グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅴ

第250話 新キョウト都市奪還戦争 Ⅲ-③ 結界

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 オレとナナ、阿倍野とユキは肩を並べ、向こう岸の敵へ目を向けた。

 堀の向こう側で相対するのは人型グール4体だ。

 ディリップ、トランクイリタティス、ガナウの3体ともう1体は初めて見るグールだ。
 以前、北海道で遭遇したハドリーというグールにどこか似ている、恰幅のいい老人の姿をしている。

「ユキさん、攻め入りますか?」

 阿倍野が魔素を練りながら一歩前に出たが、ユキが制止した。

「待て。あいつらは結界を張っているようだ」

「結界? しかし……」

 ユキの言葉にはオレも疑問を覚えた。
 いくら敵が結界を展開していてもオレたちならそれを感知出来るはずだ。

 しかしこうして目の前に敵を見てもそれらしきものは何も感じない。

「ユキの勘違いじゃないの?」

 オレはついそう口走った。

「バカが。セイ、ならなぜあいつらの気配を感知出来ないのだ」

「あ……!?」

「やはり気づいていなかったか。いつもならあんなに禍々しい気配を放つ奴らからも特段グールの気配を感じん。何らかの術を使っていると見るべきだ。それにここは敵陣だぞ、何の準備もないはずがないだろう。このまま飛び込めばおそらくやられる」

「そ、そうか……、確かに」

「それで、どうしますかユキさん」

 阿倍野は冷静にユキに質問をした。
 阿倍野は結界にも当然気付いていたのだろう。
 その上で戦いを提案していたのだ。

「ナナ。お前は結界術士だろう。敵の結界を破る方法を見つけろ」

「え? ウチ?」

 ナナは少し驚いたが、すでにさっきから何か考え事をしている様子だった。

「ああ」

「うーん、やっぱり結界の基点を破壊するのが1番いいね」

「基点か」

(なんだそれ?)

「通常広範囲結界はいくつかの基点を設けるんだよ。ほら、連結魔法陣とかでも基点を設置したりするでしょ」

 阿倍野が俺のために説明をしてくれた。

「ああ、なるほど……」

「全く兄ちゃんは……、でも問題はこの結界の基点はここから離れた場所から感じることだね。多分4ヶ所」

「それが分かるのか」

 ナナの言葉にはユキもやや驚いたようだ。

「うん、どうやら……、二宮さんたちが戦っているグールの内の1体。その体内に結界の基点が仕込まれるっぽい」

「凄いな、ナナ! そこまで!?」

「兄ちゃんうるさい。他の2か所は多分アイちゃんがいるところと、ユキの部下がいるとこだと思う。だけどもう1か所は……」

「もう1か所は?」

 言い淀むナナに阿倍野が催促した。

「……あの人型グールの中だと思う」

 そう言ってナナは恰幅のいい老人のグールを指指した。

「なるほどな……。奴が術者という訳か。そして基点は各地の特級グールの体内に仕込んだ」

 ユキは顎に手を当てて考えに集中した。

 結界を破壊するには各地の特級グールを倒さないといけないという状況だろう。

 オレとしては二宮たちのところへ戻って特級グールの討伐をするのが最善だと思う。

 阿倍野が二宮のところへ、ユキはワイズ軍のところへ、アイコは多分このまま待てば敵を全滅させてくれるだろう。

 一旦この場を離れて皆の所へ戻り、特級グールを殲滅して再度皆でこの場に戻ってくる。
 それが良いように思った。

「では、ここで待機だ。別働隊の3班の勝報を待つぞ」

「え!?」

 オレは耳を疑った。

「も、戻ってみんなを援護しないのか?」

「よく考えろ。この場を離れたとたん、あの人型共は攻撃に打って出るはずだ。おそらくそれを待っている。特級グールとの挟み打ちが狙いだろう。私たちはここで奴らの動向を見張り、どこにも行かせない。それが最善だ」

 ユキが淡々と言った。

「そうですね。あいつらはそう安易には結界の外には出て来ないでしょう。オレとユキさんが揃っている以上、結界の外では人型4体でも向こうは勝機はそうない。それは理解しているはずですからね」

