グールムーンワールド

神坂 セイ

文字の大きさ
上 下
162 / 264
CHAPTER Ⅳ

第161話 遠征討伐⑤

しおりを挟む
 オレたちは夥しい数のグールと戦いを続け、さらに1時間ほどの時間が過ぎようとしていた。
 オレたちにはライフシェルのバリアがあるが、吻野たちは丸裸でSS級グールと戦いを続けている。オレは感知で吻野たちの戦況を伺いながら銃弾を繰り出していた。

(あっちはジリ貧だ……! よくここまで持たせたと言うか、あのグールは本当に厄介だ!)

「東さん! モモさんたちがそろそろヤバイです!」

「……」

 東は銃を打ちまくりながらオレをちらりと見た。

「……よし。こっちの残りの敵の数は……1000体は切ったな?」

「はい! 残数はおよそ900ですね」

 中井が報告を返した。

「頃合いだ。では、オレが行く。ここはお前らで何とか持たせろ」

「あ、東さんが!?」

 ここから東が抜けるのは正直厳しい。だけど、吻野たちはこのまま放っておいたら負けてしまう可能性が高い。この判断は致し方ないだろう。

「ああ。オレも前にあのグールにはしてやられたからな。少しは目にものをみせてやりたい。……蜂群次元光ホーネットディメンションレイ!」

 東がオリジナルの技を展開すると、体の周りにはいくつかの光の線が駆け巡った。明らかに前見た時よりも力強い。

「これは……!」

「後は頼むぞ。二次元十字光線ツーアングルレイ!!」

ドン! 

 東は辺りから激しく光線の波を展開してA級グールを薙ぎ倒しつつ、バリアの外へと飛び出して行った。

「よし、東班長を援護だ!」

「了解です!」

 中井の号令でオレたちは敵への攻撃を続行する。やはり、東の手数が抜けるのはかなりキツイ。

「うおおお!!」

 オレもなけなしの魔素を振り絞って敵の数を減らしていた。東は直ぐに吻野たちと合流してSS級との戦いを始めたようだ。

「佐々木! 向こうはどうだ!?」

「アオイ! ああ、優勢だ! 東さんが加わって形勢が逆転してるみたいだな!」

「やりましたね! 後はわたしたちがここを堪えきれれば……!」

「吻野班! 無駄口聞いてる暇はねーぞ!!」

「3時方向から敵が侵入! 佐々木君、迎え撃て!」

「すいません、一ノ瀬さん! 中井さん! 了解です!」

 オレたちは何とか場を持たせているが少しずつ状況は悪化している。敵の脅威がオレたちを全滅させるか、オレたちがその前に敵の数を問題ない数まで減らせるか。
 どう転ぶかはまだ分からない。

(き、キツいな!!……ん!?)

ドドドドオオオオ!! 

 オレが敵の攻勢に息を切らせていると、突如グールの群れに強力な攻撃が浴びせられた。

「何だ、応援か!?」
「分からない! そんな連絡は入ってない!!」

 一ノ瀬と中井が大声で話している。

(何だ? 誰だ? 3人いるけど、どれも知らない反応だ!)

「お、オレの感知では知らない人たちです! 3人います!」

「そうね。あなたとは初めて会うわね」

「!?」

 オレたちの側に、いつの間にか感知能力で感じた3人の気配が近づいていた。

(は、早くないか!? ……えええ!!?)

 オレたちの前に現れた人物は3人。
 オレが驚いたのはその服装だ。
 1人は紫色の綺麗な着物に、黒い髪も艶やかにアップに整えた妙齢の綺麗な女性だ。もう1人はフレンチコートを着こんでタイツにヒールを履いていて、白髪のストレートヘアの女性。さらにもう1人は黒の厚みのあるダウンジャケットにスキニーデニム、ゴツメの黒いスニーカーを履いたポニーテールの金髪の女性だ。

 100年前の時代なら、たまに見かけるような格好ではあるが、このグールが蔓延る時代では異常にしか映らない。

「な、なんだ……? オレの時代からタイムスリップでもして来たのか……?」

「タイムスリップ? ……ああ、じゃあ あなたがそうなのね」

 着物姿の女性がオレに声を掛けた。

(うお、凄い美人だ! 化粧もしてる!)

「わたしはワイズの桜海さくらみという者よ。SS級グールを捕獲しに来た」

「ワイズ!!」

 確かにワイズのメンバーは理由は知らないがみんな現代(100年前)の服装をしている。
 前に見た桐生という男性はスーツ姿だったし、他の2人もスウェットとか、セーラー服だった。

「とりあえず、グールの群れが邪魔だったので少しはらった。この2人にもう少し掃除させるからあなたたちは邪魔しないで待機していなさい」

「……」

(え? それでいいのか?)

