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CHAPTER Ⅴ
第244話 新キョウト都市奪還戦争 Ⅱ-⑨ 頂上
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人型グールのトランクイリタティスと新オオサカ都市ギルドマスター、西軍総指揮官である宝条アイコの激戦が続いていた。
2人が繰り出す攻撃は高密度かつ高出力で一発一発がそれぞれS級グールをバラバラにするほどの威力にまでなっていた。
そんな攻撃を雨のように撒き散らしているが、まだまだ決め手には届いていない。
結界を構築しているもう1体の人型グール、アンギスも時折アイコに攻撃を仕掛けているが、ボルテージの上がったアイコには大した効果は無かった。
「まさか……! 本当にそんなものまであるのとはな!」
トランクイリタティスがここまでの準備を整えても倒しきれない状況に苛ついて声を出した。
「魔宝具のこと? オリジンワクチン同様、人類の強さよ。わたしたちは負けない!」
「戯れ言を!」
人型グールたちはオリジンワクチンの存在は当然知っている。
オリジンワクチンを接種した人間は、異常なまでにグールウイルスの特性を人の姿形のまま人の心を持ったまま引き出しグールの脅威となる。
阿倍野、アイコ、ユキ、ラクという人間がその代表だ。
その存在は古くからグールたちも認知しており、グールたちは未接種の2種のオリジンワクチンを奪取もしている。
しかしそれとは別にグールウイルスの特性を引き出す人間にとって強力な武器、魔宝具の存在も予想はしていた。
そもそも魔導具というものは全てが魔宝具の模造品だ。
魔宝具の性能を部分的にでも模造して作り出そう試行錯誤した結果が魔導具であり、討伐隊服であり、魔導石だ。
魔導具という道具を生み出し実際に使用している人類を目の当たりにしたグールたちは何かしらその根源に当たる存在、つまり魔宝具のような超常的な神器の存在を本能で感じ取っていたのだ。
グールたちはそれを呪物と呼んでいた。
「トラン何とかさん、そろそろ決着を着けさせてもらうわ」
「何を……!」
アイコが両手を大きく伸ばすとグールの展開した結界の中に突然稲光が走った。
ピシャアアアンンン!!
「何だ!?」
「雷龍降臨。……飲み尽くせ!」
閃光を放つ稲妻がやがて纏まり、細長い蛇のように結界内に蠢いた。
そしてそれは10以上の数があった。
驚くトランクイリタティスを尻目にアイコは両手を振るった。
スドドドドドオオオンンン!!!
とてつもない衝撃が結界を揺るがした。
そして同時にアイコを囲んでいた結界が破裂するように消えた。
「どうやら結界の基点となっているグールは倒せたようね……」
アイコは今の攻撃の本当の狙いは結界を構築していた4体のSS級グール、そしてその強化を施していた人型グールのアンギスだ。
アイコはすでに相当な体力を消耗してしまっていて結界の破壊を優先させたのだ。
「ほ、宝条……! 貴様……」
「あら、生きているのね」
軽口を叩くアイコをトランクイリタティスはボロボロの姿で睨みつけた。
「結界狙いか。大した大技だった。……だが、貴様もかなり力を使っただろう。ここから我々を相手に戦い切れるのか?」
「我々?」
アイコが眉をひそめた瞬間、天からアンギスが直滑降でアイコへ飛行した。
「死ね!!」
ドオオオオオンンン!!!
アンギスはアイコの攻撃で半死半生の状態だが、迷彩能力を全開にしつつ攻撃の準備を整えていた。
「ぐう! トランクイリタティス! 追い打ちをかけろ!」
「分かっている!」
アイギスの動きを予め知っていたトランクイリタティスは赤い槍の爆撃をアイコに向けて乱射した。
アンギスも痛む体をおして攻撃を繰り返した。
ドドドドオオオオオ!!!!
「倒し切るまで止まるな!」
トランクイリタティスが叫んだ。
しかし、アンギスが急に攻撃の手を止めた。
「何をして……!!」
アンギスに目を向けたトランクイリタティスが絶句した。
アンギスは巨大な岩と土で出来た龍にその身を咬み砕かれていた。
「これは!! 宝条!!」
トランクイリタティスが気を取られた瞬間。
ドオン!!
