グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅴ

第257話 新キョウト都市奪還戦争 Ⅲ-⑩ 激突

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 魔宝具を覚醒させたラクは片手に魔素を集めると、それは新たな剣の形となった。
 先程までと見た目は変わらないが、その剣が秘めた力は桁違いだと分かる。

「薄ら笑いはやめたのか?」

 ラクが魔素を迸らせながらマモンへ聞いた。

「……そうだね。少なくとも脅威だとは認めるよ。まさか本当にこんな人間が現れるなんて……」

 マモンも体に力を込めていく。
 今までに感じたことのない禍々しさだ。

「生存競争って言ってたな? 確かにそうなのかも知れねえが、お前たちは人間が居なければここまで進化は出来なかっただろ?」

 ラクが喋っている間にもマモンの体に赤黒いオーラが纏わりついていく。

「ああ、だけどもう用済みさ。君たちは僕たちのの贄として充分役目を果たした。今生き残ってるのはほぼ絞りカスみたいなものだよ。こうして抵抗されるのもうっとうしいし、もう死んでいいよ」

「オレたちが絞りカスね……。お前の、お前たちのその考えが間違ってるってオレが教えてやるよ」

 ラクとマモンのオーラ同士がぶつかる。
 ただそれだけで凄まじい突風があたりに吹き渡った。
 2人はまだ距離を取って対峙している。
 オーラの奔流だけでまるで台風のようだ。

「どう間違ってるって言うのさ? グールは人間を食らって進化する。グールは捕食者、人間はエサだ。お前たちは食われるだけの存在。生き残るのは僕たちだと最初から決まってる」

 マモンの言葉を聞いたラクはそれを鼻で笑った。

「いいや、違うね。グールは捕食者なんかじゃねえ。お前たちは病原菌、疫病、災害。まあそんなとこだ。確かに大勢の人間はそれで死ぬ。だけどそれを乗り越えて人間はさらに強くなってより栄える。歴史も証明してんだよ。オレたちがエサ? 違う、お前らグールは人間の踏み台だ」

 マモンのオーラが一気に力強く渦巻いた。

「じゃあ、生き残って見せろ!!」

 マモンの体からドス黒いオーラの波が放たれた。
 いや、放たれたと言うより押し寄せるという方が合っている。
 とてつもない密度と量だ。

「言われなくてもな!! 帝級飛斬剣テラストラッシュ!!!」

ズギャウウウゥゥ!!!!

 今までに見た中で明らかに最強。
 阿倍野の、アイコの、ユキのどの攻撃よりもさらに強力な光の刃がマモンのオーラの波を切り裂き進んだ。
 しかし。

「ははは! 弱いなあ!」

 ラクの放った攻撃はマモンの波に飲まれて消えかかっている。

「これが僕たちと君たちの違いさ!」

 マモンの勝ち誇る笑みを見ても、ラクは動揺を見せない。

「一発で終わりなんて言ってねえぞ!!」

 ラクは剣から光の波動を放ったまま、更に剣を振りかぶった。

帝級衝撃剣テラインパクト!!」

ズッドオオオオオオンンン!!!

 ラクの剣から光の波動の追撃が撃ち出された。
 それは今消えかかった攻撃に合わさり、さらに大きな光に変わった。

 そしてマモンの光の波を押し返し始めた。

「お前……!!」

 マモンはさらに力を込めた。

 マモンとラクの押し合いは互角だった。
 しかしその均衡はそうは続かなかった。
 ラクの攻撃が押し負け始めた。

「さっさと死ね!!」

 マモンがさらに力を込めると同時に、ラクが地を蹴った。
 マモンに。いや、マモンの攻撃に向かって飛び込んだのだ。

「ははあ! 自分から死にに来たのか!」

「そんな訳ねえだろ!!」

 ラクは再度、剣を振りかぶった。

帝級爆発剣テラエクスプロージョン!!!」

ドギャウアアアアアアンンン!!!!!

 爆発が一帯の天地を揺らした。
 激しい土煙が立ち込めるが、オレにはマモンとラクの姿ははっきりと知覚出来ている。

 ラクはマモンの攻撃を吹き飛ばした。

「佐々木ラク……!!」

 マモンはラクの攻撃の余波を受けて血を流している。
 その顔は憎悪に染まっていた。

「ふうう! 行くぞ!!」

 ラクは全身に魔素を纏わせ、マモンに剣を振った。

 マモンはこれを長く伸びた爪で受け止めた。
 両手が太く浅黒いものに変わり、2人は激しい剣戟を始めた。

「お前は強いけどな! 僕には届かないな!!」

 マモンがラクを殴りつけた。
 いつの間にかマモンの肩からさらに2本の腕が生えている。

「ぐっ!!」

 ラクは苦しそうに見をよじると、すぐに体勢を立て直した。

「確かにこのままじゃなあ! これならどうだ!! 帝級装甲剣テラアイアンクラッド!!」

(あれはアサヒの!!?)

