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ミゴノ助

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幼年期編

採掘前線異常アリ

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「これ、で……ラストぉ」

 気合いの咆哮とともに最期の土片を戻しクレーターを完全に埋め終わるとその場にうずくまる。

 ようやく張り切り過ぎたツケを返済し終え、達成感と疲労感に包まれる。
 朝方に練習を始めて、何故か練習していた場所を修復する羽目になるとは……。

 ふと空を見上げれば太陽は真上を少しずつ過ぎており、結構な時間が経過していることを理解するとそれを感じ取った胃袋がくぅっと音を鳴らして食事を催促する。

「お腹……減ったなぁ」

 以前は感じることすら出来なかった空腹の感覚に若さと戸惑いを感じながら仰向けに横たわり、天を向き幼い頃に祖父母の家で嗅いだ以来の土の匂いに包まれながら使いすぎた魔力の反動でガンガンする頭に苛まれ同時に襲ってくる眠気に誘惑される。

 前世と同じように頭を振って散らそうとするも、幼い体は正直なもので腹には抗えずその欲求に突き動かされるようにパタリと倒れこむ。
 せめてもの抵抗で仰向けに倒れると雲ひとつない青空が目に写り、手の甲を額に当てもう何年ぶりかもわからない穏やかな気持ちになる。

「坊っちゃま。何をなされているのですか?」

「メイ……いや、なんとか元通りに出来たんだけど流石に限界で……」


「一人で終わらせたのですか?!私が報告に行っている間少し進めておいてくださるくらいでよろしかったのに」

 仕事がら単純作業《ルーチンワーク》は苦手ではなかったが一人でやるには範囲が広すぎた。
 正直、聖剣とは名ばかりの採掘具の能力に疲労を少なくする能力がなかったらメイの言った通りの結果だったと思う。

「本当にお変わりになられましたね……。それと、親方様より執務室に来るようにとのことです」

「判ったよ。ヤッパリ怒られるよね……」

 流石に直したとはいえあそこまで惨事を引き起こして御咎め無しとはいかないだろうと憂鬱に立ち上がろうとすると再び腹の虫がクゥと鳴いてしまう。

「そこは食事と着替えは済ましてからで構わないとの仰せです」


 メチャクチャになった地面を整地するという重労働をこなしてスッカリ汚れてしまった服を着替え、もはや慣れることもやめかけた塩気の薄い食事で空腹を満たすとメイに先導されながら今生の父親との対面に望む。

「メイにございます。御館様、リドル坊っちゃまをお連れ致しました」

「入れ」

 コン、コン、コン、と三回ノックし入室の許可を得るとメイと共に部屋へ入る。




 元のリドルの父親にして此処の領主ジャス。
 傭兵であった曽祖父が戦功により爵位を賜った。傑物と言われたその才覚によって辺境を切り開き、祖父がその堅実な手腕で着実に発展させたこの地を受け継いだのが現在の父だ。

「よく来たな。少しだけまってくれ」

 羽ペンを走らせ書類にサインしていくと執務の途中だったであろうそれを手際よく捌いていく。

「リドル。聖剣を発現させたそうじゃないか」

 キリの良いところまで事務処理を終わらせると父は顔をあげ、一息たきながら某司令官のように顔の前で腕を組んで此方に問うてくる。

「はい。これです」

 そう言ってシャベルを取り出して見せると父は「は?」と一瞬眼が点になったような声をあげる。
 刃こそあるものの武具の範疇に入るかすら怪しい形状にある意味当然かもしれない間の抜けた反応にメイと二人して吹き出しそうになる。

(もしかしなくても同じ顔していたんだろうなぁ)

「御館様。見た目は、見た目こそアレでございますがその能力は確かなものにございます」

 メイが助け船を出すように切り出すと、父は正気を取り戻し現実に帰ってくると呆けた顔から一転真剣な顔で執務机に置かれた採掘具の鈍い輝きを見つめたり軽く叩いて堅さを確認すると「ふむ」と顎に手をやる。

「それはわかった。で、どんな能力があるんだ?朝方に凄い音と振動があったのはわかっているが……」

 てっきり鎚《ハンマー》の類だと思っていたと苦笑しながらも、誤魔化しは許さないという強い圧に押されおもわずポツリポツリと話してしまう。

「形状変化に、土属性の強化が主になります」

「ほぅ、他には?それだけではなくまだありそうだと私は思うのだが」

「それは……」と言いかけたとき、不意に後ろのドアが開きノックも無しに飛び込んで来る。

「貴方……ナニをシテイルノカシラ」

 振り向くと顔こそ笑みを浮かべているものの禍々しい を纏い、ともすれば背後に阿修羅や般若が見えるような表情をした母が効果音のしそうな足どりで俺を追い越すと机に座ったままの父に歩み寄り感情の読めない機械的な声で問い詰めるのだった。

「ネエ、アナタフダンコノコヲカバウコトモセズナニヲヤッテイルノカシラ」

 柔らかい表情でありながら無機質な声は精密無慈悲な機械を思わせ、背筋に冷たいものが走る。
 何でこの世界は無言の圧を出せる人がこんなにいるんだよ!!