トランクイリタティスの体にも土龍の牙が突き刺さった。
「ぐおおおおお!!!」
「ま、全く……、こんなに手酷くやられたのは初めてかも……」
燃え上がる爆炎からアイコが姿を現した。
魔宝具の『プライウェン』はボロボロで、アイコの血でかなり汚れてしまっている。
アイコは震える腕を上げて魔素を集中した。
「四龍来臨」
天空、地上、虚空から何十という龍の形をしたアイコの錬金術の結晶が出現した。
土龍は岩盤から、水龍は大気、地上から、風龍は気圧から、火龍は空気中からそれぞれ作り上げられたものであり、グールにとって暴虐を尽くす怪物だ。
それが一斉にトランクイリタティスとアンギスへと殺到した。
ズドドドオオオオオウウウンンン!!!!!
大気が震え、地上がビリビリと唸りを上げた。
しかしアイコは攻撃が決まる一瞬前、トランクイリタティスが瀕死のアンギスを掴み、まるで栓の抜けた水のように手のひらに吸い込むのが見えた。
(何をしているの……?)
アイコは怪訝に思ったが、数十の龍は間違いなく人型グールに直撃した。
「が、ががぐぐ……うう!!」
土埃の中で、トランクイリタティスは下半身と右腕を肩から失いながらも、未だ宙に浮かんでいた。
女性形のトランクイリタティスはその衣服も全て焼け落ちており、乳房もあらわになっていた。
「驚いた……、まさかもう1体の人型グールを吸収して防御したの?」
アイコの言葉の通り、トランクイリタティスはアンギスの全魔素を吸い込み、その全てと自身の魔素を防御に集中した。
そこまでしてぎりぎりアイコの攻撃を耐えたのだ。
「ほ、宝条アイコ……、勝負は持ち越しだ……」
トランクイリタティスは何とか言葉を絞り出した。
「何を言っているの? まさか次があるとでも……」
アイコは喋りながら、離れた場所に何か異質な存在が現れたことを感じ取った。
「これは……、何?」
今まで感じたことのない存在感だ。
人型グールと似ているが、もっと禍々しい。
どうやら東軍の戦闘が行われている辺りからだ。
アイコが視線を外した瞬間。
トランクイリタティスは一瞬で姿を消した。
「……逃げられたか」
アイコはやや歯噛みしたが、直ぐに治癒術を展開し、新しく現れた存在を警戒した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
西軍の総指揮官、宝条アイコが2体の人型グールを撃退したように、東軍の総指揮官である阿倍野リュウセイも2体の人型グールを相手取っていた。
「どうした! 阿倍野リュウセイ!」
人型グールのディリップはトランクイリタティスと同じ作戦で阿倍野と戦っており、もう1体の人型グール、マラルディが構築した結界の中で優勢を保ち戦闘を続けていた。
阿倍野とディリップは高速でその肉体をぶつけ合っていたが、その軍配はディリップに上がっていた。
「思った以上だ。単純な肉体のぶつかり合いじゃ勝てそうにないな!」
「ならばどうすると言うのだ!?」
「そんなの術を使うまでだよ」
阿倍野はそう言って両手を素早く組み合わせた。
「六道火遁、無明焦魔」
ドオオウウアアアア!!
ディリップの周りには半透明の白い揺らめきが生まれ、生き物のようにその体に纏わりついた。
「グオオオオ!!!」
これは阿倍野の使う忍術の奥義であり、以前ディリップに結界によって封じられた技だった。
今阿倍野を取り囲んでいる結界にも阿倍野の忍術を作用させない効果があったが、それを無視してこの忍術は発動していた。
「ガアアア!! 何故だ!! 術は使えんはずだ!!」
ディリップは身を焦がしながらも何とかその炎を消し飛ばした。
「同じ手を食うわけないだろう。六道水遁、無明溶魔」
ジャアアオオオオオ!!
阿倍野が新たに発動した忍術により、大量の透明な水が辺りを覆った。
まるで無重力かのように宙をふわふわと浮かび、ディリップへと近づき浴びせかけると激しい蒸気を上げてその体にダメージを与えた。
「グウウオオオ!!!」
ディリップの叫びが木霊した。
そして流れる血を撒き散らしながら阿倍野へと突進した。
ドドドオン!!
「ぐうっ!!」
阿倍野はディリップの拳の連撃を防ぎきれずに何発か直撃を受けてしまった。
確かに忍術を使った攻撃はディリップに有効だが、単純な肉弾戦となると阿倍野の旗色は悪い。
阿倍野がディリップへ忍術を仕掛けようとした瞬間、四方から長く伸びた腕が阿倍野の肢体をがっしりと掴んだ。
「!?」
もう1体の人型グール、マラルディが何と数百メートル体を伸ばして阿倍野を押えつけたのだ。
ドドドッオオオオオ!!!
