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★賢者アラン
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私と賢者様は適当に時間を潰す為、ぐるりと村の中を見て回る。
しかし、これと言って足を止めて見る物が無い。
色々な国、都市を回ってきた私達が興味を惹かれるような珍しい物は、この村には何一つ無く、村人それぞれが仲睦まじく商いをしている光景が目に着く。
この村の特産品だというすももの酸味が絶妙なバランスで、私は両手で抱えられるだけの量を買ってもらい、水車小屋の近くの塀に二人で並んで腰掛けてそれを頬張る。
「いやー……、本当に長閑な村だね、ここは」
村を一周してみて、賢者様の口から出てきた最初の感想。
それには私も無言で同意する。
口の中がすももで一杯で、噛めば噛むほど溢れ出る果汁のおかけで口が開けられないだけなのだが、首を縦に何度も振って答える。
隣に座る賢者様は遠い目をして、今も村の景色を眺めている。
羨ましい、と顔に書いてあるかのような表情だ。
私は口に残るすももをゴクンと喉を鳴らして胃へと流し込み、彼に尋ねる。
「賢者様は、こういう村に住みたいの?」
「え?……うーん、難しい問題だね、それは」
腕組みをし、軽く首を捻りながら考える。
「カメリアも知っている通り、私は人の賑わいはあまり得意じゃない。だから、ここみたいに人口の少ない場所の方が居心地は悪くないだろうね。でも、もし住むとなった場合、こういう寒村だと、私の欲する物がまず手に入らないから、そこは難点だね」
「賢者様の欲しい物って……研究材料とか?」
そう聞けば賢者様は「そう」とにっこりと微笑んで頷く。
「王都にいてもなかなか手に入らない物とかもあるからね。自分で出向いて直接採取するのが一番早かったりするわけなんだけど、そこに向かうまでの足が無いだろう?」
「賢者様なら簡単に飛べるじゃん」
「うん、そうなんだけど。そうなると別に、人里で暮らす必要性が無くなってしまうんだよね。今みたいな根無し草で、気の向くまま、風の吹くまま……カメリアの興味のままに世界中を歩く生き方の方が、私には合っているんだと思うよ」
「…………」
思わず目をパチクリさせ、なんだか気恥かしくなってふいと視線を反らす。
「……今日の賢者様、なんか変」
「そうかい?んー、昔の仲間に出会えて、気持ちが高揚しているのかもしれない」
顔は見えていないが、口調からしてきっとニコニコと上機嫌なんだろう。
賢者様が酔ってるとこ……お酒飲んでるとこ見たことないけど、酔ったらこんな感じなのかな?……そんなに、嬉しかったんだ。
ふと、先程生まれた感情が過ぎり、あっという間に心の中がモヤモヤしてきて、
「……アラン」
ぼそりと、独り言のように声に出す。
「……ん?」
隣にいた彼が聞こえた聞こえないかくらいの声量で、それでも聞こえた筈の言葉を、彼はなんとも言えない間でとぼける。
「ニコルはあんなに簡単に言葉にしたのに、カメリアには言わせてくれないの?それに、カメリアがパートナーって、どういう意味?」
逃げられないよう、彼のローブの裾をぎゅっと掴み、じっと、彼の瞳に問いかける。
いつもはぐらかされる事が多いけど、これだけはちゃんと答えて欲しい。
そんな想いを込めて、彼の返答をひたすらに待つ。
「…………あー、えっと」
今までのニコニコ顔から一転、賢者様は困ったように視線を泳がせたり、指で頬を掻いたりと忙しない。
それでも私はそれ以上は追求せずにじっと待つ。
すると、やがて彼は一つ、大きく息を吐き、私の手を取って、私に微笑みかけた。
「今まで隠していてゴメンね。これも私の……ボクの勇気の足りなさが原因だ。ちゃんと自分の口で伝えるつもりだったんだけど、遅くなってしまった。改めまして、賢者様ことアランです。よろしくね、カメリア。……私の、とても大切なお姫さま」
大切な……。
姫と呼ばれる事は何度もあった。
けど、ここまで優しい口調で呼ばれたのは、初めてだ。
それでも……。
「カメリアは、アラン様の嫁、だよ?」
少しだけ、ほんの少しだけ恨みを込めて、それなのに笑顔で不平を漏らす。
「それはボクの勇気と、今抱えている厄介事が片付いたら、改めて言わせてもらうよ」
にへらと、気恥ずかしそうに微笑む彼。
「あ、でもボクの名前は、人前ではあまり言わないで欲しいな。あまりお偉いさんに目を付けられたくないからね」
しぃ、と人差し指を口元に当てる彼を見て、私もこくりと頷く。
「分かった。二人きりの時の、魔法の言葉、だね?」
「そういう事。……さあ、そろそろニコル達の家に戻ろうか」
「うん。いこ、賢者様」
ピョンと塀から飛び降りて手を差し出すと、賢者様も自然とその手を取る。
