グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅴ

第241話 新キョウト都市奪還戦争 Ⅱ-⑥ 決着

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「おい! フタバ!!」

 弥生は1人で敵に突っ込んでいくフタバに声を掛けだ。だがすでに彼女の姿も見えない。

「あいつ! 勝手すぎんだろ!!」

 弥生はそう愚痴るが、フタバはすでに何体もの特級グールを討伐しており、戦果はかなりのものとなっていた。これでは弥生も認めざるを得ない。

 弥生を始めとした月名将校たちもそれなりに敵を殲滅しており、この場は何とか互角の戦局を維持していた。

 残りはBSS級グール4体、SS級8体だ。
 その内なんと5体はフタバが1人で相手にしており、弥生たちの前にはBSS級が2体、SS級が5体いた。

ガアアア!!

 グールたちが咆哮を上げてこちらへ光の弾丸を放った。
 
「ぐう!!」

 弥生は何とか刀でその攻撃を撃ち払った。

「お前ら! 意地でSS級共を倒せ! オレがBSS級を押さえる!!」

 弥生もそう言うと、BSS級のいる場所へと突っ込んで行った。

「あいつ! 自分も勝手なことばっかり言いやがって!」

 激しく弥生をなじるのは水無月サヤカだ。
 彼女はセーラー服姿で見た目は可憐な女の子だが、その言動は獰猛とまで言える。

「しょうがねえだろ、サヤカ! どっちにしろ結果を出さねえと後はがヤベえぞ!」

「分かってる!」

 同僚である皐月アツロウが水無月をたしなめた。

「私たちも気合い入れてくぞ!」
「問題ないわよ!」

 神無月トオリ、文月ユズハも近くのグールへと攻撃を仕掛けた。
 
 さらに葉月ハイル、長月ミロクもSS級グールと激しく接近戦を演じていた。

 月名将校6人に対してSS級グールが5体。
 激しい激戦となったがすんでのところで将校たちはグールを討伐しきった。
 しかしBSS級グール2体に向かった弥生、さらに5体もの特級グールと戦っているフタバの元へ駆けつけるには彼らの消耗は激しすぎた。

「ジュウベエとフタバは……!?」
「ま、まずは回復しないと足手まといになるわよ、ミロク」

 長月と文月は言葉を交わしながら視線を戦塵を上げ続ける地上へと向けた。
 


 弥生は刀の切っ先が見えないほどの速度でBSS級グール2体に攻撃を絶え間なく続けていた。
 だが戦況は劣勢。
 弥生はもういつやられてもおかしくないほどに押されていた。

「うおおお!!」

 BSS級グールの三重の背光陣の内、2つは2体ともに砕いた。しかしそこからが攻めきれていない。
 
 弥生の手数が足りない。

 このままでは負ける。どうすればいいか弥生は思考加速能力を以ってしても頭が擦り切れるほどに思慮を重ねていた。
 そしてひとつだけ手数を増やす手段を思いついた。
 それはいちかばちかで失敗したら多分死ぬ。
 
 しかし弥生は覚悟を決めた。
 それをしなければ新キョウト都市の奪還はならないと考えたからだ。

ドオオンンンン!!

 弥生は自分を包む力場装甲の白糸縅鎧しろいとおどしよろいのその全てを剥がし、その魔素をグールへと攻撃に向けた。
 
 そしてその隙に大きく距離を取った。

「やるしかねえ! 六六式爾形象ろくろくしきじけいしょう紺糸縅鎧こんいとおどしよろい!! 絡繰二頭からくりふたがしら!!!」

 弥生は両脇に青色の人型の力場装甲を2つ作り上げた。
 これは桜海の式神にヒントを得た、半自律式の攻撃人形だ。
 弥生は今この場でこの術を作り上げたのだ。

「行け!!」

 2体の操り人形がグールへ攻撃を仕掛ける間に、弥生は再度自身に力場装甲を展開した。
 弥生はもう膝が笑っていてうまく力が入らない。
 だが、戦うしかない。

「オオオオオォォォォオオオオ!!!」

 弥生は激しい攻防の末に、2体のBSS級グールを1人で倒しきった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 睦月は爆炎の中の人型グール、ガナウが倒れたことを願いながら霞む意識を強く保った。

