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第十二話 部長。
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職員室に部の設立申請書を貰いに行ったのはその翌日。
とりあえず書類は貰ってきたが、さてどうしたものか。
部室が確保されている時点で部を作る上で大きな一歩を踏み込めてはいる。顧問は我がクラスの担任たる山根先生曰く、運動部じゃないなら顧問になってあげるわよと言ってくれた。
明日香の言う通り、意外とゆるい。
てなわけで今日も今日とて部室でコーヒーをすすりながら、申請書を見つめる三人。
「どうするよ部長」
「誰が部長よ」
「だってこの中でゲームが一番得意なのは芙美だろ」
「じゃんけんで決めない?」
「なんでだよ」
「じゃんけんもゲームの一つだから」
いかにもなことを言ってなんとか部長から逃れようという魂胆が見えている。
こういう時は、大体悪い流れがやってくるのだ。
「わたしが部長になったらどうしようっ」
なんて言いつつもその表情はにこやかな明日香。
「ていうか明日香は本当にゲーム部に入るの?」
「うん、だって明日太のことがあるから他の部には入れないし、どこか部には所属したいからどうせならゲーム部がいいっ」
「明日香がそう言うなら、いいけど……」
カースト下位の集まりにカースト上位が入り込むという構図。
いいのかなぁ、でも本人がいいって言うんだしいいか。
「それじゃ、じゃーんけーん」
「ぽんっ」
はいきた。
芙美も明日香もチョキ。
俺はパーだ。
「はー……」
なんてこった、部長が決まってしまった。あーあー、悪い流れっていうのはなんでこういう時にやってくるのだろうか。
そもそも申請書を取りに行った時点で嫌な予感はしていたんだ。
もう行動が部長候補そのものって感じで、俺がならなきゃ誰がなる? みたいな。
「部長」
「部長!」
「はいはい、部長ですよ。いいのかねえ、こんな信用ならない奴が部長で」
申請書の部長欄に俺の名前を記入する。
部員欄には芙美と明日香。
部は三人以上で設立、明確な活動実績を上げれば部費も出るとかなんとか。
ゲーム部は活動実績など上げられるわけもないので部費は望めないだろう。
いや待てよ、部員が大量に導入されてゲームを通して交流うんたらで活動実績として認めさせれば部費も貰えるか。
……部員が増えるというのも明日香と明日太のことを考えると、困るからまあ……その辺はいいか。
とりあえず書類に必要事項を記入して設立申請書は完成した。
顧問は山根先生にお願いしにいくとしよう。
「じゃあちょいと職員室に行ってくるよ」
「行ってら~」
「わたしもついてこ」
「行ってら~」
芙美は紙コップの中身が空であればついてきてくれただろうが、飲み始めとあれば留まるのが当然だ。
ついてきてくれないことにちょっとした寂しさを抱きながら部室の扉を閉める。まあいいさ、明日香がついてきてくれるんだ。
扉の上には何も書かれていないプレート――これからゲーム部という文字が刻まれる。
「ゲーム部ねえ……」
「どんな活動日々になることやら~」
「ね~」
「ね~」
さりげなく楽しい日々になるのではなかろうかと期待している自分はいる。
職員室へ行き、山根先生に書類を提出して顧問をお願いした。
先生は快諾してくれて無事にゲーム部の設立自体はスムーズに終えられた。注意事項として、年内に一回は活動実績を何かしらあげるよう言われたが、ううむ……。
場合によっては生徒会によって廃部に追い込まれる可能性があるらしいので何かしら活動実績をあげる方法を考えなくてはならないな。
とはいえ年内に一回だ、今は焦る必要もあるまい。ぼちぼち考えよう。
職員室を出ると、
「むっ」
「あっ、どうも」
「お、お姉ちゃん……」
周子さんとばったり出くわした。
見回りをしていたようだ。
明日香は俺の後ろへとさりげなく立ち位置をずらす。俺は盾かな?
