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3話 神と会う 3
しおりを挟む月読神がぽんと手を叩いた。
「そうだ、いい土地がある。君が一からそこを作っていくのはどうかな?魔法を使えば何とかなると思うよ」
「はあ、なんとかなんてなりませんよ。だいたいそんな野蛮人たちがいる土地なら、作物が実るようになったら、あっという間に収奪されますよ。まずは高い塀でも作って人が入ってこれないようにしないと」
私はろくでもないことしか提案しない神を胡乱な目つきで見た。何故普通に人の住んでいる街に連れて行ってくれないのだろうか。
「う~ん、そうだね。囲うための材料は・・・あるね、心配要らない」
私の考えとは裏腹に神は自分の思い付きを具体的に進め始めた。その上何故か、月読神は女神を見て微笑んでいる。あの笑顔怖い!
「水もいりますよ、それもたっぷりと」
仕方なく私もその話に条件を付け加える。神は気まぐれなものだ、万が一そこに行くなら快適に過ごしたい。
「それは・・・もともと水がない処だからどうしようかな」
「引いてくることは出来ないんですか。よくあるでしょう。塀の脇に堀がある景色が」
「・・・塩水しか思い浮かばない」
「近くにあれば、塩水でもなんとかなりますよ、きっと。それより湧き水はないんですか、あると便利です」
「千メートルも掘れば水はでてくるから土魔法を使えば簡単だろう」
「魔法があるんですか、便利ですね」
「あぁ、便利だ」
「魔法かいいなー」
つい声がでてしまった。昔からあこがれていたのだ。彼は先ほど私たちにも魔法が使えるようなことを言っていたけれど、1000メートルの地下を掘って水を引くなんて、ものすごい労力だ。確かその技術を持っているのはテキサスの石油堀の人たちだった。それと同じことが魔法でできる?信じられない。
「使えばいいだろう」
「使えるんですか?」
あっさり言う神に疑いの目を向けてしまう。ここにいる私はヤマアラシのようにとげとげしている。これでは上手くいくものもいかなくなる。ビー・クール、私は冷静、信じるものは救われる・・・あぁ・・・もう知らない・・・その間にも神は話を続けていく。
「塀で囲って、水は塩水だけれど大量にある。そして湧き水もある。あとは何が足りないかな」
農業に必要なものね、これはきちんと言っておかなければ!
「それは肥料でしょう。えっと、リン、カリウム、窒素とかですね。草木灰も土のアルカリ度を変える消石灰もいりますね。できたら腐葉土も欲しいし・・・」
「他にはあるかね」
「まずは種、それもF1じゃないものですね。一代限りで次世代からは性質が変わる種なんて増やせませんから。あとは苗木、蜂もいります」
「蜂?」
「えぇ、そんな荒れた土地では虫もろくなのがいなさそうじゃないですか。ある程度草木が育ったら、交配の助けをしてくれる虫が必要です。日本ミツバチなんて性格がおとなしくて、扱いやすいし、蜜も取れて便利だと聞きますよ」
「そこに人を移住させるとして、後は何が必要かな」
「家でしょう、服に家具に食器に鍋・・・あぁそうだ、農業の本があったら便利ですよね」
「そこいらは彼が持っていたものをコピーすれば問題ないだろう。準備はこれでいいかな」
うなずいた月読神は小坂井さんを見て、問いかける。
「君の希望を聞いてなかったな、欲しい魔法はあるかな?」
彼女はぱっと顔を輝かせた。魔法!素敵な言葉だ、夢とロマンにあふれているよね。
「私も魔法がもらえるんですか、ではですね。ここは聖女として光魔法です」
神は呆れたような顔をした。
「君が聖女と名乗りたいのなら勝手にすればいいけれど、あの世界に聖女なんていたことはないよ。まあ、いい、後1つは何にするかね」
「スキルとかアビリティーとかはなにがあるんですか?」
彼女はぐっと身を乗り出した。
「ないよ、なにも。君が努力して身につけるしかないね」
「そ、そんな・・・たとえば回避術とかは」
「自分でダッシュの練習をくりかえすんだね」
「そんなのつまんない」
小坂井さんはむくれたが、そうなんだ、あの世界にはスキルはないんだ。
「そういわれてもね、あの世界には魔法しか特別なものはないよ」
「で、では風魔法で」
私は彼女の希望に口出しをした。
「待った、小坂井さん。あちらの世界は荒れているというし、万が一の為には水魔法を取っておいた方がいいと思うわよ」
「水魔法ですか?」
「そう、例え迷子になっても、水をのんでいれば一週間はもつから。万が一の時でも水道の蛇口だと思って、知らない人でも大事にしてくれると思うわ」
「・・・桜子さん、シビアすぎます。・・・でも、それでいいです」
そんなにがっくりしないで、夢が無いと思うけれど、知らない土地では水と食料が大事でしょう。
「では準備をしようか」
「えっ、私の希望は?」
「君の希望は聞く必要がない、すでに決まっている」
もうすべては決まったとばかりに月読神は話を進める。
「えっ!」
月読神が手を振ると・・・4人?ともが光の玉になっていた。彼は小坂井さんであろう光の玉になにかの欠片を押し込んだ。そして手に持っているピンクの玉・・・あの女神か?を私のほうに差し出した。腰が引ける。あのピンクの光の玉はおぞましいオーラを発している。近づけないでください!
