グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅴ

第249話 新キョウト都市奪還戦争 Ⅲ-② 奇襲

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 目的地である二条城跡地を前に、オレたちは最後の作戦会議を開いていた。

 オレたち別働隊の面々はナナの展開した結界の中で車座になって話を始めた。

「二条城周辺にはおよそ1万2千ほどのA級グールがひしめいている。東からリュウセイ、西から宝条マスター。そしてここ南からは私が攻める。まずは私たちが大規模に攻撃を仕掛ける。場が乱れたところで東西からさらに攻撃を仕掛けろ」

 ユキが淡々とこれからの行動を指示した。

「1万強ならこのメンツの最初の攻撃で半減はさせられますね。初撃でなるべく数を減らしましょう」

 阿倍野が頷きながら口を開いた。

「そうね。ただラクちゃんの居場所が分からないところがネックだけど……」

 アイコもユキたちに同意した。

「ラク兄さんは二条城の中心部にいるようだ。もっと近付けば何らかの感知に必ず掛かる。戦争が始まってからは何か膜が掛かったように上手く感知できんがな」

「まずは攻めて近づかないとね……」

 3都市の首長たちの話はおおよそ纏まったようだ。

「それと各部隊とも。攻め入った後人型グールなどに足止めを食らった場合はリュウセイ、宝条マスター、及びセイとナナを優先して中心部へ進行させろ。特にセイとナナは最優先とさせてもらう」

 ユキが最後に1つ付け加えた。

「ラクさんの救出のためですね」

 阿倍野が言った。

「そうだ」

「ねえ、ユキ。1つ聞きたいんだけどラクの救出になぜ私たちが必要だと考えてるの? 根拠のある口ぶりに聞こえるけど」

 ナナがユキに聞いた。

「今その質問か? まあいい、夢で母にそう言われたんだ。セイとナナ。3人でラク兄さんを助けろとな」

「そう……なんだ」

 ユキの答えを聞いたナナは少し顔が綻んだ。
 その気持ちはオレも一緒だった。

 ユキはもうオレとナナを本物の兄姉として見ている。
 それが理解できた。

「勘違いするな。お前たちが本物かどうかは別の話だ」

「何それ。あんたホントひねくれたわね」

 ナナの言葉を聞いた阿倍野や桐生は冷や汗をかいた。ナナがユキに吹き飛ばされると考えたのだ。

 しかし、ユキはナナを睨むだけだった。

「黙れ。任務に集中しろ」

「なあ、ユキ。オレも気になってることがあるんだ」

 ここでオレも会話に参加した。

「なんだ?」

 ユキは鬱陶しそうだが、話は聞いてくれそうだ。

「あのヴィータって奴は45億年前に地球にいたって言ってた。それってどういうことなんだろう……?」

 ユキはしばらくの沈黙の後に口を開いた。

「いわゆるジャイアントインパクトのことだろう」

 あっさりとそう言った。

「何だそれ?」

「学のない奴だ。おそよ45億年前。地球と月が出来た切っ掛けとされる天体同士の衝突だ。おそらくその事を言っていたのだ」

 オレにはユキの説明が理解出来なかった。
 いや、聞いたことはあるけどそれがグールとどう繋がるかは分からなかった。

「原子地球に衝突した天体、そこにグールウイルスはいたのだろう。しかし衝突の衝撃で再び宇宙に放り出されたウイルスと、この地球。そして月に残ったウイルスがいた」

「月?」

「ああ。それならば説明がつく。100年前に隕石によって飛来したウイルスはその兄弟種が月と地球にもいた。そして人類に取り付き急速な進化を遂げた。どうだ? 筋は通っているだろう?」

