グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅴ

第230話 新キョウト都市奪還戦争 Ⅰ-⑧ 新手 

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1月27日 午前12:00

東軍戦況

下級グール討伐数 2万6千体
上級グール討伐数 3万3千体
特級グール討伐数 98体

東軍死者数 186人 

 開戦からは8日目となった。
 オレたちは多くの犠牲を出しながらも、京都駅跡地にはあと2キロほどの距離にまで進軍を進めていた。

 オレはこのあたりはなんとなく見覚えがある。
 多分中学校の頃に修学旅行で来たことがある気がする。
 あの頃の同級生は今頃どうしてるかななんてことを一瞬考えたが、あれから100年以上経った今誰も生きているわけはない。
 オレは気を取り直して目の前のグールに集中した。

 程なくしてオレの通信装置から特別な通知音が聞こえた。
 これは3軍の上層部にのみ繋がる特別製で、阿倍野、アイコ、ユキを始めとしたごく限られたメンバーにしか通信を行わない。
 今はユキからの着信だった。

『ワイズ軍全軍、予定ポイントに到達した。各軍の進捗を報告しろ』

(もう着いたのか! 流石だな!)

『ユキさん。こちら阿倍野です。いやー、この激戦の中をこうも早く攻略するとはやはりワイズ軍は素晴らしいですねえ!』

『黙れ、余計な話をするな』

 ユキは阿倍野には本当に容赦がない。

『そうですかー、では。東軍は現在予定ポイントへの到達距離はおよそ2キロ。おそらく明日にはそちらへ届くでしょう』

『……宝条マスターはどうだ?』

『こちら宝条。私たちは思ったより苦戦しているわ。予定ポイントまではおそよ3キロ。しかし今のペースでは到着は良くて明後日になるわ』

 どうやらアイコはかなり苦しんでいるようだ。声もどこか覇気がないように感じる。

『そうか。分かったが両軍とも急げ。我々の元へ新手も向かってくるぞ』

『新手?』

 阿倍野が質問した。

『ああ、どうやらこの戦争の最初に倒した下級グールの群れ。これはやはり敵の攻撃準備だった』

『どういうこと?』

 これはアイコの言葉だ。

『人型グールのようだが、死霊術師ネクロマンサーの術を使うようだ。灰と化したグールを赤霧に変えている。そして上級グールの骸を何体もの巨人に変えて、追撃の準備を整えている』

『なんと……、また死霊術師ネクロマンサータイプですか。しかし、その本体の位置が分かるんですか? 今のうちに叩くというのも手では?』

 オレも阿倍野に賛成だ。

『そんなことは分かっている。しかし敵はどうやら新キョウト都市内部に潜伏しているようだ。かなり遠隔で術を使っている。私の索敵でそこまでは分かった』

『ユキちゃん。その人型グールの位置はどの程度まで分かるの?』

『半径1キロ程度だな。敵も迷彩能力を使っていてこれ以上は難しい』

『なるほど……』

 アイコも能力持ちのグールの討伐を考えているようだ。

『いずれにせよ敵の骸が動き出すまでに2軍共にここに来い。予測でしかないが、明日には敵方の準備が整いそうだ』

 ユキはそう言うが簡単にはいかない。

『オレたちは何とかなるかも知れないけど。宝条さんたちは厳しいと思いますよ。ユキさん、フォローお願いできませんか』

 阿倍野が努めて軽い口調でユキにそう言ったが、ユキの気配が怒りで染まるのがありありと分かった。

『ふざけたことを言うな。リュウセイ、お前が何とかしろ。私たちは既に都市内部のグールと交戦を開始している。そんな余裕はない』

 ユキたちワイズ軍が都市に元々いたグールと戦っているということは、オレたち3軍で相手取るつもりの軍勢を1手に引き受けているということだ。オレたちへの催促もその負担を早く軽減するためだし、とてもアイコの軍に援軍を送る余裕は無いのだろう。

『いやあ、オレたちも厳しいところです。とにかくユキさんと早く合流して余力を作り西軍へ送る。それがベストですかね』

 おそらくだが、阿倍野はワイズ軍の戦力を図るために今のような質問をしたのだろう。
 ユキの受け答えは怒ってはいたがまだ余裕は感じた。
 そういうところを知りたかったのだろう。

『……相変わらずいけ好かないやつだ』

 ユキにそう言われるのも無理はない、オレはそう思った。


 

1月28日 午後3:00

東軍戦況

下級グール討伐数 2万6千体
上級グール討伐数 3万8千体
特級グール討伐数 111体

東軍死者数 211人 
 
 

 この戦争もすでに1週間以上が過ぎ、いよいよオレたちの目的地も目で見えるところまで来ていた。残りはおよそ600メートルほどだ。
 ユキたちワイズ軍が戦っている姿も肉眼でもう確認出来る。

 もう一歩。そう思って戦いを続けていたが、とうとう後方の彼方から巨大な気配が動き出すのを感じた。

(これは……、昨日ユキが言っていたやつだな!)

