グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅰ

第29話 トウキョウへ

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 送別会からさらに数日が経った。

 オレも何だかんだ言ってこの都市には2ヶ月も暮らしていたことになる。もうそんなに経ったのかと驚くばかりだ。
 最近は朝の冷え込みも少しずつ穏やかになってきたようにも感じた。

「じゃあ、みなさん、行ってきます。」

 オレとセイヤ、ユウナとアオイは防壁の門に前にいた。
 見送りには律儀に、山崎班、菅原班、神田兄、譲原など仕事の忙しい大河内以外はオレの面識のある人全員が揃っている。

「ああ、気を付けてな」
「また、ここにも来てよ!」
「セイヤさん、お気を付けて」

 皆それぞれの想いを胸に、新ツクバ都市を背にした。
 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 都市を出て数時間が経ち、オレたちは大きな河を渡って今は廃墟だらけの街並みの中を歩いていた。

(茨城か千葉から都内に入った感じかな、でもここがどこかは分からない)

 オレはコンクリートの建物が密集しているのを見て元東京に入ったと確信した。
 新ツクバ都市の所在地は前の時代の地名に即しており、やはり北関東だったそうだ。そのあたりの情報は今も残っていた。

「ところで、新トウキョウ都市っていうのは、どこらへんにあるんだ? できれば、元の地名なんかで言って貰えると分かりやすいんだけど」

 オレはセイヤに聞いてみた。
 後で分かったのだが、セイヤは25歳、つまりオレの2つ年下だった。 
 それもあれし、これからずっと行動を共にするということもあり、もう敬語はやめにすることにした。

「それは、聞いたことがあるな。確か、元トウキョウなんとかという名前だったそうだ」

「それじゃ何も分からないな……候補が多すぎる」

「そう言われても困るな、100年前の地名などいちいち覚えてないからな」

(なんか偉そうだな……)

「まあまあ、佐々木さん。場所は分かっているんですから、あと2日はかかりますし、今は気楽に行きましょう」

 ユウナがムッとしたオレに話しかける。

(まあ、天使がそう言うなら……)

「ユウナ、佐々木。そう気楽には行けねーみてーだぞ」

 不意にアオイが会話に割り込んできた。

「え?」

「セイ、ユウナ。グールだ」

「!」

「すみません、索敵がおそろかになっていました。……距離100!数は50ほどです!」

「上級グールの数は?」

「……いえ、確認できません。D級以下みたいです」

「では、殲滅しよう」

 セイヤがそう言って剣を構える。
 これが様になっているのが最近は腹立たしい。

「「了解!」」




 オレたちは班編成を替え、今は結城班となった。
 班長は一番討伐隊員歴の長いセイヤだ。
 4人編成だが、班長であるセイヤの部隊階級はA-、残りのオレたちはC級だ。50体のグールも問題なく対処できた。

 オレは今までは下級グール、上級グールの正確な意味は知らなかったが、F、E、Dを下級、C、B、Aを上級と呼ぶらしい。S級は特別なのでこのカテゴリーには入っていないそうだ。
 S級グールは特級と呼ばれるらしい。

「今日はこの辺りで、夜営にしよう」

「了解」

 グールの群れを殲滅した後、もうしばらく移動を続け、日が落ちるとオレたちは廃墟のビルの一角で体を休めることにした。
 もちろん、見張りは交代制で警戒は怠らない。
 だが、その日は何事もなく日の出を迎えることができた。

 そうしてその後2日歩を進めた。
 時折、グールの群れを見付けて戦闘もあったが、特に問題なく新トウキョウ都市への道のりを進んでいった。

 長い距離を移動して分かったが、瓦礫だらけで思うようには進めない。
 それに常にグールを警戒しながらの行軍とあって、1日に進める距離はそこまで長くは無かった。
 瓦礫だらけの大都市を歩いていると、改めて文明の崩壊を実感し、どこか物悲しい気持ちになる。

「そろそろ着くんじゃねーの」

「ああ、今日中には到着できるはずだ」

 アオイの呟きにセイヤが答えた。

「やっとか……」

 オレもやや疲れ気味に一人言を言う。
 やはり現代人のオレはなんだかんだベッドでの睡眠と風呂が恋しい。

ドン! 

