グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅲ

第119話 未踏領域開拓任務⑨

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「え? オレもですか? オレだけ班長じゃないけど……」

『佐々木くん、ぐだぐだ言わないで。あなたももうAA級相当の、私達の中でも高い戦力があるでしょう? 覚悟を決めなさい。ここに残る各隊員は私に従って』

(オレがAA級相当? マジかよ……買いかぶりすぎじゃないか……?)

「セイ、行くぞ。時間が経つ程状況は悪化する」

「あ、ああ」

(セイヤは凄いな、冷静そのものだ。セイヤだってかなり消耗しているはずなのに……、やっぱイケメンだからか?)

『佐々木くん、急ぎましょう。あなたの後ろは私に任せて』

 柊が頼りになる言葉を通信でオレに掛けてくれたが、間違いなく後ろからオレを斬り倒すつもりだ。離れた場所で何故か嬉しそうに笑っているが、確かな殺気を感じる。

「いえ! オレが後ろから銃弾で援護します! 柊さんは前でお願いします!」

 柊が少し残念そうな顔をしているのが分かった。
 
 スカイベースの先頭にオレたち5人は集まり、眼下のグールを見下ろした。
 今からあの中に飛び込まなくてはならない。

 そして御美苗がオレたち5人の一番前に立ち、号令を掛けた。

『よし、仕方無い! 気は乗らないが、行くぞ! まずは千城さんと合流だ!』

『了解!』

 御美苗の号令でオレたちは空に飛び出した。
 オレと志布志はジェットブーツを使い、セイヤと柊は飛行の魔術を使っている。御美苗は良く分からないが両手に短い槍を持ち、それを使って飛行しているようだ。

「御美苗さん! それは!?」

「ああ? 翼代わりに使える魔導具だよ! お前の前では使ったことなかったな! でも何で鏑木はこれを知ってたんだか!」

 確かに、鏑木はオレたちの能力をかなり細かく理解しているようだ。でなければ即座にこんな人員も選抜はできないだろう。

『私は千城隊長から今回の任務資料を丸投げされてるから、この部隊全員の能力を一応全部頭に叩き込んでいただけよ』

 オレたちの声が届いていた鏑木が事も無げに答えた。

(な、なるほど……鏑木さんも大変だな……)

「なるほどな! じゃあ行くぞ!」

「了解です!」

 オレたちは千城を目視し、周りに群がっているグールに対して攻撃のために魔素を練り始めた。

二重天狼弾クリアスセイリオス散弾付与ショット!」
神級飛斬散弾剣シンストラッシュショット!!」
神級貫通散弾槍シンペネストレイションショット!!」
神級砲弾散弾剣シンキャノンショット!!」
三重帝級水冷散弾トライテラアイスショット!!」

ドドドドドオオオオオ!!!!

  オレ、セイヤ、御美苗、柊、志布志は渾身の攻撃がグールに炸裂し、一気に千城を囲んでいたグールを吹き飛ばした。

 オレは今気付いたが、志布志の銃弾は氷の魔術を付与しているようだ。そういった銃撃の技術もあるようだ。

 そしてそのままオレたちは千城のそばに着地した。

「千城さん! 無事ですか!」

「うむ……! 御美苗か? 良く来てくれた……!」

 千城はボロボロだ。もうこのまま倒れても不思議ではないほどのダメージを受けている。はっきり言って重傷で痛々しい。

「千城さん、また無茶して! あっちに移動しましょう、携帯結界があります!」
 
(そうか! それがあった!)

「ああ!」

 御美苗の提案でオレたちはすぐ近くにあった携帯結界に近づくと、自動的に物理障壁と治癒結界が展開された。これで少しは安心だ。

 オレたちは総攻撃で一帯のグールは吹き飛ばしていたが、どんどん後続のグールがこちらへ向かって来ている。もうすぐそこまで迫っている。

「千城隊長! 今治癒を! 帝級治癒弾テラヒールバレット!」

 志布志がそう言って迷いなく千城に光の銃弾を打ち込んだ。
 オレは一瞬焦ったが、治癒能力付与の銃弾らしい。
 志布志は魔銃術士というところだろう。

(そういうのもあるんだ……)

