グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅴ

第225話 新キョウト都市奪還戦争 Ⅰ-③ 集結

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『よし。ではこちらへ向かってくるグールの群れはセイヤたちがまずは相手をしてくれ』

『了解です』

 セイヤは事もなげに答えた。

 今現在グールが向かってきている新トウキョウ都市の集結地点へたどり着くまではまだあと数時間は掛かる。
 5時間ほどで襲い掛かってくるというグールとの戦いに間に合うかは微妙なところだ。

「まずは頼んだぞ、セイヤ。オレたちもすぐに駆けつける」

 オレはセイヤに声を掛けた。

『ああ、任せておけ。セイ』



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 数時間後。

 オレたちは集結地点へはもうあと少しというところまで来ていた。敵の接近を知った軍は進行を早め、予定よりも大分巻いて時間を短縮していた。
 別に進軍をしていた二宮の率いる部隊と合流し、オレたちはセイヤたちのいる場所を足早に目指していた。

 敵はもうセイヤたちのすぐそばに来ているらしい。

『こちら結城。敵までの距離は1000。敵勢力はおよそ24000。攻撃を開始します』

『了解した』

 セイヤの報告に阿倍野が了承を返した。
 この通信はオレたち佐々木班、二宮班、結城班の他にも東軍の指揮官級。欄島班や東班などにも届いていた。

 オレはかなり遠くからだが、戦いの気配を感じ、手のひらが少し湿っていることに気付いた。

『セイヤ。分かっていると思うがグールは原型を留めないレベルまで徹底的に頼む』

『もちろんです。死霊術士ネクロマンサータイプに利用されないようにですね。既に指示は出してあります』

 阿倍野とセイヤのやり取りもオレたちには届いている。
 今からセイヤたちが戦うグールは下級グールであり、苦戦する相手ではない。しかし原型を残した状態での討伐では後で死霊術士ネクロマンサータイプのグールに遺体を利用されてしまう。その対策として阿倍野は徹底的という指示を出していた。

 オレはしばらくはスカイベースの甲板に立ち、遠くの気配を探っていた。
 オレの感知能力であれば今の距離でも戦況くらいは分かる。

「……大丈夫みたいだな」

 分かっていたはずだが、オレは安堵の息を吐いた。
 セイヤたちは苦戦もせずに敵の軍勢を倒し続けているようだ。
 もう少しでオレたちも現地に到着できる。
 ナナたちはまだ司令室にいる。

「佐々木。そんなに心配はいらなかっただろう?」

 いつの間にかオレの後ろには二宮が立っていた。
 
 二宮は少し前に合流した別に進軍していた部隊を率いていた。

「二宮さん。そうですね。今のところは」

「今のところは?」

「ええ。やはりこれからの戦いが控えているからか、嫌な予感が消えません。むしろ強まっている気さえします」

「……」

 二宮は黙ってオレの横に並び立った。

「佐々木がそう言うなら、これからは過酷なことが待っているんだろう。だが、それはこの戦いに挑む者ならば誰もが覚悟していることだ」

「はい……」

 二宮が言うことは理解できる。
 だが、オレの予感。悪い予想は以前よりもはっきりと感じ取ることが出来るようになっていた。

 御美苗や、山崎、武蔵野たちを失った直前にも感じた寒気にも似た気持ち悪さ。
 オレはこの戦争でまた親しい隊員を失うことを危惧していた。

「佐々木。オレたち討伐隊員の目的は何だ?」

「え? も、目的ですか?」

 突然二宮が変な質問をしてきた。

「ああ」

「そう、ですね。やっぱりグールを倒すこと、ですかね」

「いいや違う」

(え? 違うの?)

「私たち討伐隊員の目的は都市の平和を守ることだ」

「ああ……」

 オレはそれはグールを倒すことと違うのかと思ったが、口には出せない。

「それとは全く違う」

(あ! 思考透視能力か?)

「そうだ、考えを読んだ。佐々木、私たちは都市の暮らしを守るために日々戦っているし、そのためにグールを討伐している」

「は、はあ」

「そして、その目的は皆共通している。兵学校でも叩き込まれるからね」

「そうなんですね」

 オレは二宮の話の行く末が分からない。

「お前は兵学校は出ていない。都市には縛られていないだろう佐々木。聞くが、そのお前の目的は何だ?」

(オレの目的? そんなのは……、ずっと前から決まってる)

「オレは、オレの家族、兄妹を取り戻すことです。だからこの戦争にも勝たなきゃいけないんです。そうしないとラクを助けられないから」

「そうだな。お前の目的はグールの討伐の向こうにある。私たちの目的はグールからの防衛にある。その違いを分かっておけ」

「……? それがどういう?」

「ある程度のグールの討伐を完了した場合。この戦争は終結するだろう。その時に戦神ラクを救出できてなくともだ」

「あ……。いや! それは、困ります!」

 その可能性の話は阿倍野も以前にしていた。

「もしもの時は、新トウキョウ都市軍が撤退してもお前1人で戦神が居るという二条城跡に行けるか?」

「それは……、難しいと思います。しかし……」

「しかし?」

「オレには一緒に戦ってくれる仲間がいます。ナナもそうだし、ユウナ。アオイ。そしてセイヤにモモさんも。軍が撤退しても、そうなったとしてもみんなと一緒にラクを助けます」

