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6話 砂漠で 2

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 今は翌日の夕方。

「桜子さん、どうですか」

 春名ちゃんが冒険者ルックでポーズをとっている。

「う~ん、かっこいいけれど、ズボンはブーツの中に入れないと砂が入るわよ」

「桜子さん、ズボンでなくパンツと言ってください」

「いや、それどうみてもズボンだと思うわよ」

 春菜ちゃんはしぶしぶうなずいて、ブーツにズボンの裾をしまった。あの後クローゼットを探ったら、麻のような生地でできた簡素な服があったのだ。私と春菜ちゃんの体格がほとんど同じでよかった。なお、下着は私と春菜ちゃんが現在着ているのと同じものが大量にあった。飽きてしまいそうだけれど、あるだけましだと思うようにする、異世界にブラは絶対ないものね。でも地球の神なら他のも用意できたのでは?気が利いているようで、いまいちな神だ。私たちは家を仕舞うと出発した。

 目の前には葉っぱが浮いている。ご丁寧に道案内と書いてある。昨日私が推定10キロ離れている河まで行って、そこから河沿いに歩くと言ったら出てきたのだ。

「それにしても、目の前にある海に大回りで行かなくちゃならないなんて・・・」

 春菜ちゃんがぶつぶつ言う。分かるけど、分かるけどね。

「私は砂漠で迷子になるのはいやよ」

 あの神をいまいち信用しきれない私は断固河沿いの道を行くことを主張したのだ。

「真っ直ぐ斜めに直進したら千数百キロ歩くかも、不安に満ちてね。ここから地図上だと10キロぐらいで河につくはずよ。それから河に沿って歩けば安心よ」

「はい、はい、分かりました」

 春菜ちゃんも砂漠の真ん中に私たちを置いていった神が信用できないという意見には賛成しているので、しぶしぶ私に同意した。砂漠を歩く時のセオリーに従って夕方の出発だ。
 とにかく、あの砂漠の真ん中で暮らすのはいや。とりあえず、海と人(獣人)?が見たい。

「つくよみのバカヤロー!」

 春菜ちゃんが私を見てうなずく。

「女神のバカヤロー!」

 私たちは砂漠の砂に足を捕られながら、叫びつつ歩いていった。少しはすっきりしたかな。私も春菜ちゃんも防御機能付きのブレスレットと指輪(これも付箋付きで中に入っていた)を付けているので、少しは安心して、でも、おそるおそる、時々きょろきょろしながら歩いていった。そして、何も出ずに河までたどり着いたときには、ほっとした。ついでに道案内の葉っぱも消えていった。

 そして夜明けの光の中で波打つ河は・・・向こう岸が見えなかった。岸は崖になっていてかなり下に水がある。なるほど、この水の高さが海の高さと同じだから、この崖の高さ=海抜〇〇メートルってことね。私は感心して眺めた。

「春菜ちゃん、ご飯を食べようか」

 私たちは河を見ながら、食事をすることにした。

「私、お茶をわかしますね」

 春菜ちゃんはそこいらの石を集めて、ケトルが乗るくらいの小さなかまどを作った。

「すごい!器用なのね」

「いいえー、それほどでもあるけど」

 私は周りを見渡す。

「薪がないけど」

「そのブレスレットに入ってませんか」

 見ると入っていた。王子様も薪を使うの?いっかー、気にしない。私たちは細い薪をかまどに突っ込んで。

「桜子さん、火がありません。なんかありませんか?」

 春菜ちゃんは薪も火もないのにかまどを作るとか・・・でも気持ちがいいから外で食べたいのは私も同じだ。それではやってみますか。私はにんまりした。

「火魔法が使えるか、試してみます。えっと、ファイア!」

 私に春菜ちゃんのような厨二病っぽい台詞は言えない。27歳は大人なのです。

「ぎゃっ!」

 春菜ちゃんは悲鳴を上げて飛びのいた。私も。火ではなく炎は人の背丈ほどになり、しばらくして消えた。おそるおそる近づき、ハンカチでケトルの蓋をとると、中では水が沸騰していた。できたじゃない。私はお茶を入れて、一口飲む。おいしい。

