グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅱ

第87話 第四次技術革新①

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 オレと武蔵野たちは臨時柊班と合流の後、新オオサカ都市に帰還した。いつものように1日は疲労とケガの治療のため休養となり、翌日にはオレだけ色々と検査を受けた。

 さらにその2日後、宝条からの招集を受け、武蔵野たちとギルドマスタールームに向かった。

「「「失礼しまーす」」」

「し、失礼します」

 武蔵野達はやっぱりというかずかずかと遠慮なく扉を潜っていき、オレもそれに続いた。

 部屋の中には新トウキョウ都市から来ている隊員全員と、共同で任務にあたっていた新オオサカ都市の隊員が全員揃っていた。1人、初めて見る隊員がいるが剣を携えた青年でかなり強そうだ。

 東班3人、結城班4人、武蔵野班3人、柊班4人に剣士1人と結構な人数だ。

「遅いわよ」

 アイコが武蔵野たちとオレにひとつ文句をつけた。

「え、時間通りちゃうの?」
「あれ、間違ってたかな?」
「それよりごっつい面子やん、どうしたん?」

 武蔵野たちはどうやら遅刻だったようだ。オレは武蔵野たちに来た連絡は見ていないので、連れられてだけで集合時間は知らなかった。

 アイコがため息をつくと、こちらに向き直った。

「まあいいわ。今回新トウキョウ都市のみんなは各任務、ご苦労様。まだあと1ヶ月あるけど引き続き宜しく頼むわ」

(労いの為だけに集めたわけじゃないよな……)

「今回みんなに集まってもらったのは、そこにいる佐々木くんのおかげで新兵器の開発に成功したからよ」

「ええ!オレの?」

 オレは思わず驚きの声を上げた。

「相変わらずリアクションがいいわね。そうよ。佐々木くん、セイちゃんの身体に巡る魔素、経絡の回路など色々な検査結果のお陰で劇的に私の研究が進んだわ」

 セイちゃんとアイコが名前を呼んだとき、柊がぴくりと動いたのが分かった。だが、今は特に何も言っては来ないようだ。まあ、いちいち突っかかって来られたら堪らない。

「私の研究の結果と言うのははこれよ」

 そう言ってアイコは手のひらをこちらに向けた。その上には5、6センチくらいの大きさの平べったく、流麗な細工の施された赤い宝石のような物が乗っていた。

「何それ? ルビー?」

「佐々木。静かに」

 東がオレに注意してきた。

「あ、すいません」

「これはね。魔導石よ」

(魔導石?)

 みんなもの珍しそうな目でその石を見ている。
 東だけはアイコと一緒に研究をしていたので内容を知っているのだろう。一歩下がったところでアイコの話を聞いていた。

「それはどう言った道具、もしくはどう言った効果があるんでしょうか。宝条ギルドマスター」

 セイヤが率直に疑問を投げ掛けた。

「この魔導石は、認識した対象の魔素貯蔵庫よ」

「魔素貯蔵庫!」

 柊が感激の声を上げたが、あの人は多分意味を理解していないように見える。

「つまり、この石を装備すればそれだけでその隊員の魔素量が大きく増えるの」

「え! その石を持つだけで!?」

 今度はアオイが驚いている。

「そうよ。我ながら画期的な発明だと思うわ」

「ふーん、でもどの程度魔素が増えるの? それにデメリットがないわけじゃないでしょ?」

 青年の剣士がアイコに声をかけた。

「そうね。これはね、貯蔵できる魔素の量によって4種類に分けたわ。これがA級用。そして後ろにあるのがそれぞれC、B級用よ」

 アイコの後ろにはアイコの持っている石を少し小さくしたものが研究器具などを置いた机の上においてあった。赤色も少し薄いような気がする。

「まず、C級用はC-級の平均1人分の魔素を貯蔵できるわ」

「え?じゃあC級隊員が装備すれば一気に魔素量が2倍になるんですか?」

「その通りよ。ユウナちゃん」

「B級用はB-、A級用はA-の平均の魔素を貯蔵しているわ」

「ああ! すごいです! 宝条マスター」

 柊は本当に分かっているのかというくらいの声で感激している。多分、アイコがしゃべる声に感動しているだけだ。

「じゃあ、C級隊員がA級の魔導石を装備するとどうなるんですか?」

(ああ、確かに。ダメなのかな?)