 阿倍野もユキに賛成のようだ。

「そ、そうなんですか……?」

 オレの顔を見て阿倍野が説明を続けてくれた。

「ここに来た人間が誰かによっては奴らは結界から脱出して皆殺し、もしくはオレたちマスタークラスの誰か1人だけなら、例えばオレだけとか、ユキさんだけとかなら4人掛かりで倒すつもりだったってことだね」

「す、すると?」

 オレはまだ阿倍野の言葉に納得できていない。

「兄ちゃん! もう分かるでしょ! 私たちはここで増援を待たなきゃいけないの! 下手にウチラがこの場を離れるとユウナさんたちだけじゃなくてセイヤさんとかモモさんも危なくなる!」

「理解はできるけど……」

 ナナはため息をついた。

「ま、兄ちゃんはそういうタイプだよね。じっとなんかしてなれない」

「ナナ?」

「ユキ、阿倍野さん。2人はここを離れることは出来ない。それは分かります。でもウチと兄ちゃんは違いますよね? ウチラ2人だけ戻って特級グールと戦います」

 オレはナナの言葉を聞いて喜びが溢れた。
 さすがオレの妹はオレのことをよく理解している。

 しかしユキは少し考えてから口を開いた。

「ダメだ」

「はあ!? なにそれ!?」

「聞け。ナナは結界の基点を感知出来る。万が一基点が他のグールや他の場所へ移された時にいち早くそれに気付かなければいけない。よってナナはこの場に残れ」

(あ、そういうことか)

「つまりこの場を離れて仲間を助けに行くのはセイ1人だ」

 ユキの言葉を聞いた阿倍野がオレに声を掛けた。

「なるほど。それはオレも賛成です。佐々木くん、マサオミたちの所へ行ってくれないか」

「それは……、もちろんです!」

 オレは阿倍野の問いに力強く答えた。

「ナナさんもそれでいいかな?」

「ウチはいいですけど……、兄ちゃん、頼んだよ」

 ナナは少し不満げだが、状況は良く理解して飲み込んでくれた。

「ああ!」

 話は纏まった。
 オレは全身に力を込めた。

「待て」

 ユキが飛び出そうとするオレを止めた。

「な、なんだよ!」

「セイ。まずは宝条マスターのところへ行って宝条マスターをここに来るように促せ。東軍の応援はその後にしろ」

「……やはり敵は奴ら以外にもいると?」

 阿倍野は何か悟ったようにユキに聞いた。

「え? どういうことですか?」

 オレは例によって話についていけない。
 ナナが何回目かのため息をついて説明をしてくれた。

「つまりあそこに見えている人型グール以外にも敵がいるだろうと予測してるってことだよ、兄ちゃん。その場合はユキと阿倍野さんだけじゃ厳しくなるかも知れない。だから最高戦力の1人のアイちゃんに早くここに来てもらおうって訳。そうでだよね?」

「ああ、ナナの言う通りだ。通信は入れておく」

(お、オレをバカ扱いしやがって……)

「わ、分かったよ。それにしても……」

 オレはユキとナナを見た。

「何?」

「何だ?」

 ナナとユキが怪訝そうにオレを見返した。

「いや、昔みたいだな。いつもの2人の調子が戻ってきたな」

「……早く行け」

 ユキは不機嫌そうに顔を逸した。
 オレはそれを見て自然と顔が綻んだ。

「任せとけ!」

 オレは空へ駆け出した。

 


 しばらく滑るように空を駆けると、激しい戦闘音が聞こえた。
 何やら竜巻があたりの廃墟を吹き飛ばしている。

「あそこだ!」

 オレは竜巻の発生源にアイコ、その近くにアサヒの魔素を感知した。

 2人はすぐにオレに気付いた。

「セイちゃん!」
「おお! セイ!」

 アイコとアサヒはそれぞれが何体かのグールに周囲を囲まれており、苦戦しているようだった。

(アイちゃんには10体以上! アサヒの方も5体以上か!?)

「助けに来た! 『ガジャルグ』開放!」

 カッ!!

 オレの持つ『ガジャルグ』は通常短銃程度の大きさしかない。しかし開放することによってかなりの大型に変形し、その基本形状と質感もかなり変わる。
 『ガジャルグ』は鈍い銀色に輝く大型のライフルに姿を変えた。

 オレはそれを右手で構えると、一気に魔素を練り上げた。
 魔宝具は開放状態と通常状態ではまるで別物となる。
 通常では魔素入出力と効率化、形態質性変化がすんなりと出来るのみだが、開放状態であればそれが当たり前になり、さらに自分自身の魔素の量、質が大きく向上する。

 通常では使えなかった魔技も今なら使用可能だ。

四重超新星弾ブーリアスノヴァ!!」

ドキャアウウ!!!

