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CHAPTER Ⅴ
第240話 新キョウト都市奪還戦争 Ⅱ-⑤ 奮戦
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「ちっ! 向こうの連中はもう勝てそうだ! オレらも気合入れてくぞ!!」
弥生ジュウベエは手にした刀を振るいながら月名将校たちに活を入れた。
弥生は焦っていた。
この場でもすでにフタバがBSS級グールを1体倒しているし、弥生もSS級グールも1体切伏せている。他の幹部も善戦しているし特段不利な状況ではない。
しかしもっと活躍して存在感を出さないといけない。弥生はそう考えていた。
そもそもワイズという組織のメンバーたちは各都市から出奔した人員で構成されている。元々いた都市は新トウキョウ都市だったり新オオサカ都市だったりするが、その元いた都市に思い入れがあるような人間は少ない。
だが弥生はこの新キョウト都市の奪還をどうしても成功させたいと考えていた。
それは弥生は30年ほど前にグールによって滅ぼされた新キョウト都市の生き残りであり、今いるこの場所を故郷だと捉えているからだ。
数限りないグールの大軍や人型グールが何体も現れるこの戦況を見ると、全軍の撤退の可能性も高まっている。
そうなってしまったら弥生にとっては故郷の奪還は失敗だ。
別働隊が戦神を救出するなどということはどうでもいい。今この場でも戦況を優位に進めることが新キョウト都市の奪還に直結すると弥生は考えていた。
「ジュベエさん! そんな焦ってもしょうがねえだろう!」
「そうだ、あんた前に出過ぎよ!」
葉月ハイルや水無月サカヤの注意も聞き流し、弥生はSS級グールが3体固まっている場所へ攻撃を打ち込んだ。
「ちっ!」
葉月や水無月たちは勝手に動き回る弥生やフタバにうんざりしながらもユキからの叱責を避けるために仕方なく援護に徹した。
月名将校の幹部たちは善戦を続け、相対する特級グールの数を少しずつだが、着実に減らしていった。
最初にこの場にいた特級はBSS級グール7体、SS級グール15体だ。
フタバがBSS級を1体、SS級を1体。
弥生がSS級を1体
葉月、長月、水無月、皐月でSS級を1体。
すでにそれぞれが討伐したが、その後はなかなか数を減らすことができなくなっていた。
まだ敵は残っている。
将校たちは少しずつ苦戦を強いられ始めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「グオオオオオオオ!!!」
睦月の放った千の武具の乱舞を受けた人型グールは怒りの咆哮を上げた。
「貴様! 人間が!」
人型グールは血を流しながら6本の腕を睦月に向けた。
ガガガガ!!
睦月は『モラルタ』を巧みに操り攻撃をなんとか捌ききった。
その攻防の間にもどんどんと換装魔素は増やし続けている。
「頑丈だな。もう一度喰らえ」
睦月は展開した武具を再度人型グールへぶつけた。
ドオオオオオ!!!
「ぐ……! 開放状態だと力の消耗が激しい……」
睦月は爆炎の中にいまだ健在な人型グールの姿を見つけた。
「全く……、もう怒りでものを言えんわ……、このゴミが」
人型グールは全身から血を流しながら、赤い瞳を憎しみに染めていた。
「さすがのしぶとさだ…」
ギャオ!
人型グールは光の手腕で睦月と剣戟を演じた。
さっきと違うのは大量の魔素を失った睦月の動きからキレがなくなっていることだ。当然人型グールもそれにすぐに気付いた。
「くくく! 勢いがなくなってきたのう! だがお前はよくやったぞ!」
ドオオン!!
睦月はとうとうグールの攻撃をまともに喰らい、大きく吹き飛ばされた。
「はははあ! 死ね!」
グールは止めを刺そうと手腕の先端に力を集め、赤く大きな槍を撃ち放った。
「うおお!!」
睦月も全身の力を振り絞り、空中で体勢を立て直しながら魔素を練った。
「八度天輪! 八条護符! 八位血黥! 上式爾形象!!、鉄縅鎧!!!」
睦月の全身を包む光が白から黒へ染まった。
これは三宗術の奥義、白様を超える秘技だった。魔宝具が開放され身体能力、魔素量が増えて初めて使用できる睦月の奥の手だ。
ズドドオオオオオンンン!!!!
