グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅱ

第57話 中央兵宿舎

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「ひ、広いですね……」

 オレたちは宿舎の門をくぐり、車寄せとでも言うべき場所でホバークラフトを降りると、建物の重厚な正面入口から中に入った。
 
 エントランスホールは天井も高く、声がよく響く。
 何人かの兵も居るが、みなかなりの強者の気配を感じる。
 それはそうだろう。ここにいるのはみなA級部隊の精鋭のみなのだ。

 オレ達は正面に見える横に長いカウンターに向かう、ここが受付と言うことらしい。

 きれいな女性が数人控えている。

「お帰りなさいませ。刎野様」

「ええ」 

(うおお! 高級ホテルの受付かよ? モモさんが遠い人になっていく……!)

「セイヤ、ここが総務受付でもあるの。副班長として一緒に手続きしましょう」

「ああ、分かった」

 新班長が吻野になったので、セイヤは副班長になったらしい。

「あ、ユウナ達はあそこのラウンジで待っていて。あなた、彼らに案内と飲み物をお願い」

「かしこまりました」
 
 そう言って1人の女性が前に出てきた。
 完全にラグジュアリーホテルのコンシェルジュだ。
 カタカナが多すぎる。

 カウンターから出て来てびっくりしたが、受付の女性はスカートを履いている。この服装は、おれの中でCAさんのイメージとピッタリ合っていた。
 この時代では初めて見る服装だ。

「どうぞこちらへ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 オレたちはおずおずと案内の女性に着いて行き、これまた豪華なソファーに着席した。
 すぐに別の女性が飲み物を出してくれて、変に恐縮してしまう。

「失礼致します」

(こ、紅茶だと……?)

 装飾の美しいカップに注がれた液体は琥珀色で、とてもいい匂いをしていた。

 コンシェルジュの女性が離れると、オレはアオイに聞いた。

「な、なあ。なんでこんな豪勢な扱いを受けるんだ?」

「わ、わからねーよ。私だって」

「あの人、綺麗な服装だね」

 オレの戸惑いをよそに、ユウナは受付の服装を見ていた。
 ユウナだけはこの扱いにも動揺はしていない。
 そういえば100年前のファッションが好きなんだよなと思い返していた。

 その時、オレたちに近づいて来る気配を感じた。

(ん? この気配は……)