「ち、違うんだアリアっ!話を聞いてくれ!!塩の件でリドルの聖剣が使えないかと思っただけだ!!」


「……ソウナノ…………なんだそう言う事なら早く言ってくださいな」

 慌てた弁解する父の言葉に纏っていた重苦しい雰囲気が霧散し、ようやく息苦しさから解放される。

(助かった……。それにしても塩の件であれだけ荒ぶっていたのが収まるなんてやっぱりなにかあるのか?)

 ここ数日の味気のない食事を思い出していると申し訳無さそうな顔をした父が説明してくれる。

「……最近、料理の味が落ちているだろう?元々は魔剣の洞窟で賄っていたんだが入り口が落盤で崩れて入れなくなってしまったんだ」

 それでスッカリ塩不足だ、と苦笑いを浮かべながらやるせないという感じで肩を竦める。

「それでリドルが練習場に大穴を開けたと報告を受けて活用出来ないかと思ってな……」

 そこまで言ってメイに目配せし、魔剣について教えているかと問うと首を振って否定で返される。

「では準備がてら教えておいてくれ。明日の朝一には出立する」

「畏まりました」

 メイが頭を下げるとそれでは私もこれで、と母に手を引かれて退室する。




「メイ、魔剣って何?聖剣の親戚?」

 何となく意味合いは分かるがあくまで知らない体を装い道すがらきいてみる。

「そうですね……」

 説明を纏めると
 ・魔剣とは聖剣と対を成しているが似て非なるモノで、聖剣が本人の能力に沿ったものが発現しやすいことに対して魔剣はそれ自体の固有能力を持つ。
 。長さや重さが持ち主に合わせてフィッティングされる点は同じだが、最大の違いは聖剣は権限するまでは現実に存在しないが魔剣はその場に存在する。
 ・洞窟の奥深くや谷底、場合によっては庭先や広場のど真ん中といった場所にランダムで突き刺さっているらしい。
 ・引き抜けるかどうかは聖剣と同じく素質が必要で前の持ち主がこの世を去った場合は魔剣も消えどこかに刺さり直る。

(まるでランダムガチャと福引きだな)

「件の魔剣は坊っちゃまの祖父にあたる先代のお館様が所持していたものなのです。
 その能力で領内の塩事情を賄っていたのですが……」


 なぜ魔剣で塩が賄えるのか疑問に思ったが
 そう言うことか。
 今まで頼りきっていたルートが潰れて一気に崩れたと、それで塩が枯渇してあんなに薄かったのか……。

「それでは練習場に向かって準備を致しましょう」

「……え?」

 明日のための準備に練習場へ行くと言うメイに思わず間の抜けた声が出てしまう。

「そうよねぇ、あそこに行くのなら練習しておかないと」

「あの、ちょっと」
 隣を歩く母も同じ考えなのかうんうんと頷き同意する。

「あの場所の現状を鑑みると硬化《ケアリング》や地層探索《アースサーチ》の魔法は絶対に必要ですし護衛がつくとはいえ道中も何かと危険ですのでここは厳しくいかせて頂きます」

 眼鏡をキラリと光らせながら俺の手を引き
「頑張ってねぇ~」という母の声をバックに直したばかりの練習場に連れられていく。
 そして……。




 その日は日が暮れるまでミッチリとスパルタに扱かれたおすのだった。










 次の日、過剰なほどの護衛に囲まれ件の洞窟へと赴くと父から聞いたとおり入り口が崩落し辺りには鉱夫と思わしき屈強男たちが屯する。

「どうだ?」

「ダメでさぁ、上のほうがスッカリ脆くなっちまってて掘っても掘っても崩れてきちまいます」

 現場監督に進捗を訪ねるも芳しくないらしく、これが証拠と言わんばかりに少し入り口を塞ぐ土砂へとシャベルを突き立てるも掘り返した端から崩れおちてしまい元の厚みまで戻ってしまう。
 その様子に落胆と仕方ないという気持ちの混じり合った空気が作業現場に満ち溢れる。