人型グールの放った攻撃を睦月は『モラルタ』と全身を使って受け止めた。
「まさか、あれで死なぬとは……」
睦月は震える体に鞭を打って何とか宙に浮かんでいた。出血も激しいし、魔素も残りが少なくなっていた。しかし奥歯を噛み締めて敵を睨みつけた。
「その気迫やよし。貴様の名は何と言う?」
「……オレはワイズ月名将校、第一位。睦月クラウド」
「睦月クラウドか。儂の名はガナウ。お前のことはしばらくは覚えておいてやろう」
睦月を認めるガナウの周囲に赤い槍がいくつも生成されていく。
一斉攻撃を仕掛けるつもりなのは明白だ。
睦月は深く息を吸い込み、魔素を練った。
「やはり手強いな」
そう呟く睦月の周囲にも数え切れない武具が展開、布陣し始めた。
「だが、ガナウ。これで貴様を打ち破って見せる」
「くくく。試してみるがよい」
睦月の周囲の武具がそれぞれぶつかりあい、激しく甲高い音を立てながら巨大化していった。
数十の武具がまとまってなお、その塊の総数は数百にもなり、まるで鶯の鳴き声の様に鳴き声を上げ、舞い踊る姿は花弁のひらめく姿を連想させた。
「舞い響け、鉄徒花鴬語花舞」
睦月が『モラルタ』を掲げると、数百の黒鉄の花がガナウへと降り注いだ。
「美しいものだ。しかし睦月クラウド、貴様は儂の槍に貫かれて死ぬ」
ガナウは向かい来る武具の雨を見ながら、称賛と共に無数の赤い槍を放った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まだ生きてるわね」
桜海は人型グールが大した手傷も追わずに爆炎から姿を現したことに嫌悪の顔をした。
「今のであの程度とはな」
桐生も若干驚きが顔に出ている。
「お前ら、分かっただろ。全身全霊で掛からないとオレたちが負けるぞ」
楢地は先日嘗めた辛酸を思い起こしながら東京ギルドの仲間たちに油断を禁じた。
「何を喋っておる。もう終わりか?」
ドオオン!!!
人型グールが放った無数の光の球が3人に迫った。
「ちっ!」
楢地が空中の爆弾を操作して相殺を狙ったが、なんと光の球がカーブして爆弾を躱した。
「なに!?」
光の球が楢地を襲った。
「うおおあ!!」
ドドドッンンン!!!
「ソラ!」
桜海が叫ぶが、自身の周りにも光の球が迫っており援護までは手が回らない。
「固まれ!」
桐生が叫ぶと空中の換装された魔法光が桐生の周囲に隙間なく広がった。
それを見た桜海も自分の周りに式神を布陣させた。
ドドドドオオオオオ!!!
