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CHAPTER Ⅴ
第243話 新キョウト都市奪還戦争 Ⅱ-⑧ 東軍
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ワイズ軍、西軍が特級グールと激しい戦闘を繰り広げているが、ここ東軍の戦地でも同様に人型グールら特級グールとの戦いが始まっていた。
東軍の最高指揮官である阿倍野リュウセイもすでに人型グールを倒すべく最前線へと出向いていた。
「これはこれはお熱い歓迎だね」
阿倍野が目にしたのは2体の人型グール、さらにSS級グールが6体だ。
「相変わらずの減らず口だな。阿倍野リュウセイ」
人型グールの1体の声を聞いた阿倍野が驚きの表情を浮かべた。
「ん? その声……、お前もしかして、ディリップか?」
阿倍野に呼びかけられた人型グールは面倒そうに答えた。
「ああ、そうだ」
「あらあら、グールは若返ることもできるのか。うらやましいね」
阿倍野の軽口を聞いたディリップはもううんざりだという顔をした。
「もう良い。マラルディ、行くぞ」
「分かっている」
マラルディと呼ばれたもう1体の人型グールは全身に力を込めたかと思うと、その姿が6つに分かれた。
「おお? 分身か」
だが阿倍野はまるで動じていない。
6体のSS級グールが弾かれたように阿倍野たちから距離を取ると、その背光陣が激しく発光、回転を始めた。
そして分身したマラルディがその6体のグールのそれぞれの側につき、おもむろに頭を掴んだ。
SS級グールたちは咆哮を上げ、その姿を赤く光る塊へと姿を変えた。
さらにその赤い光の点から光線の様に細長い光が伸び、それぞれが繋がり鳥かごのように阿倍野たちを包んだ。
「なるほど、オレ用の結界というわけか」
阿倍野の言う通り、これは西軍でアイコに対しても使われているオリジンワクチン保有者用の結界だ。
「この中ではお前は実力を出し切れんぞ」
ディリップは赤いオーラを漲らせて阿倍野を威嚇した。
「確かに……、オレの為にご苦労さん。だが、オレも負ける訳にはいかないからね」
阿倍野は体の調子を確かめながら呟いた。
「ふん、ならばどうする?」
「魔宝具を使うまでだよ」
「なに?」
「『ロンゴミアド』だ」
阿倍野一体どこから取り出したのか、小脇に1メートル程の細い小槍を抱えていた。
それを握り力を込めただけで阿倍野の存在感が強くなった。
その様子を見ていたディリップも少し驚いたようだが、口元には笑みが浮かんでいた。
「貴様……、やはりその呪物を持っていたのか。だがしかしそれで覆る状況では最早ないぞ。勝つのは儂よ」
阿倍野はディリップの言葉にひとつ笑い声を返した。
「はは。呪物? 魔宝具のことか? まだこれで終わりじゃないよ。『ロンゴミアド』、開放」
カッ!!