 しかし、叫び声と共にガナウがその姿を現した。

「がうう……! に、人間が……!!」

 ガナウは片手を失いながらもなんとか睦月の攻撃を耐えていた。

「だが……、やはり儂の勝利のようだの!」

 ガナウは睦月へと飛びかかった。
 もはや赤い衣はかなり薄まっている。

「うおおおおお!!」

 対する睦月も『モラルタ』にありったけの力を込めて、ガナウを直接迎え撃った。

ドドドドドトド!!!

 単純な力と力の打ち合いが続き、正にあと一撃。それで決着が着こうという時についに睦月は限界を迎えた。
 開放状態の『モラルタ』が元に戻り、一気に全身の力が抜けた。

「終わりだなあ!! 睦月クラウド!!」

 ガナウが腕を振り上げたその時、睦月が震える腕で『モラルタ』を前に向けた。

「お、終わってなどいない……、舞い狂え、黒徒花くろがねあだばな

 睦月は激しい剣戟を演じながら、至近距離に武具を展開させていた。
 それを背後にしていたガナウはその存在に気付いていなかった。

ドドドオオオオオ!!!

 睦月は自分ごとガナウを鉄の雨の中へと飲み込ませた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 人型グールのもう1体。
 エサムは楢地の激しい爆撃を赤い結界を限界まで放出して耐えきっていた。

「ぐくく……、これは効いたわい」

「やっぱり、まだ生きてるわよね……」
「すぐに追い打ちをかけるぞ、クルミ」

 楢地と桜海はすでに追撃の準備を始めていたが、エサムの全身から礫状の無数の塊が飛び出した。

「ちっ!」

 桐生は桜海の前に立ち、敵の攻撃を受け止めた。
 三宗術の最高峰とされる白色の力場装甲があるとは言え、いくつかの礫は桐生の体へと突き刺さり、爆裂した。

ドドドオオン!!

「あぐうっ!!」

「ジン!!」

 桜海が悲鳴を上げるが、桐生は手で大丈夫だと示した。

「構うな! け、結界を崩すなよ……!」

 桐生の言う通り、桜海の樹木の結界が無くなれば桐生たちに勝ち目はない。
 今の攻撃も結界の外であればもう桐生は生きてはいないだろう。

「分かってる!」

 桜海はそう言って、結界の中に多数の式神を放った。
 動物を象ったその式神たちも強化はされているが、いかんせん相手がエサムでは時間稼ぎ程度にしかならない。

「つまらん真似を。今度はどうするのだ?」

 エサムも桐生、桜海が何かを狙って時間稼ぎをしているのは読めている。

「オレたちの狙いはこれだ!」

 桐生が桜海の式神たちに換装魔素を大量にぶつけると、その式神の姿が変化し始めた。

「ほう!」

 そう言っている間にもエサムは式神たちを押し潰し、消し続けている。

 桐生の強化した式神は姿をまるで鬼のような見た目の筋骨隆々の人型へと変えた。

「行け!」

 桜海の号令で数十の鬼型の式神がエサムへと向かうが、それでもまだ決め手には欠けていた。
 鬼型だけではエサムの相手にはなりきれていなかったのだ。

「どこかに爆弾使いが隠れているな? こいつらを爆弾に変えるつもりか?」

 エサムの言葉に桐生と桜海は冷や汗を流した。
 確かに楢地は結界の外で鬼型を爆弾に変える術を展開しているところだった。

「分かっていても防げるか!!」

 存在がバレた楢地が結界の中へ飛び込みつつ換装魔素を展開した。

「爆ぜろ!!」

ドドオンンン!!!