ここぞとばかりにディリップの連撃が続く。
阿倍野はマラルディの拘束を解こうともがくが、なかなか上手くいかない。
「はははあ! こんな簡単な手で決着がつくとはな!!」
ディリップが高笑いを上げた。
「決着は……! まだ着いていない! 六道木遁!! 無間縛魔!!!」
ドオオオンンン!!
阿倍野が術を発動すると、ディリップたちの展開した結界の中に大量の樹木が生まれた。
凄まじい勢いで伸びたその幹はしかしディリップではなく、結界の端にいるマラルディ、そしてその結界の要となっている赤い光の塊に纏わりついた。
「なに!!?」
マラルディが驚きの声を上げつつ、阿倍野の術に抵抗した。
「もう一発だ。六道草遁、無間消魔!」
「な、何だこれは!?」
阿倍野が放った術にディリップが戸惑いの声を出した。
阿倍野の術は先程発生した樹木のその巨大な幹に草や苔を大量に発生させていた。
グールの血界内は緑々しい色に姿を変えていた。
そしてその草遁の術の効果はグールたちの弱体化、阿倍野を含む人類の強化、回復だった。
「うおおおお!!!」
マラルディの苦しむ声が響いた。
木遁という術はグールを捕まえて動きを止める事ができる。本質はグールの停止であり、下級グールはその樹木に飲み込まれ阿倍野の糧となる。
草遁で力が弱まったマラルディは初撃の木遁への抵抗力が無くなってきているのだ。
「マラルディ!!」
叫ぶディリップの前に阿倍野が立ちはだかった。
「おっと、助けには行かせない! 六道土遁、無明潰魔!!」
ドオオオウウウ!!!
空中に展開するグールの結界に向かって、地上からビルサイズの岩石が大量に飛び上がり、激しくディリップたちを叩き付けた。
轟音が響く中で、阿倍野はグールの結界の要がいくつか感知できなくなりその効力が弱まったことを感じた。
「さ、さすがに大技を連発しすぎたか……」
阿倍野は自分の膝が震え出してきている事に気がついた。
そして晴れてきた土煙の向こうに、憎悪に顔を歪めるディリップがいた。
2人が繰り出す攻撃は高密度かつ高出力で一発一発がそれぞれS級グールをバラバラにするほどの威力にまでなっていた。
そんな攻撃を雨のように撒き散らしているが、まだまだ決め手には届いていない。
結界を構築しているもう1体の人型グール、アンギスも時折アイコに攻撃を仕掛けているが、ボルテージの上がったアイコには大した効果は無かった。
「まさか……! 本当にそんなものまであるのとはな!」
トランクイリタティスがここまでの準備を整えても倒しきれない状況に苛ついて声を出した。
「魔宝具のこと? オリジンワクチン同様、人類の強さよ。わたしたちは負けない!」
「戯れ言を!」
人型グールたちはオリジンワクチンの存在は当然知っている。
オリジンワクチンを接種した人間は、異常なまでにグールウイルスの特性を人の姿形のまま人の心を持ったまま引き出しグールの脅威となる。
阿倍野、アイコ、ユキ、ラクという人間がその代表だ。
その存在は古くからグールたちも認知しており、グールたちは未接種の2種のオリジンワクチンを奪取もしている。
しかしそれとは別にグールウイルスの特性を引き出す人間にとって強力な武器、魔宝具の存在も予想はしていた。
そもそも魔導具というものは全てが魔宝具の模造品だ。
魔宝具の性能を部分的にでも模造して作り出そう試行錯誤した結果が魔導具であり、討伐隊服であり、魔導石だ。
魔導具という道具を生み出し実際に使用している人類を目の当たりにしたグールたちは何かしらその根源に当たる存在、つまり魔宝具のような超常的な神器の存在を本能で感じ取っていたのだ。
グールたちはそれを呪物と呼んでいた。
「トラン何とかさん、そろそろ決着を着けさせてもらうわ」
「何を……!」
アイコが両手を大きく伸ばすとグールの展開した結界の中に突然稲光が走った。
ピシャアアアンンン!!
「何だ!?」
「雷龍降臨。……飲み尽くせ!」
閃光を放つ稲妻がやがて纏まり、細長い蛇のように結界内に蠢いた。
そしてそれは10以上の数があった。
驚くトランクイリタティスを尻目にアイコは両手を振るった。
スドドドドドオオオンンン!!!
