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第一部:第三章
16.作戦。
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翌日、前にも一度行ったことのある飲食店へ三人で行くこととなった。
ここで例の人物と話をする約束になっているらしい。
待っている間飲み物を注文して、そしてまた気になる向かい側に建つ居酒屋マッチョ。
苑崎さんが観察していたマッチョはあそこで働いているんじゃないだろうか。
「今回、君はちょっと特殊なストーカー被害にあっていると思うのだがね。松谷からはその辺の説明は聞いていたかい?」
「聞いた」
「普通じゃない奴が君をどうしてか敵視している、ただのストーカー事件ならばあまり動けないんだがね、こっち関係ならすぐ動けるから安心してくれ」
そういやストーカー事件って警察は中々腰上げないよなあ。
あれって警察内で何か事情でもあるのだろうか。
「例の人、なんですが。名前や外見といったところは」
「名前は聞きそびれてしまってな。外見はそうだな、ショートヘアで若干赤髪、身長は君と同じくらいか。心当たりは?」
「あ~……多分、あります」
思い浮かぶは、フェイ・アスァーナ。
彼女もこの世界に来ていたのならば、あんな内容の手紙を苑崎さんに送るはずがない、容疑者から先ずは除外だ。
「おまたせいたしまし、あっ」
「あっ」
噂をすればなんとやら。
ご本人の登場だ。
「フェイ……久しぶり」
「英雄様、お久しぶりでございます。少し顔をこちらに近づけてくれませんか?」
「え、何々? ふぐひっ!」
いきなり頬を殴られた。
どうして……?
「ねぇ、どうして俺殴られたの?」
「お腹が空いてるので何か頼んでいいですか?」
さらりと質問をスルーされた。
俺を殴ってからはどこかすっきりした表情だ。
「いいとも、座ってくれ」
「あの、どうして俺殴られたの?」
向かい側、石島さんの隣に座り彼女はメニューを開くやパスタを注文。
手馴れている、すでにこの世界に順応してしまっているなこれは。
って、待ってそれより殴られた理由をだな……。
「まさか英雄様がここに来るとは思いもよりませんでした」
「……俺も君がこの世界に来てるなんて思いもよらなかったよ」
なんか聞けそうにないしもう話を進めよう。
今回、この邂逅は事件解決への大きな近道になる可能性は高いし。
「あの、一つ確認したいんだけど」
「なんでしょう」
「……セルファもこの世界に来てるんだよね?」
「はい、おそらくは」
おそらく? では一緒に来たのではないのか。
ならばセルファの居場所も分からないかもしれない。
「セルファという人物は、一体どんな人なんだ?」
石島さんには話していなかったな。
話していいものか、ちょいと悩むところではあるが。
「異世界で、その、俺を慕ってくれた女性でして」
「ほう」
ここからは、どんな人物かの説明に入るのだが。
全てを話すべきか、話したら苑崎さん、怖がらないかな。
「彼の説明には不足があります。あの方は彼のためだったらなんでもするし近寄る女性には容赦ない、病んでます、確実に病んでます」
そんなすんなりと言っちゃう?
「……危険な人物、なのか?」
「ええ、危険ですね。あの人の人生は英雄様を中心に回ってますし、一国の王女であるにも関わらず英雄様目的でこの世界に来るほどですから」
全ての元凶は俺。
それは、薄々ながら予想はしていたが。
「そこの貴方。英雄様の隣に座ってるけど遺書は書きました?」
「いしょ?」
唐突に苑崎さんに、からかうというのではなく心底心配してフェイは問う。
「英雄様の隣に別の女性が座っている、この光景を見られるだけでどれほどの危険が伴うのか分かってますか?」
「お、大げさな……」
「とりあえずカーテンを」
冗談で言っているのではない。
心情を悟り言われるがまま、石島さんはカーテンを引く。
これで一応外からこちらは見られないが。
既に見られていたのだとしたら現状の危険性が大きく変わってくる。
「魔物騒動もニュースで見ました、ネットでも騒がれてるし3ちゃんのスレでは画像がアップされてますから」
君、一体いつから日本に?
