グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅱ

第82話 アイコの助言

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「セイくん、アイコさんから何か来とるで」
「テキストメッセージや」
「ほら、書面にしたで」

(え? 何だろう?)

「ああ、ありがとう」

 オレは武蔵野から一枚の紙を受け取った。

 A級の群れを退けてからオレたちはすでに設営してあったライフシェルに戻り体を休めていた。
 食事も済ませ、毎日は入浴しないオレたちはあとは休むだけというところだった。

 アイコからだというメッセージには、オレの戦闘におけるアドバイスが短く記載されていた。

・魔銃本体にまで経絡開放を引き伸ばすこと 
・最大攻撃に名前をつけて、攻撃を発動させること

 要点はこの2つだった。
 
 それによってオレの実力が大きく上がるだろうと書いてある。
 オレの戦闘データはアイコに送られると言っていたので、この1週間を見てのアドバイスなのだろう。

「え? 経絡開放って武器に対してもできるのか? それに名前って、技名ってことか?」

 オレはアイコからのアドバイスの意味が良く分からなかった。

「経絡ゆうのはようわからんけど」
「魔技の技名は必要やな」
「カッコええやつ考えようで」

「技名って必要なの? 確かにみんな技名を叫んで攻撃とかしてるけど……」

 討伐隊員は皆、自分に合った武器を選び、剣術士、魔術士などの職業とでも言うべき自分の戦闘スタイルを確立している。
 確かに剣術士も魔術士もみんな同じような名称の技を叫んで使っているなとは前々から思ってはいた。

 だが、銃術士には技は要らないというアドバイスを受けた経験もあり、そういった攻撃に名前をつける必要はないと、自分とは関係ないと考えていた。

「セイくんは知らんのやな」
「まあ、この世界に来て1年やからな」
「ほんなら教えたる」
「技名ってのはトリガーや」
「おお、トリガーで発動させようとしとる攻撃とか魔術を確定させとる訳や」
「トリガーによって確定させた技は無詠唱時の2割増しの効果になるんやで」

「2割!? 名前を付けるだけで? そうなの?」

 意味が分からない。何故攻撃に名前を付けてそれを叫ぶだけで威力が上がるのか、その理屈が謎だ。

「ああ、自分が最大限の威力を発動させた時をイメージして技名を詠唱するんや」
「するとそのイメージがトリガーになる」
「出力は変わらんでも魔素の発出が効率化されるんや」

「ええ? 発出って、本当にそうなの?」

「疑い深いな、自分」
「オレらん中では常識やで」
「だからみんなわざわざ技名を詠唱しとるんやで」

 武蔵野たちは何を言ってるんだという呆れ顔だ。

「いや、疑ってる訳じゃないけど……」

「オレらが良く使う帝級テラ級とか、名前を体系化しとるやろ?」
「すると、部隊の中での指導が明確化されるってメリットもあるしな」
「こういう魔素入力、こういう魔素出力で、この技名。こうするとみんな剣術、魔術を習得しやすいんや」

(技を体系化か……、それは何となく理解できるな)

「なるほど……確かに技名を聞くとオレも大体どんなものかはもう分かるようになってきたな」

「せやろ?」
「ただ、上級の隊員の中にはオリジナルの技を使うやつも多いで」
「まあ、大体AA級くらいからからやな」

「オリジナル……」

(そう言えば大河内市長とか、欄島さんとか聞いたことの無い技を使ってたな……)

