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CHAPTER Ⅰ
第27話 その後
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防衛戦争から一夜が明けて、オレ達討伐隊員は都市内部に残る少ないグールの殲滅をなお続けていた。
グールは倒れると、蒸気を上げて少しずつその体を大気中に溶け込むようになっているそうだ。そこかしこにグールの死体があり、まるでこの世の地獄といった様相なのだが、3日もすればすべてきれいに消えて無くなるらしい。
そうやって、空気中にグールウイルスを散布しているという予測もあるらしい。
オレたちが都市中心部から始めた討伐作業も、とうとう防壁の上まで到達し、完全に都市内部のグールは殲滅、掃討が完了した。
防壁の上からまぶしい太陽を臨み、この戦争は完全に終結した。
防壁のそばには、山崎班も戻ってきていてオレはみんなとの再会を喜んだ。山崎や、セイヤ、南、鈴子もみんなかなりの負傷をしているがなんとか無事だった。
ただ、サポート役の部隊は全滅したと聞いた。
その後、防衛システムを復旧し、最低限の人員を残して戦闘員は休みを取った。
みんな、深い眠りについただろう。
オレも部屋に戻ると倒れるように身をベッドに横たえた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして、1週間が過ぎた。
「またですか、サガくん」
オレは検査の連絡を受けて、サガがいる研究施設を訪れていた。
「まあ、仕方ないですよ。あなたは特殊なので」
「はあ」
オレは任務や戦闘の後は必ずここに呼ばれ検査を受けている。
やはり100年前からの転移者という存在を、都市側も詳しく調査したいのだろう。
何度も会っているサガともかなり気心が知れてきた。
「今回は本当に危なかったですね。あそこまでの大群が攻めてくるなんて完全に想定外でしたからね」
「そうなんですか」
「ええ、市長は20000を超えてくる想定をしていましたが、それはみんなの慢心を諌めるための多めの数だったんですよ。それを上回ってくるとは……」
「なるほど……」
「しかし今回の功労者は、山崎さんとあなたですね」
「え? オレもですか? 司令型グールを倒した山崎さんは分かりますけど。何かしましたか? オレ」
「はい、もちろんですよ。都市内部で司令型を見つけたのは佐々木さんですよね?」
オレは司令型が放つテレパシーのようなものを感知することが出来ていた。それで地下に潜む2体目の司令型グールを見つけ出したのだ。
オレは市長が司令型と戦っている間も何度もその通信のようなものを悪寒として感じていた。
「まあ確かにそうですが、オレが見つけなくてもあのまま戦闘続けていても、すぐ見つかったんじゃないですか?」
「いやいや! あの個体はこちらから表に引きずり出さないと、何日も潜伏していたと思いますよ。そして際限なくグールを呼び寄せて都市を侵攻していたと思います」
「……」
オレはそんな大層なことをした自覚は無かった。
「ただ、山崎さんが外部の司令型を討伐してくれていたので敵も増援はあまりできなかったでしょうけど」
(ああ、そういうことか)
「外部のやつが、遠くからグールを集めてあの狼みたいなやつが都市の中心部を侵攻していたと、そういうことですか」
「我々もそう考えています」
(なるほど、司令型は早く見付けないとどんどんこちらが不利になるって訳だ)
「それに」
「?」
「今回の戦争の引き金は、佐々木さんたちの任務だったかも知れませんが、幕を降ろしたのも佐々木さんですね」
「……そう、だといいけど」
検査を終えると、オレは都市の復興作業へと戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
さらに1ヶ月の時間が過ぎた。
オレたち菅原班はもう討伐任務も訓練も通常通りに再開している。