「うむ! 大分楽になった! 助かったぞ! もう平気だ!」

「いえそんな! ありがとうございます!」

 千城はこう言っているが強がりだろう。今までに受けた深いダメージはそう簡単には治らないだろう。

「よし! じゃあ、魔方陣を取り付けた小型拠点を復旧するぞ! 千城さん、オレ、柊隊長でここで敵を食い止める! 結城、佐々木、志布志で復旧作業を頼めるか!」

 御美苗が場の建て直しに忙しく指示を飛ばした。

「魔方陣?」

 御美苗の指示を聞いた千城が疑問の声を出した。

「ええ! 小型拠点4ヶ所をつないで連結魔方陣を作ります! それで大規模設置魔術を発動して敵を殲滅って作戦ですよ! むこうに150のところにあった小型拠点が吹き飛ばされて、その復旧と千城さんの救援でオレたちが来たんですよ!」

 御美苗が素早く千城に行動目標を伝える。
 御美苗は千城が作戦概要を理解していないのが当たり前という話し方だ。たぶん、いつもこうなのだろう。

「ほう! なるほど!」

(え? やっぱり分かってなかったのか……)

「いいですね! 隊長! じゃあ皆動け!」

「「了解!!」」

 オレたち、オレとセイヤと志布志は携帯結界を抜け出て走り出した。すでにオレとセイヤは高速度機動で移動している。志布志も十分素早いが、オレたちよりはやや遅れているため後ろから銃撃の援護をしてくれていた。
 ある程度のグールは無視して、その巨体の脇をすり抜けて小型拠点へと向かった。

 御美苗や千城、柊もかなりの攻撃をグールに繰り出し、その進撃の遅滞に成功していた。

(よし! これなら直ぐに魔法陣を戻せそうだ!)

 オレの前を行くセイヤにB級グールが数体近付いたのを感じ、オレは足を止めて敵を迎撃した。
 セイヤは吹き飛ばされた小型拠点の直ぐ傍までたどり着いていた。

「セイヤ! 拠点装置を頼む!」

「ああ! 任せておけ!」

 オレが銃撃を続けていると志布志がオレを追い越し、拠点の復旧場所にいたグールを撃ち始めた。

「結城さん! 第1ポイントを確保します! こっちへ!」

「ああ!」

 拠点の吹き飛んだ位置、第1ポイントの位置、千城達のいる位置は距離で言うとそれぞれ200メートル弱だ。
 すぐにセイヤは装置を舞うように拾い上げ、高速機動でグールをかわしながら志布志の確保した復旧地点へとたどり着いた。

(よし! もう少しだ! 後はまた千城さんたちの所へ戻ってスカイベースに帰還すれば!)

 オレがこの場の脱出をも考え始めたその時。

ぞくり 

「な……! 嘘だろ!?」

 オレはここで新なグールが現れるのを感知した。

(こ、この感覚は覚えがある……! あの時の……!!)

「せ、千城さん! 御美苗さん! 聞こえますか!たった今、グールが出現しました!!」

『なに!? 点滅型か?』

 御美苗がオレの叫びにがなり返してきた。

「いえ! これは……、S級グールです!」

『なに……!?』

ぼこり

 御美苗がオレの報告に驚く中、あたり一帯に累々と転がるグールの死体が山のように突然膨らみ始めた。
 それもひとつふたつではない。何十という数だ。

「こ、これは……!」

 志布志があたりを見渡して驚愕の表情を浮かべている。

「前にモモさんが倒したS級です! グールの死体を操るグールです!」

 オレがそう千城と御美苗に報告を入れている間にも千城達のいる周り、セイヤと志布志のいる周り、そしてオレの周りにも、グールの死体を集めて出来た巨大な怪物が立ち上がっていた。

『これでは小型拠点装置を復旧しても、直ぐにまた吹き飛ばされてしまう! 御美苗班長! 千城隊長!』

 セイヤが声を上げた。

『うむ! 仕方あるまい! シェルターベースに戻るのは後だ! 我々はここでこのS級グールを討伐するぞ!』
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