そして二人で並んで、歩いて行く。
「それじゃあ、もう行ってしまうのね」
ニコルの家に戻ると、ちょうど墓参りから帰ってきた二人と出会い、私達はそのままそこで別れの挨拶を済ませる。
「ああ。今日はエヴァンに、ボクの決意とその許しを得に来ただけだからね。もしかしたら彼の剣を借りに来る事があるかもしれないけど、その時はまたお願いするよ」
「分かったわ。最近はエヴァンへの慰問者が多いけど、貴方ならいつだって大歓迎よ」
夫と再び会話が出来たのがとても嬉しかったのだろう、今日見た中で一番の笑顔を零しながらニコルは微笑む。
その笑みに対して賢者様が「そうだ」と思い出したように尋ねた。
「もしかしてその慰問者の中に、エイサーと言う青年はいなかったかい?大剣を背中に背負った、傭兵風の若者なんだけど」
「……ああ、いたわね」
数少ない情報でニコルほ当たりをつけ、眉を潜める。
「エヴァンを目指していると言っていたけど、彼からはとても異様な気を感じたわ。根は真面目なのかもしれないけれど、あまり近寄りたい子ではなかったわね。その子と、何か?」
「いや、何でもないよ。……それじゃあ、そろそろ行くよ。色々とありがとう、楽しかったよ」
「私もよ。エヴァンに会わせてくれて、ありがとう。旅の無事を祈っているわ」
賢者様の挨拶にニコルが返し、私達は歩き出す。が……
「あ、カメリアさん」
と呼び止められ、私だけ小走りでニコルの元に戻る。
「なあに?」
「ごめんなさいね呼び戻して。アランのことなんだけど……」
「?」
ニコルは片手を口元に当て、できる限りの小声で囁く。
「彼、昔からあまり自分の事は話さずに、自分で背負い込んでしまう所が沢山あるから、誰かに紹介出来るような相手が見つかって、本当に良かったと思っているの。あんなに楽しそうにしているアラン、久しぶりに見たわ。だから、これからも彼をよろしくね?」
「……」
「それじゃあお元気で。またいらしてね」
ひらひらと手を振るニコル。
それに私はにこりと微笑み返す。
「うん、ニコルも元気でね。あ、それと……」
最後に私も、口元に手をあててボソボソと大切な事を伝える。
「カメリアはアラン様の嫁だから、絶対に幸せにしてみせるよ。……じゃあね!」
手を振り上げ、ダッシュで賢者様の元まで戻る。
「こそこそと何を話していたんだい?」
そう聞かれるが、私はニコニコと微笑むだけでそれには答えない。
「ふふ、女のコのヒ・ミ・ツ、だよ」
しかし、これと言って足を止めて見る物が無い。
色々な国、都市を回ってきた私達が興味を惹かれるような珍しい物は、この村には何一つ無く、村人それぞれが仲睦まじく商いをしている光景が目に着く。
この村の特産品だというすももの酸味が絶妙なバランスで、私は両手で抱えられるだけの量を買ってもらい、水車小屋の近くの塀に二人で並んで腰掛けてそれを頬張る。
「いやー……、本当に長閑な村だね、ここは」
村を一周してみて、賢者様の口から出てきた最初の感想。
それには私も無言で同意する。
口の中がすももで一杯で、噛めば噛むほど溢れ出る果汁のおかけで口が開けられないだけなのだが、首を縦に何度も振って答える。
隣に座る賢者様は遠い目をして、今も村の景色を眺めている。
羨ましい、と顔に書いてあるかのような表情だ。
私は口に残るすももをゴクンと喉を鳴らして胃へと流し込み、彼に尋ねる。
「賢者様は、こういう村に住みたいの?」
「え?……うーん、難しい問題だね、それは」
腕組みをし、軽く首を捻りながら考える。
「カメリアも知っている通り、私は人の賑わいはあまり得意じゃない。だから、ここみたいに人口の少ない場所の方が居心地は悪くないだろうね。でも、もし住むとなった場合、こういう寒村だと、私の欲する物がまず手に入らないから、そこは難点だね」
「賢者様の欲しい物って……研究材料とか?」
そう聞けば賢者様は「そう」とにっこりと微笑んで頷く。
「王都にいてもなかなか手に入らない物とかもあるからね。自分で出向いて直接採取するのが一番早かったりするわけなんだけど、そこに向かうまでの足が無いだろう?」
「賢者様なら簡単に飛べるじゃん」
「うん、そうなんだけど。そうなると別に、人里で暮らす必要性が無くなってしまうんだよね。今みたいな根無し草で、気の向くまま、風の吹くまま……カメリアの興味のままに世界中を歩く生き方の方が、私には合っているんだと思うよ」
「…………」
思わず目をパチクリさせ、なんだか気恥かしくなってふいと視線を反らす。
「……今日の賢者様、なんか変」
「そうかい?んー、昔の仲間に出会えて、気持ちが高揚しているのかもしれない」
顔は見えていないが、口調からしてきっとニコニコと上機嫌なんだろう。
