グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅱ

第91話 東部遠征②

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 オレたちの旅路は順調で、すでに1週間の移動を進めていた。途中何度かグールの襲撃はあったが、ほぼ全員がA級隊員のこの部隊にとっては、A級グール群体ですら役不足だった。

 夜営は武蔵野たちも使っていたライフシェルに宿泊していた。ユウナなんかは荒野でもこんな場所で眠れると凄い喜んでいでかわいかった。
 
 夜間の見張りも人数がいる分楽だ。
 だいたい2人ずつ見張り番を立てるが、11人もいるとそんなに辛くもない。




「折り返しは過ぎたようだな」

 今日も十分に休息を取り、宿泊設備のライフシェルを出て、すでに移動を開始していた。
 少し歩き飽きて、会話も無くなっていた頃に東が呟いた。

「半分は来たということですか?」

 セイヤが東の呟きに反応した。

「ああ、大きい山が見えるだろう。あれが目印だ」

 そう言って東は遠くを指差した。オレはよく知っている山だ。もちろん、富士山だろう。 
 だが、オレの知っている形ではなくなっている。何かミサイルのようなものが打ち込まれたのだろう。山の中腹がゴッソリとクレーター状にえぐれてしまっている。

「ああ、日本のシンボルがあんな姿に……」

「あ? 何言ってんだ、佐々木?」

 オレの嘆きをアオイがどうしたと聞いてきた。

「アオイ、お前はもしかしたら知らないだろうが、あの山は富士山て言うんだ。日本という国を象徴する日本最大の名山なんだよ。毎年多くの登山客が訪れるし、外国人観光客もたくさん登山に来るんだぞ」

「国? 観光客? たまに聞くけど、お前の100年前の話はやっぱ良くわからねーな」

「……」

 基本的にこの時代の人間は国という概念がいまいち理解できないらしい。確かに今の日本はいくかの都市でだけ生活をして、海外の情報は皆無だ。
 毎日を生きることに必死なのだ。観光だの、国境だの考えている暇はないと言うことだろう。都市と都市は区切れているが、あくまでグールに対応するに防壁があるだけだ。

 オレはそれを寂しくも思ったが、この時代になってボーダーが無くなったんだと、少し皮肉にも感じていた。

 オレたちはそのまま行軍を続け、昼を過ぎた頃だった。

「みんな、止まってくれ」

 司が最後尾からみんなに声を掛けた。
 オレたちは今までも何度か同じことを経験している。
 司はS級隊員らしく高い感知能力でいち早くグールを見つけて、報告してくるのだ。

「……グールを感知した。みんな、今回は一筋縄じゃいかないかも知れない」

「なに? どの程度の規模なんだ?」

 班長である東が率先して司に聞いた。

「……」

(え? 何で黙るわけ?)

「まだ、感知仕切れない。すごい数だ。A級600、B級1000、C級が1200以上……かな」

「ええ!! そんなに!?」

 オレは大声を出してしまう。

「ああ、また佐々木かよ! うるせえな!」

「あ、アオイ。すまん」

「佐々木さんのビックリアクションは毎度ですから」

(ビックリアクション??)

「ああ」

 ユウナとセイヤは何だかオレの大声には慣れてるようだ。ユウナは変な言葉でオレの反応を呼んでいる。

 ちなみに武蔵野達もにやにやしてオレを見ていた。
 東班はいつも通り冷静だ。

「なるほど。それは厳しいな。無理に戦う必要もないと思うが、敵の回避はできそうか?」

 東は冷静に事態の対処を検討している。

「いえ、難しいでしょう。大きく横一列でこちらへ向かってきています。まあ、新オオサカへ逃げ帰るなら戦わなくてすむかも」

「そうか。では戦闘準備だ」

(え? 東さん、倒しきれるの? そんな簡単に……自信たっぷりって感じだけど)