 なんとなくは分かった。
 やはりグールは宇宙から来たのだろう。
 しかしオレが思ったよりずっと複雑に地球と関わっていたらしい。

「確かに、兄弟がどうどか言ってたな……。しかしそんな何億年前から……」

 オレはユキの考えに同意したし納得した。
 話も繋がる。

「ユキ殿、そんな仮説をいつ立てたんですか?」

 武士風の睦月がユキに聞いた。

「ええ。オレにとっても興味深い話でした」

 二宮も驚きながらユキを見ていた。
 
 そしてオレたちだけではなく、この場にいるみんなが驚きや戸惑いを顔に出していた。
 オレはすんなりと話を受け入れられたが、皆は違うようだ。

「ユキちゃん? どうしてそんな推測が出来たの?」

 アイコがユキに重ねて聞いた。

「全ては夢の中で聞いたことからの予想だ。そんなグールの歴史などないと、戯れ言と聞き捨てて構わん。それよりも任務だ」
 
 ユキはややおざなりに答えた。

「いや、ユキさんの仮説はかなり有力だと思います。それに、リンさんから教えてもらったんでしょう?」

 阿倍野も真面目な顔で言った。

「……まあな」

「なあユキ。今までに何回くらい母ちゃんが夢に出てきたんだ? オレの考えじゃ、1回2回じゃそこまでの話は予測できないんじゃないか?」

 オレは率直に感じた疑問を尋ねた。

 いつも夢で出てくる母ちゃんはそこまでのメッセージを残さない。
 一度に伝えられる事が限られているのかも知れない。

 しかしユキから返答は無かった。

「……」

 オレはユキの横顔を見て、今までに何度も母ちゃんと夢で会ったことを理解した。
 その夢から覚める度、ユキがどんな気持ちだったか……

 ユキは家族は全員居なくなったと思っていたのだ。
 唯一の生き残りがラクだと、そう考えていたはずだ。

「大丈夫、またみんな兄妹揃って会える。もうすぐだ」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 最後の作戦会議からさらに1時間程が過ぎ、オレたちはそれぞれが配置に着いた。

 オレたち新トウキョウ都市軍は二条城跡地の東側の廃墟に身を隠して、突撃の号令を待っていた。

 ほんの少し先には巨大なA級グールの群れがオレたちの目的地の二条城跡地を守るように蠢いている。

『こちら宝条。西軍、配置についたわ』

『東軍も問題ありません』

『了解した。では全隊員準備完了だ』

 アイコ、阿倍野、ユキが通信で会話をしている。
 
『では、始めるぞ。攻撃開始だ』

 いよいよだ。
 オレはぐっと体に力を込めた。

ドドドッオオオオオンンン!!!!!

 途轍もない轟音が響き渡り、叫び混乱するグールたちの気配を感じた。
 ユキたちワイズ軍による一斉攻撃だ。

「行くぞ! オレに続け!!」

 阿倍野は叫ぶと、身を隠していた廃墟から飛び出した。
 オレたちも直ぐにその後を追った。

 宙を駆ける阿倍野から凄まじい魔素のうねりを感じた。

六道双行りくどうそうぎょう潰砕輪廻かいさいりんね!!」

 ズバアアアァアア!!!!

 阿倍野から放たれた魔素が雷を纏った巨岩の雨と化してグールの群れに降り注いだ。

(な、なんだこれ!? これが阿倍野さんの本気なのか……!!)

「みんなも続け!!」

(そうだ! オレたちだって!)

 阿倍野の叫びを聞いてオレは銃を敵に向けた。

「うおお!! 三重超新星弾散弾ルミナスノヴァショット!!」
連続超爆撃結界ハイナパームドームバースト!!」
殲滅穿突投擲剣スレイヤーズエッジスピア!!」
浄化宝翠炎ホーリーマスグラバイトフレア!!」

ドドドッオオオオオ!!!!

 オレたち佐々木班の大技がグールを吹き飛ばした。
 当然セイヤや吻野、二宮たちの攻撃も多くのグールをなぎ倒し、オレたちは二条城跡地へと真っ直ぐに走った。

 グールは1万を超える規模であり、3方からの奇襲をかけたとはいえまだまだ数は残っている。
 オレたちはすぐに10メートルは身の丈のあるグールたちに取り囲まれることとなった。

