グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅳ

第159話 激闘②

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「吻野隊員、しばらくぶりだな。相当に魔術の腕が上がっているな」

「東班長。ええ、ありがとう。今のでそれなりに数を減らせたわね」

 グールたちは吻野の魔術で相当数が吹き飛ばされた。オレたちはその隙に1ヶ所に集まり、一時作戦会議を始めることにした。

「だが、グールはまだ2000は残っているな。S級も1体いる。どう考える? 吻野隊員」

「このままライフシェルで敵を削りましょう。S級が前線に近付いたら、誰でもいい。東班、武蔵野班、吻野班のだれかで討伐すれば何とかなるでしょう」

「そうだな」

 東はそう呟くと、オレを見た。

「オレたちも、かなり強くなったな。佐々木。どの班でもS級1体くらいは討伐できるようにはなった」

「? そうですね」

「気付いてないだろうが、オレたち東班とお前たち吻野班と始めて出会った場所。それはここだ」

「え!? あ! そういえば……」

 オレは周囲を見渡すと、見覚えのある廃墟を見つけた。

(あれは、オレがフクロウグールと戦ったビルだ……)

「そうか、久しいですね。東班長」

 どうやらセイヤは気がついていたらしい。

「ああ、結城、月城、安城はあの時はA級4、5体に苦戦していたが、今は数百体を相手に出来るんだ。とてつもない成長だな」

「あの時は、モモさんが盾になってくれて……」
「ああ、でも今は並んで戦えるくれーにはなったんだな!」

 ユウナとアオイもちょっとした感傷を感じているようだ。

「だが、あの時は御美苗班もいた」

「……そうですね」

「訃報は聞いている。残念だ……が、オレたちがグールと戦うことが御美苗への手向けになるだろう」

「……」

「余計な話が長かったな。グールが近付いてきた」

 東が見ている方向から、何百というグールが牙を剥き出しにしてこちらへ向かってきていた。

「あ、あの……」

(ん? 訓練中の隊員さんか)

 オレたちに声を掛けてきたのは、剣を握りしめた背の高い青年だ。感知した感じ、おそらくB級ほどの階級だろう。

「あ、あなたが吻野さんですか? S級隊員だっていう……?」

「そうよ」

「ええ? こんなに華奢な女の子が?」

「……要件を言って。見ての通り忙しいんだけど」

(や、ヤバいんじゃないか?)

「オレたちも一緒に戦いますよ! 1人じゃあ、危険だ!」

「用はそれだけ? 早く下がってくれるかしら」

「そんな強がんなよ!」

 訓練生は吻野を強く呼び止めた。吻野のような女性が巨大な大群の中へ飛び込むような真似を放っておけないのだろう。
 その姿勢は立派だし、素晴らしい。
 だが、今の状況では時間の浪費でしかない。

「……東班長」

(あ、これは……)

「オレは気にしない」

「そう、分かったわ」

「何意味分からないことを言ってるんだ! あんなに大量のグールがいるんだ!! オレたちで力を合わせよう!」

「あなたみたいなバカは久しぶりね」

「は?」

二重帝級風嵐ダイテラストーム

ドドオオオ!! 

 訓練中の隊員が2、3人、宙を舞った。

(昔を思い出すな……)

「昔を思い出すか? 佐々木?」 

「言うなよ……、アオイ」

 アオイはケラケラと笑い、ユウナやセイヤも吻野と始めて会った時のことを懐かしむ様に笑っていた。

「なんだ?」

「東さん。佐々木も最初、ああやってモモさんに吹き飛ばされたんですよ」

 何が可笑しいんだという東にご丁寧にアオイが説明した。

「なるほどな」

(東さんも笑ってるよ! 何か恥ずかしいな……)

「彼のお陰でリラックスは出来たわね」

(モモさん。それはちょっとひどいような……)

「なに笑とんねん!」
「グールが多すぎやで!」
「早く来てや!」

 武蔵野たちはオレたちが話をしている間もずっとグールの群れを抑え続けるため、攻撃を続けていた。

「行くわよ!」

「了解!」

  オレたちはそうしてライフシェルのバリアの中でグールの殲滅を続けた。
 上級部隊である吻野班、東班、武蔵野班が揃えば、3000を越えるグールの群れもどんどんと数を減らしていくことが出来ていた。

「はあ、はあ。残りはもう1500だ!」

「大分減ってきたやん!」
「このペースなら何とかなるで!」
「おお! やったるぞ!」

 武蔵野たちも少し疲労が見え始めているが、確かにこのままなら勝てる。
 オレもそう思うが、S級が残っていること、今までの経験からくる勘がこの戦いにはそう簡単には勝利出来ないと告げていた。

ぞくり

(やっぱり来たか) 