 オレの放った弾丸はSS級グールをバラバラに吹き飛ばし、さらに後ろの射線にいたBSS級グールの左肩を大きく弾き飛ばした。

ガガアァアァ!!

 左手を肩ごと吹き飛ばされたグールは怒りと痛みに叫びを上げて、左手を再生した。
 BSS級のグールは3つある背光陣と引き換えに高速再生が出来る。

 数体のグールがオレへと向かってきた。
 当然オレと戦うつもりだろう。

「それでいいのかな!?」

 アイコに向かうグールの数が減り、その隙にアイコは魔素を練り術を構築した。

「双竜跋扈!」

 アイコの両手から竜巻で出来た巨大な龍が2体生まれ、それぞれがグールを飲み込んだ。
 さらにそのまま周囲のグールへと襲いかかる龍にグールたちが混乱した。

三重超新星弾狙撃付与ルミナスノヴァスナイプ!!」

ギャウウウン!!!

 今度はオレが混乱したグールに銃弾を打ち込み、さらにグールたちの数を減らした。

「よし!」

 これでもうアイコとオレの間にいるグールは5、6体だ。
 もうアイコだけでも問題無いと判断して、今度はアサヒがいる方へ銃を向けた。

平方第13励起レゾナンシアスクエアサーティーン! 天狼征軍弾セイリオスクルセイズ!!」

ドドドッオオオオオ!!!

 オレの撃ち出した169発の弾丸が次々とグールたちに命中していく。

「おお! さすがや! あとは任せとき!!」

 アサヒは直ぐに体勢が崩れたグールたちに剣を振りかざした。

究極装甲剣複層化セオアイアンクラッドレイヤーズ!!」

 アサヒの剣の切っ先を中心に、全身が魔素のオーラに包まれた。
 これはアサヒが得意とする攻防一体の魔技だ。

ドドドドオオオオオ!!!!

 目にも止まらぬ速さで一気にグールたちに攻撃を繰り出していく。
 このアサヒの攻撃で3体の特級グールが地に伏した。

(やった!)

 オレはアサヒの横に着地した。

「助かったで!」

「ああ!」

「セイくん1人か?」

「え? そうだけど?」

「ほんなら久しぶりの武蔵野班での戦いやな。ま、オレも1人になってもうたけど」

「……ああ、そうだな」

 そうだった。
 以前、オレが1人で新オオサカ都市の交流に行った時に約束したのを思い出した。
 武蔵野アサヒ、マヒル、ユウヒの3人とオレで新オオサカ都市にいるときは臨時武蔵野班を組もうと。
 マヒルとユウヒはもういないけど、アサヒがそれを覚えてくれていたことがなんとも言うか嬉しかった。

「ま、今はええか」

「アサヒくん! セイちゃん!」

 ここでアイコもオレたちの所へ降り立った。

「アイちゃん! ユキの通達の通りだ! アイちゃんはユキたちの所へ!」

「……しかしね」

「アイコさん! オレらに任しといてな! もう一気に敵数も減った! オレは西部最強隊員やで! 東部最強の救世主セイもおる!」

 オレは東部最強じゃないし、救世主という呼ばれ方も好きじゃない。

「大丈夫だよ。アイちゃん、行ってくれ」

 オレはアイコに向かって余裕だと笑顔を見せた。

「……分かったわ」

 アイコは少し迷いながら、再び宙に浮かびユキたちのいる方向へと飛び立った。

「よし、じゃあ残りの敵をちゃっちゃと片付けよか!」

「ああ、オレたち武蔵野班でやってやろう!」

 アサヒは一瞬驚いた顔をしたが、満面の笑みでオレに応えてくれた。

「怖いもんなしや!」

 特級グールの残りはBSS級が3体、SS級が5体だ。
 アサヒの隊員階級はSSクラス4、オレはSSクラス2だ。
 しかし魔宝具の開放ができるようになってオレは1ランクは実力が上がっているはずだ。

 オレたちは特級グールと激戦を繰り広げ、何とか敵の殲滅に成功した。
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