阿倍野の号令によって、小槍だった『ロンゴミアド』は光を放ちながら細長く伸び始め、阿倍野の身体に蔦のように巻き付いた。
両手両足胸を多い、ちょっとした甲冑のように姿を変えた。
「貴様……!?」
ディリップは阿倍野の気配が明らかに変わったことに気付いた。
間違いなくさっきよりも強くなっている。
「ディリップ。お前とは何かと因縁があるな。この場で始末をつけるつもりだが……、この結界の中だとさすがに簡単には勝てないかもしれないな」
「何だ? 戦う前から言い訳か?」
「いいや。オレはこの生命を賭してお前を倒すと言っておく。お前はオレが殺す」
ディリップはその言葉と共にビリビリと阿倍野の気迫を感じた。
「できるものならやってみろ、害虫が」
その言葉を最後に赤と白、2つの光が激しくぶつかり合った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
東軍の精鋭たちも西軍、ワイズ軍と同じく特級グールの群れと戦いを繰り広げていた。
ここに攻め入った特級グールはBSS級グール5体、SS級グールが6体だ。
はっきり言ってこのグールたちは東軍の精鋭たちにとって脅威となるような数ではない。
東軍隊員最強の二宮、同じくS級部隊班長のセイヤ、佐々木セイ。さらに新センダイ都市のギルドマスター、伊達。副長の最上、相馬はそれぞれが1人でBSS級グールを討伐可能な実力者だ。
それに続く欄島をはじめとした班員たちも特級グールとの戦闘経験が豊富なメンバーであり、危なげもなく敵の数を減らしていた。
「もうひと息だ」
二宮はそう言って魔宝具の『クラウソラス』を振るいながらBSS級グールの1体に止めを刺した。
セイも同じく魔宝具の『ガジャルグ』でSS級グールの1体を撃ち抜いた。
敵も絶え間なく隊員たちに攻撃を放つが、佐々木ナナの持つ魔宝具『カフヴァール』によって構築された結界のお陰で大してダメージは与えられない。
伊達も剣を振るい敵を倒していたが、佐々木セイの様子がおかしいことに気付いた。
「おい、セイ! なにボーっとしてんだ!?」
セイは伊達の呼び掛けにも反応を示さない。
「なんだ?」
「どうした、アベル?」
副長の最上と相馬もセイの様子を訝しんだ。
「な、なんだ? これは?」
セイがそう言うと、特級グールたちが大きく後ろに飛び退いた。
「何をしている?」
セイヤは不利を悟ったグールが撤退したかとも思ったが、飛び退いた場所で留まっているのを見て疑問を感じた。
「セイヤ! こっちへ戻れ!」
セイが焦ったようにセイヤに叫び掛けている。
「セイさん? グールたちが何をしてるのか分かるの?」
ユウナも隣にいるアオイも剣を下げてグールたちを見つめていた。
「こ、これは……?」
ナナも額に汗を浮かべている。
「どうしたと言うんだ?」
二宮とサオリも佐々木班のそばに集まった。
ドオン!!
生き残って不審な動きをしていた特級グールはBSS級が2体、SS級2体だ。
そのグールたちに落雷のような赤い光が突き刺さり、その4体のグールで囲むように黒い膜の様なものが出来上がった。
そして、その膜を破るようにひとつのぼんやりとした人影が現れた。
「ふうう……」
その人影がはっきりと形を成すと同時に周囲のグールが蒸気を上げながら土塊のように崩れ去った。
「ぐ、グールなのか?」
セイヤが困惑の声を上げた。
姿を現したのは、30過ぎほどの屈強そうな男だ。
赤黒い軽甲冑のような中世ヨーロッパを彷彿とさせる格好をしている。
髪も黒いというよりは深い真紅。
瞳は赤く輝いていた。
「みんな! ひ、人型グールです! でも、気配が! 存在感が違う!!」
セイの叫びで全員が理解した。
これは新たな敵の出現だった。
「ここがそうか……」
突如現れた男は小さくそう呟いた。
そしてジロリの東軍の精鋭たちに目を向けた。
「お、お前は何だ!?」
最上が剣を構えて声を上げた。
彼も相手がただの人型グールではないことに気付いていた。
「あれがそうか……、ベルフェゴール殿のせいだが、逆に猊下のお陰だとも言えるな……」
男は最上の言葉には全く反応していなかった。
「ベルフェゴール? そ、それって……」
セイが男の呟きに反応した。
そのセイをちらりと見た人型グールが隊員たちに体を向けた。
「人間ども。喜べ、オレはヴィータ。気高きパトリシウスの一角。大陸より、マモン殿の命を受け人間の殲滅に参じた。貴様らのつまらん進撃も今日で終わりだ」
「!!!」
マモン。
それは先日アイコたちが語ったグールの王の名だ。
東軍の精鋭たちは息を飲んだ。
どうやらグールの王ではないが、明らかに普通ではない。
人型グールの中でも更に上位の存在なのだろう。
そう納得するほどの異質さ、存在感がその男、ヴィータにはあった。
「お前たちも欲張らなければまだ長生きできたかもな。しかし、強欲だったな」
青年が言葉を言い終わった瞬間、右手を振るった。
ヴィータと隊員たちの間には充分な距離が離れている。
しかし隊員たちの間に血しぶきが上がった。
「ご、ゴウタ!!?」
「嘘だろ!?」
何の前触れもなく、最上の首から上が無くなっていた。
相馬と伊達が激しく動揺しているが、二宮は剣を構えて魔素を練っていた。
「『クラウソラス』、開放!!」
ドン!!
