する、そんな品性なのであろう。

「いつもの眼鏡はどうしたのー? 色気でもつけたいのかよ雨宮ちゃんよー」

 乱暴に我を物陰へと移動させる。
 人目につかない場所で、何度か暴力を振るわれた真央の記憶――これがいつもの事なのか。

「金は持ってるー? お小遣い欲しいなぁ」
「忠告するぞ、自分の行いをよく考えてから行動するんだな」
「は? 何言ってんだよこいつ」

 三人の女の中で一番発言率の高いこの二人は小物だな。
 おそらく位の高いのは奥でほくそ笑んでガムを噛んでいる女だ、我とこやつらの絡みを眺めて楽しんでおるのだろう。

「顔はやめときなよ」
「分かってるよ今日子ー」

 来るか。
 女が足蹴りをしようとする瞬間に顎に一撃。
 手加減しておかねばならんのだが、最初の一撃はやや加減が出来ん。

「かぺっ」

 予想以上の鈍い音。
 女の顎が一瞬外れ、戻ったと同時に意識が今度は頭の外にいってしまったようで膝から崩れ落ちた。

「ううむ、もう少し加減せねば」
「え、は?」
「これくらいはどうだろうな」

 先ほどよりも少し弱めてみるか。
 攻撃自体を小さなものにするのはどうだろう。
 男子が休み時間にやっていたあのデコピンとやらで試そう。

「たふへっ」

 ……加減が難しいな。
 デコピンくらいならと力は然程弱めなかったのが駄目だったな。
 もう一人の女のほうは吹っ飛んでしまった。

「だが、加減は分かってきたな」
「あ、あんた……一体……」

 たじろぐ今日子。
 面白いな人間は、立場が変わると先ほどのあくどい表情は消失してしまっている。

「どんな気分だ? 今まで弱者を甚振って楽しんでいたのに、弱者側に回る気分というのは」
「じ、弱者ですってぇ……?」
「だが安心しろ、我は弱者を甚振る趣味はない。貴様のような下衆で虫以下のゴミに構う時間ももったいないのだ」
「い、言ってくれるじゃない……!」

 今日子の瞳にはまだどこか闘志があるな。
 木の枝を拾い上げてくる、それなりに太いもののそれを武器として使おうというのか?
 流石に馬鹿にしていないか、我に立ち向かう武器が木の枝? 剣くらい用意できんのか貴様は。
 ああしかし、この世界はそういったものは無いのだったな。
 だが記憶の中では刀というものを見た、あれは見た目の美しさや切れ味からそそられるものがある。
 一体どこで手に入るのだろうな。
 だが我の剣はもうある、刀は手に入れたとしても観賞用になりそうだ。

「たまたま隙を突いて反撃が成功したかもしれないけどねぇ、ここからはそうはいかないわよ!」

 容赦なくどうしようもない木の枝で殴りかかってくる。
 そんなもの、防御する必要もない。

「あいたっ」

 でも少し痛かったぞ。
 魔力での防衛の能力向上はもう少し上げておくか。
 だが魔力の無駄な消費は避けておきたい。

「反撃してもいいか?」

 今度はこちらの番といきたい、やられたらやりかえす。
 真央の記憶にあったぞ。
 倍返しだ! とかいうドラマの台詞が。

「おーい何してんだよ今日子」
「あ、猛! ちょっと聞いてよ、こいつ生意気に反抗してきたの!」

 これまた学生の中でも茶髪に染めたり耳には見た目の映え以外意味の無いであろう装飾を付けた、明らかに安っぽい男がやってくる。
 今日子とは仲の良い奴なのであろう。
 そして我には、弱者を見るような視線を向けている。
 援軍の合流によって今日子はまた余裕を取り戻していた。
 だが何か勘違いしていないか。
 援軍が来たからといって今の戦力が覆されたかというと、それは違う。

「は? お前俺の今日子に何かしたのかおい」
「これから何かする予定だ、内容としては少々痛い目を見てもらう予定だがそれが何か?」
「それが何かじゃねーよ、今日子に手を出したらただじゃおかねえぞカスが」