最近、みんなどこか思い悩んだ様子を見ることがあるが、何があったのか聞いても教えてはくれない。もしかしたら、オレは疫病神とでも思われているのかもしれない。
確かに自分でも得体の知れない人間に見えると思ったし、最近はかなりの疎外感を感じていた。
(タイムスリップしたなんて、ユウナとアオイに目撃されてなかったら誰も信じないよな……逆に嘘じゃないから余計に得体が知れないと思われてるのかな)
オレの悩みを他所に、都市の復興もだいぶ進み破壊された市民の住居も多くが完成した。避難施設で過ごす人の数もかなり減ってきた。
だが、依然建設作業は続いており、次々と新しく建っていく建物を見ると人間の逞しさは何時の時代も変わらないと、そう感じることができた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「記念式典……ですか」
菅原から話された式典、今回の功績者を称え、そして散っていった犠牲者を弔う儀式があることを聞いて、オレは呟いた。
「ああ、佐々木。お前もまた昇級は確実だろう。この短期間で凄いことだ」
「そうですか……」
オレは相変わらず周りから避けられているので、こんな話を聞いても特に喜びはない。
「……お前は何か勘違いをしているかも知れないが、今回の式典が終われば私たちの態度にも納得するだろう。式典は明後日だ」
(どういうことだ?)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして、式典の日。
中心部の広場。特設されたステージの上に市長と都市の主要な役員が並んでいる。
式典が始まり、大河内が式辞を進めて今回の戦争で犠牲になった者たちの名を読み上げていく。
その声は拡声装置を通じて都市中に聞こえている。
犠牲者の家族であろう人々からすすり泣きの声が聞こえてきた。
今回の戦争では500名の隊員達が犠牲になったそうだ。
9年前は5000人を越える犠牲者が出たらしいので、2倍の敵勢力に対して実に十分の一にまでこちらの被害は食い止められた。
だが、それは数字の上の話しであり、悲しむ人間の気持ちは変わらない。
「……以上だ。みんな、本当に良くやってくれた……都市の責任者として礼を言う。本当にありがとう」
大河内が最後に感謝の念を言葉にする。
「続けて、今回の功労者を労う論功式第に移る。名前を呼ばれた者は、壇上へ」
「佐々木さんも呼ばれますよ」
隣にいたユウナが小さくオレにつぶやく。
(えっ? おれが?)
「……そして、最後に菅原班、佐々木セイ!」
「は、はい!」
(本当に呼ばれちゃったよ)
壇上に上がると今回活躍した防衛隊員、討伐隊員が並び、総勢で何十人もいた。
順番にその人間が納めた功績を発表し、それに報いた昇級や記念品の授与が行われた。
山崎、セイヤが2人ともA-という階級に昇級していた。
「よし、最後は佐々木セイ!」
「は、はい!」
「君は今回の戦争において、都市内部に潜伏していた司令型グールを発見。そして我々の前へと姿を出させることに成功した。君の働きが無ければ我々が勝利を勝ち取れたか分からない」
「……」
(あんまり実感はないけど……)
「よって、その功績を讃え、君をC級隊員に任命する」
(とりあえず、最初の目標を達成か……次は東京へ……)
「そして、君は新トウキョウ都市への移住を希望しているな」
(え?)
「は、はい……」
「今回の功績を認め、君の新トウキョウ都市への移住も認める!」
(本当か! でも……どうやって行けばいいんだ?)
「そして、佐々木くんの移住に同行するものを、君には内密に募集した」
(は?)
「それは……どういう……」
大河内がニヤリと笑う。
「佐々木セイ。君は結城セイヤ、月城ユウナ、安城アンナの3名とともに新トウキョウ都市に向かうことを許可する!」
「ええ!!?」
おれは壇上にいるセイヤを見る。
顔は前を向いているが、手がサムズアップになっていた。
(やだ、イケメン!)