二宮の持つ光の双剣が輝きを増し、柄の尻から絹の様な帯が何十本も伸びた。
光の刀身も輝きを増したが、その見た目は白色の刃と化した。さらに二宮の体からも鈍い輝きが放たれ、その力が一段上に上がった。
「佐々木! ナナ! 2人も魔宝具を開放しろ! サオリ! ナナで結界を作れ! 全員目を逸らすな! 集中しろ!」
「へえ、魔宝具。そんなものもあるのか。だけどな」
ズズズウウウンンン!!!
「がっは!」
「ごふっ!」
セイもナナも魔宝具を開放する間も、結界を構築する間もなく、何かに体を押し潰された。
ここにいるほぼ全員が一度に地に伏した。
「うおおお!!」
「ああああ!!」
しかし、二宮と伊達だけが未だ両足で地面を掴んでいた。
二宮は魔宝具の開放能力の為に、伊達は素早く魔素を練り魔技を展開していた為にこの攻撃に耐えることが出来ていた。
「やるな。頑張れ頑張れ」
ドドオオオンンン!!
ヴィータの軽い一言で二宮と伊達は何かにぶつかり吹き飛ばされた。
「に、二宮さん!!」
「アベル!!」
サオリと相馬の悲鳴が響いた。
「む? なんだこれは?」
急にヴィータがそう言うと、隊員たちを押しつぶそうとする重圧が弱まった。
これはナナと吻野の展開した結界の効力だった。
「かはっ!」
「ぐう!!」
セイヤや欄島、セイの3人がいち早く立ち上がり、攻撃を仕掛けようと魔素を練った。
「み、みんなは下がるんだ! SS級未満の階級じゃあどうしようもない!!」
セイヤの叫びにサオリやナナたちがたじろいだ。
「で、でも!」
「サオリ、セイヤの言う事を聞いて! あなた達は私と一緒に援術を! 早くしないとみんな死んでしまう!!」
吻野の声を聞いてサオリたちは結界や治癒術を展開した。
しかし千城だけは違う行動を取った。
「うおお! 二重究極飛拳!!」
「せ、千城さん!?」
セイも突然の事に困惑していた。
バチイイン!!
しかし千城の攻撃はマモンには届かず、その目の前でかき消えた。
ドオオオンン!!