「まあ、そういう意味では銃術士は特殊らしいで」
「弾丸を発射するのにすでに実際トリガーを引いとる訳やろ?」
「せやから魔技を使わない隊員がほとんどらしいわ」

「確かに、それもどこかで聞いたな」

「ほんで自然と銃術士のオリジナル技は他の術との複合になるみたいやね」
「銃と魔術、銃と拳術とかやな」
「セイくんは拳術とか経絡を組み合わせるんやろ?」

「そう、だね……」

 何となくイメージは沸いてきた。
 オレにとって最大攻撃というのは今日も使った全力の砲撃だ。
 だけど、それにいきなり技名を付けろ言われてもとオレは困惑していた。

「よし! そんな悩むならオレらがカッコええやつ考えたる!」
「おお! ええな。そうしよう!」
「よっしゃ! 昼に使ってた砲撃やな!」

「え!? 一緒に考えてくれんの?」

 オレはどうしようかと悩んでいたので、この提案はありがたい。だけど、知り合って日の浅い武蔵野たちがそれを手伝ってくれると言ってくれて少し申し訳なくも思った。

「「「当たり前やろ!」」」

 武蔵野たちの答えは簡潔だ。

 オレは武蔵野たちと共にその日遅くまで掛けて名前を決めた。
 オレは出会いに恵まれている。前にユウナに言われたが、この時に改めてそう思った。



 翌日。

 オレたちは再度キョウトベース近郊に近付き、再びグールの群れを相手にしていた。今回は昨日の様にA級のみの群れではない。ABCの群体で、合計すると700体以上いる。

 武蔵野達は相変わらずのコンビネーションでグールの群れの中で跳び跳ねるように動きまわり敵を翻弄していた。

「セイくん!」
「昨日のやつ!」
「必殺技や!」

「ああ!」

ギューン!

 オレは魔素を全開に巡らせ、銃を敵に向けた。

(経絡を! 銃身にまで伸ばす!)

カッ!

 その時、A級グールのレーザーのような攻撃が動きを止めたオレに向かって飛んで来た。

「うわっ!」

 オレは何とか身を捻ってかわしたが、集中していた魔素は拡散してしまった。

「くそ! ダメだ! 時間が掛かりすぎる!」

「セイくん!」
「まあ必殺技はしゃーない!」
「とりあえず援護射撃してや! やばくなってきたで!!」

「りょ、了解!」

(そ、そうだ。武蔵野くんたちの囲まれ具合はヤバい!)

 その後も激しい戦闘を続け、オレたちは何とかグールの群れを討伐することができた。
 大量のグールとの交戦で疲労したオレは、戦いの後、もう地面にへたりこんでしまっていた。

「セイくん、お疲れさん!」
「今日は結構やばかったな!」
「セイくんも昨日の技を使おうと色々頑張ってたみたいやけど」
「さすがに昨日の今日では無理やな」
「まあ焦らず行こうで」
「そうや、まだ任務の期間は残っとるしな」

 武蔵野たちはオレに気遣いの言葉を掛けてくれた。
 今日のレベルの敵となると、オレが3人の足を引っ張っていることを感じていた。

「ああ……ありがとう」

 オレはまた自分の実力不足を悔しく感じていた。

(早く技を習得して強くならないとな……みんなに迷惑をかけてしまうし、何よりナナたちのところに戻るのが遅くなってしまう。アイちゃんも助言をくれてオレに道筋を示してくれたんだ。もっと頑張らないと……!)

 オレたちはその日はもうライフシェルに戻り、体を休めることにした。

 その夜、オレは見張りの間中ずっと経絡を伸ばす訓練をしていた。
 銃身にまで径絡を引き伸ばす。
 宝条の助言の言葉ではそうだが、実際に径絡を体の外に出すと言うことが何度やってもどうしてもうまく出来なかった。

「くそっ!」

(ダメだ! まだ掛かりそうだ……)

 オレは汗を拭って夜空を仰いだ。

 

 それからもオレたちは昼間にある程度のグールを倒したり、グールが襲ってこないときは待機してオレは経絡の訓練に充てたりして任務の日々を過ごしていた。

 この辺りに出てくるグールは基本A級が多く、オレは毎回ヒヤヒヤさせられていた。
 だが、武蔵野たちの高い実力にフォローされ、何とか毎回勝利を納めていた。

 任務と訓練、その繰り返しがさらに10日程続き、いよいよ任期の終了が近付いてきた。

 明日にはもう新オオサカ都市に帰還の道につく。
 技をものにする、経絡を引き伸ばす。そのふたつの課題をこなせないまま今日まで来てしまった。
 オレはままならない状況に歯噛みをするばかりだった。
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