とてつもない衝撃が結界を揺るがした。
そして同時にアイコを囲んでいた結界が破裂するように消えた。
「どうやら結界の基点となっているグールは倒せたようね……」
アイコは今の攻撃の本当の狙いは結界を構築していた4体のSS級グール、そしてその強化を施していた人型グールのアンギスだ。
アイコはすでに相当な体力を消耗してしまっていて結界の破壊を優先させたのだ。
「ほ、宝条……! 貴様……」
「あら、生きているのね」
軽口を叩くアイコをトランクイリタティスはボロボロの姿で睨みつけた。
「結界狙いか。大した大技だった。……だが、貴様もかなり力を使っただろう。ここから我々を相手に戦い切れるのか?」
「我々?」
アイコが眉をひそめた瞬間、天からアンギスが直滑降でアイコへ飛行した。
「死ね!!」
ドオオオオオンンン!!!
アンギスはアイコの攻撃で半死半生の状態だが、迷彩能力を全開にしつつ攻撃の準備を整えていた。
「ぐう! トランクイリタティス! 追い打ちをかけろ!」
「分かっている!」
アイギスの動きを予め知っていたトランクイリタティスは赤い槍の爆撃をアイコに向けて乱射した。
アンギスも痛む体をおして攻撃を繰り返した。
ドドドドオオオオオ!!!!
「倒し切るまで止まるな!」
トランクイリタティスが叫んだ。
しかし、アンギスが急に攻撃の手を止めた。
「何をして……!!」
アンギスに目を向けたトランクイリタティスが絶句した。
アンギスは巨大な岩と土で出来た龍にその身を咬み砕かれていた。
「これは!! 宝条!!」
トランクイリタティスが気を取られた瞬間。
ドオン!!
トランクイリタティスの体にも土龍の牙が突き刺さった。
「ぐおおおおお!!!」
「ま、全く……、こんなに手酷くやられたのは初めてかも……」
燃え上がる爆炎からアイコが姿を現した。
魔宝具の『プライウェン』はボロボロで、アイコの血でかなり汚れてしまっている。
アイコは震える腕を上げて魔素を集中した。
「四龍来臨」
天空、地上、虚空から何十という龍の形をしたアイコの錬金術の結晶が出現した。
土龍は岩盤から、水龍は大気、地上から、風龍は気圧から、火龍は空気中からそれぞれ作り上げられたものであり、グールにとって暴虐を尽くす怪物だ。
それが一斉にトランクイリタティスとアンギスへと殺到した。
ズドドドオオオオオウウウンンン!!!!!
大気が震え、地上がビリビリと唸りを上げた。
しかしアイコは攻撃が決まる一瞬前、トランクイリタティスが瀕死のアンギスを掴み、まるで栓の抜けた水のように手のひらに吸い込むのが見えた。
(何をしているの……?)
アイコは怪訝に思ったが、数十の龍は間違いなく人型グールに直撃した。
「が、ががぐぐ……うう!!」
土埃の中で、トランクイリタティスは下半身と右腕を肩から失いながらも、未だ宙に浮かんでいた。
女性形のトランクイリタティスはその衣服も全て焼け落ちており、乳房もあらわになっていた。
「驚いた……、まさかもう1体の人型グールを吸収して防御したの?」
アイコの言葉の通り、トランクイリタティスはアンギスの全魔素を吸い込み、その全てと自身の魔素を防御に集中した。
そこまでしてぎりぎりアイコの攻撃を耐えたのだ。
「ほ、宝条アイコ……、勝負は持ち越しだ……」
トランクイリタティスは何とか言葉を絞り出した。
「何を言っているの? まさか次があるとでも……」
アイコは喋りながら、離れた場所に何か異質な存在が現れたことを感じ取った。
「これは……、何?」
今まで感じたことのない存在感だ。
人型グールと似ているが、もっと禍々しい。
どうやら東軍の戦闘が行われている辺りからだ。
アイコが視線を外した瞬間。
トランクイリタティスは一瞬で姿を消した。
「……逃げられたか」
アイコはやや歯噛みしたが、直ぐに治癒術を展開し、新しく現れた存在を警戒した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
西軍の総指揮官、宝条アイコが2体の人型グールを撃退したように、東軍の総指揮官である阿倍野リュウセイも2体の人型グールを相手取っていた。
「どうした! 阿倍野リュウセイ!」
人型グールのディリップはトランクイリタティスと同じ作戦で阿倍野と戦っており、もう1体の人型グール、マラルディが構築した結界の中で優勢を保ち戦闘を続けていた。
阿倍野とディリップは高速でその肉体をぶつけ合っていたが、その軍配はディリップに上がっていた。
「思った以上だ。単純な肉体のぶつかり合いじゃ勝てそうにないな!」
「ならばどうすると言うのだ!?」
「そんなの術を使うまでだよ」
阿倍野はそう言って両手を素早く組み合わせた。
「六道火遁、無明焦魔」
ドオオウウアアアア!!