 オレは背筋の凍る感覚と共に、新たに現れたグールのいる場所を見据えた。

「みんな……! 出たぞ! SS級だ!」

「よっしゃ……!」
「今回は倒してみせるで!」
「オレらが行くで!」

「何言ってるの。あなたたちだけじゃ無理よ」

「せやから! モモさんとオレらや!」
「おお! 戦い方はこの前で分かった!」
「オレらなら勝てるで!」

「……仕方ない。あなたたちを説得させる時間もないわ。では、私と武蔵野班で撃って出ましょう。やつの攻撃はこの結界を簡単に貫く。ここで迎え撃つ訳には行かないわ」

「おお! さすがモモさん!」
「話がはやいで!」
「よっしゃ、じゃあ行こうで!」

「待って。今回はもう1人、武蔵野班と連携の取れる、近接型……セイヤも一緒にお願い」

「ああ、もちろんだ」

「セイヤもか!」
「悪くないで!」
「絶対倒す!」

「東班長、いいかしら? あなたたちと、佐々木くん、アオイで残存のグール、そしてこれから攻めて来るであろうS級に対応して」

「了解だ」

「では」

ドン!

 吻野のセイヤ、武蔵野たちの5人がSS級に向かって飛び出して行った。
 
 ライフシェルの中に残ったオレたちは引き続き上級グールの群れを攻撃し続けた。

「ぐ! やっぱり5人も抜けるとキツイ!」

「愚痴んな! そっちにも来てるぞ!」

「私に任せて!」

 オレとアオイ、ユウナでグールを攻撃しているが、戦況はかなりの劣勢に変わってしまった。
 少しでも早くグールの数を減らさないと結界の中もグールで溢れ、北部支部の隊員たちがやられてしまうだろう。
 彼らももちろん一緒にグールと戦っているが、今は敵の数が多すぎる。

「何とか……持たすぞ……!」

 オレは銃撃を乱射してグールをバリアから引き剥がすが、ここでまた新たな気配を感じ取ってしまった。

ぼこり

 累々と倒れるグールの死骸がこぶのように盛り上がった。
 みるみるうちに巨大な人型に膨れ上がった死骸の塊はオレたちに向かってその足を向けていた。

「こいつは……!」

「最後のS級は能力持ちだったようだ。これは死霊術士ネクロマンサータイプの攻撃だな……! ここまでなぞるとはな」

 東の言うなぞるとは、オレたちが以前ここで戦った時の話だ。あの時も死霊術士ネクロマンサータイプにオレたちは苦しめられたのだ。

「いや! 東班長! あの巨人に群がられたらヤバいですよ!」

「S級は一番奥だ! 隠れてやがる!」

 中井と一ノ瀬が言うとおり、このままここで戦い続けるのは分が悪いだろう。ライフシェルの結界も巨大なグールに攻撃を受け続けたら直ぐに破られてしまう。

「……仕方ない。あのS級は最後まで矢面には出てこないだろう。オレが打って出る。この場の危険度は増してしまうが、あのS級をはやく仕留めないとオレたち全員が危ない」

 東が銃を担いでオレたちに宣言した。

(それで本当にいいのか……? 東さんがあのS級を倒すまでこの場が持つのか……? いや!)

「東さん! オレが行きます!」

「何を言っている。佐々木」

「東さんの手数のある銃撃がここからいなくなるのは危険です! オレが行ってあのS級を倒します!」

「な、何を言ってるんですか! 佐々木さん!」

「そうだよ! 無茶だぞさすがに!」

「ユウナ、アオイ! オレには新しい魔技がある。この中では適任だ! 任せてくれ! それに、オレはここであいつを倒したいんだ! こんなところでつまずいてたら、グールの王も人型グールも倒せない!!」

(S級の1体くらい倒せなきゃ……! 御美苗さんとノリコちゃんの為にも!)

「そんなこと言ったって……」

「本当にやれるのか……?」

「やる。やってみせる! オレはあいつを倒して、S級隊員になる!!」

「……」

 東は黙してオレを見ているだけだ。

「いいですよね! 東さん!」

「ああ、止めないさ」

「……!?」

 あっさりと東はオレの出撃を認めた。

「何を驚いてるんだ? 佐々木、お前はいつも強敵に立ち向かう強い意志を持っている。そんなことは前から知っているんだ」

「え、いや……」

「オレはな。お前のことを認めてるんだ。あのS級を倒せ。そして、S級隊員になれ。それが御美苗に報いることにも繋がる」

「……はい。ありがとうございます!!」

「佐々木さん!」

 ユウナがオレを祈るような目で見つめている。

「絶対に、死なないで下さい……!」

「ああ」

「勝って! ここに戻ってきて下さい!」

「ああ!」

 オレはみんなをぐるりと見渡して、ジェットブーツに魔素を込めた。

「行ってくる!!」

 オレは宙を舞い、ライフシェルの結界から飛び出した。
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