グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅴ

第209話 大規模防衛討伐

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「いやー、災難だったね。特級グールがまさかあんなに出てくるとはねー」

 オレたち佐々木班はギルドマスタールームでいつものように阿倍野の軽い声で迎えられた。

 今は先日の遠征討伐から帰還した後、数日経ったところで阿倍野から話があると呼び出しを受けたのだ。

「まあ、でも何とか勝てましたよ。ナナたちもみんなS級グールを倒してくれましたし」

「そうだね、みんな強くなった。佐々木くんも来月にはSS級は内定だね」

 阿倍野の言うように、SS級隊員になるにはSS級グールを単独で討伐する必要がある。
 厳密には他にも査定やら何やらあるのだが、そのSS級グール単独討伐が飛び抜けて難しい条件となっていた。

「はい、ありがとうございます」

「これで、マサオミ。セイヤ。タモンに続いて4人目になるかな」

(え? タモンって欄島さんか?)

「佐々木。欄島さんは1月にSS級に上がってるぞ」

「ああ、うん」

(そ、そうなんだ……)

「ふふふ」

 アオイの言葉に頷くオレを見てユウナが笑っている。まあ、いつものことだ。

「そ、それで、今回の用件は何でしょう? 例のグールの大群を迎え撃つ話ですか?」

 オレが話題を変えると阿倍野もやや真剣は顔になった。

「ああ、そうだね。出撃が決まった。7日後だ」

「7日後……」

 早いような遅いような。準備に時間が掛かりすぎていたので少し混乱する。

「それでだけど、君たち佐々木班は今回の戦争には不参加と決まった」

「はああ!!?」

 阿倍野の思ってもない言葉を聞いてオレは大声をあげてしまう。

「うおう、いいリアクション。まあ、みんなそう思うよね。当然自分たちはこの戦いに参加するんだって考えてたよねえ」

 この阿倍野の発現にはナナたちも困惑と驚きをあらわにしていた。

「い、いや。違うんですか!?」

「うん、違う。君たち佐々木班と結城班はこの都市で待機だ。代わりと言う訳ではないが二宮班と欄島班が出兵することになった。まあ、不満かもしれないけどね。君たちは北海道遠征も行ったし、ワイズとの会談にも立ち会った。少し働き過ぎだよ」

「いや、そんなこと!」

「まあまあ。それに都市としてはこの討伐戦争にSS級隊員を2人出したいし、都市防衛にもSS級を1人は残したいんだ。その場合の参戦するメンバーと都市防衛にあたるメンバーを考えるとこれが最善なんだよね」

「……最善とは?」 

「佐々木くんたちはもしかしたら知らないかもしれないけどね。君たち、あと結城班の2人もだけど一般隊員たちから人気が凄くあるんだよ」

 阿倍野の言葉にオレは先日の戦いでオレたちを持て囃す隊員たちを思い出した。

「あ、覚えがあるかな? SS級で誰か1人は都市に残らなきゃいけないとすると、やっぱりセイヤ。あと元隊員の佐々木班とするのが自然だ。他意はないよ。そして君たちなら万が一の際に隊員たちもすんなり指示に従うだろうと思っている」

「そうですか……」

 オレはまだ納得していないが、阿倍野の始め都市上層部の決定ならば今は従うしかないだろう。

「都市防衛も立派な任務だからね、救世主さん!」

ぴくり

 オレは阿倍野の声に反応してしまった。

「し、知ってたんですか?」

「そりゃもう。救世主セイ、守護神ナナ、聖天女ユウナ、烈剣士アオイ、英剣雄セイヤ、大魔導モモ。この6人は新トウキョウ都市じゃ有名人だからねえ。かっこいいよねえ」

「……」

 オレは何とも言えない恥ずかしい気持ちで口をつぐんでしまった。

「まあモモは魔術士として元々有名だったし、セイヤはこの前の人型グールとの活躍が正に英雄って感じだった。アオイちゃんは投擲剣が得意でしょ? その迫力が凄いから烈剣かな。ユウナちゃんはそのたおやかな雰囲気と援護術から聖天女っととこかな」

 阿倍野がすらすらと2つ名の解説をするが、オレはそんなに大げさなことなのかと戸惑うばかりだ。

「て、天女って……、恥ずかしいです」
「まあ、でも私は烈剣だっけ? ちょっと気に入ったかなー」

 ユウナは顔を伏せて恥ずかしがっているが、アオイはまんざらでもないようだ。

「ナナさんは結界で新ヒロシマ都市や新トウキョウ都市でも大勢を守る活躍したからね。守護神って呼び方は納得だ。だけど佐々木くんが救世主っていうのは……」

 阿倍野がいい淀んだ。

「何ですか? まあ何でもいいですけど」

「正直理由は分からないな。でも、確かにこれから救世主になるかもしれないからな」

「……」

 かつてユウナやセイヤにオレは救世主かも知れないと言われたことがある。おそらくそのあたりから噂が立ってこんな2つ名を付けられたのだろう。しかし、そんなことはどうでもよかった。