そしてユウナ達を見ると、満面の笑顔でオレのことを見ていた。アオイも珍しく笑顔だった。
「みんな……」
この式典が終わればオレたちの態度にも納得するだろう、菅原の話しはこういうことだったのか。
オレと一緒に来てくれるかをずっと悩んでくれていたのか。
オレは自分の浅はかさ、愚かさとみんなの優しさを同時に感じて、頬を濡らしていた。
皆と一緒に戦い、勝つことができて本当に良かった。
グールは倒れると、蒸気を上げて少しずつその体を大気中に溶け込むようになっているそうだ。そこかしこにグールの死体があり、まるでこの世の地獄といった様相なのだが、3日もすればすべてきれいに消えて無くなるらしい。
そうやって、空気中にグールウイルスを散布しているという予測もあるらしい。
オレたちが都市中心部から始めた討伐作業も、とうとう防壁の上まで到達し、完全に都市内部のグールは殲滅、掃討が完了した。
防壁の上からまぶしい太陽を臨み、この戦争は完全に終結した。
防壁のそばには、山崎班も戻ってきていてオレはみんなとの再会を喜んだ。山崎や、セイヤ、南、鈴子もみんなかなりの負傷をしているがなんとか無事だった。
ただ、サポート役の部隊は全滅したと聞いた。
その後、防衛システムを復旧し、最低限の人員を残して戦闘員は休みを取った。
みんな、深い眠りについただろう。
オレも部屋に戻ると倒れるように身をベッドに横たえた。
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そして、1週間が過ぎた。
「またですか、サガくん」
オレは検査の連絡を受けて、サガがいる研究施設を訪れていた。
「まあ、仕方ないですよ。あなたは特殊なので」
「はあ」
オレは任務や戦闘の後は必ずここに呼ばれ検査を受けている。
やはり100年前からの転移者という存在を、都市側も詳しく調査したいのだろう。
何度も会っているサガともかなり気心が知れてきた。
「今回は本当に危なかったですね。あそこまでの大群が攻めてくるなんて完全に想定外でしたからね」
「そうなんですか」
「ええ、市長は20000を超えてくる想定をしていましたが、それはみんなの慢心を諌めるための多めの数だったんですよ。それを上回ってくるとは……」
「なるほど……」
「しかし今回の功労者は、山崎さんとあなたですね」
「え? オレもですか? 司令型グールを倒した山崎さんは分かりますけど。何かしましたか? オレ」
「はい、もちろんですよ。都市内部で司令型を見つけたのは佐々木さんですよね?」
オレは司令型が放つテレパシーのようなものを感知することが出来ていた。それで地下に潜む2体目の司令型グールを見つけ出したのだ。
オレは市長が司令型と戦っている間も何度もその通信のようなものを悪寒として感じていた。
「まあ確かにそうですが、オレが見つけなくてもあのまま戦闘続けていても、すぐ見つかったんじゃないですか?」
「いやいや! あの個体はこちらから表に引きずり出さないと、何日も潜伏していたと思いますよ。そして際限なくグールを呼び寄せて都市を侵攻していたと思います」
「……」
オレはそんな大層なことをした自覚は無かった。
「ただ、山崎さんが外部の司令型を討伐してくれていたので敵も増援はあまりできなかったでしょうけど」
(ああ、そういうことか)
「外部のやつが、遠くからグールを集めてあの狼みたいなやつが都市の中心部を侵攻していたと、そういうことですか」
「我々もそう考えています」
(なるほど、司令型は早く見付けないとどんどんこちらが不利になるって訳だ)
「それに」
「?」
「今回の戦争の引き金は、佐々木さんたちの任務だったかも知れませんが、幕を降ろしたのも佐々木さんですね」
「……そう、だといいけど」
検査を終えると、オレは都市の復興作業へと戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
さらに1ヶ月の時間が過ぎた。
オレたち菅原班はもう討伐任務も訓練も通常通りに再開している。
最近、みんなどこか思い悩んだ様子を見ることがあるが、何があったのか聞いても教えてはくれない。もしかしたら、オレは疫病神とでも思われているのかもしれない。
確かに自分でも得体の知れない人間に見えると思ったし、最近はかなりの疎外感を感じていた。
