グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅲ

第145話 北部奪還戦争⑮

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「浮かない顔をしてるね、佐々木くん」

 阿倍野がオレを気に掛けてくれている。

「は、はい。何故かイヤな予感が消えなくて……」

「イヤな予感? 君がか?」

「え? はい」

 阿倍野はオレの返事を聞くと黙り込んでしまった。

「だが、これ以上の特級は近場にはいないはずだぞ……」

(な、なんだろう?)

 阿倍野は何か独り言を呟いている。

「きっと、阿倍野マスターは佐々木さんの第6感覚による知覚を気にして、考えているんですよ」

 オレの疑問に心を読んだようにユウナが答えてくれた。

「第6感覚?」

「ああ、そーゆーことか」

 横にいたアオイも何かに納得していた。

「アオイも分かるの?」

 オレはアオイに顔を向けたが、返事は御美苗がくれた。

「ああ、佐々木の予感て言葉は一考するだけの根拠になり得る情報だよ。今までだってそういうことがあっ
ただろうが。お前の感知能力だよ。つまり、まだこれから特級グールが出てくる可能性があるってことだな」

(そ、そうなのかな……オレの予感ってだけだけど)

「ま、ここで悩んでてもしょうがないか。戦線に戻って残りのグールを討伐しよう! さあ、行こう行こう」

 阿倍野は切り替えて顔を上げると手をパンパンと叩いてオレたちを引率し始めた。

 そしてオレたちが移動を始めた時に、通信装置から隊員の声が響いた。

『ほ、報告! グールがさらに現れました! およそ10000! 全て上級グールです! C級4000! B級3000! A級3000です!』

「なに?」

 阿倍野もこの報告にはやや驚いているようだが、オレの言葉からある程度予想もしていたのだろう。

 それにしてもいつの間にか通信が届く距離にまで討伐軍は近づいているようだ。もしくは、グールの数が減った為に通信が効くようになったのかも知れない。

「こちらは阿倍野だ。都市内部にて特級グールを全て撃破した。しかし、最後の司令型。つまり特級グールがまだどこかにいるはずだ。そっちで確認出来るか?」

『あ、阿倍野マスター! 特級を撃破……!? あ、いえ! こちらの方では特級グールは確認出来ておりません!』

「……そうか。では総員、死力を尽くして戦え。最後の特級はオレが見つけ出して始末する」

『りょ、了解です!!』

 通信役の隊員の声もかなり上ずっている。かなり逼迫した状況なのだろう。

「さて、そう言うわけで、やっぱり佐々木くんの予感が当たったね」

 阿倍野は少し不機嫌そうな顔をしている。

「そ、そうなんですかね?」

「ああ、オレの術でこの都市全域を索敵したが、特級グールはもういないはずなんだ」

「阿倍野マスターはそんなことまで分かるんですか!? すごいです!」

 志布志が阿倍野に尊敬の眼差しを向けている。

「お、いいリアクションだね。うん、オレの術でね。S級とSS級に限定して広範囲感知してね。だけど、A級以下は逆に見付けられないからね。防壁の方の群体には気付けなかったよ」

「へええ!」

「最高です!」

 欄島も阿倍野に感激の声をあげている。

(欄島さんは阿倍野さんの前だと本当に人が変わるな……)

「さあ、行こう」

「了解!!」

 オレたちは防壁に向けて走り始めた。
 その瞬間、オレは今までに感じたことのない寒気を全身に感じた。

ゾオオオオオオオオ

(な、なんだ!? これ!? ま、まるで氷水に入ったみたいな……)

 オレが突然の事態に冷や汗を感じながら寒気を感じる元の方向、後ろを振り返ると、さっき桐生が姿を消した遠くの廃墟の上に人影が1つ見えた。

(え、S級グールか!? い、いや、でも何かが違う?)

「みんな!!」

 オレが今までに感じたことのない気配に焦り、大声を上げると、全員が後ろを振り返った。

「どうした、佐々木?」

「まったく、こんな時に何なのかしら。罪を重ねないで」

「どうしたんですか? 佐々木さん」

「セイ、急ぐぞ」

 御美苗、柊、志布志、セイヤもオレのことを見て、何事だという顔をしている。そしてオレの目線に気付き、遠くの人影に目をやった。

「な、なんだ!? あれは?」

 阿倍野が今までに聞いたことのない狼狽した声をあげた。

(え? 阿倍野さん?)