外見は違えど中身はもう日本人だよ。
「ま、待ってくれ。その、君についてまだ詳しく聞いていないんだが」
「私? 私は異世界からやってきました。二年前から英雄様と共に異世界で魔王討伐のために陰ながら尽力を尽くさせていただきました」
尽力というより君が補助してくれたおかげで魔王討伐にまで至ったんだよね。
「……」
なんか苑崎さんがフェイをじっと見つめてる。
「あら、貴方、どこかで」
彼女のその視線に気付いたようだ。
二人とも知り合い?
「……す」
でた、苑崎さんの「す」、何を言っていたのかは声が小さすぎて聞き取れなかったが。
「思い出したわ、いつだか望遠鏡で覗いてた子ね」
「す」
流石フェイ、遠くからであろうが見られていたら気付くとは。
フェイは望遠鏡いらずだねえ。
どんな視力してるんだか。
「しかしよかったです、英雄様と会えれば現状をなんとかできそうですし。セルファ様が妙な奴と手を組んだのが魔物騒動の原因でしょう? なんとかしてくださいよ」
なんとかしてと言われましても。
先ずセルファがどこにいるのかも分からないしなあ。
「苑崎君を狙っているのはそのセルファという女性で、しかも危険人物であり魔物騒動も彼女が関わっているとみて、いいのかね?」
「はい、そうなりますね」
「思わぬ進展だな。こりゃあ彼女を本格的に保護せねばなるまいな」
「す」
相手は魔法を使う上に魔物の召還もしてくる。
こちらの世界での防衛力がどれほど通じるものか。
「君についても聞きたいんだが」
「私ですか?」
「君はこの世界に何をしにやってきたんだい?」
「私はセルファ様の護衛としてこの世界に来ました、本当は護衛もいらないんですけどね」
そうだ、フェイもセルファ側だ。
だが今の状況、彼女はどう動く? 少なくとも敵にはならないと思うのだが。
「セルファと合流できたら、協力はするのかね?」
「いいえ、しません。あの人を止めて英雄様と話でもさせて満足させて帰すつもりです」
フェイがまともな人で本当によかったよ。
「元々あの人が暴走しないためについてきたのですから」
暴走しちゃったね、どうしようね。
「それならよかった」
「英雄様を連れて帰る気かもしれないので、貴方も場合によっては覚悟したほうがいいですよ」
「えっ、俺を? 異世界ではやることも済んだし、戻ってもニートなんだけど」
「この際異世界でセルファ様と結婚して就活でもすればいいんじゃないですか? そうすればとりあえず問題解決しそうですから」
このご時勢、就活するのに異世界まで行かなきゃ駄目なの?
「いや待て。むしろ逆に、セルファがこの世界に残る可能性も考えたほうがいいんじゃないのかね?」
「確かに……そうですね」
「てるてる坊主はこの世界に来た目的は分かるかい?」
「てるてる……は、確かエヴァルフトとかいう名前でしたね」
エヴァルフト――異世界でもその名前は聞かなかったな。
けど相当な力を持った魔法師だとは思う。
「これまで魔物を解き放っていたのはこの世界の者達の魔物への対応力などの観察と撹乱が目的かもしれませんね、英雄様も誘い出せるし」
「ふむ、魔物は魔法でこちらの世界に出しているのかい?」
「大型の魔物はエヴァルフトが出していて間違いないでしょう、小型はもしかすればエヴァルフト以外に、こちらへ私達がやってきた時に空間に歪みでもできたのか、そういった隙間からやってきている可能性があります」
「この世界への移動手段はやはり君達お得意の魔法かね?」
「特殊な魔法です、私には使えません」
懸命にメモを取っている。
この手の話には一つでも書き残しておかなければ理解が追いつかないものだ。
俺も最初はそうだったなあ。
「君さえよければ我々に協力してもらいたいのだが、どうだろう」
「別に構いませんよ。先ずはセルファ様の暴走を止めるあたりでしょうか?」
「ああ、そうなる」
