グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅲ

第112話 未踏領域開拓任務②

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「い、色々と分からないことがあるんですが?」

 オレはつい阿倍野に質問を投げ掛けた。

「まあ、そうだよね。説明するよ。皆も改めて聞いておいてね。まず、前提としてオレたち新トウキョウ都市は新センダイ都市奪還をひとつの大きな目標としている。そしてそのために新センダイ都市に蔓延っているだろうグールの大群に対して戦争を仕掛けるつもりだ」

(グールと戦争……)

「だが、いきなり遠く離れた場所へ大勢の討伐隊員達を送りこむことはできないよね。行軍の間にグールに襲われたら軍容を削られてしまう。だからその下準備として、新センダイ都市との間に中継基地を4ヶ所設置することとした。場所は違うとは言えその基地設置の手順は、佐々木君達はもう知っているはずだよね?」

「え、ええ」

「今度はそれを未踏領域。つまり人類が活動していない地域である北部地域で設営して欲しいんだ。そしてその4ヶ所と新トウキョウ都市を連携させ、兵站を築く。未踏領域はどんな規模のグールが現れるかは未知だ。だから隊員も各都市から選りすぐったメンバーなんだよ。ちなみに各都市の最強と言われる班を集めた」

「私たちは違いますけどね」

 柊がふいに呟いた。オレは柊の方を向くと、何故か彼女はこちらをじっと見つめていた。

(や、ヤバい……忘れてた。柊さんはオレのことが嫌いなんだ……)

「ああ、柊班は客分隊だ。今回は新オオサカ都市からも助力を頼んでいる。この任務が終わったら、今度はこちらから新オオサカ都市へと客分隊を送り込むことになっている」

「千城支部長がS-級とおっしゃいましたが。S級の規定が変わったのでしょうか?」

 今度はセイヤが疑問点を上げた。

「ああ。毎月生産される魔導石の導入により、S級隊員の数も今後増えていくと予想される。そこでS級という階級をさらに細分化し、上限を上げた。S-、S+、SS、SSSと分けている」

「……それで千城支部長がS級になったと」

「うむ! だが、オレはもう支部長ではないぞ!」

「うん。リンタロウは特A級魔導石によってS-級に昇級して、支部長の職からは離れた。現在の北部支部長はヨウイチだよ」

「え! 東さんですか!?」

 オレは驚いたが、東であれば支部長も問題なく務まるだろうとは思った。

「ああ、ヨウイチもAAA級になってるしね。あ、それにモモはS+級になってるよ」

「モモが……、いつの間に……、だが、喜ばしいことだ。S級からさらに昇級することができたわけですね」

 セイヤが少し寂しそうな顔をしたが、すぐに刎野の昇級を喜んだ。
 少しずつ追い付いて来た所を引き離されたという気持ちなのだろう。

「うんうん、そうそう。あとはタモンがS+、マサオミがSS級になったよ」

「マサオミ?」

「二宮マサオミ隊員ですよ。知らないんですか?」

 オレの問いに答えたのは阿倍野ではなく、新オオミヤ都市の隊員の鏑木という女性だった。
 かなりの長身で180以上ありそうなモデル体型の青髪の女性だ。

「え? そ、そうですね。あ! でも二宮さんという方は知ってますよ。東部都市最強という方ですよね!」

「……新トウキョウ都市の中央に所属して、二宮さんのフルネームも知らないの?」

(あれ? なんか怒ってる?)

「まあまあ、サオリちゃん。彼はマサオミのことは見たこともないと思うからさ」

「……」

 鏑木がオレを細目で見ている。

(も、もしかして睨まれてるのかな……)

 そっと視線をずらすと今度は柊がオレを見ていた。もちろん、オレを睨んでいる。

(な、なんでこんな目に合うんだ?)