「セイくん! 久し振りに暴れられんで!」
「そうや! びびることないで!」
「このメンバーならやれるで!」

「……」

 相変わらず武蔵野達は好戦的だ。A級が600もいるということは、それ以上の脅威も隠れていることが予想される。

 つまり、S級グールだ。
 オレたちだけで対処できるかは正直分からなかった。少なくともオレはそう思った。

「結城班、武蔵野班。地雷型魔術と設置型魔術の展開を。我々と司隊員はライフシェルの設置を行う」

「「了解!」」



 オレたちはライフシェル設置場所から300程の距離に罠の設置をするために走った。
 ライフシェルを設置すると言うことは、その場に結界を展開し、グールに間近で迫られても戦いができるということだ。そして、東はその事態を既に想定しているということが分かる。
 
 もうオレも近付いてきた敵の気配を感知出来ていた。
 司の言う通り、もの凄い数だ。

「なあ、セイヤ。勝てると思うか?」

「……セイ。負けるかもと考えているのか? 君はたまにそうやって弱気になるな。東班長が戦えると判断したんだ。敵はオレたちで戦える規模だし、負ける気もない」

「そうか……」

「そうですよ、佐々木さん。それに私達は魔導石も装備しています。戦力もアップしていますよ」

「佐々木。負けるかもなんて考えている暇があるなら、勝つ方法を考えろよ」

「ユウナ、アオイ……そうだな。みんなはやっぱり凄いよ」

 オレはたまに思うが、この時代の人間はみんなメンタルが凄い。討伐隊員になれる者は確かにそういう試験もあるが、それにしてもだ。

「セイはオレたちの様に訓練を受けた訳ではないからな。それにまだ隊員歴は1年弱、精神的な弱さが少し出ることもあるさ」

「ああ、ありがとう。セイヤ」

 セイヤが何気なくオレをフォローしてくれる。

「セイくん、セイヤくん。そろそろ行くで」
「敵が近くなってきた」
「ほら、もう見えてきてんで」

 オレたちは相当数の罠を設置したが、やや時間が掛かってしまった。敵までの距離はすでにオレたちから500程に近付いていた。

「よし、戻ろう」

 セイヤの声でオレたちは移動を開始した。



「東班長、結城班戻りました」

「「「武蔵野班も戻りましたー」」」

「ああ、ご苦労」

 東達もライフシェルを設置し終わっており、結界が出来上がっていた。
 前に武蔵野達の展開したものよりかなり大きい。今回はライフシェルを4つ同時に使用しているためだ。半径100メートルくらいの大きさの結界が展開されていた。

「では、みんなこちらへ」

 東の呼び掛けで遠征班全員が集まった。

「まず敵の数だが、A級が650、B級が1200、C級が1800、それ以下が約2500、総勢で6000を越える」

(やっぱり、もの凄い数だ……!)

「ここにいる皆なら経験はあるだろうが、この規模であれば司令型グール、そしてS級グールが現れる可能性が高い」

「……」

「そして戦いの陣形だが、まず最初は設置型魔術から100の距離の場所で横一列になり敵を削る。敵は一方向からのみこちらへ向かってきているからな。その後、このライフシェルに戻り設置型魔術を併用して一気に攻撃を再開する」

「もし、ライフシェルが破られた場合はどうするんですか?」

 オレは十分に考えられる事態を質問した。

「ああ、次善の手段を準備している。心配はない」

「次善の手段?」

「ああ、それは……」

「東班長、敵です」

 突然司が声を上げた。

「なに? まだ距離があるはずでは?」

「飛行型の群体。A級およそ100体です。すぐにここに来ます」

「おお! 前の時と同じやな!」
「じゃあまずオレらで叩き落とそうか」
「そうやな」

「いや、待て。武蔵野隊員。全員で戦闘位置に移動しつつ、飛行型群体を討伐するぞ」

「全員でか!」
「そりゃいい!」
「前はてこずったけど、今回は楽勝や!」

 東の指示に何故か武蔵野達は嬉しそうだ。
 確かにこの遠征班全員なら飛行型のA級群体も簡単に討伐できるだろう。

 だが、問題はその先だ。東も厳しい目をして、オレたちに号令を掛けた。

「行くぞ」

 6000ものグールとの戦いが今、始まった。
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