(タイムスリップしたなんて、ユウナとアオイに目撃されてなかったら誰も信じないよな……逆に嘘じゃないから余計に得体が知れないと思われてるのかな)
オレの悩みを他所に、都市の復興もだいぶ進み破壊された市民の住居も多くが完成した。避難施設で過ごす人の数もかなり減ってきた。
だが、依然建設作業は続いており、次々と新しく建っていく建物を見ると人間の逞しさは何時の時代も変わらないと、そう感じることができた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「記念式典……ですか」
菅原から話された式典、今回の功績者を称え、そして散っていった犠牲者を弔う儀式があることを聞いて、オレは呟いた。
「ああ、佐々木。お前もまた昇級は確実だろう。この短期間で凄いことだ」
「そうですか……」
オレは相変わらず周りから避けられているので、こんな話を聞いても特に喜びはない。
「……お前は何か勘違いをしているかも知れないが、今回の式典が終われば私たちの態度にも納得するだろう。式典は明後日だ」
(どういうことだ?)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして、式典の日。
中心部の広場。特設されたステージの上に市長と都市の主要な役員が並んでいる。
式典が始まり、大河内が式辞を進めて今回の戦争で犠牲になった者たちの名を読み上げていく。
その声は拡声装置を通じて都市中に聞こえている。
犠牲者の家族であろう人々からすすり泣きの声が聞こえてきた。
今回の戦争では500名の隊員達が犠牲になったそうだ。
9年前は5000人を越える犠牲者が出たらしいので、2倍の敵勢力に対して実に十分の一にまでこちらの被害は食い止められた。
だが、それは数字の上の話しであり、悲しむ人間の気持ちは変わらない。
「……以上だ。みんな、本当に良くやってくれた……都市の責任者として礼を言う。本当にありがとう」
大河内が最後に感謝の念を言葉にする。
「続けて、今回の功労者を労う論功式第に移る。名前を呼ばれた者は、壇上へ」
「佐々木さんも呼ばれますよ」
隣にいたユウナが小さくオレにつぶやく。
(えっ? おれが?)
「……そして、最後に菅原班、佐々木セイ!」
「は、はい!」
(本当に呼ばれちゃったよ)
壇上に上がると今回活躍した防衛隊員、討伐隊員が並び、総勢で何十人もいた。
順番にその人間が納めた功績を発表し、それに報いた昇級や記念品の授与が行われた。
山崎、セイヤが2人ともA-という階級に昇級していた。
「よし、最後は佐々木セイ!」
「は、はい!」
「君は今回の戦争において、都市内部に潜伏していた司令型グールを発見。そして我々の前へと姿を出させることに成功した。君の働きが無ければ我々が勝利を勝ち取れたか分からない」
「……」
(あんまり実感はないけど……)
「よって、その功績を讃え、君をC級隊員に任命する」
(とりあえず、最初の目標を達成か……次は東京へ……)
「そして、君は新トウキョウ都市への移住を希望しているな」
(え?)
「は、はい……」
「今回の功績を認め、君の新トウキョウ都市への移住も認める!」
(本当か! でも……どうやって行けばいいんだ?)
「そして、佐々木くんの移住に同行するものを、君には内密に募集した」
(は?)
「それは……どういう……」
大河内がニヤリと笑う。
「佐々木セイ。君は結城セイヤ、月城ユウナ、安城アンナの3名とともに新トウキョウ都市に向かうことを許可する!」
「ええ!!?」
おれは壇上にいるセイヤを見る。
顔は前を向いているが、手がサムズアップになっていた。
(やだ、イケメン!)
そしてユウナ達を見ると、満面の笑顔でオレのことを見ていた。アオイも珍しく笑顔だった。
「みんな……」
この式典が終わればオレたちの態度にも納得するだろう、菅原の話しはこういうことだったのか。
オレと一緒に来てくれるかをずっと悩んでくれていたのか。
オレは自分の浅はかさ、愚かさとみんなの優しさを同時に感じて、頬を濡らしていた。
皆と一緒に戦い、勝つことができて本当に良かった。
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