「それは?」
「部を設立したんですよ」
書類の写しに目をやる周子さん、一応見せておくとする。
ふむ、と彼女は書類に目を通しつつ明日香を一瞥。お互いにさりげなく意識はしあっているようで。
「活動内容に関しては、それらしいことを書いてはいるようだが、ちゃんと活動はしなさい」
「分かっていますとも」
「……明日香」
「は、はいっ」
呼ばれて明日香は俺の後ろから顔だけをちょいと覗かせるように出して応える。
うん、俺は完全に盾扱いだね。とはいえ彼女の盾であれば別に悪い気はしないが。どうぞご自由にお使いください、耐久度は保証しないけど。
「元気?」
「げ、元気……」
周子さんは明日香の目線に合わせてやや身をかがめる。
素直になれない子供に接するような、優しさを感じる対応。
「この前は、その、驚いたわ。貴方の体のこと」
「そ、そう……」
お互い、手探りで言葉を探しているように思える。
明日香のほうは、中々いい言葉が見つかっていないようだ。
「よかったら、今度お医者さんに診てもらわない?」
「お医者さんに……?」
「何か、分かるかもと思って」
「う、うん……」
何か分かればいいが。
何か分かったところで、どうなるのだろうか。
「もし心細かったら、彼もついてきてもらってもいいのよ」
「……京一、いい?」
「えっ、俺?」
「きみ以外にいないわよ、どうする?」
「あっ、はいっ」
周子さんに言われて、思わず頷いてしまった。
「よし、じゃあ近いうちに」
そう言って彼女は踵を返し、颯爽と立ち去っていった。
暫しその後ろ姿を見送り、彼女の姿が廊下から消えるや後ろからほっとしたような溜息が聞こえた。
「緊張した……」
「緊張するね、あれは」
「お姉ちゃん、勝手にお医者さんの話進めちゃって……困ったね」
「まあでもいいんじゃないか? 診てもらうだけ診てもらってさ、何か分かるかもしれないし分からなくてもお医者さんに相談してもらえるいい機会だぜ」
「それも、そうね」
ようやく俺の後ろから俺の隣へと位置を移す明日香。
笑みを浮かべているが、どこか寂しげな笑みだった。
ともかく。
部の設立はできたのだ。
あとはゲーム部を頑張ろうじゃないの。
でも明日香にはお医者さんに診てもらうという予定が組まれたのでどこかそれがちらついているのか、寂しげな笑みは引きずったままだった。
周子さんは、明日香のことを考えてくれてはいるようだけど、でも全部を考えてはくれていない、そんな気がする。
もっと一歩、深く明日香のことを理解すべきだと思うが、もう既にあの人の姿はない。
もっとズバッと言うべきだったか。
いや、言えたのかどうか。
俺にはそんな勇気があったかどうか、定かではない。
部室に戻るとこれまたコーヒーの香りが出迎えてくれていた。
やはり落ち着くね、コーヒーの香りは。
「どうだった?」
コーヒーを飲みながら芙美は問う。
「設立できたよ」
「よかった」
「プレートにもゲーム部って載せとかないとな」
「部員募集はする?」
「んー……一応、しておくか?」
「なんかわたし達でほそぼそやってくってのもありよね」
「それな」
俺達だけの憩いの場として使うにはいい場所だ。
ならばいっそ部員募集はしないでおくのも一つの手ではある。
「そういえば、一応は活動実績をあげないといけないらしいぞ」
「活動実績ねえ?」
「どうしよっか?」
「年内に一回くらいって言ってたから、焦る必要はないんだけどさ」
とりあえず活動実績云々が書かれた書類を見せるとする。
「うーん、ま、そのうち考えましょ」
「そうねっ」
女子二人は長ったらしい文章を途中で読むのを諦めて、そう締めくくった。
まあ、俺も同意見だ。
とりあえず書類は貰ってきたが、さてどうしたものか。
部室が確保されている時点で部を作る上で大きな一歩を踏み込めてはいる。顧問は我がクラスの担任たる山根先生曰く、運動部じゃないなら顧問になってあげるわよと言ってくれた。
明日香の言う通り、意外とゆるい。
てなわけで今日も今日とて部室でコーヒーをすすりながら、申請書を見つめる三人。
「どうするよ部長」
「誰が部長よ」
「だってこの中でゲームが一番得意なのは芙美だろ」
「じゃんけんで決めない?」
「なんでだよ」
「じゃんけんもゲームの一つだから」
いかにもなことを言ってなんとか部長から逃れようという魂胆が見えている。
こういう時は、大体悪い流れがやってくるのだ。
「わたしが部長になったらどうしようっ」
なんて言いつつもその表情はにこやかな明日香。
「ていうか明日香は本当にゲーム部に入るの?」
「うん、だって明日太のことがあるから他の部には入れないし、どこか部には所属したいからどうせならゲーム部がいいっ」
「明日香がそう言うなら、いいけど……」
カースト下位の集まりにカースト上位が入り込むという構図。
いいのかなぁ、でも本人がいいって言うんだしいいか。
「それじゃ、じゃーんけーん」
「ぽんっ」
はいきた。
芙美も明日香もチョキ。
俺はパーだ。
「はー……」
なんてこった、部長が決まってしまった。あーあー、悪い流れっていうのはなんでこういう時にやってくるのだろうか。
そもそも申請書を取りに行った時点で嫌な予感はしていたんだ。
もう行動が部長候補そのものって感じで、俺がならなきゃ誰がなる? みたいな。
「部長」
「部長!」
「はいはい、部長ですよ。いいのかねえ、こんな信用ならない奴が部長で」
申請書の部長欄に俺の名前を記入する。
部員欄には芙美と明日香。
部は三人以上で設立、明確な活動実績を上げれば部費も出るとかなんとか。
ゲーム部は活動実績など上げられるわけもないので部費は望めないだろう。
いや待てよ、部員が大量に導入されてゲームを通して交流うんたらで活動実績として認めさせれば部費も貰えるか。
……部員が増えるというのも明日香と明日太のことを考えると、困るからまあ……その辺はいいか。
とりあえず書類に必要事項を記入して設立申請書は完成した。
顧問は山根先生にお願いしにいくとしよう。
「じゃあちょいと職員室に行ってくるよ」
「行ってら~」
「わたしもついてこ」
「行ってら~」
芙美は紙コップの中身が空であればついてきてくれただろうが、飲み始めとあれば留まるのが当然だ。
ついてきてくれないことにちょっとした寂しさを抱きながら部室の扉を閉める。まあいいさ、明日香がついてきてくれるんだ。
扉の上には何も書かれていないプレート――これからゲーム部という文字が刻まれる。
「ゲーム部ねえ……」
「どんな活動日々になることやら~」
「ね~」
「ね~」
さりげなく楽しい日々になるのではなかろうかと期待している自分はいる。
職員室へ行き、山根先生に書類を提出して顧問をお願いした。
先生は快諾してくれて無事にゲーム部の設立自体はスムーズに終えられた。注意事項として、年内に一回は活動実績を何かしらあげるよう言われたが、ううむ……。
場合によっては生徒会によって廃部に追い込まれる可能性があるらしいので何かしら活動実績をあげる方法を考えなくてはならないな。
とはいえ年内に一回だ、今は焦る必要もあるまい。ぼちぼち考えよう。
職員室を出ると、
「むっ」
「あっ、どうも」
「お、お姉ちゃん……」
周子さんとばったり出くわした。
見回りをしていたようだ。
明日香は俺の後ろへとさりげなく立ち位置をずらす。俺は盾かな?