「ぐっ!」
桐生と桜海はなんとか人型グールの攻撃を凌ぎきったが、ダメージを負ってしまった。
光球の爆発の余波だけでワイズの光の衣を貫く威力だ。直撃を受けた楢地の負傷も並大抵ではないだろう。
そう考えた桐生は直ぐ様治癒魔術に変換した魔法光を楢地が落下した辺りに乱発しつつ、同時に人型グールに攻撃の魔術も多数放った。
「何だそれは?」
しかし人型グールは桐生の攻撃をものともせずに光の腕を伸ばして桐生を狙った。
「ぐっうう!! クルミ!!」
「わかってる!」
桐生は自分の攻撃がただ連発しただけでは人型グールにダメージを与えるのは難しいと理解していた。今狙っていたのは楢地への治癒と桜海の準備の為の時間稼ぎだ。
「ほう?」
桐生の狙いに気付いた人型グールが桜海に目を向けた。
桜海は数え切れない数の樹木を生み出していた。
「木か……?」
グールも相手の目的が分からず、少し警戒を強めた。
「もう準備は整ったわ。穿ち結べ! 須彌山曼荼羅!!」
桜海の号令によって宙に浮かぶ無数の樹木が光輝き、その根が大きく長く伸び始めた。
「なんだ?」
人型グールはいくつかの樹木へ攻撃を仕掛けると簡単にその樹木は弾け飛んだ。
しかし弾けた木はすぐに再生し、また根が伸び始めた。そして根と根が絡み始め、ついに巨大な鳥かごのような結界が完成した。
「ほう、結界か」
人型グールは手を握ったり開いたりして、力が制限されていることを確かめた。
これはグールの弱化結界の超強力版であり、A級グール程度ならその存在すらも許さない。
「そうよ。力が入らないでしょう。そしてこの結界は破壊不可能よ」
桜海がそう言ったが、人型グールはにやりと笑った。
「確かに大したものだな。しかし、お前を殺せばそれで終いよ」
ドウッ!
人型グールは赤い手腕を伸ばして桜海の両手両足を掴んだ。
「ぐっ!」
「むう? やはりそこまで力が入らんのう。貴様を握りつぶすのにも時間が掛かるわい」
グールは桜海が苦しむ姿を見て楽しんでいた。
「オレを忘れてるな」
ふと見ると、桐生が結界の中にいた。
確かにさっきでは桜海の生み出した樹木の籠の外にいたはずなのに、桐生はそれを素通りして中に入っていた。
「なに?」
「この術は単なる弱化結界じゃない。オレたちにとっては強化結界になる」
桐生はブリティッシュスーツの襟を正して、手をグールに向けた。
「惑い忽せ!! 五色法卵!!」
色とりどりの光がまるで花火を逆再生したように人型グールに集まっていった。
カアアアアッ!!!
激しい閃光と衝撃が木の根と枝で作られた結界の中で輝いた。
桜海を捉えていたグールの手腕もその攻撃で千切れ飛んでいた。
「はあっ、はあっ!」
桐生は空中で両膝に手を付いて苦しんだ。
「クルミ、無事か!?」
「え、ええ。何とか……」
桜海は体に巻き付いた人型グールの攻撃で何ヶ所か骨折している。しかしそんなことを気にしてはいられなかった。
「ジン!!」
桜海が叫びを上げると同時に、桐生が赤い槍が突き刺さった。
ドオオオオオンンン!!
「虫どもが……」
激しく血を流しながら、人型グールが姿を現した。
「ち、まだ死んではいないな? 力がうまく入らん」
人型グールは落下した桐生の方を見て1つ舌打ちをするとギロリと桜海を睨んだ。
「だが残りはお前1人だ。絶望しろ」
「絶望?」
しかし桜海はかすかに笑みを浮かべた。
「私たちが今までに経験してきたこと以上に、絶望的なことはない。仲間たちを失う苦しみに比べればこんな状況、大したことはないわ」
「くっくっ、気丈な奴だ。クルミと呼ばれていたな? 儂はエサムだ。一思いに終わりにしてやろう」
エサムが全身に赤い衣を展開して、6本の腕を伸ばした。
「私は桜海クルミよ。悪いけど、私はまだ終わってない」
桜海は両手を拡げた。
「穿ち砕け! 四神位曼荼羅!!」
ドウウウ!!
突如、樹木の結界の四方から淡く輝く獣が4体現れ、凄まじい勢いでグールへと襲いかかった。
これは東西南北を司る四神を模した霊獣の式神で、それぞれに集中した換装魔素の数も半端ではない。
「うっとうしい!」
しかし、グールはその四神を傷つきながらも引き裂き、バラバラに引きちぎった。
「結界を展開しながらここまでのものも出すとは……」
ギュオ!!
グールの腕が再び桜海に巻き付いた。
「あああ!!」
あと数秒で桜海は体を押しつぶされる。
勝った。
そう思ったグールの背後には楢地がいた。
「なに!?」
「爆ぜ轟け! 芥火塵籠!!」
ドオオオオオ!!!
