グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅳ

第152話 武蔵野班②

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「む、武蔵野くん!!?」

 オレは三つ子の戦友が突然現れたことに驚き、声を上げた。

「相変わらずのリアクションや!」
「オレらの期待通りやで」
「安心したわ」

「彼らが君たちを驚かせたいって言うからさ。ここに隠れているの黙ってたんだよね。びっくりした?」

 阿倍野が楽しそうにオレたちの反応を見ている。

(こ、この人は本当に……!)

「久しぶりだな、みんな」

 セイヤは冷静だ。

「おお、セイヤ!」
「なんやかなり強うなったんちゃう?」
「オレらと同じくらい強くなっとるな!」
「いやいや、よう見たらユウナちゃんもアオイちゃんもやで!」
「おお、ほんまや! すごいやん!」
「みんなかなりの成長しとる!」

 武蔵野たちは興奮して何やら一気に話を始めたが、阿倍野が手をパンパンと打って3人を静めた。

「はいはーい、そこまで。任務の話に戻るよー」

 どこかの学校の先生のようにそう言うと、話を再開した。

「じゃあ、皆で遠征討伐を頑張って。今回はSS級グール1体の討伐が最終目標だね。詳細は秘書官から資料を受け取ってね。よろしく」

(え? 終わり?)

「はい、解散」

「ちょ、ちょっと待ってください! オレの訓練確認がまだですよ!」

「ああ、そうか。忘れてたね」

「あ、阿倍野さん……」

 オレは呆れてしまうが、阿倍野はただ笑っているだけだ。

「ごめんごめん、それで新しい魔技は習得出来たのかな?」

「……新しいと言えるかは分かりませんが、属性付与の銃弾は撃てるようになりました」

「ほうほう、他には?」

「いえ、今のところは……」

 オレがそう答えると阿倍野は腕を組んで唸った。

「うーん、じゃあまだいいや。新技を身に付けてからまた見せてよ」

「え!!?」

「どちらにせよその状態じゃあ、ね。引き続き頑張って」

「そ、そんな……」

「ささ、早く退室して。次の予定が押してるからさ」

 オレは不承不承だが、ギルドマスタールームを出た。武蔵野たちと共に近くに控えていた秘書官から資料を受け取った後、中央部の上層部を離れた。
 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おお、A級がわんさかおるな!」
「やったるで!」
「ここはオレらに任してや!」

 オレたちは阿倍野から指令を受けた2日後、武蔵野班と共に遠征討伐へと出発した。

 今回は数週間は都市へ帰らない為、新たにライフシェルがオレたち吻野班には支給された。
 オレたちが北部開拓任務で使用していたものは修理された後、北部都市圏で使用するために寄贈していたため、今回からは真新しい設備だ。

 武蔵野班も自前の、かつてオレも使用させて貰っていたライフシェルを持ち込んでおり、長期間の任務も問題なくこなせる装備を備えていた。

 そうして2日ほど進んだところで、オレたちはとうとうグール群体を感知したところだった。

 A級グールおよそ80、B級グールおよそ260という敵だ。

 今のオレたちであればまあ苦戦はしないが、武蔵野たちは3人だけでこの敵を討伐したいようだ。

「大丈夫かしら?」

「おお、モモさん!」
「オレらに任してや!」
「AAA級のいいとこ見したる!」

 武蔵野班はそう言って、吻野の返事を待たずに飛び出した。

 武蔵野たちとはおよそ1年ぶりに再会したのだが、彼らはAAA級部隊となっていた。
 3人揃ってAAA級隊員であり、かなりの強部隊と言える。

「「「神級装甲剣シンアイアンクラッド!!!」」」

 武蔵野たちの叫びと共に、彼らの握る剣が光を帯びた。さらに3人の体もまた淡く光り始め、移動速度が一気に加速された。 

「うおら!」
「食らえや!」
「死ねコラ!」

 言葉のガラは悪いが、どんどんと上級の巨大なグールを斬り倒していっている。

「なんだ? あの技?」

「どうやら彼らのオリジナルの様だな。剣と身体を一体と化している」

「良く分かりますね、結城さん。でも武蔵野さんたちの持っている剣、あれは多分無形式入力対応のようですね」

「ああ、そのお陰でか、魔素の流れが特殊だな。私にはまだあれはできねーな」

「なんでそんなこと分かるの? 良く分かってないのはオレだけ?」

 オレの言葉にはみんなが苦笑していたが、吻野だけは違う。

「それくらい分かりなさいよ。あなたももうAAA級でしょ?」

「……」

(き、厳しいな。モモさん……)

 オレたちが話している間も武蔵野たちはどんどん敵を倒している。これだけはオレにもはっきりと分かったが、3人ともとてつもなく強くなっている。

 程なくして、グールの気配は完全に消えた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「みんなはさ、新しい剣を使ってるの?」

 オレたちは敵を討伐し終わった後、遠征の移動を再開し、今はホバークラフトに乗っていた。

「おお! 気付いた?」
「これがオレらの新しい剣や」
「アイコさんに貰ったんや」

 武蔵野たちは揃って剣を引き抜くが、オレは別にそこまで3人揃わなくてもいいだろと思った。

(あ、危ねえ!)