エヴァルフトを押さえて魔物騒動がどう変わるかも見ておきたいが今はセルファを優先だ。
なんといっても彼女からこっちにやってきそうな勢いだ。
「ではこちらの世界の軍隊を彼女につかせるのをお勧めします」
「それほどなのか?」
それほどかもしれない。
あの子、昔に俺が大型の魔物との戦闘で大怪我をした時には、子供も泣くほどの形相で魔物を切り刻んでたっけな。
「どんな子なのか想像ができないな」
俺と過ごしている時は普通の女の子ですよ。
うん、普通の。
「英雄様もよくセルファ様と親しくできましたね」
「え、そう?」
「もしかしたら病んでる子が好きなのですか?」
「いや、そういうわけではないんだけど」
「英雄様が来るまであの方とお付き合いした方々は皆一月もせずに逃げ出したのに、二年間だなんて新記録もいいとこでしたよ。おかげでセルファ様の執着も高まってしまいましたね」
女の子と仲良くできるなんて今までは考えられなかったから、俺は浮かれてたのかもしれない。
恋は盲目――てか。
そうだよ、よくよく考えれば……セルファ、ちょいちょいおかしかったもんなあ。
料理に血を入れたりするのは、うん、普通の子はしないよな……。
苑崎さんにあんな手紙を送るのも、うん、普通の子はしないね。
「結果、彼女は危険にさらされ、この世界には魔物まで放たれたと」
「彼女が洗脳されてるっていう可能性は?」
「ないですね、はい」
きっぱりと断言された。
俺の唯一の希望が費えた瞬間だった。
「英雄様、目を覚ましてください。セルファ様は非常に病んでいます」
「うん……」
現実を受け入れるべく、落ち着くためにも水を喉へ流し込んだ。
「セルファの確保すべく作戦を練らなくてはな」
「簡単にあぶりだせると思いますよ」
「何か方法が?」
彼女は俺達を見て、
「二人がデートでもすればいいんです、そうすればおそらく発狂して現れますよ」
「……デート?」
苑崎さんと顔を合わせ、一瞬止まる。
彼女は頬を赤らめて、視線を逸らした。
この反応は……むむむっ。
「確実に確保できるのならば……いやしかし危険が」
「彼をお忘れですか?」
「彼?」
「英雄様ですよ、彼ほど頼もしい護衛はいないでしょう?」
「おお、そうだったな」
頼ってもらえるのは嬉しいのだが、相手はセルファ――不安要素が大きすぎる。
「私は、構わない」
「作戦を練るか。ふえいさん、今週予定の開いている日は?」
「バイトのシフト確認してみます」
……本当にやるの?
ここで例の人物と話をする約束になっているらしい。
待っている間飲み物を注文して、そしてまた気になる向かい側に建つ居酒屋マッチョ。
苑崎さんが観察していたマッチョはあそこで働いているんじゃないだろうか。
「今回、君はちょっと特殊なストーカー被害にあっていると思うのだがね。松谷からはその辺の説明は聞いていたかい?」
「聞いた」
「普通じゃない奴が君をどうしてか敵視している、ただのストーカー事件ならばあまり動けないんだがね、こっち関係ならすぐ動けるから安心してくれ」
そういやストーカー事件って警察は中々腰上げないよなあ。
あれって警察内で何か事情でもあるのだろうか。
「例の人、なんですが。名前や外見といったところは」
「名前は聞きそびれてしまってな。外見はそうだな、ショートヘアで若干赤髪、身長は君と同じくらいか。心当たりは?」
「あ~……多分、あります」
思い浮かぶは、フェイ・アスァーナ。
彼女もこの世界に来ていたのならば、あんな内容の手紙を苑崎さんに送るはずがない、容疑者から先ずは除外だ。
「おまたせいたしまし、あっ」
「あっ」
噂をすればなんとやら。
ご本人の登場だ。
「フェイ……久しぶり」
「英雄様、お久しぶりでございます。少し顔をこちらに近づけてくれませんか?」
「え、何々? ふぐひっ!」
いきなり頬を殴られた。
どうして……?
