グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅳ

第169話 新トウキョウ都市防衛戦①

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 5月30日 9:00

 阿倍野たちとの会談が終わってからはすでに2ヶ月近い時間が過ぎた。
 
 オレたち吻野班はこの2ヶ月近くを任務と訓練に当て、さらに実力を伸ばしていった。
 吻野も大きく実力を伸ばしたし、もうセイヤ、ユウナ、アオイもいつS級になってもおかしくないほどの実力を身に付けていた。
 
 ナナたち菅原班は、新オオサカ都市へと転移した後は特段連絡はない。
 兄としては心配なところなのだが南部開拓任務が忙しいのだろうし、連絡が無いことが果報だとユウナにも言われていた。 

 オレとユウナは過日の会談の後に少し2人きりで話をした。
 初めて会ったときからオレがユウナを天使扱いしていたのは本当だとか、ユウナがグールと対峙しているオレの横顔が素敵だとか、お互いのいろいろな思いを打ち明けることができた。
 言葉にするのはむずがゆいが、オレたちは両思いだった。
 
 ユウナと話していて気付いたのは、オレはこんなにもユウナのことを大切に思っていたということだ。
 家族とは別の、人を大事にしたいという気持ちがここまで強くなったのは初めてかもしれない。
 オレはこれが愛情ってものなんだと納得した。

 ただ、オレはみんなの前でも言ったように、しばらくはユキたちのことに集中させてもらうことにした。

 アオイには後で「それとこれは関係ねーんじゃねーの?」と言われたが、オレはいくつものことに対してそんなに器用には立ち回れなし、そんなオレをユウナも分かってくれた。

 ただ、オレはユウナの気持ちは何よりも嬉しかったし、何があっても自分の命と引き替えにしてもユウナは守り抜くと、静かに1人心に決めていた。

「セイさん。いよいよだね。ナナちゃんたちももう新ヒロシマ都市へ攻め入ってるはずだよね」

 この2ヶ月でユウナはオレのことを名前で呼ぶようになり、敬語も外れた。
 ぐっと距離が縮まったようで嬉しい限りだ。

 オレたちは今吻野班の5人で作戦室に詰めていた。新オオサカ都市の開拓部隊が南部奪還戦争を行うのは今日だ。
 新トウキョウ都市にもいつグールが攻めてくるか分からない。

「ああ、ナナのやつ。うまくやってくれてればいいんだけど」

「ナナなら大丈夫よ。さあみんな、阿倍野さんのところへ集合よ」

「ああ、行こうか」

 吻野とセイヤの声に従って、オレたちは立ち上がった。



 ギルドマスタールームに入ると、阿倍野の前に二宮にシオリ、欄島に千城が控えていた。

「やあ、おはよう」

「おはようございます。これは……S級部隊を集合させた訳ですか」

 吻野がみんなを見渡して、阿倍野に挨拶しつつ意見を述べた。

「ああ、その通り。先ほど南部奪還戦争が始まったよ。当面の敵は12万だそうだ」

(もう始まってるのか!! 12万……!)

「今回は数が数だ。1日では終わらないかもしれない。君たちも戦争が終わるまではこの都市に攻めてくるグールに備えて、ここで臨戦態勢を取ってもらう。いいね」

「了解です」

「現在、新トウキョウ都市付近にもグールが集結しつつあるようだ。かねてからの諜報の報告通りだ。やはり奴らはこの期を狙っていたね」

「ところで新ヒロシマ都市の情報はそんなにすぐに入るのですか?」

 シオリが阿倍野に尋ねた。

「ああ、遠征大本陣部隊から新オオサカ都市を通して、こちらへ逐一報告がくる」

「そういえば、南部奪還戦争のトップは宝条マスターだったはずですが。新オオサカ都市は誰か特級隊員が防衛にあたっているのですか?」

 今度はセイヤからの質問だ。

「いいや、新オオサカ都市の特級隊員は全て新ヒロシマ都市へと出ている。だから西部主都もオレが守ってるよ」

「え? 分身ということですか?」

 オレもつい疑問が口をついた。

「そうそう。新オオサカ都市にもおそらくグールが攻めてくるだろう。だから、オレの半身を配置している」

「なるほど……」

「ちなみにゴウタとセイジンも新オオサカ都市に詰めているよ。新センダイ都市はアベルが防衛にあたっている」

(なるほど、戦力が増えた分そういう風に防衛もできるよな)

「私たちの出番はまだでしょう。みんな、今はここで英気を養うとしよう」

 二宮はそう言って配置してあった椅子に腰かけた。

「みんなも座ってね」

「オレは大丈夫です!」

 阿倍野が勧めるままオレたちは椅子に座ったが、欄島だけは大声を出して阿倍野の前に直立していた。

(そういえば、欄島さんは阿倍野さん信者だったな……)