 ラクの全身に魔技によるオーラが現れ、その力が増した。

「それがどうした!!」

 マモンは体を膨らませ、3メートル程の巨体へと変貌した。
 そして4本の腕でラクの攻撃を捌いた。

 一撃一撃が凄まじい。

 ラクは何発かマモンの攻撃の直撃を受けながらも、剣を構え直した。

帝級砲撃剣テラキャノン!!!」

ズギャアアアンンン!!!

(今度は柊さんの技だ!)

 ラクの突きがマモンへ突き刺さった。
 周囲の土煙もその余波で何処かへ吹き飛んでいった。

「ぐふっ! お、お前……」

 始めてマモンが苦しんでいた。
 浅黒い巨人と化したマモンは腹から血を流して苦しんでいる。

「オレは結界球の中からずっと世界を見て来た!! 動くことが出来なくたって出来ることはいくらでもあったんだよ!!」

 ラクはさらに魔素を切っ先に集中させていた。

帝級テラ……」

ドオオオンンン!!!

 ラクが魔技を繰り出す一瞬前に、何かが炸裂してラクを吹き飛ばした。

「ラク!!」

 ラクはオレたちの近くまで吹き飛ばされた。

 マモンから尻尾のような長い触手が何本も生えている。
 これで攻撃されたみたいだ。

 もうかなり人間のフォルムから逸脱している。

「ラクさん!」
「ラクちゃん!」

 阿倍野とアイコがラクの元へ駆け寄った。

「大丈夫だ!」

 ラクはすぐに立ち上がって剣を構えた。

 オレはその切っ先がかすかに震えていることに気付いた。

「ラク兄さん! 力を使い過ぎよ!」

 ユキもラクの側にいた。

「そうしなきゃあいつは倒せねえだろ。下がってろ!」

 ラクは攻撃を受けた箇所から血を流している。
 重傷だ。

「無茶よ!」

 ユキが叫んだ。
 この時代では聞いたことのない、オレが知っている妹のユキの声色だった。

「無茶しねえでどうする!! みんな死ぬぞ!!」

「……!」

 ユキもそれ以上は何も言えない。

 マモンはさらに体を肥大化させて、完全な怪物となっている。

「やっぱり、僕の方が強いなあ! 佐々木ラク!! これではっきりしたなあ!! 君たち人間は所詮エサなんだよ!! ここにいる奴らも全員食ってやる!!」

「うるせえ! まだ勝負はついてねえだろうが!! 調子に乗ってるんじゃねえ!!」

 ラクは挑発には強気に返したが、体の震えが止まらなくなって来ている。
 やっぱり限界なのだ。

「はははあ!! じゃあ勝って生き残って見せろ!!」

 マモンの体の周りに魔素が集まっていく。
 さっきよりも強大な気配を感じる。
 また広範囲の攻撃でオレたちを一気に皆殺しにするつもりだ。

「ちっ!」

 ラクも魔素を高鳴らせている。
 しかしさっきと同じように力負けするのは目に見えている。

「ラク兄さん、あいつの攻撃は私が止める。その隙にあいつを倒して」

 ユキが決意を秘めた顔でラクにそう言った。

(まさか、ユキの奴!?)

「ユキ、お前じゃ無理だ。オレに任せとけ」

 ラクはユキに一瞬目を向けたが、すぐにマモンの攻撃に意識を向けた。

「無理じゃない。命を賭ける」

「ユキ……!!」

 オレの予想通りだった。
 ユキは自分の命と引き換えにマモンの攻撃を防ぐつもりだ。

「何言ってんの、ユキ! せっかく皆で会えたのに! この時を100年以上待ってたんでしょ!!」

 ナナがユキの肩を掴んだ。

「黙れ。もうこれしかない。敵の攻撃を一度凌げればラク兄さんがあいつを倒してくれる」

「ユキ……! じゃあオレがあいつの攻撃を止める! お前が犠牲になることはないだろ!」

 オレもユキに詰め寄った。

「うるさいぞ。お前もナナも力不足だ。あの攻撃は私でなければ止められない!」

「いや、だからって……!」

「今やらなきゃ、私たち全員死ぬぞ!!」

 ユキが叫んだ。

「私だって皆と共に生きたい!! こうして兄妹が揃ったんだ!! だが……! だけど、ここを切り抜けなければ……!!」

「ユキ……」

 ラクも憐憫の目でユキを見つめている。

 一瞬の沈黙が場を支配した。

 もうこれしかないと皆が思い始めたその時、口を開いたのはアイコだった。

「ユキちゃん、あなた1人なら確かに命掛けになるわ。でも私も手伝う。それなら生き残る可能性は高くなるはずよ」

 ユキはアイコに視線を向けた。

「宝条マスター。もはやあなたでも力不足だ」

 ユキは前に出てマモンへと向かった。

「いいえ、そうはならない。オレも手伝います」

 ここで阿倍野も声を上げた。

「3人でも無理だ! 私が全身を魔素に変えてあいつの攻撃を受け止める!!」

 ユキはしつこいと言わんばかりに阿倍野たちに背を向けた。

「確かに、今までのオレなら役には立てなかったかもしれないです」

 阿倍野が言った。

「そうね。だけどラクちゃんの存在が私たちにひとつの進歩をもたらしてくれた」

 今度はアイコだ。

(な、何を言っているんだ?)