「さすがA級の魔術士ね。中井くん。結論から言うと、自分の階級より上の魔導石は装備できない」

「それがデメリット?」

「察しがいいわね。司くん」

 青年剣士は司と言う名前らしい。

「この魔導石は使用すると当然魔素が減っていく。その時に消費した分は大気中から魔素を補充するけど、それだけでは不十分なの。半分は大気中から、もう半分は認識対象、装備している隊員から魔素を吸い取るの」

「え? じゃあ、その石を持っている隊員が魔素が無くなっていたら?」

 オレはついアイコへ質問してしまう。

「当然、衰弱するわ。死亡する可能性も高い」

「ええ!」

「だけどこの石は常に魔素を補充し続けているし、認識対象より先に魔素が尽きることもないようになっているわ」

「ああ、リスクへの対策はしてあるってことか……」

「そうね。でも自分の階級より上級の魔導石を使うと魔素を吸われ過ぎて危険なの。だから使えない。そういうこと。そして……」

 おもむろにアイコは腰の布の隙間に手を入れた。薄布を引っ張るので、ただでさえ肌を覆う面積が少ない太ももや腰の肌がさらに露出された。

「ああ!なんて大胆な!」

 うるさい声を出すのは当然柊だ。アイコは手に大きな魔導石を取り出してオレたちに見せた。これは10センチくらいある。

「これが特別A級用。AA級隊員の平均の魔素貯蔵量よ」

「ええ!!!」

 今度はさすがにみんなが驚いた。
 AA級隊員もの魔素が増えるならば相当な強化が可能だ。

「それを装備したらS級でもとんでもなく強くなるいうこと?」
「うそやん! ずるいんちゃう!」
「そうやそうや!」

 武蔵野達は何か非難めいた言葉を出していた。
 宝条は武蔵野たちをちらりとうるさいという目で見たが、あまり気に掛けずに言葉を続けた。

「……ところで、この魔導石は製造に時間が掛かるの。一度に1ヶ月ほど掛かるわ」

「一度には何個作れるんですか?」

 一ノ瀬がアイコに質問したが、敬語を初めて聞いた気がした。

「特別A級1個、A級4個、B級10個、C級20個よ」

「……」

(多いのか少ないのか分からないな……)

「だけど、これが隊員達に行き届けば、討伐軍の戦力はほぼ2倍になると言っていいと思うわ」

(2倍!? そんなにか!?)

「これが、ワクチン、魔導具、魔技に続く4度目の技術革新よ。私はそう自負しているわ。そしてあなた達に今ここでこれを渡すわ」

「ええ!!?」

(いきなり貰えるのか! これで更に強くなれるな! やった!)

「だけど残念な報告もあるわ。セイちゃん」

「え?オレ?」

 アイコが急にオレに話を振ってきた。何故か申し訳無さそうな顔だ。

「ええ。この魔導石は経絡開放者には認識させられないの。つまり使えない」 

「ええ!? なんで!?」

「実は私も経絡開放者よ。色々試したけど無理だった」

「そ、そんな……」

「ごめんなさいね……。じゃあまずB級隊員のユウナちゃんとアオイちゃんにB級魔導石を。そしてA級の4つは武蔵野くん3人に。それにもうひとつは結城くんに渡すわ」

「ええんですか!?」
「やった! アイコさん最高!」
「これでずいっと強くなれんで!」

「……ありがたいですが、オレたちでいいんですか?」

 セイヤは冷静に質問をした。

「ええ。他のみんなにはB級魔導石で暫定的に対応をお願いするわ。そして司くん」

「はい」

「あなたには当然特別A級魔導石よ」

「ありがとうごさいます」

(え? 当然?)

「S級隊員として、頑張るよ」

「S級……!」

「ああ、佐々木くんだっけ? 君には挨拶してなかったかな? よろしく。僕は司シン、S級の剣術士だ」
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