「私は火魔法ができるみたいね。要練習だけれど」

「私もです、また大きな水球しか出来なかった」

 うん、彼女の作ったのはまたしてもバスケットボール大の水球で、ケトルからあふれた分は砂に吸い込まれていった。

「ふぁーあ、眠くなってきた」

「それじゃあ、今日はここでのんびりして、明日から動きましょう」

「どっちに行くの、右?左?」

「右がいいかな、人間の身体は時計回りが合っているというし」

「また、そんな謎知識を」

「いいじゃない、メンバーの半分が行きたいといっているのだから」

「メンバーの半分って、桜子さんだけじゃないですか、いいですけどね」

 こうして明日から河沿いの道を進むことになった。

 
 2ヶ月が経った。旅にも大分慣れてきている。

「そろそろお日様も上に来たし、お昼にしましょうか」

「賛成!」

 家を出し、私たちは中に入いる。

「今日はじゃがいものスープがいいです」

「了解」

 私は台所に置いてある小麦粉をボールに入れ、ブレスレット(時間停止つき)から卵と牛乳を取り出し、箸で混ぜる。それをフライパンで焼くと、ホットケーキもどきになる。スープの入った甕を取り出し皿によそう。できあがりだ。スープもサンドイッチも山のようにあるけれど、少しは手作りしなくては。

「はい、お待たせ」

「ねえ、桜子さん、これなんとかなりませんか」

 春菜ちゃんはぺしゃんこのホットケーキもどきをフォークで刺して持ち上げる。

「小麦粉、卵、牛乳・・・あと何をいれたかしら」

「なんかの粉を入れてたと思う」

 ここに来て私たちの欠点が露呈した。料理経験がまったくない。

「あ~あ、お母さんのお手伝いをしとけばよかった」

「そうよねー。でもコンソメも醤油も、味噌もない世界で作るのって難易度高くない」

「和食は材料がなくて無理だから、洋食ね・・・たしか骨を煮てだしをとってなかった?」

「そうね、とってた気がするわ。でも時間がないから」

 そういって私はじゃが芋のスープを口にする、おいしい。

「私たち今は時間がないから。落ち着いたらやりましょう!いままでは興味がなかっただけよ」

 うん、私たちはやれば出来る子だから。

 春菜ちゃんは時々めそめそしたり、かんしゃくをおこして、家に閉じこもるけれど、それでもがんばって歩いている、いい子だなー。彼女が一緒でよかった。私?私は大人だから一人で泣きます。

「桜子さん、私のことじーっと見て、なんかついてる?」

「ううん、色が白いなと思って」

 顔を見ていたのがばれたか。誤魔化しておこう、泣いたことを思い出したなんて言ったら、女子高生のプライドにさわる。
彼女は気が付かなかったのか、にこにこした。

「あの神にしては気が利いているよね。指輪の防御力で紫外線カットまでするなんて、魔法ってすごい」

 旅が進むにつれて、月読神の評価はどんどん下がっている。もっとましな場所を出発点にして欲しかった。そして春菜ちゃんは手を顔の前にあげて、嬉しそうに指輪をみている。

「そうなのよね、布をかぶっても、焼けるものね。春菜ちゃんは最初、目の周りだけ焼けるのはイヤだと騒いでいたものね」

「じゃあ、桜子さんは布を被ってインドの女の人みたいな格好してたら、どうなると思ってたんですか。普通と反対にゴーグルの場所だけやけてもいいと」

「済みませんでした、私もいやです」

「そうでしょう、そうでしょう」

 昼食をおえると、私たちは家をしまって、また歩き始める。最初は夕方から歩いていたのだが、足元があぶないし、昼間も、聞いていた砂漠の暑さほどでないので、今は明るいうちに進んでいる。ライトの魔法?夜に灯をつけたら獣かなんかが寄ってきそうで怖いじゃない。

 それでこうして歩いているのだけれど、代わり映えのしない景色だ。ひたすら砂、砂、そしてまた砂である。山と谷があっても、たまに大岩がころがっていようと、基本砂しかない。危険もさほどない。地球の3倍ぐらいの大きさのさそりとかとかげが岩場にいるくらいで、休憩は家で取る私たちには関係ない。なお家にも防御機能がある。石をぶつけて調べてみた。家の回り、10メートルは大丈夫でした。

 それから3ヶ月、ここに来て若返ってから軽くなった身体は疲れにくくなっていった。すっかりこの地方の気候にも馴染んでいる。

「ねえ、桜子さん、そろそろだと思わない」

「私もそう思う」

 昼間の温度が少し低くなったと思われてから、しばらくたつ。地面も砂だけでなく、砂利が混ざってきて、少し色が黒くなったような気がする。

「あっ、あれは草・・・草ですよ!」

 昔は雑草など踏みつけて、かっぽしていただろう(これは想像)彼女が小さな岩にくっ付くようにしてへばりついている3センチぐらいの草のそばにいって、なでている。感動的なシーンである(微笑)
そばに立ってにこにこしていると、

「それで桜子さん、どうするんですか」

 と、言われた。はてな?なにをどうするんだろう?

「ぼけないでください、私たちの設定ですよ。獣人の人たちに会ったら、何ていうんですか」

「えっ、それは・・・」

ノープランでした。どれも帯に短し、たすきに長しでぴったりしたものがないんだもの。

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