グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅱ

第99話 東部遠征⑩

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「あ、あ、あ、あ、阿倍野さん!?」

「やあやあ、佐々木くん。まさかSS級なんかに狙われるとは、君はついてないねー」

「……」

 阿倍野が場違いな明るい声をあげる。
 オレは事態がうまく飲み込めない。

(え? は? 阿倍野さんは新トウキョウ都市にいるはずじゃ……? なんで、今、ここに……??)

「まあ、少し待ってて」

 阿倍野はそう言うと、両手の指を組んで忍者のようなポーズをとった。

「分身の術」

ボン

 なぜか煙を上げて阿倍野が3人に増えた。

「……!?…………?? ……?」

 オレはもう全く意味が分からない。
 頭がパンクしそうだ。

「じゃあ、オレはこの空中陣の修復と、みんなの手当てを」
「じゃあ、オレは下に落ちた隊員を助けて、ついでに下のグールの掃除を」
「じゃあ、オレはこの目の前のグールを、さっさと掃除しよう」

 ババッと2人の阿倍野が姿を消すと、残った1人の阿倍野はグールと対峙した。
 阿倍野は余裕そのものと言った雰囲気を全身から醸し出していた。相手がSS級グールだというのにだ。

ガアアアア!! 

 グールは突然の事態に少しあっけに取られていたようだったが、すぐに阿倍野に敵意を向けて背中の光陣が激しく光り、光の弾丸を何十発も打ち出してきた。
 明らかにさっきまでより、密度も量も上だ。

(やばい! 一発でも食らったら!)

「そんなんじゃ効かないなー」

 阿倍野が軽い言葉と共に腕を振るうとグールの打ち出した攻撃がなんと消えてしまった。

ガアア!!ガアアアアアア!!!

 グールは怒っているのだろう。咆哮を上げると今度はとてつもないスピードで阿倍野に突進した。

ドオン!

 グールは全身を光らせながら阿倍野に体当たりをした。弾丸のような速度で、身体を魔素のバリアで身を包み、信じられない威力に見えた。が、阿倍野はなんと片手でそれを受け止めていた。

「いやー、なかなかの攻撃だー」

ドガアアン!!

 阿倍野はグールの頭を殴りつけると、グールは地面に激しく陥没しながら突っ伏した。

 オレたちの攻撃を笑っていなしていたグールは頭からはかなりの血を流していた。

アアアアア!!

 グールが絶叫を上げながら距離を取るが、阿倍野は平然として片手の人差し指と中指を立てて忍者ポーズをとった。

「火遁、焦魔業炎」

ボオオン!!

 阿倍野が詠唱?をすると突然グールから炎が立ち上った。だが、その辺の焚き火のような揺らめいた炎で、オレには大した攻撃力はないように見えた。

ギアアアアアア!!!

 だが、その炎はグールの体を激しく焦がしてただことではない威力を秘めていることを示していた。
 たまらずグールも悲鳴を上げながら阿倍野に再度突進した。

「あれー、また来るの?」

 だが、グールは阿倍野の少し前で急停止すると、背中の光陣をチャクラムのように阿倍野に投擲した。

 対する阿倍野は落ち着いて手を振るうと、そこから10発くらいの光の針が打ち出されていた。

バチチチチチ!!!

 グールの光陣は光の針の何発か程度で無力化されたようで、蒸気を上げて消えてしまった。光の針の一発がグールの左肩に突き刺さったが、なんとグールの肩を吹き飛ばしてしまっていた。 
 もう辛うじて腕が繋がっているような状態だ。

アアアアア……!!

(あ、圧倒的だ……! 信じられない! こ、こんなに強かったのか……!)

 グールの叫びも力が無くなってきたように感じる。
 再び阿倍野が指を立てた。

「水遁、溶魔重水」

バチャアン!
 
 阿倍野が指を立てて何やら呟くと今度は突然宙の何も無いところから水が飛び出てきてグールに浴びせかけた。

ジュウウウウ!!

ガアアアアアア!!!!