そして千城が吹き飛んだ。
いつの間にか、マモンの前にはもうひとり別の影が現れており、その影が千城に攻撃を仕掛けていたのだ。
「な、何だ? どうなっている?」
セイヤも次々と起こる事態に戸惑っている。
「お前はガナウだな」
「いかにも、ヴィータ殿」
ヴィータに問いかけられたのは、つい先程までワイズ軍の睦月と激戦を繰り広げていたガナウだった。
ガナウは恭しくヴィータに頭を下げた。
「しかし、傷だらけではないか」
ガナウは睦月との戦いで瀕死の状態であり、右手も失っていた。
「……別の人間と戦っていたのでな。それよりもなぜこんな場所に?」
「ここに転移したのはベルフェゴール殿の影響のようだな。問題があるのか?」
「いや、何もないだろう。人間どもを滅ぼすことに変わりはない」
2体のグールは会話が終わると、すでに重傷を受けた隊員たちに冷たい視線を向けた。
隊員たちに戦慄が走るが、グールと隊員たちとのその間にひとつの影がふわりと舞い降りた。
「何だ、お前は?」
ガナウが問いかけた。
「私はワイズ総統、佐々木ユキだ」
東軍の最高指揮官である阿倍野リュウセイもすでに人型グールを倒すべく最前線へと出向いていた。
「これはこれはお熱い歓迎だね」
阿倍野が目にしたのは2体の人型グール、さらにSS級グールが6体だ。
「相変わらずの減らず口だな。阿倍野リュウセイ」
人型グールの1体の声を聞いた阿倍野が驚きの表情を浮かべた。
「ん? その声……、お前もしかして、ディリップか?」
阿倍野に呼びかけられた人型グールは面倒そうに答えた。
「ああ、そうだ」
「あらあら、グールは若返ることもできるのか。うらやましいね」
阿倍野の軽口を聞いたディリップはもううんざりだという顔をした。
「もう良い。マラルディ、行くぞ」
「分かっている」
マラルディと呼ばれたもう1体の人型グールは全身に力を込めたかと思うと、その姿が6つに分かれた。
「おお? 分身か」
だが阿倍野はまるで動じていない。
6体のSS級グールが弾かれたように阿倍野たちから距離を取ると、その背光陣が激しく発光、回転を始めた。
そして分身したマラルディがその6体のグールのそれぞれの側につき、おもむろに頭を掴んだ。
SS級グールたちは咆哮を上げ、その姿を赤く光る塊へと姿を変えた。
さらにその赤い光の点から光線の様に細長い光が伸び、それぞれが繋がり鳥かごのように阿倍野たちを包んだ。
「なるほど、オレ用の結界というわけか」
阿倍野の言う通り、これは西軍でアイコに対しても使われているオリジンワクチン保有者用の結界だ。
「この中ではお前は実力を出し切れんぞ」
ディリップは赤いオーラを漲らせて阿倍野を威嚇した。
「確かに……、オレの為にご苦労さん。だが、オレも負ける訳にはいかないからね」
阿倍野は体の調子を確かめながら呟いた。
「ふん、ならばどうする?」
「魔宝具を使うまでだよ」
「なに?」
「『ロンゴミアド』だ」
阿倍野一体どこから取り出したのか、小脇に1メートル程の細い小槍を抱えていた。
それを握り力を込めただけで阿倍野の存在感が強くなった。
その様子を見ていたディリップも少し驚いたようだが、口元には笑みが浮かんでいた。
「貴様……、やはりその呪物を持っていたのか。だがしかしそれで覆る状況では最早ないぞ。勝つのは儂よ」
阿倍野はディリップの言葉にひとつ笑い声を返した。
「はは。呪物? 魔宝具のことか? まだこれで終わりじゃないよ。『ロンゴミアド』、開放」
カッ!!
阿倍野の号令によって、小槍だった『ロンゴミアド』は光を放ちながら細長く伸び始め、阿倍野の身体に蔦のように巻き付いた。
両手両足胸を多い、ちょっとした甲冑のように姿を変えた。
「貴様……!?」
ディリップは阿倍野の気配が明らかに変わったことに気付いた。
間違いなくさっきよりも強くなっている。
「ディリップ。お前とは何かと因縁があるな。この場で始末をつけるつもりだが……、この結界の中だとさすがに簡単には勝てないかもしれないな」
「何だ? 戦う前から言い訳か?」
「いいや。オレはこの生命を賭してお前を倒すと言っておく。お前はオレが殺す」
ディリップはその言葉と共にビリビリと阿倍野の気迫を感じた。
「できるものならやってみろ、害虫が」
その言葉を最後に赤と白、2つの光が激しくぶつかり合った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