「わ、分かったよ! 狭いんだから剣を抜くなよ!」

「そうか!?」
「ホントにわかったんか!?」
「いや、セイくんは怪しいで!」

「いや、分かったって! オレもアイちゃんに作って貰った銃になったんだよ、ほら」

 そう言ってオレも魔銃を3人に見せた。

「おお、かっこええやん!」
「これもアイコさんが作ったん?」
「さすがやな! デザインがええな!」

「3人はさ、新しい魔技も開発したの?」

「あ、それは私も聞きたかった。どういう技なのか聞きてーな」

 ここでアオイが話に混ざってきた。
 まあ、同じ剣術士として興味があるのだろう。

「アオイちゃんも聞きたいん!?」
「ええでええで!」
「教えたる!」

「やっぱりおもしれー喋り方だな」

「そうやろ?」
「生まれた時からこうやで!」
「かっこええやろ!」

「そ、それでその技って言うのは?」

 このままでは話が進まないと思い、オレは口を挟んだ。

「おお、装甲剣アイアンクラッドって言うねん」
「こう、まず切っ先に魔素を集中させてな、身体にも纏わすねん」
「そんで身体能力もアップさせとる訳や」

「え? どういうこと?」

 オレは武蔵野たちの端的な説明では理解できなかった。だが、アオイは頷いているので分かっているようだ。

「魔素を最適化させてな、剣に出力すんねん」
「ほんで今度は剣から自分全体にも再出力や」
「おお、それで装甲っていう事やな」

(??)

「まあ、彼らのオリジナル技ね。その魔素入出力操作は3人でないと難しいみたいだけど、形式としては伊達マスターたちの技に似てるわね」

 吻野がオレの思案顔を見て助言をくれた。

「そ、そうなんだ……」

「佐々木くん、あなた新しい魔技の開発の参考にしようと思ってるでしょ?」

「あ、ああ。そう、何かヒントになればと思って」

「え? セイくん、また新技開発しとんの?」
「オレらと必殺技作って1年も経っとらんやん!」
「いや、1年は過ぎとるわ」

 オレが天狼弾セイリオスを開発できたのは武蔵野たちのお陰だ。また何かとっかかりでも掴めればと、オレは淡く考えていた。

「阿倍野マスターから言われてね。天狼弾セイリオス以上の技を開発してS級になれって」

「S級かい! すごいやん!」
「ペースが早いのう!」
「オレらと会った時はB級とか、A-やなかった?」

 武蔵野たちはオレの成長を自分の事のように喜んでいる。まあ、悪い気はしない。

「ふふ、佐々木さんと武蔵野さんたちは新オオサカ都市で一緒でしたからね。仲良しですね」

 仲良しなんて言葉は気恥ずかしいが、ユウナに言われると素直にそうだなと思えた。

「ああ、まあ。そういうこと」

「でもほんなら簡単やん」
「おお、セイくんはその魔銃があるしな」
「オレらと同じことすれば新技完成やな」

「え!? 同じ事って? ど、どういうこと?」

 武蔵野たちから急に新技が作れると聞いて、声が上ずる。オレは何ヵ月も考えていた、悩んでいたことだ。

「魔素の的確適正変換やん」
「オレらがやっとるやつ」
「無形式入力できるやろ? その銃」

「……??」

「そうか。セイ、わかったぞ」

 今まで黙っていたセイヤがオレに声を掛けた。

「セイの銃は確かに無形式入力、出力対応だと言っていた。だからセイの全兵能装甲最大化フルアームズ状態にした後、その魔素の入力をオリジナルで形態質性変化させればいい」

「お、おお」

「分かってないでしょ、佐々木くん」

「私が説明しますよ、まずは……」

 吻野が的確に突っ込みをくれて、ユウナが優しくオレに解説を始めてくれた。

 みんなのお陰でS級隊員に一歩近づく実感をオレは確かに感じていた。
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