「反論は認めない。わたしは向こうのSS級を捕まえてくる」

ブンと音を立てて桜海は姿を消した。

(き、消えた!!)

「じゃあわたしらも……」

「ちょ、ちょっと待って!」

 グールに向かおうとする2人の女性に、中井が待ったをかけた。

「なによ?」

「き、君たちはワイズのメンバー。それは分かった。でも何故オレたちを助けてくれるんだ?」

「別に助ける訳じゃないわよ。クルミさんの命令ってだけ」

 トレンチコートの女性が面倒臭そうにオレたちを見ている。

(クルミ? さっきの着物の人か?)

「あなたたち弱そうだし? ちょうど良かったでしょ」

 今度はダウンジャケットの女性がやや侮蔑の視線を投げ掛けてきた。

「い、いや! 元々オレたちが戦っていた相手だ! オレたちも戦う!」

「そういう志は立派だけどね。足手まといだし邪魔。引っ込んでいてくれる?」

「そうそう。大人しくしてなよ。わたしらが後は始末してやるから」

「な……!」

 この2人の女性も相当我が強い。前に見たサヤカって女の子も怖いくらいの激しい気性だったが、多分それくらいじゃないとワイズという組織の中ではやっていけないのだろう。

 2人は絶句しているオレたちに1つ嘲笑を見せると、バリアの外へと出ていった。

「は!? 何だ! あいつら!」

「確かに助かったけど……」

 アオイとユウナもやや不機嫌そうだ。

「ふうー、まあいいだろ?」

 オレはべたりと地面に尻を付けた。

「佐々木! お前はあんな態度取られて何ともねーのか!」

「そうだ! 後からしゃしゃり出て調子乗りやがって!」

 アオイと一ノ瀬はかなり怒っている。この2人は結構性格が似ている。

「まあ、助かったのは事実だね」

「そう、ですね……」

「中井さんとユウナは冷静ですね。取り敢えず一息ついたらモモさんたちのところへ行きませんか?」

「は? ここは放っておくのかよ! まだ800体はグールがいるぞ!」

「アオイ、あの2人を見ただろ? 新センダイ都市で見たワイズのメンバーと同じく気が荒いみたいだし。近付かない方がいいって。それより、モモさんたちの方が気になるし」

「……」

 オレの気負いのない様子を見てアオイも気が抜けたようだ。何も言い返しては来なかった。

 オレは感知であの3人のおおよその強さは理解した。
 着物の女性は前に見た桐生と同格。
 あとの2人はサヤカ、アツロウと同格。
 みんなに分かりやすく説明すると、

「あの着物の女性はSS級、あとの2人はS+級の隊員並みの強さがあるみたいだ。揉めてる場合じゃないだろ」

「何!? そこまで分かるのか?」

「はい。一ノ瀬さん。だから今のオレたちがどうこうするのは難しいと思います」

「いや、だからと言って……!」

「でも、確かに佐々木さんの言う通りですね」

 ユウナがあごに指をやりながらオレに賛同した。

「モモさんたちのところへ行きましょう。それが私たちにとって一番得策だと思います」

「……まあ、ユウナもそう言うなら……」

 アオイが渋々ながら了承した。

「まあ、こうなったら仕方ないな。イチハもいいね」

「……ちっ。ああ、分かったよ。東さんの所へ行こう」

 中井と一ノ瀬も納得してくれたようだ。

「それにしても……」

 中井がオレを見ながら呟いた。

「? なんですか?」

「佐々木くんも成長したね。こんなに冷静な判断ができるタイプだとは思わなかったよ」

「いやいや、オレは感知能力がありますから! あの人たちの強さを知っちゃってるので戦うとか抵抗するって判断ができなかっただけですよ! ……それに……」

「それに?」

「はい。新センダイ都市でも思いましたけど、人間同士で争うなんてこんな時代ではやっぱり間違ってますよ。オレたちにそんな余裕はないです」

 そう、オレたちにはそんな余裕はない。
 人間同士で争うような余裕があるなら、御美苗や谷田部はあの時死なないように立ち回れたはずだ。

「佐々木さん……」

 ユウナが憐憫の情を瞳に写している。
 ユウナは思考透視能力が発現したらしいから、オレの気持ちを読み取ったのかも知れない。

「すいません、余計でしたね。行きましょう」

 オレたちはライフシェルを飛び出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...