ディリップの周りには半透明の白い揺らめきが生まれ、生き物のようにその体に纏わりついた。
「グオオオオ!!!」
これは阿倍野の使う忍術の奥義であり、以前ディリップに結界によって封じられた技だった。
今阿倍野を取り囲んでいる結界にも阿倍野の忍術を作用させない効果があったが、それを無視してこの忍術は発動していた。
「ガアアア!! 何故だ!! 術は使えんはずだ!!」
ディリップは身を焦がしながらも何とかその炎を消し飛ばした。
「同じ手を食うわけないだろう。六道水遁、無明溶魔」
ジャアアオオオオオ!!
阿倍野が新たに発動した忍術により、大量の透明な水が辺りを覆った。
まるで無重力かのように宙をふわふわと浮かび、ディリップへと近づき浴びせかけると激しい蒸気を上げてその体にダメージを与えた。
「グウウオオオ!!!」
ディリップの叫びが木霊した。
そして流れる血を撒き散らしながら阿倍野へと突進した。
ドドドオン!!
「ぐうっ!!」
阿倍野はディリップの拳の連撃を防ぎきれずに何発か直撃を受けてしまった。
確かに忍術を使った攻撃はディリップに有効だが、単純な肉弾戦となると阿倍野の旗色は悪い。
阿倍野がディリップへ忍術を仕掛けようとした瞬間、四方から長く伸びた腕が阿倍野の肢体をがっしりと掴んだ。
「!?」
もう1体の人型グール、マラルディが何と数百メートル体を伸ばして阿倍野を押えつけたのだ。
ドドドッオオオオオ!!!
ここぞとばかりにディリップの連撃が続く。
阿倍野はマラルディの拘束を解こうともがくが、なかなか上手くいかない。
「はははあ! こんな簡単な手で決着がつくとはな!!」
ディリップが高笑いを上げた。
「決着は……! まだ着いていない! 六道木遁!! 無間縛魔!!!」
ドオオオンンン!!
阿倍野が術を発動すると、ディリップたちの展開した結界の中に大量の樹木が生まれた。
凄まじい勢いで伸びたその幹はしかしディリップではなく、結界の端にいるマラルディ、そしてその結界の要となっている赤い光の塊に纏わりついた。
「なに!!?」
マラルディが驚きの声を上げつつ、阿倍野の術に抵抗した。
「もう一発だ。六道草遁、無間消魔!」
「な、何だこれは!?」
阿倍野が放った術にディリップが戸惑いの声を出した。
阿倍野の術は先程発生した樹木のその巨大な幹に草や苔を大量に発生させていた。
グールの血界内は緑々しい色に姿を変えていた。
そしてその草遁の術の効果はグールたちの弱体化、阿倍野を含む人類の強化、回復だった。
「うおおおお!!!」
マラルディの苦しむ声が響いた。
木遁という術はグールを捕まえて動きを止める事ができる。本質はグールの停止であり、下級グールはその樹木に飲み込まれ阿倍野の糧となる。
草遁で力が弱まったマラルディは初撃の木遁への抵抗力が無くなってきているのだ。
「マラルディ!!」
叫ぶディリップの前に阿倍野が立ちはだかった。
「おっと、助けには行かせない! 六道土遁、無明潰魔!!」
ドオオオウウウ!!!
空中に展開するグールの結界に向かって、地上からビルサイズの岩石が大量に飛び上がり、激しくディリップたちを叩き付けた。
轟音が響く中で、阿倍野はグールの結界の要がいくつか感知できなくなりその効力が弱まったことを感じた。
「さ、さすがに大技を連発しすぎたか……」
阿倍野は自分の膝が震え出してきている事に気がついた。
そして晴れてきた土煙の向こうに、憎悪に顔を歪めるディリップがいた。
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