桜海の結界で強化された爆撃がグールを包んだ。
弥生ジュウベエは手にした刀を振るいながら月名将校たちに活を入れた。
弥生は焦っていた。
この場でもすでにフタバがBSS級グールを1体倒しているし、弥生もSS級グールも1体切伏せている。他の幹部も善戦しているし特段不利な状況ではない。
しかしもっと活躍して存在感を出さないといけない。弥生はそう考えていた。
そもそもワイズという組織のメンバーたちは各都市から出奔した人員で構成されている。元々いた都市は新トウキョウ都市だったり新オオサカ都市だったりするが、その元いた都市に思い入れがあるような人間は少ない。
だが弥生はこの新キョウト都市の奪還をどうしても成功させたいと考えていた。
それは弥生は30年ほど前にグールによって滅ぼされた新キョウト都市の生き残りであり、今いるこの場所を故郷だと捉えているからだ。
数限りないグールの大軍や人型グールが何体も現れるこの戦況を見ると、全軍の撤退の可能性も高まっている。
そうなってしまったら弥生にとっては故郷の奪還は失敗だ。
別働隊が戦神を救出するなどということはどうでもいい。今この場でも戦況を優位に進めることが新キョウト都市の奪還に直結すると弥生は考えていた。
「ジュベエさん! そんな焦ってもしょうがねえだろう!」
「そうだ、あんた前に出過ぎよ!」
葉月ハイルや水無月サカヤの注意も聞き流し、弥生はSS級グールが3体固まっている場所へ攻撃を打ち込んだ。
「ちっ!」
葉月や水無月たちは勝手に動き回る弥生やフタバにうんざりしながらもユキからの叱責を避けるために仕方なく援護に徹した。
月名将校の幹部たちは善戦を続け、相対する特級グールの数を少しずつだが、着実に減らしていった。
最初にこの場にいた特級はBSS級グール7体、SS級グール15体だ。
フタバがBSS級を1体、SS級を1体。
弥生がSS級を1体
葉月、長月、水無月、皐月でSS級を1体。
すでにそれぞれが討伐したが、その後はなかなか数を減らすことができなくなっていた。
まだ敵は残っている。
将校たちは少しずつ苦戦を強いられ始めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「グオオオオオオオ!!!」
睦月の放った千の武具の乱舞を受けた人型グールは怒りの咆哮を上げた。
「貴様! 人間が!」
人型グールは血を流しながら6本の腕を睦月に向けた。
ガガガガ!!
睦月は『モラルタ』を巧みに操り攻撃をなんとか捌ききった。
その攻防の間にもどんどんと換装魔素は増やし続けている。
「頑丈だな。もう一度喰らえ」
睦月は展開した武具を再度人型グールへぶつけた。
ドオオオオオ!!!
「ぐ……! 開放状態だと力の消耗が激しい……」
睦月は爆炎の中にいまだ健在な人型グールの姿を見つけた。
「全く……、もう怒りでものを言えんわ……、このゴミが」
人型グールは全身から血を流しながら、赤い瞳を憎しみに染めていた。
「さすがのしぶとさだ…」
ギャオ!
人型グールは光の手腕で睦月と剣戟を演じた。
さっきと違うのは大量の魔素を失った睦月の動きからキレがなくなっていることだ。当然人型グールもそれにすぐに気付いた。
「くくく! 勢いがなくなってきたのう! だがお前はよくやったぞ!」
ドオオン!!
睦月はとうとうグールの攻撃をまともに喰らい、大きく吹き飛ばされた。
「はははあ! 死ね!」
グールは止めを刺そうと手腕の先端に力を集め、赤く大きな槍を撃ち放った。
「うおお!!」
睦月も全身の力を振り絞り、空中で体勢を立て直しながら魔素を練った。
「八度天輪! 八条護符! 八位血黥! 上式爾形象!!、鉄縅鎧!!!」
睦月の全身を包む光が白から黒へ染まった。
これは三宗術の奥義、白様を超える秘技だった。魔宝具が開放され身体能力、魔素量が増えて初めて使用できる睦月の奥の手だ。
ズドドオオオオオンンン!!!!