「ねぇ、どうして俺殴られたの?」
「お腹が空いてるので何か頼んでいいですか?」
さらりと質問をスルーされた。
俺を殴ってからはどこかすっきりした表情だ。
「いいとも、座ってくれ」
「あの、どうして俺殴られたの?」
向かい側、石島さんの隣に座り彼女はメニューを開くやパスタを注文。
手馴れている、すでにこの世界に順応してしまっているなこれは。
って、待ってそれより殴られた理由をだな……。
「まさか英雄様がここに来るとは思いもよりませんでした」
「……俺も君がこの世界に来てるなんて思いもよらなかったよ」
なんか聞けそうにないしもう話を進めよう。
今回、この邂逅は事件解決への大きな近道になる可能性は高いし。
「あの、一つ確認したいんだけど」
「なんでしょう」
「……セルファもこの世界に来てるんだよね?」
「はい、おそらくは」
おそらく? では一緒に来たのではないのか。
ならばセルファの居場所も分からないかもしれない。
「セルファという人物は、一体どんな人なんだ?」
石島さんには話していなかったな。
話していいものか、ちょいと悩むところではあるが。
「異世界で、その、俺を慕ってくれた女性でして」
「ほう」
ここからは、どんな人物かの説明に入るのだが。
全てを話すべきか、話したら苑崎さん、怖がらないかな。
「彼の説明には不足があります。あの方は彼のためだったらなんでもするし近寄る女性には容赦ない、病んでます、確実に病んでます」
そんなすんなりと言っちゃう?
「……危険な人物、なのか?」
「ええ、危険ですね。あの人の人生は英雄様を中心に回ってますし、一国の王女であるにも関わらず英雄様目的でこの世界に来るほどですから」
全ての元凶は俺。
それは、薄々ながら予想はしていたが。
「そこの貴方。英雄様の隣に座ってるけど遺書は書きました?」
「いしょ?」
唐突に苑崎さんに、からかうというのではなく心底心配してフェイは問う。
「英雄様の隣に別の女性が座っている、この光景を見られるだけでどれほどの危険が伴うのか分かってますか?」
「お、大げさな……」
「とりあえずカーテンを」
冗談で言っているのではない。
心情を悟り言われるがまま、石島さんはカーテンを引く。
これで一応外からこちらは見られないが。
既に見られていたのだとしたら現状の危険性が大きく変わってくる。
「魔物騒動もニュースで見ました、ネットでも騒がれてるし3ちゃんのスレでは画像がアップされてますから」
君、一体いつから日本に?
外見は違えど中身はもう日本人だよ。
「ま、待ってくれ。その、君についてまだ詳しく聞いていないんだが」
「私? 私は異世界からやってきました。二年前から英雄様と共に異世界で魔王討伐のために陰ながら尽力を尽くさせていただきました」
尽力というより君が補助してくれたおかげで魔王討伐にまで至ったんだよね。
「……」
なんか苑崎さんがフェイをじっと見つめてる。
「あら、貴方、どこかで」
彼女のその視線に気付いたようだ。
二人とも知り合い?
「……す」
でた、苑崎さんの「す」、何を言っていたのかは声が小さすぎて聞き取れなかったが。
「思い出したわ、いつだか望遠鏡で覗いてた子ね」
「す」
流石フェイ、遠くからであろうが見られていたら気付くとは。
フェイは望遠鏡いらずだねえ。
どんな視力してるんだか。
「しかしよかったです、英雄様と会えれば現状をなんとかできそうですし。セルファ様が妙な奴と手を組んだのが魔物騒動の原因でしょう? なんとかしてくださいよ」
なんとかしてと言われましても。
先ずセルファがどこにいるのかも分からないしなあ。
「苑崎君を狙っているのはそのセルファという女性で、しかも危険人物であり魔物騒動も彼女が関わっているとみて、いいのかね?」
「はい、そうなりますね」
「思わぬ進展だな。こりゃあ彼女を本格的に保護せねばなるまいな」
「す」
相手は魔法を使う上に魔物の召還もしてくる。
こちらの世界での防衛力がどれほど通じるものか。
「君についても聞きたいんだが」
「私ですか?」
「君はこの世界に何をしにやってきたんだい?」
「私はセルファ様の護衛としてこの世界に来ました、本当は護衛もいらないんですけどね」
そうだ、フェイもセルファ側だ。
だが今の状況、彼女はどう動く? 少なくとも敵にはならないと思うのだが。
「セルファと合流できたら、協力はするのかね?」
「いいえ、しません。あの人を止めて英雄様と話でもさせて満足させて帰すつもりです」
フェイがまともな人で本当によかったよ。
「元々あの人が暴走しないためについてきたのですから」
暴走しちゃったね、どうしようね。
「それならよかった」
「英雄様を連れて帰る気かもしれないので、貴方も場合によっては覚悟したほうがいいですよ」
「えっ、俺を? 異世界ではやることも済んだし、戻ってもニートなんだけど」
「この際異世界でセルファ様と結婚して就活でもすればいいんじゃないですか? そうすればとりあえず問題解決しそうですから」
このご時勢、就活するのに異世界まで行かなきゃ駄目なの?