 しかしエサムは自身の魔素を展開した赤い衣を身代わりに爆炎から飛び出した。

「!!」

 驚く桐生たちを尻目にエサムは楢地、桜海を殴りつけた。

「うぐっ!」
「ああ!」

「貴様ら、儂の魔素を追撃しておったな。衣を脱げばこの通りよ! 浅いのう!」

 吹き飛ばされた桐生、桜海に続いて楢地へとエサムが迫る中、楢地は血に染まった右手を前に向けた。

「オレの爆弾はもうひとつある! 爆ぜろ!!」

ドオオオオオンンン!!!!

 楢地の号令で、桜海が生み出し、桐生が強化した結界そのものが、今までの攻撃の中で最も激しく爆発した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ガアッ! ゴフッ!」

 人型グールのガナウは激しく血を流しながら睦月の存在を探した。
 自分ごと攻撃を直撃させた睦月はもうバラバラになっているはずだが、その死の確認だけはしなくてはならない。

「ま、まだ生きているのか」

 聞こえた声にガナウが振り返ると、そこには睦月がいた。

「き、貴様!? なぜ生きている!」

「オレたちの術は自分自身には無効になる」

 睦月の言葉を聞いて驚きに絶句するガナウだが、意を決した様に魔素を練り始めた。

「なるほど、ならば仕方ない。殴り殺すとしよう」

 ギャオ!

 睦月はガナウに瀕死の重傷を与えたが、睦月も魔宝具を開放出来ない程にまで追い込まれている。

「望むところ!」

 再び激しく打ち合いを演じる2人はやがて、力を使い切り地上へと落下した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ジン! クルミ!」

 楢地が吹き飛ばされた桐生と桜海の身を案じたが、感知する限りは2人とも何とか無事そうだ。
 2人はすぐに楢地の方へと飛んで来た。

「ソラ! あいつは!?」

「さあな。もう死んでてほしいけどな」

「……いや、どうやらまだ生きてるわね」

 桐生の問いには桜海が答えた。
 爆炎の中に人影が見えたのだ。

「くそ!」

「待ってジン!」

 魔素を練り始めた桐生たちの前に突如ひとつの人影が現れた。

「あれは……、ユキさん!?」

 突如現れたのはワイズ総統のユキだった。

「ジン、ソラ、クルミ。3人であいつをよくここまで追い詰めたな。褒めてやる」

「あ、ありがとうございます」

 ユキが突然現れたことにも驚いたが、自分たちを褒めてくれたことにも面食らってしまう。
 桐生もつい間の抜けた返事を返した。

「私は正直お前らでは勝てないと踏んでいた。このまま続けたら相打ちまでいってしまいそうだからな」

「そ、そうですか」

 桜海はもいつもよりも労いを見せるユキに困惑していた。

「何だ、貴様は? 今さら増援か?」

「黙れ」

 姿を現したエサムがユキのことを訝しんだが、ユキの一瞥でその動きが止まった。

「ぐっ!? これは? この力!! ま、まさか貴様が佐々木ユキか!!」

「その通りだ。捕縛光帯アレストベルド!」

 ユキの放った光の帯によって、エサムは抵抗する間もなく、メダルへと姿を変えた。

「一瞬かよ……」
「や、やっぱり凄いわ」

 楢地と桜海は驚愕するが、ユキ顔色ひとつ変えていない。

「こいつはお前たちが弱らせていたからな。それより、ソラ」

「は、はい」

「クラウドを助けに行け」

「?」

「クラウドは向こうの人型と相打ちになったようだ。だがまだ死んではいない。人型グールには逃げられたようだがな」

「クラウドが……! 分かりました!」

「ジン、クルミ。お前たちはフタバの所へ行け。フタバはもうやられる寸前だ。ジュウベエたちも瀕死になっている」

「分かりました」

 ユキの指令を受けた3人は直ぐにその場を離れた。

 誰も居なくなった空中でユキは長い髪をたなびかせて彼方を見つめていた。

「もうすぐだよ、ラク兄さん」

 ユキは不穏な予感を感じながらも1人小さく呟いた。
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