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第弐部-Ⅰ:世界の中の

93.雁書(がんしょ) 手紙

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『あじろ、てがみ、ありがと。わかった、いいよ。ひなた』

『ひー様、お手紙をありがとうございました。
今朝手紙を受け取って、僕は嬉しくて嬉しくて、すぐにお部屋に行ったんですけど、ひー様は眠っておられたので、また手紙を書きました。
今日は、これから学院に行かなければなりません。
でも、おやつの時間には帰りますから、一緒にいかがでしょうか。
もし、ひー様が嫌じゃなければ、そのあと、もぐらの地図も一緒に作りたいです。亜白』

『おやつ、もぐら、わかった。ひなた』

『ひー様。今日は、もぐらの地図を一緒に作れてとても嬉しかったです。
地図が完成したら、裏庭の穴は埋めてしまうそうですね。少し寂しいです。
でも、もぐらがまた巣を作ると思うので、いつかまた、ひー様と新しい巣を探したいです。そうしたら二つの巣をくらべて、色々なことが分かると思うんです。
そのことを思うと、今から楽しみです。亜白』

『もぐら、やる。やくそく。ひなた』

『まさかこんなに早くお返事をいただけると思わなくて、僕は少し泣いてしまいました。
ひー様のお手紙を初めてもらったのが僕だと、紫鷹殿下から伺いました。少し怒っておられるようでしたが、大丈夫でしょうか。
だけど、それを聞いて僕はとても嬉しかったです。
お手紙、僕の宝物にして、大事にしますね。
どうか今日はゆっくり眠れますように。おやすみなさい。亜白』

『おやすみ。ひなた』

『へび、きた。きて。ひなた』

『ひー様。今日はヤマカガシをありがとうございます!
部屋に帰ってから調べたのですが、あのヤマカガシは、まだ子どものようです。
大人より、子どもの方が首のところの黄色が強く出るそうで、成長とともに薄くなるとのことでした。あのヤマカガシは、とても鮮やかな黄色だったので、まだほんの小さな子どもなんですね。
成長すると1mを超えることもあるそうです。見てみたいですね。
今日のヤマカガシは青色のうろこが綺麗でした。地域によって色が違うそうです。
羅郷のヤマカガシは、黒っぽいものが多いので、いつか見に来てください。亜白』

『さびしい。ひなた』

『萩花が失礼いたします。
日向様がお伝えしたいことがあるのに、書けなくて悲しいとのことで、代筆させていただきます。

あじろとやまかがしみた、がよかったのに、かえったら、さびしかった。
あじろがらごうにかえったら、またさびしくなる。いやだ。
でも、あじろはらごうに、ちちうえとははうえがいるって、すみれこさまがいった。
ちちうえとははうえもさびしいは、ぼくもかなしい。
だから、がまんする。
でも、はやくきてね。ひなた』

『ひー様。お手紙ありがとうございます。
ひー様が僕のことをそんな風に思ってくれることが、本当に嬉しかったです。

僕は羅郷に帰りますが、またすぐに戻ります。
殿下が通う学院には、生き物の研究で有名な先生方がたくさんおられます。
僕はその先生方に、生き物のことをもっと学んで、将来は生き物を研究できるように頑張りたいと思っています。
その学院に通うことができれば、僕はずっとひー様と一緒にいられます。

僕は、ひー様と一緒に、もっともっとたくさんの生き物を知りたいです。
でも、僕もひー様に会えなくなるのが寂しいです。
だから、一日も早く戻ってきます。
少しだけ、待っていてください。亜白』

『わかった、まつ。ひなた』

『ひー様、こんばんは。
今日お渡しした雁書(がんしょ)の最初の頁を書いています。届いているでしょうか。
雁書と言うのは、手紙のことです。
雁は、鴨の仲間の水鳥です。季節ごとに遠くへ渡る習性があることから、遠方への文を届ける使者と言われてきました。だから、雁の書と書いて、手紙を意味します。

この筆記帳は、二つで一つの組み合わせになっていて、そのうち一つをひー様にお渡ししました。
もう一つに僕が書くと、ひー様の筆記帳に雁書が届き、記されます。
逆に、ひー様の筆記帳に書くと、僕のところに雁書が届きます。

羅郷に帰っても、毎日書きます。
ひー様も、書いてもらえたら嬉しいです。亜白』

『みた。ひなた』

『ふしぎ。いい。ひなた』

『えも、かく。いいね。ひなた』

『起きたらひー様の雁書がたくさん届いていて、嬉しかったです。
僕も羅郷の生き物を描きますね。帰ったら、母上の温室の子たちも紹介します。
今日は、ひー様と見たうさぎを描きました。
僕の大事な思い出です。大事にします。亜白』

『あじろ、だいすき。ひなた。』

『僕も大好きです。亜白』
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