「ひっ、止めて!」
「君も同じ態度をとるのか、大丈夫だ、ピンクの成分は入れないから。魔法を使えるようにするために、一滴魔力を垂らすだけだ。神を信じなさい」
自分で信じなさいと言う人を信じるほどおめでたい人間なんていないだろう。
「そんな、どこかのいんちき宗教の教祖のような台詞を言われて、信じられるか!」
「いや、他に言える台詞はないだろう」
それはそうなんだけど・・・あのピンクが不気味でイヤ!でも相手は神、私は動けなくなった。
私の頭?の上に何かが落ちてきた。そして彼はどこからか取り出した美しいカットのある香水ビンの5倍ほどの大きさのビンに推定女神だろう玉から搾り出した液をいれた。あら不思議、その後、彼が一振りするとその中身は数多くの珠となっていた。それをまたどこからともなく取り出したブレスレットの輪の中に入れると私に押し付けた。あの今は光の玉なので持てませんが。
「これは君だけが認証されているアイテムポーチだ。かなりの量が入るので安心して使いなさい。呪文をとなえると防御機能も発動する。必要なものもここに入っている。誠一君の持ち物からコピーしたので、足りると思うよ」
「誠一君って、御田村誠一のこと?」
いきなり数年前に事故で亡くなった従兄の名前を出されて、びっくりした。
「そう、君の従兄だよ。君だけなら会わせても良かったのだが、彼は前に転生してきた女の子2人に酷い目にあってね。今回の女神の勝手にとても怒っている。前の後始末も終っていないのにとね。だから小坂井君をあの星に送り込むのはまずいし、彼の負担になるので君のことも知らせていない。だから彼がいるのとは別の大陸に送る。そのうち、君にだけは会わせてあげよう。大分先になるが、約束は果す」
なんか神のくせにやっていることがせこくない、そして誠一君も私と同じように理不尽な目にあったんだ。
そして神はいたずらっぽく笑うと、
「そうそう、彼はジルベスター王子に転生している。これは内緒だよ」
なんだか驚きの連続で頭が良く働かない。私はこくこく頷いた。それにしても、彼はそんなことになっていたのか、まあ、無事でよかった?
「では、行きたまえ!」
どこへ?展開が早すぎてついていけない。きちんと承諾もしていないし・・・
あ~れ~
*******************
月読神は彼女たちを見送るとフラスコを取り出した。
「まったく、榊の女神、君まで乙女ゲームに毒されているとは」
「違うわ、わたくしのはR18よ」
「なお悪い・・・だからピンクにうっすらと紫が混じっているのか。その話を聞いたら誠一君はもっと怒るぞ。もう結婚しているのに巻き込むのか?」
「あの美貌には大人の恋がふさわしいのよ」
「それって唯の不倫だろう」
「なにを言われているの、魅了の力を持った聖女を巡る宮廷を揺るがす恋模様よ。大人の女であるわたくしに相応しいわ」
「大体余所の世界に手をだすなんて禁忌だぞ」
「そんな大それたことはしないわ。あの星に緑を増やす聖女を送り込めば、喜んで王族が保護してくれるわ。わたくしは聖女に繋がっているから、そのあとは眺めているだけのつもりだったし」
「やれやれ、乙女ゲームの18禁バージョンか。私はね、この間のことで悟ったんだ。乙女ゲームはけっして直らない不治の病だと。前にあの星にいた女神も乙女ゲームに夢中になって星を滅ぼしかけたし。さてさて、日本には八百万の神がいてよかったよ。榊の神も貴女一人ではないしね」
「きゅー!な、なにをなさるの」
「彼女との約束を守る為の材料にするのだよ。では、アデュー」
彼女の神力はフラスコの中に搾り出されました。地球の力なので余所の星に渡すのはもったいないのですが、仕方がありません。この力で山脈を作り、大陸に河を刻むのです。しかし、あの女神はなんでよりにもよって、ジルベスター王子の従妹に手をだしたのでしょう。
乙女ゲームなんか滅びればいいのに・・・月読神の心からの願いです。
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