「佐々木」

「あ、やっぱり御美苗さん、みなさんも」

 首を捻って後ろを見ると、御美苗、阪本、北岡、須田が揃ってこちらへ歩いて来ていた。
 みんな笑顔で軽く手を振っている。

「さっそく会えましたね! 嬉しいです。皆さんはいつから?」

 ユウナがにこやかに挨拶を交わす。

「一昨日だよ」

 みな、そう言って空いている席に掛けた。
 少しすると、当然のように先ほどの女性が飲み物を運んできた。

「いや、それにしても凄い所へ来たと思わないか?」

 御美苗が紅茶を飲みながら話を始めた。

「え、はあ、確かに豪勢な場所ですね」

「ああ、A級部隊はこの待遇は当然らしいぞ。上級のグールを狩り続けている中央部隊に対する福利厚生だと」

「へ、へえ……これが当然……」

 高級ホテル然としたこの待遇がA級の働きに対する対価の一部なのだろうかとオレは驚きを隠せない。

「ところで、みんなもA級部隊になったのか? 私らは刎野さんが加入してくれてなんとかA級なんだけど」

 アオイもちょっとした疑問をぶつける。

「ああ、つい先日の昇級試験でな、オレはA+になったし、北岡がA-になった」

「ええ! 凄いですね!」

「ああ、東班が手を回してくれたみたいなんだが……まあ、ありがたく頂いたよ」 

「あ……、なるほど」

 お前達は中央へ行くべきだと言ってくれた東の言葉を思い出した。

「あれ、でも昇級がお二人だと、ポイントが足りませんよね?」

「ユウナ? ポイントって何?」

「佐々木、お前は物覚えが相変わらず悪いな。部隊ランクを決めるポイントだよ」

 オレは忘れていたが、部隊ランクは隊員ランクポイントを合計し、隊員の数で割る。つまり、平均がA-ランクに達した部隊がA級部隊と呼ばれる。

「それは、S級の討伐賞与でだな。知らないのか?」

「分かりません」

 オレは素直に答えた。

「S級を討伐した班はな、B級以下の隊員を1名に限り、昇級してもらえるんだ。オレたちは、阪本が討伐賞与でA-になっている」

「なるほど……え? でもそれってオレたちも同じですか?」

「そうよ」

 いつの間にか刎野とセイヤがオレたちそばに来ていた。

「私達の班からは、佐々木くんを昇級させたわ。あなたは、現在B-ランクよ」

「え! いつの間に!」

「今、そこで済ませたわ。御美苗くん、みんな。先日はありがとう。これからもよろしくね」

「刎野さん、こちらこそ宜しくお願いします!」

 突然改まって挨拶を始めたのでオレはと戸惑ってしまう。

「セイ、ユウナ、アオイ。オレたち刎野班はこの中央でA級、S級の討伐任務にあたることになった。そして合同で任務にあたるのは、北部支部に引き続き御美苗班、そして東班だ」

「おお! そうなのか!」

「でも、またS級と戦うことになるんですね……」

「ユウナ! この面子なら行けるだろ。私らももっと強くなればいいんだ」

「……そうね」

「東班は、再生治療が終わってからの合流となる。差し当たりはA級グールの討伐がオレたちの任務だ」

(そうか……あの怪物達がこれからのオレたちの相手になるのか……)

 オレはA級の巨大な姿を思い起こし、かすかな恐怖を感じつつ、あの怪物を引き受けるほどの隊員になれたことを誇りに思っていた。

「あれ? 刎野じゃん」

 ふいに刎野に声を掛けられた。
 横を見ると爽やかな感じの黒髪の青年が立っていた。
 腰の両脇のホルダーに2丁、太ももにも2丁、合計4丁掛もの銃をかけている。

「欄島くん」

「久しぶり。聞いたよ、またS級グールを倒したらしいね。おめでとう」

「ええ。ありがとう」

「それでこちらの人達は?」

「今日からこの中央兵舎でお世話になる刎野班の結城です。よろしく」

「同じく御美苗班です」

 オレたちは簡単に挨拶をした。

「刎野班?」

「ええ。私はこの4人の部隊に加わり、班長になったの」

「ええ! それは驚きだな。君たち、彼女がS級隊員なのは知ってるよね?」

「ああ。もちろんだ」

 セイヤが返事する。

「大丈夫なの? 君の階級と元々の部隊ランクは?」

「オレはA-になる。モモの加入する前はB-部隊だった」

「えー、弱いじゃん。そういう司令なの? 刎野、よく引き受けたね」

(失礼なやつだな!)

「佐々木くん、落ち着いてよね。欄島くん、このメンバーでこの間S級を討伐したの。みんなランク以上の実力を見せてくれてね。それでこれからも合同で任務にあたることになったのよ」

「へーそうなんだ。まあ、S級と戦って生き残ったならそうなのかな? まあ、あいつらと戦える面子が増えるのはいいことだからね。S級との戦場で会うかも知れないし」

「あ、ああ」

 セイヤが少したじろいでいる。
 この隊員は日常でS級を相手にしているような口ぶりだ。そして、気配を探ると確かに恐ろしい魔素を感じとることができた。

(もしかしてこの人……)

「ああ、挨拶が遅れたね。僕は蘭島タモン。よろしくね」

 そう言って踵を返し、去っていった。
 背中にも銃のホルダーがあり、4丁もの銃が掛けられていた。腰と合わせて8つもの銃を持っている。
 それに良く見て分かったが、銃口と引き金が全てふたつずつついている。
 グリップの両側に左右対称に銃口と引き金がある。あれでは敵に銃を向けると銃口の片側が自分を向いてしまう。

(どうやって使うんだろう……?)

「みんな。あの人を覚えておいてね」

「え!?」

「S級グール討伐数11。S級隊員の蘭島タモン。私よりも強いのは間違いないわ」
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