グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅰ

第3話 タイムスリップ

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「チバ」

 リーダーが杖持ちに話しかけた。

「はい!」

「ユウダイに替わり、周囲を警戒。グールとの距離が300を切ったら知らせてくれ」

「了解です」

「アオイ、ユウダイは設置型魔術を200、100の距離にそれぞれ展開してくれ」

「了解です!」
「りょ~かい」

「ユウナはわたしとこの男を尋問を続けるぞ」

「了解です」

(オレ、尋問されてたのか……)

 隊員に指示を出したリーダーの男がこちらへ向き直る。

「さて、佐々木といったな」

「は、はい」
 
 銃はこちらに向けたままで、威圧はまだまだ健在だ。

「わたしはこの菅原班の班長、菅原ジュンという。こっちは隊員のユウナだ」

「は、はあ」

「班長という立場である以上、君という不確定要素の存在は放置できない、分かるか?」

(なんか、悟すような口調に変わったけど、銃はどけてくれないのか。)

「え、ええ。責任ある立場ということは理解できます。」

「それは助かる。それでは聞きたい」

 場の緊張感が増していく感じがする。

「お前は我々の敵なのか?」

 菅原班長がこちらを睨み付ける。

(なんで! そうなるんだ!?)

「いえ! で、ですからオレはここに居合わせただけで! 敵とかそういうのじゃありません!」

「じゃあお前はなんだ?」

「なんだ……と言われても……。オレは会社員をやってます、建設会社の総務部に所属してて…」

「オイ!」

 急にリーダーが怒鳴りつけてきた。

「ひっ!」

「ふざけたことを言うな!!」

(なんでこんなに怒ってるんだ!? なにかが良くない、間違ってる!?)

「会社員だと! まるで旧時代にでもいるみたいな、夢見てるみたいなことを言うな! 私たちに分かるように説明しろ!」

(なにが夢なんだ!? なんで急に怒ったんだ??)

「ゆ、夢って何のことですか? 本当のことを言っただけなんですが……」

「……こいつ!」

「班長!」

 今まで黙ってオレと菅原の話を聞いていた女の子が菅原を制した。興奮気味の菅原に割って入ってきてくれた。

「私が話してもいいですか?」

 女の子が宥めるかのように穏やかに菅原に許可を頼んだ。

「……ああ、頼む」

「はい」

 女の子がこちらを向いた。さらさらの髪の毛が流れるように揺れた。
 菅原は彼女をかなり信頼しているようだ。言動から何となくそれが分かった。

 オレとしては何を言っても裏目に出ているようだったのでここで話し相手が変わるのは助かる。

「わたしは月城ユウナと言います。ええと、ササキさんでしたよね」

 ユウナが可愛らしい声でオレに質問した。

「は、はい。オレは佐々木セイと言います」

「ありがとうございます。今が特殊な状況と言うのは分かりますよね? いくつか質問させて頂いて、佐々木さんがどのような状況にあるのか整理させてくださいね」

(よ、良かった、思った通り優しそうだ。かわいいし。で、でも警察のアメとムチみたいな感じになってきたな)

「は、はい。オレに答えられることなら」

「大丈夫。簡単なことだから。じゃあお聞きしますね」

 菅原も黙ってこちらのやり取りを聞いている。だが、銃はオレを向いたままだ。

「あなたの着ている服はどうやって手に入れたんですか?」

(え? いきなりファッションチェックか??)

「服……? このTシャツとスウェットですか? ええと、先月駅前のスポーツ用品店で買いました」

 ユウナが少し驚いた顔をして、小さく頷いた。

「……お店で買ったということですね。では、もうひとつ質問です。あなたはグールというものは知っていますか?」

「……いえ、知りません。ただ、さっきみなさんが戦っていた相手ではないかなとは思います」

「グールを知らない!?」

 急に菅原が唸った。

(え? あのゾンビを知らないのがそんなにおかしいのか?)