東軍の精鋭たちも西軍、ワイズ軍と同じく特級グールの群れと戦いを繰り広げていた。
ここに攻め入った特級グールはBSS級グール5体、SS級グールが6体だ。
はっきり言ってこのグールたちは東軍の精鋭たちにとって脅威となるような数ではない。
東軍隊員最強の二宮、同じくS級部隊班長のセイヤ、佐々木セイ。さらに新センダイ都市のギルドマスター、伊達。副長の最上、相馬はそれぞれが1人でBSS級グールを討伐可能な実力者だ。
それに続く欄島をはじめとした班員たちも特級グールとの戦闘経験が豊富なメンバーであり、危なげもなく敵の数を減らしていた。
「もうひと息だ」
二宮はそう言って魔宝具の『クラウソラス』を振るいながらBSS級グールの1体に止めを刺した。
セイも同じく魔宝具の『ガジャルグ』でSS級グールの1体を撃ち抜いた。
敵も絶え間なく隊員たちに攻撃を放つが、佐々木ナナの持つ魔宝具『カフヴァール』によって構築された結界のお陰で大してダメージは与えられない。
伊達も剣を振るい敵を倒していたが、佐々木セイの様子がおかしいことに気付いた。
「おい、セイ! なにボーっとしてんだ!?」
セイは伊達の呼び掛けにも反応を示さない。
「なんだ?」
「どうした、アベル?」
副長の最上と相馬もセイの様子を訝しんだ。
「な、なんだ? これは?」
セイがそう言うと、特級グールたちが大きく後ろに飛び退いた。
「何をしている?」
セイヤは不利を悟ったグールが撤退したかとも思ったが、飛び退いた場所で留まっているのを見て疑問を感じた。
「セイヤ! こっちへ戻れ!」
セイが焦ったようにセイヤに叫び掛けている。
「セイさん? グールたちが何をしてるのか分かるの?」
ユウナも隣にいるアオイも剣を下げてグールたちを見つめていた。
「こ、これは……?」
ナナも額に汗を浮かべている。
「どうしたと言うんだ?」
二宮とサオリも佐々木班のそばに集まった。
ドオン!!
生き残って不審な動きをしていた特級グールはBSS級が2体、SS級2体だ。
そのグールたちに落雷のような赤い光が突き刺さり、その4体のグールで囲むように黒い膜の様なものが出来上がった。
そして、その膜を破るようにひとつのぼんやりとした人影が現れた。
「ふうう……」
その人影がはっきりと形を成すと同時に周囲のグールが蒸気を上げながら土塊のように崩れ去った。
「ぐ、グールなのか?」
セイヤが困惑の声を上げた。
姿を現したのは、30過ぎほどの屈強そうな男だ。
赤黒い軽甲冑のような中世ヨーロッパを彷彿とさせる格好をしている。
髪も黒いというよりは深い真紅。
瞳は赤く輝いていた。
「みんな! ひ、人型グールです! でも、気配が! 存在感が違う!!」
セイの叫びで全員が理解した。
これは新たな敵の出現だった。
「ここがそうか……」
突如現れた男は小さくそう呟いた。
そしてジロリの東軍の精鋭たちに目を向けた。
「お、お前は何だ!?」
最上が剣を構えて声を上げた。
彼も相手がただの人型グールではないことに気付いていた。
「あれがそうか……、ベルフェゴール殿のせいだが、逆に猊下のお陰だとも言えるな……」
男は最上の言葉には全く反応していなかった。
「ベルフェゴール? そ、それって……」
セイが男の呟きに反応した。
そのセイをちらりと見た人型グールが隊員たちに体を向けた。
「人間ども。喜べ、オレはヴィータ。気高きパトリシウスの一角。大陸より、マモン殿の命を受け人間の殲滅に参じた。貴様らのつまらん進撃も今日で終わりだ」
「!!!」
マモン。
それは先日アイコたちが語ったグールの王の名だ。
東軍の精鋭たちは息を飲んだ。
どうやらグールの王ではないが、明らかに普通ではない。
人型グールの中でも更に上位の存在なのだろう。
そう納得するほどの異質さ、存在感がその男、ヴィータにはあった。
「お前たちも欲張らなければまだ長生きできたかもな。しかし、強欲だったな」
青年が言葉を言い終わった瞬間、右手を振るった。
ヴィータと隊員たちの間には充分な距離が離れている。
しかし隊員たちの間に血しぶきが上がった。
「ご、ゴウタ!!?」
「嘘だろ!?」
何の前触れもなく、最上の首から上が無くなっていた。
相馬と伊達が激しく動揺しているが、二宮は剣を構えて魔素を練っていた。
「『クラウソラス』、開放!!」
ドン!!