「そうか、なら……聞いていたなリドル!」

「はい」

 領主の子息とはいえこんな子供に……という視線を受けながら前に出て、すぅっと深呼吸して緊張を紛らわすと表層雪崩を起こした岩肌に手を触れる。
 そして聖剣《ツルハシ》を呼び出し、その効力でブーストしながら昨日仕込まれた地層探索《アースサーチ》を発動し魔力を走らせる。



 大人の身長分より少し大きい、大体二メートル四方の箱状に硬化をかけ崩落防止を試みる。
 昨日ミッチリ・・・
 本当ミッチリと仕込まれた成果もあり、スムーズに魔力を流し込める。
 岩肌が固まって来るのを確認すると中心の脆いままの部分に聖剣《ツルハシ》を振り下ろす。
 切っ先が崩れて塞がった入り口に触れた瞬間
 先程と同じく容易く掘れはする。


 しかし上部が崩れ落ちることなく、身体に則した大きさであるものの確りと風穴を穿った。


「「「「「ス、スゲエエェェェェェェェ!!!!!!!!」」」」」

 僅か掘り進んだだけなのに何故か歓声が上がる。

「…っお前ぇ達、坊っちゃんだけにやらせるつもりか!!」

 そのまま聖剣《ツルハシ》の力も借りて二、三歩掘り進むんでなおその声は鳴り止まず現場監督の一喝でようやく動き出し、いそいそと掘り出した土を運びだす。
 何人かは各々手に道具を持ち、崩れないかおっかなびっくりではあるものの俺に追従して
 土壁にスコップを突き立てる。
 これまでの徒労と崩落を繰り返した苦い経験が彼らの脳裏に過り、その手は遅々としたものだが度胸のある何人かは隣に来ると穿った部分を押し広げるようにして掘り進める。

「あ、そろそろまた脆くなってるから魔法をかけ直すんでちょっと待って」

「「へい、坊っちゃん!お願いしやす!!」」

 ガテン系の力強い返事を受けて硬化をかけ直し鉱夫達と共に押し進める。
 魔法で脆い地層を固め、聖剣という名の採掘具で掘り進み硬化した範囲を越えると魔法をかけ直す……。時折道端を拡げるため横壁を削りながら其れを数回繰り返し、ようやくトンネルが開通する。

 まだ後ろでは再度の崩落を防ぐよう補強しているが一足先に中へ入る。
 一人がランタンをかざして辺りを照らし出しと奥行きは思ったほどなく、少し先に小部屋のような空間が広がっているのがわかる。
 そして小部屋の中心には立派な拵えの台座に突き刺さる二又の槍が鈍い輝きを放つ。

「坊っちゃん、やりやしたね!」

 神秘的な光景に見とれていると共に掘削した鉱夫達に肩を叩かれ、代わる代わるがっちりと手を取られて感謝を告げられる。
 中には感極まったのかその太い腕を顔に押し付けて涙を流す者さえいる。

「あれが魔剣ロソギノフスだ。よくやったな、リドル」
 いきなりの体育会系な賛辞と感動の場に困惑していると、後をついてきた父に後ろから話し掛けられる。
 というかスゴイ紛い物っぽい名前だな。

「この者達の村は塩不足が特に深刻だった場所でな、縁者のため昼夜を問わず延々と入り口を堀続けていたそうだ」

「そんな……」

 前世では縁遠い事態も珍しいことではなく、それに命を懸けて係わるという事態に呆然としその沈黙に僅かな嗚咽が洞穴に響く。

「故に胸を張れ、お前はこの者達の努力を結実させたのだ」

「そんな大したことは……」

 父の言葉に大袈裟な、と返そうとするが一人の鉱夫が前に進み出てくる。

「坊っちゃん、そんな謙遜しないでくだせぇ」



「そういうことだ、見ていろ」

 父は鉱夫の言葉に同意を示すと懐から保存食を取り出し、地面に突き刺さった魔剣のはみ出ている刃にあてがう。
 すうっと二つに切り裂けば保存食はみるみるうちに切り口から白くなっていき、あっという間に塩の塊と化す。

(成る程これで塩を賄っていたのか、名前はパチ物感満載だけど能力は本物か)