「どういう意味だ? リュウセイ、アイちゃん」

 ラクも不思議そうに阿倍野たちに問いかけた。

「こういうことです。『ロンゴミアド』覚醒」

カッ!!

 阿倍野の身に纏った魔宝具が光に変わった。
 装備としては隊服だけの姿となったが、屈強な雰囲気が伝わってくる。
 
「私もよ。『プランウェン』覚醒」

 アイコは身に纏った帯が光に変わり、こちらは元々薄着だったこともあり、ほぼ水着や下着程度の衣服しか身に着けていない過激な格好になった。
 ただ、力が増しているのはありありと分かる。

「これは……、ちょっと問題ね」

 アイコは少し気恥ずかしそうだ。

「2人とも。この戦いの中で掴んだんだな」

 ラクが呟いた。

「ええ。役に立ってみせます」

「私もよ。いいわね? ユキちゃん」

 阿倍野とアイコがユキを見た。

「……3人で敵の攻撃を弾くぞ」

 阿倍野とアイコはニコリと笑い、ユキと並び立った。

「待ってくれてたのか? 律儀だな」

 阿倍野がマモンへ言葉を掛けた。
 確かにマモンはオレたちへの攻撃を待ち、準備が整うのを見守っていた。

 阿倍野の問いかけにマモンはおぞましい笑みを返した。

「無駄だってことを分からせたくてね。オリジンワクチン保持者、4人揃っても僕には及ばない」

 マモンの周囲の光が渦巻き出した。
 マモンもオレたちが話をしている間に準備を整えていたらしく、さっきの攻撃よりもさらに強大な魔素が練り上げられていた。

「そういう奢りが身を滅ぼすんだ、グール」

 ラクも魔素を練り上げている。

「3度目だ。勝ってみせろ、人間ども!!」

 マモンから津波状の魔素の渦が押し寄せた。
 回避不可能、防御不可能だ。
 まともに食らったら確実に全滅する。

 そのマモンの攻撃には3人のマスターが立ちはだかっていた。

千夜極光アルフライラルクス!!」
六道三相りくどうさんそう焦天輪廻転生しょうてんりんねてんしょう!!」
「七龍跋扈天輪!!」

ドドドッオオオオオォォォォォンンン!!!!!

 凄まじい衝撃と光が京都を照らした。
 とてつもない威力の攻撃と攻撃が鎬を削るが、形勢が不利なのはオレたちの方だった。

「ぐううう! リュウセイ! 気合を入れろ!!」
「分かってますよ!!」
「不味いわ!! このままじゃ……!」

 このままではユキたちは押し負ける。
 そうすれば後ろにいるラクも、オレたちもおしまいだ。
 
 ラクが加勢すればマモンの攻撃は弾けるかも知れない。
 しかしそうなったらマモンに攻撃を加える人間がいなくなる。
 それはそれで敗北を意味するだろう。
 ラクももう1回大技を出す力は残っていない。

「うおおおおぉ!!!!」

 ユキたちの体が少しずつ裂け始めている。
 限界を超えて技を出しているせいだろう。

 こうしてはいられない。

「ナナ!!!」

 オレは叫んだ。

「え!?」

「ユキもラクも命懸けで戦ってる!! オレたちもやるぞ!!」

 じっとなんかしていられない。

「で、でもウチらじゃ……」

「やれる! オレの! オレたちの魔素をナナに送る!! みんな、協力してください!!」

 オレはナナの肩に手を置いた。
 オレは自分の魔素をナナへ送ることができる。
 そして。

「天王寺さん! みんなの魔素をオレへ!!」

「そういうことか!」

 二宮、シオリや天王寺は少し戸惑ったが、すぐにオレの背中に手を当ててくれた。
 天王寺は吻野の師匠だと聞いた。
 吻野が出来た魔素のコントロールも可能だとオレは踏んだのだ。
 
「やってくれ、佐々木!」
「ああ、黙ってはいられない!」
「お願い! 佐々木くん」

 オレの体を通して3人の魔素がナナに流れ込んでいく。

「桐生さん、睦月さんも!!」

 桐生と睦月もオレの背中に手を置いた。

「分かった、やれ。佐々木セイ!」
「ユキ殿を救ってくれ。佐々木殿!」

 一気に強大な魔素がオレを通じてナナに流れ込んできた。

(これならいける!!)

「ナナ!! オレたちで勝つぞ!!」

「……ああ! 分かったよ!! やってやる!! 連続超絶爆撃結界グランドナパームドームバースト!!!」

 オレたちの攻撃がマモンの魔素の津波に炸裂した。
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