「佐々木くんは新オオミヤ都市へは行ったことがないと思うけど。彼女が都市最強部隊の鏑木サオリ隊員。あとで挨拶はしといてね」

「は、はい」

「そして彼女の姉である鏑木シオリ隊員が先日、特A級魔導石により、S-級隊員となった。ちなみに鏑木シオリ。二宮マサオミ。それに現状の鏑木班はもともと新オオミヤ都市で二宮班だったんだ。マサオミとシオリが2人で新トウキョウ都市へ来て、マサオミがS級になり、シオリが西部支部のエースとなったという流れがあるんだよ」

「え! に、二宮隊!? あ、そこから抜けて……じゃあ鏑木さんは二宮さんとは長いお付き合いなんですね」

「べ! 別に付き合ってはないけどね!」

 突然、鏑木が声を荒げて反応した。

(おや……これは……?)

「と、とにかく私はこの任務を新オオミヤ都市代表として立派に果たしてみせます!」

「うん、ありがとう。じゃあ、今週はリンタロウを中心に任務の打ち合わせをして、来週から基地設営を頼むよ」

「あの……」

 手を上げたのは山崎班の鈴子だった。オレはかつて彼女に親身に治療をしてもらったことを思い出した。

「なんだい?」

「すみません。私なんかが。ここにいるのは各都市の最強部隊ということですが……」

「うん」

「この任務が進むと私たちはかなり北部で任務にあたることになります」

「それで?」

「私たちが不在の時に、各都市へグールが侵攻してきた場合、一班のみとは言え、支柱たる最強部隊がいないのはかなり危険なのでは? 新センダイ都市を奪還する前に、もしかしたら地方都市が陥落するかもしれません」

(そ、そうかな? 4、5人いなくなったからと言っていきなり都市が陥落したりはしないんじゃ……)

「うんうん。よくそこに気が付いたよね。ええと、鈴子さん。だけど、安心して欲しい。そのために今年の頭から各都市の中継基地を設営してきているんだ」

「あ……なるほど」

「わかってくれたかな? いやー、理解が早くて助かるな、ま、そういうこと!」

「え! どういうことですか?」

「佐々木くんはよくしゃべるねー。まあ、つまりね。各都市の先頭に立つ班が不在の際、必ず都市の防衛網はどこかしら綻んでしまう。頭がいない組織と同じでね。現場もトップが大事なんだよね」

「は、はあ」

「トップ部隊のいない防衛戦争ではおそらく本来の半分程度の実力しか出せない」

「え!? さすがにそれはないんじゃ……」

「いや、甘いね。精神的支柱がいないというのはそれだけ一軍に影響を与える。確かにその隙をグールに襲撃されたらかなり危険だよ。陥落も十分有り得る」

 阿倍野はふうと息を吐くと、言葉を続けた。

「そういった危機に駆けつけるのが、各都市の中継基地の隊員達だよ。各基地には100人以上の隊員を駐屯させるつもりだからね。そこから連携した援軍を出せば、各都市の戦力を半分に見積もっても問題ないと想定している訳さ。だから君たちを未踏領域に送り込むんだ」

(そ、そうか……そうするともうかなり前から北部への進撃は計画されていたってわけか……)

「なるほど、ですがもし想定を上回る戦力が攻めてきた場合はどうするのでしょうか?」

 今度は山崎が阿倍野に質問を投げた。

「……1度痛い目に合っているだけ、新ツクバ都市は慎重だね。いや、それが悪いという訳じゃないよ。山崎くん」

「ありがとうございます」

 新ツクバ都市は10年前と昨年、グールの大群による侵攻を受けている。10年前の侵攻では甚大な被害が出ているし、ユウナやアオイ、それに山崎の親族もその時に犠牲になったと聞いた。

「もし都市の隊員、及び中継基地の隊員でも対処出来ない場合は、新トウキョウ都市中央から援軍を出す。具体的には、S級隊員1名以上、A級部隊を3班以上だね。転移術で即座に送り込む手筈だ」

「なるほど、そのために各S級隊員は各都市の巡回を兼ねてS級グールの討伐をしていると……」

(あ、そういうことなのか。そうやってモモさんや欄島さんに土地勘や各都市との関係を作らせているというのもあるのか……)

「うん、わかってくれたかな? 他に質問は?」

 阿倍野が皆を見回すと、今度はセイヤが小さく手を挙げていた。
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