「そうですか……もう少し続けさせて頂きますね」

 ユウナもかなり驚いた顔したが、言葉を続けた。

「は、はあ……」

「なぜここにいるのか、ここで目を覚ます前は何をしていたかは覚えていますか?」

「いや、それは分かりません。ここがどこなのがも……コンビニに買い物に向かっていたことしか……」

「コンビニ? ……うーん、でも記憶はあるみたいですね。会話も成立するし」

(え? ボケてるかチェックされてたの?)

「ところであなたはどの都市に住んでいるのですか?」

(……質問の意味が分からない……横浜って答えたらさっきリーダーが怒ったし、どう言えば……)

「えーと、神奈川県。です。そこの横浜市って言う都市ですけど……この答えでいいのか疑問なんですけど」

 ユウナは顎に指を当てて考え込んでしまった。返事はない。

「そう……ですか。なるほど」

(や、やっぱりダメだったみたいだ。何がダメなんだ? 横浜を知らないのか? ここは日本だろ、日本語も通じてるし。この子もみんなも日本人だよな?)

 オレは現在の状況の推測がまるで出来ない。何か不思議なことに巻き込まれて転移でもしてしまったかと思ったが、みんなは日本人の見た目だし、ここが異世界って訳でもなさそうだ。

 それにここはさっき窓の外の様子を見た感じ、明らかに地方の寂れた工場か何かの内部だ。国外っていう場所にも見えない。

「分かりました。では、最後にもう1つ聞かせてください」

(何か分かったのか??)

「は、はい、お願いします」

「今は西暦何年ですか?」

(え? なんだその質問……さすがにそんなにボケてないぞ)

「は、はい、2025年ですよね」

「「!」」

 菅原とチバが驚いている。

「やっぱり……、でもそんなことがあるの……?」

 ユウナは何かに納得しているようだ。

「?」

(何に驚いているんだ?)

「あなたの着ている服は有名なスポーツメーカーのものですよね?」

「あ、ああ。そうです。セール品ですが……」

「わたしは旧時代のファッションが好きなんです。」

(キュウジダイってなんだろ? ブランドか店の名前なのか? 女の子がファッション好きなのは分かるけど……)

「佐々木さん、あなたの着ているその服は100年ほど前から生産されなくなっています。そんなにきれいな状態で残っている訳がないんです。だから、初めて見たときから今この時代にその服を着ているあなたが不思議でした」

(100年前?? どういうことだ??)

「え……? 100年って、何を言って……? これは、先月買ったんですよ?」

「今は西暦2125年です。さっき、2025年と言いましたね? あなたのその認識からだと100年ほど経っているようです」

「は……??」

「今の時代、そんな服を持っている人はいませんし、残ってもいないと思います。もし、残っていてもそれを着て出歩くのも不自然です。私もそういう服装は画像資料では知っていましたが、本物は初めて見ました」

 ユウナがふぅと一息つく。

「これはあくまで私の推測にしか過ぎませんが、あなたは何らかの事故、もしくは現象に巻き込まれて、2025年から2125年に転移したのだと思います」

 ユウナが自身の考えを話し終わり、菅原とチバが驚きと困惑の表情をしている。
 菅原はすぐに思案に移り、オレの扱いを検討しているようだ。
 真剣な顔でオレやユウナを見ている。

(100年前から転移って……そ、そんなこと……でも、それじゃあオレの妹弟達は……?)

 オレはユウナの言葉で激しく混乱してしまった。
 もし、もし本当に100年もの時間が知らない間に過ぎていたとしたら、オレの妹たちと弟はこの時代にはもう居ないだろう。

 そしてオレのオタクの部分が今の状況を冷静に理解し始めた。

 (つまり……これは、ゾンビものであり、タイムスリップものってことでもあるのか?)

 オレはさらに不安で先が見えなくなる思いだった。
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