「そうか」

 二宮がニコリと笑った。

「それならいい」

 二宮は踵を返して歩き出した。

「……」

(二宮さん、ありがとうございます)

 二宮がピタリと止まり、振り返った。

「もし、お前たちだけで戦神の元に向かうことになったら」

「……?」

「私も同行する」

「え!?」

「戦神ラクの救出。これからの人類の存続にとってそれはかなり重要だ」

「いやー、さすがよく分かってるね。マサオミは」

 突然、後ろから阿倍野の声が聞こえた。

「あ、阿倍野さん!?」

「佐々木くん。オレたち大本営部隊も追いついたよ。ほら、ヨウイチたちも来てるよ」

 阿倍野が指さした先に、討伐隊員たちの姿が見えた。
 阿倍野率いる東軍の大本営部隊だ。
 確かに東班の魔素も感知できた。

 阿倍野はオレたちの軍に近づいたのでわざわざ空を飛んでここに来たのだろう。

「阿倍野マスター。私の発言をよく分かってるとおっしゃいましたが?」

 二宮が阿倍野に聞いた。

「マサオミ。この戦争はね、ラクさんの救出。それが出来るか出来ないかが非常に大きな分かれ道になる。必ず成し遂げよう」

 オレは阿倍野のこの言葉には疑問を覚えた。

「阿倍野さんはラクさんの救出は目指さないんじゃなかったんですか?」

「佐々木くん。この前ユキさんの前で言ったことを気にしてるんだね。だけどあれは都市の犠牲を少なくするための保険だよ」

「保険?」

「ああ。今回、東軍、西軍、ワイズ軍は京都駅近辺で合流した後、別働隊を出してラクさんの救出に向かう予定だ」

 それは前に聞いた。

「はい」

「だが、軍は戦況によっては撤退してもらう。オレはユキさんにそう進言したんだよ。別働隊は撤退しない」

「え? でも、本隊が居なくなったら……」

 オレたちがラクがいる二条城に向かう間、大群が迎え撃って来るであろうグールの抑えが居なくなるということはオレたちが危険になるということだ。

 オレは阿倍野の真意が気になった。

「もし軍が不利になった場合に戦争を継続して都市の隊員をいたずらに犠牲にするわけにはいかない。あくまで戦況によって柔軟に軍を動かすと、そういう言質を取っただけだよ」

(そういうことだったのか……?)

「そんな状況に陥る前に、ラクさんを救出する」

「阿倍野マスターのおっしゃる通りですね」

 二宮が同意を示した。

「別働隊はオレと二宮班、佐々木班、結城班だ。備えておいてくれよ」

「分かりました……!」

 阿倍野はラクを助け出すつもりだ。
 今の言葉で分かった。
 ただ、いざとなったら隊員は逃し、自分は最前線に残るつもりらしい。

 阿倍野の覚悟が伝わってきた。
 多分、阿倍野はこのことを伝える為にここに来たのだろう。

「あ、もうセイヤたちのところへ着くね」

 阿倍野の言葉に目をやると、あたり1面から煙が立ち込めている場所が見えた。

「結城、派手にやったみたいだな。確かに焼き払えば間違いはない」

 二宮の言葉の通り、あたりで燃えているはグールの大群だ。
 死霊術士ネクロマンサーに使われないようにグールを消し炭にしたらしい。

「ちょっとこのまま顔を出しに行こうか。マサオミと佐々木くんも一緒に来てくれ」

 阿倍野はそう言ってスカイベースから空へと飛び出した。

(行っちゃった……、まあ仕方ないか)

「行こうか、佐々木」

「はい」

 オレと二宮も阿倍野の後を追いかけ、既にほぼグールを殲滅していた討伐隊員たちの元へ降り立った。

「やあやあ。みんなお疲れ様」

オオオオオ!!

 あたりから歓声が上がった。

「ギルドマスターだ!」
「阿倍野さんだ!」
「み、見ろ! 二宮隊員に、佐々木隊員もいるぞ!」
「あ、あれが東部最強! そして救世主か!!」
「す、凄い……!!」

 何だかみんな興奮していて気恥ずかしい。

「阿倍野マスター! 今到着ですか!」

 セイヤだ。
 額に玉のような汗をかいてはいるが、負傷は特に見当たらない。
 すぐ近くに伊達、最上、相馬もいる。

「セイヤ。アベルたちも。ああ、敵は問題なく片付けたようだね」

「ええ。火炎系の魔技で燃やすように指示しました。これならば後顧の憂いもないかと」

「確かに。これなら確実だ。よくやってくれた」

 阿倍野はセイヤの働きを労った。

「結城。部隊の指示も問題なかったようだな。何か変わったことは無かったか?」

「二宮さん、いえ。特段変わったことは……。数体、S級が現れた程度ですね」

「そうか」

 セイヤと二宮の話も終わったことを見計らって、オレもセイヤに話し掛けた。

「セイヤ! お疲れ!」

「セイ。みんなは一緒じゃないのか?」

「あそこのスカイベースにいるよ。阿倍野さんから一緒に来いって言われてさ」

「なるほど」

 オレたちが話に花を咲かせていると、阿倍野の率いた軍、オレたちの率いた軍も到着した。

 そのまま焼け野原に一軍を滞在させるわけにもいかず、オレたちは少し場所を移し、明日の進軍に備えた。

 東軍が今ここに終結した。
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