 水を浴びたグールの体が激しく焼け爛れていき、さっきの攻撃でダメージを与えた左腕は肩からぼとっと地面に落ちてしまった。

アアアアア……

(す、凄すぎるだろ……! これ、グールはもう動けないんじゃ……)

「さてさて、じゃあ……」

 阿倍野が何か言い掛けたその時、グールに突然光る縄のようなものが飛んできて巻き付いた。

(こ、今度は何だ!?)

「阿倍野ギルドマスター。お久しぶりです。さすがに凄まじい戦闘能力です」

「まあ、リーダーが警戒するだけはあるかな?」

「だが、我々の任務には好都合でした」

 突然、オレたちの後ろから知らない声がいくつも聞こえた。

「おやおや、君たちは……」

「何年振りですかね、阿倍野さん」

「ああ、桐生か……、何しに来たの?」

 オレたちの後ろにはいつの間にか3人の男女が立っていて、阿倍野が桐生と呼んだ男は明らかに突出した魔素を放っていた。

 全員この時代では見かけないオレが元居た時代のような服装をしている。ブリティッシュスーツ、スエットを着た若い男性2人に、セーラー服を着た女の子だ。

(こ、この人たち……、都市では見たことはないけど、全員S級なんじゃ……? 凄い魔素を感じる!)

「いや、実はオレたちは強いグールを集めているんですよ」

 スーツ姿の桐生という男が阿倍野の問いに答えた。
 何でもないような態度だいるが、阿倍野の動きを警戒していることに気付いた。

「ふーん、グールを集める? それがリーダーの命令なの?」

「ええ、まあ、そうですね。なのでこのグールは我々が頂きますよ」

「へえ、強気だねぇ」

ドオオン!

 突然、音すら立てて阿倍野が3人に向けて威圧波のようなプレッシャーを放った。
 オレにはこの威圧は向かってきていないが、とてつもない波動とでも言う力を感じる。

「……!!」

「こ、これは……」

「ちょっと想像以上かな……」

 3人が冷や汗を浮かべている。オレは最初この人たちは新トウキョウ都市の人間かと思ったが、どうやら違うようだ。

 明らかに阿倍野は相手を仲間とは見ていない。

「あ、あなたとはまともに戦っても我々に勝ち目はない。だが、こういう場合にも我々は備えています。だからここに来た。このグールは絶対に我々がもらっていく……!」

 阿倍野は余裕の表情だ。
 圧倒的な強さを見せていたSS級がもはや蚊帳の外へと追いやられている。

「へえ、言うようになったねぇ。それにそんな横取りみたいな真似をしてオレから逃げられると思ってるんだ?」

 桐生という男が笑った。

(なんだ……?)

「また会いましょう。阿倍野さん。限定隔界招門リミテッドサモンゲート

 激しく3人が光ったかと思うと、すぐに姿が見えなくなった。
 SS級グールも消えてしまった。

(今のって! 阿倍野さんの転移術か!?)

「これは……してやられたな。まさか転移術まで盗まれてるとはね……」

 阿倍野がやや悔しそうに呟いた。

(盗まれた……?)

「ま! しょうがないね! 佐々木くん」

「は、はい」

「結城くんや、月城さん、安城さん、ヨウイチも。まずは治療だね。神級治癒結界シンヒールドーム

 パアッと辺りが淡く輝き、オレは体が一気に楽になっていくのを感じた。

「みんな、よく頑張ってくれた。下のグールは殲滅したし、もう敵はいない。ゆっくり休んでくれ」

(も、もう全滅させたのか?)

 阿倍野の分身体2体はそれぞれグールの殲滅と司の救出、空中陣の修復と維持の延長の作業、武蔵野達と中井、一ノ瀬の救出を済ませて消えた。
 
 阿倍野1人でオレたち全員分を越える働きをしている。

 空中陣自体はこのまま阿倍野と共に新トウキョウ都市に向かうらしい。

 直線的に進める空中陣、そして阿倍野の魔素を使った移動速度ならば、ものの1日程で新トウキョウ都市に到着できるとのことだ。

 オレ達は6000を越えるグールとの戦いは終わったのだと理解して、その夜はライフシェルでゆっくりと体を休めた。
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