 進撃を止められたオレたちは夥しい数のグールを薙ぎ払い、ナナやシオリが展開した結界で戦闘を開始した。

「ちっ、脚を止められたな!」

 阿倍野が誰に言うでもなく現状に悪態をついた。

「確かにオレたちなら勝てない相手ではないですが……」

 二宮は何か言いたげだ。

 そんな中、セイヤが阿倍野たちの前に立ち、剣を振りかぶった。

正義破砕剣ジャスティスクラッシュ!!」

 セイヤが剣を振るい一気にグールを吹き飛ばした。
 そのすぐ横の吻野は宙に浮き、両肩に衛星のように2つの白く輝く球体が浮かびそこから魔術を撃ち出していた。

「まずは私達よ。阿倍野さん、みんな。先へ進んで」

「え!? モモさん?」

 オレは一瞬吻野の言った言葉の意味が分からなかった。

「セイ。ユキさんが言っていただろう。足止めを食らったらお前たちを先に行かせろと。ここはオレたちに任せてもらう」

「セイヤ! でも!」

「でもじゃないだろう、佐々木くん。ユキさんたちも、宝条さんたちも今頃同じ事をしているはずだ。行くぞ」

 阿倍野は大して気にもせずにセイヤたちが開けた道を進んでいった。

「佐々木、結城を信じろ」

 二宮にそう言われ、オレは唇を噛み締めた。

「分かりました! セイヤ! 直ぐに追いついてこいよ!」

「ふっ。セイに言われるまでもない」

 セイヤはそう言って長い髪をかき揚げた。

「さっさと行きなさい」

 セイヤと吻野に背中を押され、オレたちはさらに先へと進んだ。
 すぐにグールたちがオレたちを止めようと襲いかかってきたが、セイヤたちの追撃によってその攻撃は阻まれた。

 正直セイヤたちを2人だけ置いていくことには激しい抵抗を感じる。
 しかし今オレたちはラクを助ける為にここに来ている。
 ラクを助けることが最優先だ。

 セイヤたちなら数千のA級グールにもきっと勝てる。
 オレはそう思い振り返らずに戦地を抜け、グールの包囲網を脱出した。

 さらにしばらく足を進めていくと、空中にいくつかの影が浮かんでいることに気付いた。

 オレは感知ですぐに理解した。
 あれは特級グールだ。
 BSS級も含んだグールたちが10体以上はいる。
 
「今度は特級グールか」

「次は私たちね。二宮さん」

  二宮とシオリの会話が聞こえた。

「マサオミ、シオリちゃん。2人だけだと厳しいだろう。ここはユウナちゃんとアオイちゃんも手伝ってくれないか?」

 阿倍野がオレたち佐々木班を見ながら言った。

「……いいですよ。佐々木、ナナ。先に行ってくれ」

 アオイはオレとナナをちらりと見てそう言った。

「アオイ……」

「セイさん。きっとラクさんに会えます。後で必ず紹介してね」

 ユウナも覚悟を決めたようだ。

「ユウナ……、ああ! 2人とも。頼んだぞ!!」

「ユウナさん、アオイさん! 絶対勝ってよ! 絶対ラクの所まで来てよ!!」

 ナナも大声で2人に声を掛けた。

 敵はBSS級が3体、SS級が6体、S級が8体だった。
 正直、二宮たちとユウナたちでは勝てるかどうかは微妙なところだろう。
 ナナもそれを分かっている。

「ナナの言う通りだ、絶対に勝つぞ! またみんなで会うぞ!」

 オレはユウナと視線を交わして、別れを告げた。

「じゃあ、行くわよ! 陰陽金草遁おんみょうきんそうとん退魔金剛幽景たいまこんごうゆうけい!」

 シオリが渾身の結界忍術を発動した。
 これでユウナたちもぐっと戦いやすくなるはずだ。

「……『クラウソラス』、開放。閃光裂迫斬フラッシュブレイク!!」

 二宮も魔宝具の『クラウソラス』を全開にして敵へと斬り掛かった。

 ユウナとアオイもそれぞれ二宮たちを援護しつつ、特級グールへと攻撃を始め、特級グールたちも咆哮を上げてシオリの結界へと襲いかかった。

 激しい爆撃音が鳴り響く中、阿倍野を先頭にオレとナナはその場を後にした。

 オレたちはさらに歩みを進めた。

 二条城跡地はもうすぐそこだ。

(ラクがあそこにいる……!)

 オレは逸る気持ちを押さえて目的地へ急いだ。

『目的地へ到着した。リュウセイ、宝条マスター。現状を報告しろ』

 ここでユキの通信が入った。

(ユキ! もう着いたのか!?)

「こちらは阿倍野です。佐々木くんとナナと一緒です。間もなく目的地に到着します」

『宝条よ、こっちはまだ掛かるわ! 敵の数が多い!』

『了解した。こちらは私1人だ、皆なるべく急げ』

 そうこうしている間に、オレたちはユキの待つ場所へ到着した。
 二条城跡地を囲う堀の外側、そこにユキがいた。

「来たな」

 ユキは目線を外堀の中、城の敷地の方に向けたまま呟いた。

(何を見てるんだ?)

「!!」

 崩れた城の瓦礫の中に、人型グールが4体並び立っていた。
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