「そ、それでその討伐戦争の準備はどうなんですか?」

「ああ。もうほぼ準備は整っている。何しろ上層部の亀のごとき意志決定速度のお陰で時間はたっぷりあったからね。新トウキョウ都市から1万2千。新オオサカ都市からも1万の兵をもってこれを駆逐する」

「そんなにですか……!」

 今回のグールの数は確か20万ということだったが、以前の新ヒロシマ都市の奪還戦争の際の敵の数が28万。こちらの軍勢は2万弱とかだったはずだ。比較するとかなり多く感じる。

「まあ、先日の防衛戦争での犠牲者の数を憂慮してのことだ。数が多ければいいって訳ではないかも知れないが、そう言う決定でね」

「なるほど……」

「ところで、ユキの言ってた4000人とかって戦力はどうなんですか?」

 ここでナナが阿倍野に質問をした。
 新キョウト都市奪還には新トウキョウ都市からS級40人、A+以上が4000人というのがユキの条件だったが、思えばオレはこの都市にどのくらいその対象になる隊員がいるかは知らなかった。

「うん。そうだね、君たちには知らせておこう。現在はA+級は約3400人、AA級約550人、AAA級90人だ。S-オーバーは26人いる」

「あれ? じゃあA+級はもう4000ちょっとはいるんですね?」

「……ああ。だが、都市から出兵させる許可は全隊員の6割まで。つまりこれから6600人程にまで隊員数を増やさなければならない」

 オレは阿倍野の言葉に耳を疑った。

「え? 6600? ど、どういう……?」 

「兄ちゃん、そりゃ全隊員揃って出撃は出来ないでしょ」
「そうですね。半分以上も出兵許可が出たのは阿倍野マスターの努力のお陰ですね」
「しかし、そうするとこれから2000人以上もA+級を増やさなきゃなんねーんだな」

 ナナやユウナ、アオイはすんなりと阿倍野の言葉を飲み込んでいた。

(そ、そういうものか……? いやでも!)

「あと2000人って、凄い多く感じますけど見込みはあるんですか!?」

 オレの質問に阿倍野はやや表情を曇らせた。

「厳しくはある。だが、東部都市圏及び新センダイ都市からも出兵の調整をしていてね。多分600人ほどが協力してくれそうだ。S級に関しても新トウキョウ都市以外から8名ほどは参戦してもらう予定だよ」

「って言ーと、新トウキョウ都市から3400人出すんだから、5600人位までA+級を増やせばいーんですか?」

「その通り。計算が早いね、アオイちゃん」

(……)

 間に合うのか?
 それがオレの率直な気持ちだった。
 今は3月が少し過ぎたところだが、戦力を揃えるのは今年中が期限だったはずだ。昇級試験は4、7、10月に行われる。毎回500人以上がA+級にならなければ追い付かない計算だ。

「佐々木くん。必ず何とかする、君もその時に向けて訓練を続けてくれ」

 阿倍野の言葉と表情からその覚悟と決意が伝わってくる。
 阿倍野もユキの出した条件を満たす為に必死の努力をしているのだろう。オレはそれを信じるしかない。

「分かりました。宜しくお願いします」



 そうしてオレたちは都市防衛の任務へと就くことになった。
 任務中はS級グールが数体現れたりもしたが、今のオレたちであれは問題なく討伐でき、ある意味平穏な日々を過ごしていた。
 
 2週間ほどが過ぎた頃、オレたちは都市の職員から防衛討伐の勝利の報告を聞いた。

 四国から本州へと侵入してきたグールは新オオサカ都市かワイズ本拠地に向かうだろうと言うこちらの予想を外れ、なんと二手に分かれ新オオサカ都市、そしてワイズ本拠地、トワスモアへと向かった。
 防衛討伐軍もこの2方面侵略に対応し、2軍に分かれそれぞれのグールに対応した。元々20万だったはずのグールの群れはそれぞれが何故か15万程の数にまで膨れ上がっており、合計30万もの数になっていた。
 ここまでの大群との防衛戦争は熾烈を極めたそうだ。
 
 今回は人型グールは現れなかったと聞いたが、新型の強力なグールが何体かいたそうだ。
 詳しくは分からないが、1体がSS級を大きく越える力を持っていたらしい。
 しかし新オオサカ都市軍では天王寺、司、虎影ら特級隊員とギルドマスターであるアイコの活躍により勝利を納め、新トウキョウ都市軍は都市から出撃した阿倍野の半身、そして二宮、欄島らのSS級隊員が大きく戦果を上げ、こちらも無事に勝利した。

 勝報を聞いてオレは一安心はしたのだが、今回の戦いでまたかなりの戦死者が出たとも聞いた。

 新キョウト都市奪還はまだまだ遠い。
 オレは強い不安と焦りを胸に抱えながらも日々の訓練と任務をこなしていた。
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