賢者様が酔ってるとこ……お酒飲んでるとこ見たことないけど、酔ったらこんな感じなのかな?……そんなに、嬉しかったんだ。
ふと、先程生まれた感情が過ぎり、あっという間に心の中がモヤモヤしてきて、
「……アラン」
ぼそりと、独り言のように声に出す。
「……ん?」
隣にいた彼が聞こえた聞こえないかくらいの声量で、それでも聞こえた筈の言葉を、彼はなんとも言えない間でとぼける。
「ニコルはあんなに簡単に言葉にしたのに、カメリアには言わせてくれないの?それに、カメリアがパートナーって、どういう意味?」
逃げられないよう、彼のローブの裾をぎゅっと掴み、じっと、彼の瞳に問いかける。
いつもはぐらかされる事が多いけど、これだけはちゃんと答えて欲しい。
そんな想いを込めて、彼の返答をひたすらに待つ。
「…………あー、えっと」
今までのニコニコ顔から一転、賢者様は困ったように視線を泳がせたり、指で頬を掻いたりと忙しない。
それでも私はそれ以上は追求せずにじっと待つ。
すると、やがて彼は一つ、大きく息を吐き、私の手を取って、私に微笑みかけた。
「今まで隠していてゴメンね。これも私の……ボクの勇気の足りなさが原因だ。ちゃんと自分の口で伝えるつもりだったんだけど、遅くなってしまった。改めまして、賢者様ことアランです。よろしくね、カメリア。……私の、とても大切なお姫さま」
大切な……。
姫と呼ばれる事は何度もあった。
けど、ここまで優しい口調で呼ばれたのは、初めてだ。
それでも……。
「カメリアは、アラン様の嫁、だよ?」
少しだけ、ほんの少しだけ恨みを込めて、それなのに笑顔で不平を漏らす。
「それはボクの勇気と、今抱えている厄介事が片付いたら、改めて言わせてもらうよ」
にへらと、気恥ずかしそうに微笑む彼。
「あ、でもボクの名前は、人前ではあまり言わないで欲しいな。あまりお偉いさんに目を付けられたくないからね」
しぃ、と人差し指を口元に当てる彼を見て、私もこくりと頷く。
「分かった。二人きりの時の、魔法の言葉、だね?」
「そういう事。……さあ、そろそろニコル達の家に戻ろうか」
「うん。いこ、賢者様」
ピョンと塀から飛び降りて手を差し出すと、賢者様も自然とその手を取る。
そして二人で並んで、歩いて行く。
「それじゃあ、もう行ってしまうのね」
ニコルの家に戻ると、ちょうど墓参りから帰ってきた二人と出会い、私達はそのままそこで別れの挨拶を済ませる。
「ああ。今日はエヴァンに、ボクの決意とその許しを得に来ただけだからね。もしかしたら彼の剣を借りに来る事があるかもしれないけど、その時はまたお願いするよ」
「分かったわ。最近はエヴァンへの慰問者が多いけど、貴方ならいつだって大歓迎よ」
夫と再び会話が出来たのがとても嬉しかったのだろう、今日見た中で一番の笑顔を零しながらニコルは微笑む。
その笑みに対して賢者様が「そうだ」と思い出したように尋ねた。
「もしかしてその慰問者の中に、エイサーと言う青年はいなかったかい?大剣を背中に背負った、傭兵風の若者なんだけど」
「……ああ、いたわね」
数少ない情報でニコルほ当たりをつけ、眉を潜める。
「エヴァンを目指していると言っていたけど、彼からはとても異様な気を感じたわ。根は真面目なのかもしれないけれど、あまり近寄りたい子ではなかったわね。その子と、何か?」
「いや、何でもないよ。……それじゃあ、そろそろ行くよ。色々とありがとう、楽しかったよ」
「私もよ。エヴァンに会わせてくれて、ありがとう。旅の無事を祈っているわ」
賢者様の挨拶にニコルが返し、私達は歩き出す。が……
「あ、カメリアさん」
と呼び止められ、私だけ小走りでニコルの元に戻る。
「なあに?」
「ごめんなさいね呼び戻して。アランのことなんだけど……」
「?」
ニコルは片手を口元に当て、できる限りの小声で囁く。
「彼、昔からあまり自分の事は話さずに、自分で背負い込んでしまう所が沢山あるから、誰かに紹介出来るような相手が見つかって、本当に良かったと思っているの。あんなに楽しそうにしているアラン、久しぶりに見たわ。だから、これからも彼をよろしくね?」
「……」
「それじゃあお元気で。またいらしてね」
ひらひらと手を振るニコル。
それに私はにこりと微笑み返す。
「うん、ニコルも元気でね。あ、それと……」
最後に私も、口元に手をあててボソボソと大切な事を伝える。
「カメリアはアラン様の嫁だから、絶対に幸せにしてみせるよ。……じゃあね!」
手を振り上げ、ダッシュで賢者様の元まで戻る。
「こそこそと何を話していたんだい?」
そう聞かれるが、私はニコニコと微笑むだけでそれには答えない。
「ふふ、女のコのヒ・ミ・ツ、だよ」
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