『こちら阿倍野。上位部隊各員に通信。昨日話があったSSS級グールの死霊術師ネクロマンサータイプの攻撃が始まったようだ。体長100メートルを超える骸の巨人がおよそ60体。こちらへ向かってきている。現在の速度で計算するとおよそ2時間後にはこちらと会敵する。各自注意してくれ』

 阿倍野の声を聞いてオレも感知を凝らすが、まだ敵の数まではよく分からない。
 新型の広範囲索敵装置のおかげなのだろう。
 
 だが、オレにはその敵の1体1体がただならぬ気配を纏っていることは分かった。

(これって……、もしかして60体全部S級クラスなんじゃ?)

「ユウナ、骸の巨人の存在感? というか強さって分かったりする?」

「いや、流石に難しいかな……、あ! でも狭範囲索敵で掛かれば分かるかも。やってみるね」

「頼む」

 ユウナは元々索敵術などと得意とする援術士の素養もある。
 S+級にまでなったユウナの索敵術の有効範囲は通常索敵で半径4000、挟範囲索敵で6000までもの距離に及んだ。

「セイさん。こ、この敵は多分、一個体がそれぞれS級クラスだよ……」

 ユウナは額に汗を光らせながら言った。
 かなりの集中と魔素消費のようだ。
 敵の脅威を感じ取ったこともあるだろう。

「そうか。ありがとう、ユウナ」

 オレはこのまま無策で骸の巨人を迎え撃つのは危険だと思っていた。
 しかしオレたちが取れる対策はやはりこの術を使っている本体。つまりSSS級グールを探し出して倒すしかない。

 オレは意を決した。

「あ、阿倍野さん。ユキ。聞こえますか? こちらは佐々木」

『佐々木くん? どうした?』

『……』

 阿倍野は応答をくれたが、ユキからは返事はない。

「現在こちらへ向かってきている死霊術士ネクロマンサータイプの操る骸の巨人ですが、一個体がS級相当です。やっぱり今のうちに対応するべきだと思います」

『なるほど。対応とは具体的にはどう考えているのかな?』

 阿倍野がオレに聞いた。

「はい。ユキがこの骸の巨人を操っている人型グールの位置を半径1キロぐらいまで絞れるなら、そこまで近づき、オレが居場所を感知で見つけます」

『セイちゃんは確かに感知能力は群を抜いているわ。だけどセイちゃんたちだけでは敵の群れは突破出来ないんじゃない?』

 アイコも当然この通信には含まれている。
 
「ああ。だからこの人型グールの討伐は索敵役、討伐役、そして周囲の露払い役で行いたいと思う」

『佐々木くんの意見は分かった。まずはその作戦を実行するかどうかからだね。初めに言っておくがオレは賛成だ。この規模の敵に挟み撃ちを受けるのは危険だと判断する』

 阿倍野が賛意を声に出した。

『私も賛成……、だけどその作戦に人員を出せないのが心苦しいわね』

 アイコもオレの意見に賛成してくれた。

『ユキはどうかな?』

 オレはずっと黙っているユキに伺いを立てた。

『……セイ。お前の索敵はそれほど信用出来る程なのか? リュウセイ、宝条マスター。どうだ?』

『ああ、佐々木くんはいろんな第6感覚が発達してるからね。居場所から1キロまで近づけば人型グールの迷彩能力を突破して敵を見つけられますよ』

 阿倍野がオレの能力を絶賛してくれた。

『そうね。それについては実績もある。さっきも言ったけど、セイちゃんの感知は群を抜いているわ』

 アイコもそう言うとしばらくの沈黙があった。

『……了承した。人型グールの討伐役は私の軍から出そう。クラウドとソラ、ハイルとミロクだ。露払い役はリュウセイの軍から出せ』

(やった!!)

『了解しました。こちらからは欄島班、鏑木班、志布志班で対応します』

(欄島さんたちか! 心強い!)

「あ、ありがとうございます! みんな。そしてユキ」

『つまらをんことを言うな。倒せるならば倒しておくべき敵というだけだ。私の索敵結果はもう周知してある。失敗するなよ、セイ、ナナ』

「当たり前だ!」
「相変わらず生意気な……」

 通信を聞いていたナナもボソリと小言を呟いていた。

『では佐々木くん。スカイベースを1機出す。それに乗り込んでくれ。直ぐにワイズ軍のメンバーも拾ってユキさんの示した場所へと向かってくれ』

「はい!」

 京都駅跡地まではあと400メートルほどだ。
 もうワイズ軍との合流は目前だが、これから骸の巨人の群れに強襲を受けるとかなり危険な状況に陥ることになる。

 オレたちは大本営部隊から特別に出されたスカイベースベースに乗り込み、1足先にワイズ軍が陣取る京都駅跡上空へと到着した。
 スカイベースの中で久しぶりに鏑木や志布志と挨拶を交わした。

「佐々木くん。本当に立派になったわね。よろしく頼むわ」
「佐々木さん、ご一緒できて光栄です!」

 鏑木と志布志の言葉に少し気恥ずかしさを感じながらも何人かのワイズのメンバーが乗り込んだのを見て、オレは声を張った。

「よし、出発だ!!」
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