 目の前で見せられた魔剣《パチモノ槍》の能力に思わず息を飲むと父はテキパキと指示を飛ばす。

「早急に物資を運ばせる故持っていってやれ。
 そうだ、折角だからリドルも試してみるか?」

 思い出したように父が魔剣を指差す。
 抜けるかやってみろと言うことだろう。


 近くまで行き、柄を掴み引き抜こうと力を込める。








 _________が、

「フンッ!」


 抜けない……。

「グギギギギギっ!」

 両手で力一杯引っ張り、全身を使って踏ん張るもまるで台座と一体。
 やがてすっぽ抜け、そのまま仰向けに倒れ息が切れたままゼイゼイと酸素を取り込む。

「やはり無理か。コレが抜けたらもっと便利な場所で製塩できるのだが、まぁ仕方ないか」

「領主様ぁ、ここまでしてくれたんで充分でさぁ」

 寝転がりながらそんな会話が聞こえると、ひとつ閃くものがあった。




 どうして復活の葉を一枚しか抜けないのか、枝ごと持ってはいけないのか。



 なぜ臆病な短剣と勇敢な長剣、どちらかしか持っていけないのか。

 貝と根の化石、一方しか採取できないのか……。

「父上……要はもう少し便利の良いところに移動させられればいいんですよね?」

「む、確かにそうだが何か考えでも有るのか?」

 少し息を整えながら訪ねると興味深そうな眼差しを向ける。


「よかった……ならこうしてももんだいないわけですね」


「どうしたリドル。聖剣なんぞ取り出してどうするつもりだ?」

 後ろから投げ掛けられる父の言葉を半ば無視して立ち上がり顕現させた聖剣《採掘具》を振りかぶる。

 そして前世での遊戯《ゲーム》で感じた疑問と理不尽を全て乗せるつもりで振り下ろす。

 ガッキィィィン!!!!という硬質の音が響き渡り、ほんの僅かではあるものの台座に凹みを穿つ。

 そのままガンガンと台座に振り下ろし続け、少しずつ少しずつではあるものの掘り進める。

「ぼ、坊っちゃん!何をしてるんでさぁ?!」

「気でもくるったか!!そのようなことしなくとも抜けぬほうが当たり前なのだぞ!?」

 父と鉱夫のなぜかシンクロしたツッコミが飛んでくるものの手を休めず、『疲労軽減』のスキルにあかせてザクザクとジェリコの壁を崩す勢いでひたすらに聖剣という名のツルハシを振り下ろし続けて暫くすればフラスコ状の極点を越える。
 魔剣そのものはあまり深くまで刺さっていなかったのを幸いに反対側からも掘り進め、台座から切り離す。

「ふぅ、どうですか父上。これで何処へでももっていけますよ!!」

 やり遂げた達成感と共に振り替えると、そこには鉱夫と揃ってあんぐりと口を開けて呆ける父の姿があった。


「いや、リドル……それはない、それはないだろう」

「無学なアッシにゃぁもう何が何だか分かりやせんが、こんなこと出来たんでやすねぇ」

 鉱夫は素直に塩不足が解消される喜びを示し、父は困惑と頭を悩ませるような仕草をしながら目の前の事態を飲み込めないようでひたすらブツブツと小声で呟きながら額に手を当てる。

「よいっっっしょ!父上!手伝って貰えませんかっ?」

 重さに苦しみながら掘り出した魔剣を目の前まで運んで声をかけると父は目をぱちくりさせ、流石に現実を直視したのかため息一つなんとか飲み下す。

「そう、そうだな。何人か呼ぶから少し待っていろ」

 何かを諦めたように鉱夫にも手伝ってやれという指示を飛ばすと足早に洞窟の出口へ走り去っていく。
 残された俺は台座の残骸が付いている方を持ってもらい、自分は石突き側の柄を方に担いでゆっくりと歩き始める。

(普通は移動させられなくて使い手を選ぶアイテム、だけどで効力はある程度発揮できる。
 魔剣の全部が全部そうなのかはまだ分からないが……。
 これ、いけるかもしれないな)


 出口迄の道すがら頭の片隅でそんな事を考え、思い付いたアイデアに思案を巡らせると出口の明かりが見えてくる。

(最初は見た目的にハズレかと思ったけどこういう風にも使えるなら実は大当たり、まではいかなくても使いようによっては只強いだけよりも優秀じゃないか……まぁ何にせよ)

「全ては帰ってからだな」

「?坊っちゃん、何かいいやしたか」

「え、ああいや。何でもないよ……。それよりもさ、早くいってあげよ!」

 思わず声に出してしまった事を誤魔化しながら先を促して凱旋、と言うには色々と違うが洞穴を出ると入り口を抉じ開けた時以上の歓声と共にもみくちゃにされるのだった。








 ちなみに無理矢理魔剣を掘り出したせいか翌日から酷い筋肉痛に見舞われ地獄を見ることになるが、それは又別のお話。
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