「ぐ、グールなのか?」

「え? 何を言っているんですか? どう見ても人間でしょう」

 吻野が眉をひそめて阿倍野に反応した。

 確かに、オレの目にも人間にしか見えない。

 老人だ。白髪の男性で年老いてはいるが、鍛え抜かれた体つきをしている。身の丈は2メートルはあるかも知れない。千城よりも巨漢だ。
 そして、なぜか江戸時代の町人のような着物を着ている。

 老人は廃墟から飛び降りて、こちらへ歩いてくる。

「なんなんですか? もしかしてまたワイズの構成員でしょうか?」

「確かに、あそこのメンバーはみんな妙な格好をしているものね」

 志布志と柊が話をしている。

「に、逃げた方が良さそうだよ」

 欄島が震えた声を出した。

「ら、欄島さん……?」

「さ、佐々木くんも分かるだろう! あれはヤバイぞ!」

「ちょ、ちょっと! 欄島隊員! 落ち着いて下さい! 取り敢えず、あの人に話を聞いてみましょう」

 御美苗がそう言うと、老人の方へ歩き出した。

「御美苗! やめろ!!」

 欄島が叫びをあげた。

 オレもイヤな予感がどんどん強くなっている。オレもどうしてあの人物からそう感じるのかは分からない。
 だが、オレたちの少し先にはっきりと見える人間の老人は、明らかにグールの気配を纏っていた。

「おーい、あなた……」

ドオオオオン!!!

 いきなり、爆音と共に御美苗が吹き飛んだ。

(え?)

「気安く話し掛けるな。害虫めが」

 オレの強化された耳に重く、おぞましいと感じる老人の声がかすかに届いた。

「コウ!?」
「コウ!!」
「御美苗さん!!」

 御美苗はオレたちの脇に転がってきた。
 
(え? 何? なんで!?)

 御美苗の腹から下が、無い。

「お、お、御美苗さん……?」

「貴様か? 儂の攻撃をずらしたな?」

 老人は歩きながらじろりと阿倍野を睨み付けると、オレたちにとてつもない殺気が大きな重い幕のように覆い被さった。

(う、うあああ……、な、なんなんだ……こ、殺される?)

「ぐっ、御美苗班長を治療しろ! 阪本! 北岡! 須田!」

 阿倍野は叫びを上げるが、3人は呆然と倒れた御美苗を見ている。

「急げ!! あれは敵だ!! 御美苗が死ぬぞ!!」

 御美苗班の3人が阿倍野の叫びを聞いて弾かれたように治癒魔術を展開し始めた。
 御美苗の腹からあり得ない量の血が出ている。

「害虫が」

 老人が手を振るうと同時に阿倍野が両手を胸の前に合わせた。

「金土遁!! 退魔金剛城塀陣たいまこんごうじょうへいじん!!!」

ドオオオオンンンン!!! 

 とてつもない衝撃波が辺りを包んだ。
 オレは目を瞑っていきなりの事態にただ怯えて耐えていた。

「遊撃部隊! 緊急退避だ! S級以外は全員逃げろ!!」

(な、何なんだ!? あれは…… 人間じゃないのか?)

 オレたちが少しずつ後退りをしていると、いつの間にかオレたちの直ぐそばに老人が立っていた。

「貴様は害虫にしては中々だな。だが、他はただの雑兵のようだ」

 老人は志布志班の横に立っていた。

ボン!!

 老人が手を振るうと、志布志班の谷田部が腰から上下2つに割れた。

「ノリコ!!」

 志布志が叫びを上げるが老人はつまらなそうに手を掲げた。

究極障壁セオシールド!!」

ドオオオオンンン!!!

 阿倍野が志布志班のメンバーに向けてバリアを張るが、そのバリアごと志布志班は吹き飛んでしまった。

「やはり貴様は違うな」

 阿倍野はさらにオレたちに結界を張ると、汗を流しながら老人を睨み付けた。

「お、お前はグールなのか?」

「……害虫が」

ドオオオオンンン!! 

 老人はさらにオレたちに衝撃波を繰り出すが、阿倍野が何とか受けきっていた。

「ぐっ……」

「ほう、3度も儂の攻撃を弾くとは、貴様は何者だ?」

「お、オレか? ただの人間だよ。新トウキョウ都市のギルドマスターだ。もしかして、お前がグールの王なのか?」

(グールの王?)

「王の存在を知っているのか。面白いな、貴様は」

「違うのか?」

 阿倍野は相手と話をしながらオレたちへ下がれと手を振って合図を送っていた。

「儂はただのグールだ。天敵である貴様ら人間を殺しに来ただけだ」
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