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第壱部-Ⅳ:しあわせの魔法

41.日向 しおうの魔法

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夜ご飯を食べて、お風呂に入って、うつぎが髪の毛をかわかすのを見てたら、胸がぎゅーってなった。
びっくりして隠れ家に帰ろうとする。でも体が動かなくて、床に転がった。
うつぎとはぎなが何か言ったけどよく聞こえない。

ダメだ、どうしようって、床で丸くなってたら、しおうがきて僕を抱っこした。

「大丈夫だ、日向、」

「大丈夫、ゆっくりでいい、」

背中とお腹があったかくなって、大丈夫、ゆっくり、息を吐いてごらん、ってしおうがいうのが、聞こえるようになってくる。
胸の中の苦しいのが、ちょっとずつうすくなった。

コトコトって、しおうの胸の音が聞こえると、涙が出て、僕はふわふわになった。






「何が嫌だったか、わかるか?」

涙が止まって、しおうの腕の中でぼーっとしていたら、しおうが聞いた。
まだ胸の中が少しだけぎゅってしていて、お腹の中もそわそわしてる。頭の中がぼんやりしていたけど、しおうが聞いてることはわかったから、僕は考えた。

いや、なこと。

ほしいことと、いやなことを、ちょっとずつ見つけていこうな、ってしおうと「やくそく」した。

何が「いや」だったかな。
何でこわくなったかな。
こわい、もあるけど、かなしいもあった気がする。

しおうの手が背中をなでる。

「まほう、」
「うん、」
「魔法が、きれい、だった。」

うつぎの手が、淡い緑にキラキラして、風が僕の髪をなでた。
暖かくてやさしくて、だんだんと眠くなる、うつぎの魔法。
すごくすごく、きれいだった。

きれいで、かなしかった。

「やくそく、した、のに。きれいって、思った。」
「うん、」
「やくそく、なのに。魔法は、使わない、のに、」
「うん、」

ほしい、があるのが苦しい。

「いらな、いって、いうかもしれ、ない」
「誰も言わないよ。日向。」
なにが?

「いらない、は誰も言わない。」
本当に?

「たちいろ、と、ひぐさ、も?」
「ああ…、なるほど」

まだ終わってないんだなあ、ってしおうが小さく言って、ぎゅって強く抱っこした。
大丈夫だよ、ってしおうがまた背中をなでたから、僕は震えているのかもしれない。
でもわからない、がまたかなしかった。

「一人で魔法を使わないって、約束したんだもんなあ、」
うん、
「それなのに魔法が綺麗だと思ってしまったのが、怖かった?」
うん、
「また約束を破ってしまうかもしれないって、不安になった?」
うん、
「燵彩(たちいろ)と灯草(ひぐさ)にいらない、っていわれるのが怖い?」

胸の中がぎゅーってなった。

たちいろとひぐさの顔が浮かんで、急にお腹がそわそわする。しおうの腕の中でじっとしてるのが、できない。
ベッドからおりたいかもしれない。
くるくる部屋の中を歩きたいかもしれない。
隠れ家の中で丸くなって、自分の体をぎゅーってしたいかもしれない。

「日向、大丈夫だ。ちゃんと息を吐け、」
「…ふるえる?」
「ああ、震えてる。手開けるか?自分で自分を傷つけてほしくない、」

しおうに言われて、僕が自分の手で反対の腕に爪を立ててるって、わかった。
手を見たらふるえるのが見えたけど、わからなくて、またお腹がそわそわする。
指をほどこうとするけど、どれが指か、わからない。
何で、できないんだろう。

「日向、こっち見ろ、」

言うのと一緒にしおうが頭をつかまえて、僕の顔をしおうの方に向ける。
紫色の目が、僕をつかまえた。


「聞いてくれ、日向」



「燵彩も灯草も、日向のことが大好きだ。一緒に魔法の練習しただろ?日向がうまく魔力制御したら、喜んだろ?覚えてるか?」
うん、
「日向が寝てる間、2人は何度も何度も来た。日向のことを、燵彩は眠れないくらい心配してた。灯草は、自分がもっと日向に教えていれば、って泣いてたよ。なんでかわかるか?」

紫色の目の中で、たちいろと、ひぐさが笑ってる。

「燵彩も灯草も、日向がいなくなるのが、怖かったんだよ。日向にいて欲しいんだよ。みんな、そうだ。俺もそう、」

しおうは言うね。
いつも言う。

「魔法をきれいだって、思っていい。日向がきれいだって思えるものを、否定しないでくれ。」

「失敗したなら、取り戻そう。また魔法の練習をして、今度はうまくいくようしよう。いつか1人で魔法ができるように、燵彩も灯草も助けてくれる。日向ならできる。日向が約束を頑張って守っていること、俺はちゃんとわかってる。燵彩も灯草もわかってる。」

「燵彩も灯草も、日向のことをいらなくならない。2人も日向が好きだ。」


しおうの声が、僕の中にいっぱいに広がっていった。
いいよ、いいんだよ、いらなくない、いてほしいんだ、大事だよ、大好きだよーーーーしおうの言葉で、僕の体がいっぱいになっていく。
その分、ことばが出てきた。


「ごめんなさい、して、ない、」
「うん、」
「してない、が、いやだ、」

コトコトと音がして、僕はいっぱいしゃべる。
しおうが魔法をかける。

「たちいろ、と、ひぐさ、に、ごめんなさい、っていいたい。やくそく、守るに、なりたい。いらない、っていわない、に、なりたい。」

いやだ、と、ほしい、がある。
僕はまだぜんぶはわからない。
でも、しおうが、大好きだよって言って、ぎゅってすると、わかる、がふえていく。


「ごめんなさい、できなくて、いっぱい痛くなった、いらない、って言った、いやだ、」
「うん」
「もう、いやだ、」
「うん、もうさせない。」


紫鷹がちゅって、僕の頭とおでこに口をつけたら、あったかくてまた涙が出た。涙にもしおうが口をつけて、僕をふわふわにする。
しおうが僕の手をなでると、ぎゅーって握った手が、ゆるゆるほどけた。


「日向が嫌だって、言ってくれたから、俺も何が嫌かわかった。わかったから、もう嫌なことが起こらないようにできる。わかるか?」
「うん、」
「燵彩と灯草に、ごめんなさい、って言おうな、」
「うん、」
「それから、魔法も練習しよう。約束守れるようになろう、」
「うん、」
「いらないは、もう誰も言わない。言わせない。」
うん、


紫色の目が、ゆらゆら揺れた。きれい。

お腹の中のそわそわが小さくなって、動きたいが減っていく。
ふわふわがいっぱい広がって、うれしいの涙がぼろぼろ出た。しおうの口が、涙をぬぐってく。背中をやさしくなでて、ぎゅってした。

ことことことこと、しおうの音がする。


「大好きだよ、日向。」
うん、
「ずっと一緒がいい、どこにもいくな」



こわい、がちょっとずつなくなって、きれいがいっぱいになった。

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