「!」

 突然、遠くで爆発音が聞こえた。

「今のは……?」

ドン! 

「戦闘音だ! みんな聞こえたか?」

「いえ、佐々木さん。何が聞こえたんですか?」

「佐々木、強化聴力か?」

 ユウナとアオイがオレに聞く。

「ああ、向こうで誰かが戦っている音がする! ……セイヤ!」

「分かった。急ごう」

 オレたちは走って戦闘音のする方向へむかった。




「はぁ、はぁ、よくこんな遠くの音が聞こえましたね」

 入り乱れる廃墟を駆け抜けたオレたちは、やっと戦闘の現場に到着した。

 バイオナノワクチンの働きにより、オレも超人と言っていい程のスピードと跳躍力を得ている。
 セイヤにはまだ劣るが、ユウナとアオイとはもうほぼ同じ動きが出来るようになっていた。

 ビルの屋上から見下ろすとやはりオレたちと同じ軍服を来た隊員達がグールと戦っていた。

「B級グールだ……!」

 オレが驚きの声をあげる。

「ああ、50体以上いる。相手は一班のみ。加勢しよう」

「了解!」

ドン!

 セイヤが地面を蹴り、ものすごいスピードでグールへ向かった。
 アオイがそれに続き、オレとユウナも近づきながら攻撃を放った。

「なんだ? 増援が来たのか!?」

 部隊の1人が喜びの声をあげる。

「オレたちは、新ツクバ都市の戦闘員だ。勝手ながら、加勢させてもらう」

「新ツクバ……? 地方の部隊か! 大丈夫なのか?」

「単独では厳しいだろうが、全員で対処すれば何とかなるだろう」

ズバン!

 セイヤが近くにいたグールを斬り倒す。

上級衝撃剣メガインパクト!」
上級火炎槍メガフレイムランス!」

ドン!ズン!

 アオイとユウナの攻撃でさらにグールを吹き飛ばす。
 オレも銃撃であたりのグールを攻撃し続けている。

「地方部隊でも腕は立つみたいだ! やるぞ!」

「「了解!」」

 激しい戦闘がしばらく続いたが、程なくしてB級の群れを撃退することができた。

「はあ、はあ、はあ。いや、助かったぜ。礼を言う」

「いや、いいさ」

「オレは御美苗コウ、御美苗班班長だ」

「オレは結城班班長、結城セイヤだ」

 二人が握手を交わす。

「それで、新ツクバから来たって?」

 御美苗がセイヤに聞いた。

「ああ、戦闘員募集に応じた。移住のために新トウキョウ都市に向かっているところだ」

「ああ……そういうことか。じゃあ、オレたちと一緒に行こうぜ」

「助かるよ、ありがとう」

「いいさ」

 班長同士の話で、オレたちは共に新トウキョウ都市に向かうことになった。
 
 御美苗班は4人で構成されていて、槍術士の御美苗、銃術士の阪本アコという女性、援術士の北岡ミリナという女性、そして魔術士の須田ギンという男性だ。
 そして、4人全員がB級隊員ということだった。
 オレたちから見たら充分な強部隊だと思うが、彼らは主都ではたいしたことはないと卑下していた。

 そして3時間ほど、みんなで歩みを進め、御美苗が言った。

「見えたぞ。あの壁の向こうが新トウキョウ都市だ」

 オレたちはすでに視認阻害の解除は受けているため、遠目に高い壁を見てとることができた。

「高いな……」

 オレは新ツクバ都市の壁の高さにも驚いたが、ここはもっと高い。
 聞くところによると、50メートルを越えているそうだ。

「このあたりでは何種類か、飛行型のグールも確認されている、あれくらいないと壁の役目を果たさないんだよ」

 御美苗が最前線の過酷さの一端を説明してくれた。
 
 オレは飛行型グールという言葉にも驚きだが、いろいろと新ツクバ都市よりも過酷な場所なのだと感じた。

「今まではとはレベルが違う。覚悟を決めよう」

 セイヤもオレと同じことを考えたのだろう。
 これからあるであろう厳しい任務と戦いに、自分を含め、オレたち全員を激励した。

 オレたち結城班は、新トウキョウ都市に到着した。
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