 これは滑稽だ。
 こやつ、自分の言動がカスと自覚していない。
 弱者を取り囲み虐げる行為のこれまで加担して、そんな者の口からカスと聞けるなんて思いもよらなかったぞ。
 真央よ、お前は存分に怒り、その残滓からなる感情を我に乗せてもよいぞ。
 我も存分に気分を害している。
 余裕の表れか我の額を突いてくるこの男、とりあえずぶっ飛ばそうと思うのだが真央、お前の感情次第だ。

「おい貴様、行動には気をつけろ」

 真央、我の中にいるのであろう?
 この男、そして今日子、どうする?
 お前も人間だ、人間の醜さを醜さでぶつけろ。
 むっ……反応があるな。
 ん……何もしないでほしい?
 今本当に、この状況を見て、そんな思考を抱いているのか、真央よ。

「何が行動に気をつけろだこの野郎!」
「猛、やっちゃってよ」
「任せとけ!」

 奴は拳を振るおうとしてくる。
 遅い攻撃だ、避けるのは容易い。
 真央よ、悪いが攻撃を受けている状況では、何もしないというのは難しい注文だ。
 この猛とやら、遠慮なくぶっ飛ばしておこう。
 拳を避けつつ即座に反撃行動。
 昨日のテレビで見たボクシングとやらを真似た動きをしてみる。
「んぐっふ」
 拳で戦うのも悪くない。
 奴の顔面を捕らえ、鼻からの出血を確認。カウンターパンチというのは条件が整うと軽く拳を置いただけでもそれなりの攻撃力を得られるな。

「て、てめぇ……」

 次は思い切りいこう。
 よろめくも続けて攻撃を加えてくるも、単調な攻撃手段だ。
 ただ拳を振り続けるこの動きはボクシングとも程遠い。
 こやつ、武術には長けていないのだな。
 闘っていても何の参考にもならん。
 最後は腹部へ一発お見舞いし、膝が崩れたところで顎に一発。

「弱いものだな」
「ひぇ……ち、ちょっと待ってよ……」
「何を待つというのだ、んん?」

 今日子へ歩み寄るや後ずさり。
 後方はゴミ捨て場しかないぞ、自らそこに入り込むというのならばそれは殊勝な心掛けよのう。

「これまでの行いから、報いをいつか受けるとは思わなかったか?」
「あ、あんただってされるがままで、い、虐められる方が悪いじゃんよ!」
「ほう? 虐められるほうが悪いと。ならば我も貴様らを虐める側に回ろうか。貴様の言葉が正しいのならば、されても仕方が無かろう?」

 勢いよく距離を詰めると今日子は攻撃されると思ったのか、手を前に向けて盾にしてへたり込んでしまった。
 情けないものだ。

「や、やめ……」
「真央もその言葉を同じく放ったと思うのだが、貴様らはやめたのか?」

 襟を掴み、我の目線まで持ち上げる。

「歯を食いしばったほうがよいぞ」
「へっ?」

 力はそこそこにしておこう。
 頬へ平手打ち――そうだな、綺麗な紅葉が出来る程度の威力でだ。

「んぎゃっふ!」

 少し力みすぎたかな。
 だが意識は飛ばしておらぬ、言う事もあるしな。

「安心しろ、我は貴様らを虐める趣味はない。これで水に流すというのならば、今後は良き付き合いをしようぞ」

 平手打ちは初めて受けたのか、放心状態でいた。
 我の言葉はその小さな脳みそに届いておるのか半ば疑問に思えていた。

「おい、聞いておるのか」

 顎に指を置く。
 我の目を真っ直ぐに向かせた。

「ふむ、貴様……これは化粧というものか、随分と厚く塗っておるが、ああ、ギャルというやつだな?」
「ひぁ……」
「あのような下劣な男ならまだしも、女子に手をあげるのは我も心苦しい。すまなかったな」
「は、はぁ……」
「貴様も容姿は美しいものだな、それほど厚い化粧などせずとも良いものを持っているではないか。化粧で偽りの美を作るより、素顔を映えさせる化粧のほうが良いぞ」

 少なくとも我は厚塗りの化粧で美を飾る女は好きではない。
 この世界の人間はどちらのほうが美しいと思うのかは定かではないが。

「心を醜くするな、その美しさが台無しになる」

 学校というものは良いものだな。
 美しい女達も多く知識も得られる、この学校生活というのは今後も楽しめそうだ。
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