人型グールの放った攻撃を睦月は『モラルタ』と全身を使って受け止めた。
「まさか、あれで死なぬとは……」
睦月は震える体に鞭を打って何とか宙に浮かんでいた。出血も激しいし、魔素も残りが少なくなっていた。しかし奥歯を噛み締めて敵を睨みつけた。
「その気迫やよし。貴様の名は何と言う?」
「……オレはワイズ月名将校、第一位。睦月クラウド」
「睦月クラウドか。儂の名はガナウ。お前のことはしばらくは覚えておいてやろう」
睦月を認めるガナウの周囲に赤い槍がいくつも生成されていく。
一斉攻撃を仕掛けるつもりなのは明白だ。
睦月は深く息を吸い込み、魔素を練った。
「やはり手強いな」
そう呟く睦月の周囲にも数え切れない武具が展開、布陣し始めた。
「だが、ガナウ。これで貴様を打ち破って見せる」
「くくく。試してみるがよい」
睦月の周囲の武具がそれぞれぶつかりあい、激しく甲高い音を立てながら巨大化していった。
数十の武具がまとまってなお、その塊の総数は数百にもなり、まるで鶯の鳴き声の様に鳴き声を上げ、舞い踊る姿は花弁のひらめく姿を連想させた。
「舞い響け、鉄徒花鴬語花舞」
睦月が『モラルタ』を掲げると、数百の黒鉄の花がガナウへと降り注いだ。
「美しいものだ。しかし睦月クラウド、貴様は儂の槍に貫かれて死ぬ」
ガナウは向かい来る武具の雨を見ながら、称賛と共に無数の赤い槍を放った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まだ生きてるわね」
桜海は人型グールが大した手傷も追わずに爆炎から姿を現したことに嫌悪の顔をした。
「今のであの程度とはな」
桐生も若干驚きが顔に出ている。
「お前ら、分かっただろ。全身全霊で掛からないとオレたちが負けるぞ」
楢地は先日嘗めた辛酸を思い起こしながら東京ギルドの仲間たちに油断を禁じた。
「何を喋っておる。もう終わりか?」
ドオオン!!!
人型グールが放った無数の光の球が3人に迫った。
「ちっ!」
楢地が空中の爆弾を操作して相殺を狙ったが、なんと光の球がカーブして爆弾を躱した。
「なに!?」
光の球が楢地を襲った。
「うおおあ!!」
ドドドッンンン!!!
「ソラ!」
桜海が叫ぶが、自身の周りにも光の球が迫っており援護までは手が回らない。
「固まれ!」
桐生が叫ぶと空中の換装された魔法光が桐生の周囲に隙間なく広がった。
それを見た桜海も自分の周りに式神を布陣させた。
ドドドドオオオオオ!!!
「ぐっ!」
桐生と桜海はなんとか人型グールの攻撃を凌ぎきったが、ダメージを負ってしまった。
光球の爆発の余波だけでワイズの光の衣を貫く威力だ。直撃を受けた楢地の負傷も並大抵ではないだろう。
そう考えた桐生は直ぐ様治癒魔術に変換した魔法光を楢地が落下した辺りに乱発しつつ、同時に人型グールに攻撃の魔術も多数放った。
「何だそれは?」
しかし人型グールは桐生の攻撃をものともせずに光の腕を伸ばして桐生を狙った。
「ぐっうう!! クルミ!!」
「わかってる!」
桐生は自分の攻撃がただ連発しただけでは人型グールにダメージを与えるのは難しいと理解していた。今狙っていたのは楢地への治癒と桜海の準備の為の時間稼ぎだ。
「ほう?」
桐生の狙いに気付いた人型グールが桜海に目を向けた。
桜海は数え切れない数の樹木を生み出していた。
「木か……?」
グールも相手の目的が分からず、少し警戒を強めた。
「もう準備は整ったわ。穿ち結べ! 須彌山曼荼羅!!」
桜海の号令によって宙に浮かぶ無数の樹木が光輝き、その根が大きく長く伸び始めた。
「なんだ?」
人型グールはいくつかの樹木へ攻撃を仕掛けると簡単にその樹木は弾け飛んだ。
しかし弾けた木はすぐに再生し、また根が伸び始めた。そして根と根が絡み始め、ついに巨大な鳥かごのような結界が完成した。
「ほう、結界か」
人型グールは手を握ったり開いたりして、力が制限されていることを確かめた。
これはグールの弱化結界の超強力版であり、A級グール程度ならその存在すらも許さない。
「そうよ。力が入らないでしょう。そしてこの結界は破壊不可能よ」
桜海がそう言ったが、人型グールはにやりと笑った。
「確かに大したものだな。しかし、お前を殺せばそれで終いよ」
ドウッ!