 オレが何の気なしに椅子に腰掛けると、すぐに隣に椅子を引いてユウナも座った。
 ユウナは事あるごとにオレのすぐ近くにいてくれる。

 そして、目の前には千城がいた。

「佐々木! お前も相当に腕を上げたな! 実力はもうオレと大差ないぞ!」

「いや、そこまでじゃないですよ。階級はS-で確かに同じなのかも知れませんけど」

「何!? S級になったのか! それはめでたいな!」

「知らなかったんですか……?」

「ふふ、相変わらずですね。千城さん」

「おお! 月城! お前も……ん?」

(ん? 千城さんが言葉を切るなんて珍しいな)
 
「お前たち! そうかそうか! 良かったな!」

「え?」

「セイさん、私たちのことに気づいたみたいですよ。ほら、千城さんは特殊な能力があるから」

「ああ」

 千城はサイコメトリー能力がある。それでオレたちのことに気づいたらしい。
 ユウナはユウナで思考透視で千城の考えを読んだのだろう。

「これはめでたいな! 北部開拓をした皆にも後で教えてやったらどうだ!」

「え? 千城さん。でも北部開拓部隊のみんなはそれぞれの都市にいるはずでしょ?」

 アオイが何言ってるんだと声を出した。

「うむ! だが、各地方都市に侵攻がなかった場合は各都市のトップ部隊がここに送り込まれることになっている! そしてそれはほぼ確実だからな!」

「なるほど、では今日はまた皆と共に戦えると言う訳ですね」

「うむ! お前も腕を上げたな、結城!」

「しかし、皆どうやって新トウキョウ都市へ来るのですか? 転移術は阿倍野マスターか宝条マスターしか使えないはずでは?」

 セイヤの疑問は最もだ。

「セイヤ、各都市の市長に転移術のレクチャーをしたんだよ。条件はあるけど転移陣柱も各都市からここまで数班程度なら市長のみんなでも問題ないようにまでなったしね」

「さすがです! 阿倍野マスター!」

 阿倍野の答えには欄島が大きく反応した。

 オレたちはそんな話をしながら、これからの闘いに備えていた。



 5月30日 12:00

『都市の外郭へグールが接近! 数はおよそ6万!』

 ギルドマスタールームへ響く、防衛隊員の報告にオレは生唾を飲み込む。

「とうとう来たな。各部隊配置へ付かせろ」

『了解です! ただ、阿倍野マスター 一点報告致します!』

「なんだ?」

『6万のグールは全て海洋型のようです!』

「……ほう」

(海洋型? いつか見た恐竜みたいなやつか。でもそれが何なんだ?)

「やることは変わらない。皆、気を抜くなよ」

『了解しました!』 



 5月30日 16:00

『グール討伐数はおよそ38000! 防衛兵器、遠隔立体陣、主砲群が効いています!』

「よし、引き続き攻勢を弛めるなよ」

 オレたちはさっきからここで防衛隊員の報告と阿倍野の指示を聞いているだけだ。
 正直、前線に出て戦いに参加したいと思う。

「私たちはもうS級部隊。新トウキョウ都市のトップ部隊であり、主力の中の主力よ。まだ出番は先よ。佐々木くん」

 オレがそわそわしていると、吻野が釘を刺してきた。

「あ、ああ……。分かってるけど、やっぱりオレの考えは分かりやすい?」

「あなたは分かりやす過ぎるわよ。それにもうそれなりの付き合いだしね」

(そ、そうか……)

「セイさん、しばらく我慢だよ」

「わかってるよ。ユウナ」

 オレは阿倍野が目を向けているビジョンのようなものが気になる。あれに前線の映像が映っているのだろう。

「佐々木! 安心しろ! 前線では他のS級隊員もいる!」

「え? S級ってここにいる人たちだけじゃないんですか?」

「何言ってんだよ。東さんもいるし、他に4人いるだろーが。相変わらず佐々木だな」

 アオイがやれやれとオレに教えてくれた。

「そ、そうか……」

「みんな、聞いてくれ」

 オレたちが何気ない会話をしていると、阿倍野が厳しい顔をこちらへと向けてきた。

「新オオサカ都市にもグールの大群が攻め入ってきた。あちらも海洋型グールが6万だ」

「新オオサカ都市は大丈夫なのですか! 阿倍野マスター! もし必要ならオレたちが転移で援護に行くこともできると思いますが!」

 欄島も阿倍野の前とあっていつになくやる気を見せている。

「いや、その必要はない。今はね。新オオサカ都市の防衛兵器の規模は新トウキョウ都市の3倍はあるし、ゴウタたちもいる。こちらに集中しよう」

 阿倍野はやや怪訝な顔をしつつも、オレたちに待機を命じた。

「了解です!」

 新オオサカ都市、新トウキョウ都市、そして新ヒロシマ都市と3都市での同時戦争が始まった。
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