「それは?」
「部を設立したんですよ」
書類の写しに目をやる周子さん、一応見せておくとする。
ふむ、と彼女は書類に目を通しつつ明日香を一瞥。お互いにさりげなく意識はしあっているようで。
「活動内容に関しては、それらしいことを書いてはいるようだが、ちゃんと活動はしなさい」
「分かっていますとも」
「……明日香」
「は、はいっ」
呼ばれて明日香は俺の後ろから顔だけをちょいと覗かせるように出して応える。
うん、俺は完全に盾扱いだね。とはいえ彼女の盾であれば別に悪い気はしないが。どうぞご自由にお使いください、耐久度は保証しないけど。
「元気?」
「げ、元気……」
周子さんは明日香の目線に合わせてやや身をかがめる。
素直になれない子供に接するような、優しさを感じる対応。
「この前は、その、驚いたわ。貴方の体のこと」
「そ、そう……」
お互い、手探りで言葉を探しているように思える。
明日香のほうは、中々いい言葉が見つかっていないようだ。
「よかったら、今度お医者さんに診てもらわない?」
「お医者さんに……?」
「何か、分かるかもと思って」
「う、うん……」
何か分かればいいが。
何か分かったところで、どうなるのだろうか。
「もし心細かったら、彼もついてきてもらってもいいのよ」
「……京一、いい?」
「えっ、俺?」
「きみ以外にいないわよ、どうする?」
「あっ、はいっ」
周子さんに言われて、思わず頷いてしまった。
「よし、じゃあ近いうちに」
そう言って彼女は踵を返し、颯爽と立ち去っていった。
暫しその後ろ姿を見送り、彼女の姿が廊下から消えるや後ろからほっとしたような溜息が聞こえた。
「緊張した……」
「緊張するね、あれは」
「お姉ちゃん、勝手にお医者さんの話進めちゃって……困ったね」
「まあでもいいんじゃないか? 診てもらうだけ診てもらってさ、何か分かるかもしれないし分からなくてもお医者さんに相談してもらえるいい機会だぜ」
「それも、そうね」
ようやく俺の後ろから俺の隣へと位置を移す明日香。
笑みを浮かべているが、どこか寂しげな笑みだった。
ともかく。
部の設立はできたのだ。
あとはゲーム部を頑張ろうじゃないの。
でも明日香にはお医者さんに診てもらうという予定が組まれたのでどこかそれがちらついているのか、寂しげな笑みは引きずったままだった。
周子さんは、明日香のことを考えてくれてはいるようだけど、でも全部を考えてはくれていない、そんな気がする。
もっと一歩、深く明日香のことを理解すべきだと思うが、もう既にあの人の姿はない。
もっとズバッと言うべきだったか。
いや、言えたのかどうか。
俺にはそんな勇気があったかどうか、定かではない。
部室に戻るとこれまたコーヒーの香りが出迎えてくれていた。
やはり落ち着くね、コーヒーの香りは。
「どうだった?」
コーヒーを飲みながら芙美は問う。
「設立できたよ」
「よかった」
「プレートにもゲーム部って載せとかないとな」
「部員募集はする?」
「んー……一応、しておくか?」
「なんかわたし達でほそぼそやってくってのもありよね」
「それな」
俺達だけの憩いの場として使うにはいい場所だ。
ならばいっそ部員募集はしないでおくのも一つの手ではある。
「そういえば、一応は活動実績をあげないといけないらしいぞ」
「活動実績ねえ?」
「どうしよっか?」
「年内に一回くらいって言ってたから、焦る必要はないんだけどさ」
とりあえず活動実績云々が書かれた書類を見せるとする。
「うーん、ま、そのうち考えましょ」
「そうねっ」
女子二人は長ったらしい文章を途中で読むのを諦めて、そう締めくくった。
まあ、俺も同意見だ。
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