二宮の持つ光の双剣が輝きを増し、柄の尻から絹の様な帯が何十本も伸びた。
光の刀身も輝きを増したが、その見た目は白色の刃と化した。さらに二宮の体からも鈍い輝きが放たれ、その力が一段上に上がった。
「佐々木! ナナ! 2人も魔宝具を開放しろ! サオリ! ナナで結界を作れ! 全員目を逸らすな! 集中しろ!」
「へえ、魔宝具。そんなものもあるのか。だけどな」
ズズズウウウンンン!!!
「がっは!」
「ごふっ!」
セイもナナも魔宝具を開放する間も、結界を構築する間もなく、何かに体を押し潰された。
ここにいるほぼ全員が一度に地に伏した。
「うおおお!!」
「ああああ!!」
しかし、二宮と伊達だけが未だ両足で地面を掴んでいた。
二宮は魔宝具の開放能力の為に、伊達は素早く魔素を練り魔技を展開していた為にこの攻撃に耐えることが出来ていた。
「やるな。頑張れ頑張れ」
ドドオオオンンン!!
ヴィータの軽い一言で二宮と伊達は何かにぶつかり吹き飛ばされた。
「に、二宮さん!!」
「アベル!!」
サオリと相馬の悲鳴が響いた。
「む? なんだこれは?」
急にヴィータがそう言うと、隊員たちを押しつぶそうとする重圧が弱まった。
これはナナと吻野の展開した結界の効力だった。
「かはっ!」
「ぐう!!」
セイヤや欄島、セイの3人がいち早く立ち上がり、攻撃を仕掛けようと魔素を練った。
「み、みんなは下がるんだ! SS級未満の階級じゃあどうしようもない!!」
セイヤの叫びにサオリやナナたちがたじろいだ。
「で、でも!」
「サオリ、セイヤの言う事を聞いて! あなた達は私と一緒に援術を! 早くしないとみんな死んでしまう!!」
吻野の声を聞いてサオリたちは結界や治癒術を展開した。
しかし千城だけは違う行動を取った。
「うおお! 二重究極飛拳!!」
「せ、千城さん!?」
セイも突然の事に困惑していた。
バチイイン!!
しかし千城の攻撃はマモンには届かず、その目の前でかき消えた。
ドオオオンン!!
そして千城が吹き飛んだ。
いつの間にか、マモンの前にはもうひとり別の影が現れており、その影が千城に攻撃を仕掛けていたのだ。
「な、何だ? どうなっている?」
セイヤも次々と起こる事態に戸惑っている。
「お前はガナウだな」
「いかにも、ヴィータ殿」
ヴィータに問いかけられたのは、つい先程までワイズ軍の睦月と激戦を繰り広げていたガナウだった。
ガナウは恭しくヴィータに頭を下げた。
「しかし、傷だらけではないか」
ガナウは睦月との戦いで瀕死の状態であり、右手も失っていた。
「……別の人間と戦っていたのでな。それよりもなぜこんな場所に?」
「ここに転移したのはベルフェゴール殿の影響のようだな。問題があるのか?」
「いや、何もないだろう。人間どもを滅ぼすことに変わりはない」
2体のグールは会話が終わると、すでに重傷を受けた隊員たちに冷たい視線を向けた。
隊員たちに戦慄が走るが、グールと隊員たちとのその間にひとつの影がふわりと舞い降りた。
「何だ、お前は?」
ガナウが問いかけた。
「私はワイズ総統、佐々木ユキだ」
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