「いや待て。むしろ逆に、セルファがこの世界に残る可能性も考えたほうがいいんじゃないのかね?」
「確かに……そうですね」
「てるてる坊主はこの世界に来た目的は分かるかい?」
「てるてる……は、確かエヴァルフトとかいう名前でしたね」
エヴァルフト――異世界でもその名前は聞かなかったな。
けど相当な力を持った魔法師だとは思う。
「これまで魔物を解き放っていたのはこの世界の者達の魔物への対応力などの観察と撹乱が目的かもしれませんね、英雄様も誘い出せるし」
「ふむ、魔物は魔法でこちらの世界に出しているのかい?」
「大型の魔物はエヴァルフトが出していて間違いないでしょう、小型はもしかすればエヴァルフト以外に、こちらへ私達がやってきた時に空間に歪みでもできたのか、そういった隙間からやってきている可能性があります」
「この世界への移動手段はやはり君達お得意の魔法かね?」
「特殊な魔法です、私には使えません」
懸命にメモを取っている。
この手の話には一つでも書き残しておかなければ理解が追いつかないものだ。
俺も最初はそうだったなあ。
「君さえよければ我々に協力してもらいたいのだが、どうだろう」
「別に構いませんよ。先ずはセルファ様の暴走を止めるあたりでしょうか?」
「ああ、そうなる」
エヴァルフトを押さえて魔物騒動がどう変わるかも見ておきたいが今はセルファを優先だ。
なんといっても彼女からこっちにやってきそうな勢いだ。
「ではこちらの世界の軍隊を彼女につかせるのをお勧めします」
「それほどなのか?」
それほどかもしれない。
あの子、昔に俺が大型の魔物との戦闘で大怪我をした時には、子供も泣くほどの形相で魔物を切り刻んでたっけな。
「どんな子なのか想像ができないな」
俺と過ごしている時は普通の女の子ですよ。
うん、普通の。
「英雄様もよくセルファ様と親しくできましたね」
「え、そう?」
「もしかしたら病んでる子が好きなのですか?」
「いや、そういうわけではないんだけど」
「英雄様が来るまであの方とお付き合いした方々は皆一月もせずに逃げ出したのに、二年間だなんて新記録もいいとこでしたよ。おかげでセルファ様の執着も高まってしまいましたね」
女の子と仲良くできるなんて今までは考えられなかったから、俺は浮かれてたのかもしれない。
恋は盲目――てか。
そうだよ、よくよく考えれば……セルファ、ちょいちょいおかしかったもんなあ。
料理に血を入れたりするのは、うん、普通の子はしないよな……。
苑崎さんにあんな手紙を送るのも、うん、普通の子はしないね。
「結果、彼女は危険にさらされ、この世界には魔物まで放たれたと」
「彼女が洗脳されてるっていう可能性は?」
「ないですね、はい」
きっぱりと断言された。
俺の唯一の希望が費えた瞬間だった。
「英雄様、目を覚ましてください。セルファ様は非常に病んでいます」
「うん……」
現実を受け入れるべく、落ち着くためにも水を喉へ流し込んだ。
「セルファの確保すべく作戦を練らなくてはな」
「簡単にあぶりだせると思いますよ」
「何か方法が?」
彼女は俺達を見て、
「二人がデートでもすればいいんです、そうすればおそらく発狂して現れますよ」
「……デート?」
苑崎さんと顔を合わせ、一瞬止まる。
彼女は頬を赤らめて、視線を逸らした。
この反応は……むむむっ。
「確実に確保できるのならば……いやしかし危険が」
「彼をお忘れですか?」
「彼?」
「英雄様ですよ、彼ほど頼もしい護衛はいないでしょう?」
「おお、そうだったな」
頼ってもらえるのは嬉しいのだが、相手はセルファ――不安要素が大きすぎる。
「私は、構わない」
「作戦を練るか。ふえいさん、今週予定の開いている日は?」
「バイトのシフト確認してみます」
……本当にやるの?
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