人型グールは赤い手腕を伸ばして桜海の両手両足を掴んだ。
「ぐっ!」
「むう? やはりそこまで力が入らんのう。貴様を握りつぶすのにも時間が掛かるわい」
グールは桜海が苦しむ姿を見て楽しんでいた。
「オレを忘れてるな」
ふと見ると、桐生が結界の中にいた。
確かにさっきでは桜海の生み出した樹木の籠の外にいたはずなのに、桐生はそれを素通りして中に入っていた。
「なに?」
「この術は単なる弱化結界じゃない。オレたちにとっては強化結界になる」
桐生はブリティッシュスーツの襟を正して、手をグールに向けた。
「惑い忽せ!! 五色法卵!!」
色とりどりの光がまるで花火を逆再生したように人型グールに集まっていった。
カアアアアッ!!!
激しい閃光と衝撃が木の根と枝で作られた結界の中で輝いた。
桜海を捉えていたグールの手腕もその攻撃で千切れ飛んでいた。
「はあっ、はあっ!」
桐生は空中で両膝に手を付いて苦しんだ。
「クルミ、無事か!?」
「え、ええ。何とか……」
桜海は体に巻き付いた人型グールの攻撃で何ヶ所か骨折している。しかしそんなことを気にしてはいられなかった。
「ジン!!」
桜海が叫びを上げると同時に、桐生が赤い槍が突き刺さった。
ドオオオオオンンン!!
「虫どもが……」
激しく血を流しながら、人型グールが姿を現した。
「ち、まだ死んではいないな? 力がうまく入らん」
人型グールは落下した桐生の方を見て1つ舌打ちをするとギロリと桜海を睨んだ。
「だが残りはお前1人だ。絶望しろ」
「絶望?」
しかし桜海はかすかに笑みを浮かべた。
「私たちが今までに経験してきたこと以上に、絶望的なことはない。仲間たちを失う苦しみに比べればこんな状況、大したことはないわ」
「くっくっ、気丈な奴だ。クルミと呼ばれていたな? 儂はエサムだ。一思いに終わりにしてやろう」
エサムが全身に赤い衣を展開して、6本の腕を伸ばした。
「私は桜海クルミよ。悪いけど、私はまだ終わってない」
桜海は両手を拡げた。
「穿ち砕け! 四神位曼荼羅!!」
ドウウウ!!
突如、樹木の結界の四方から淡く輝く獣が4体現れ、凄まじい勢いでグールへと襲いかかった。
これは東西南北を司る四神を模した霊獣の式神で、それぞれに集中した換装魔素の数も半端ではない。
「うっとうしい!」
しかし、グールはその四神を傷つきながらも引き裂き、バラバラに引きちぎった。
「結界を展開しながらここまでのものも出すとは……」
ギュオ!!
グールの腕が再び桜海に巻き付いた。
「あああ!!」
あと数秒で桜海は体を押しつぶされる。
勝った。
そう思ったグールの背後には楢地がいた。
「なに!?」
「爆ぜ轟け! 芥火塵籠!!」
ドオオオオオ!!!
桜海の結界で強化された爆撃がグールを包んだ。
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