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11話 いまだ王族の俺
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そのまま3人で冒険者ギルドに向かった。
教官はゴードンの様子を見てほっとしたようで、
「よう、目が覚めたか」
と声を掛けると、そのまま2階の小部屋に俺たちを案内した。
教官は俺たちに椅子を勧めると、さてと続けた。
「とりあえず、状況を話してもらえないか」
「私の場合は・・・そうですね、初めはただジル様がお気に掛けている令嬢だと思っていたのですが、なんども会う内、もっと会いたくなって・・・彼女の言葉を疑うなど思ったこともありませんでした」
オリバーがとりあえずといった感じで話始める。
「私は今思い出したのですが、最初はうさんくさく思っていたのです。
男爵令嬢が子爵家ならともかく伯爵家の夜会にまでしょっちゅう現れるのは不自然でしたから。
始めのころはジル様も彼女を伴って夜会に来られたわけではないので、どこで招待状を手に入れたのかと。
ジルベスター様をたぶらかしに来たのかと思いました。
でも、男爵令嬢は夜会ではいつも側に来てくれていて、だんだんと彼女の心の優しさ、控えめで、思いやりのあるところ・・・・・
あれ、おかしい・・・・」
「そうだよ、控えめで優しい令嬢が、しょっちゅう擦り寄ってくるわけがない。
自慢じゃないけれど、俺の側に来るには他の令嬢とか令嬢とか近衛騎士をすり抜けなければいけない。
ハードルが高いんだよ。上級貴族でない令嬢が俺の側に来れる事がおかしい。
それに最初のころの招待状はどのようにして手に入れたのだろうね、頻繁に夜会で出会っていたからね」
ゴードンはがっくりと肩を落とした。
「そこから可笑しかったのですね。
あと、彼女と会えないといらいらがつのって、彼女と会うまでは何も手に付かない状態でした」
「それは私も同じです。ほかの事を考えられないのです。
毎日毎日、彼女に会うこと、彼女の側にいることしか考えられませんでした」
「それで、あの荒んだ姿だったのか」
「状況はわかった、それで今はどうなんだ」
教官はあっさりと続ける。まあ、若者の感傷に付き合っていたら、時間が幾らあっても足りないからな。
「分かっているんですが、きついですね」
「私は理性で判っていても、感情が納得しないというか・・・・・
思い出がありすぎて、つらいです、でも彼女に会わないといけないという、焦燥感はなくなりました」
「あー、お前は目が覚めたばかりだから、しかたないか。う~ん」
教官は腕を胸の前で組み、うなった。
「まあ、1年後に同じ事を聞こう。先輩を信じて、それまでは王子と冒険者でもやっていろ。
それで王子の話が聞きたいのですが、よろしいでしょうか」
「特に話すことはないような。
私には感情に残るものもありませんし・・・そういうことがあったという記憶のみしか残っていないので、特に思うこともないかと。
そして、とある方法で彼らの魅了を解きました。ただ彼らには感情を伴った記憶が残っているので気の毒には思っています」
「いや、そんなに簡単に済ませないでください。
王子が変わった理由とか、そのとある方法とか教えていただきたいのですが」
う~ん、どこまで話そうかな。ある程度の自由は確保したいし・・・・
そこにひらひらと手紙が舞い降りてきた。自由に過ごせという割にはかまってくるのな、あの神は。
はっしと掴み、手紙を見る。
「関係者に告げる。王子の状態異常を浄化の力で元に戻したのは私である。
彼にはこの国を導く王となる者の、助けとなる運命が課せられている。
そのために、このように力を振るい、また彼の手足となる側近たちの状態異常を解く手段を与えた。
王太子が国王となり良き治世を行うためには必要なことである。
神の奇跡を慮ることなく、ただありのままに受け入れよ。
人間が疑い深い存在であるとは理解しているので、王太子、そなたには白い花を一輪とどけさせよう。
そして我が奇跡を受け入れよ。
************************
この手紙が変化した花を王太子に届けよ。王太子が花に触れれば手紙に変化する。
そして読了後に消滅したのを目にすれば、王子の今回の行動は神の奇跡で押し通せる。説明はいらないだろう。
つくよみ」
最初は威厳があったのに最後にくずれた。あの神も慣れないことをするから・・・・
皆が読み終わった手紙は例のごとく金色の粒子を振りまきながら白い花に変わった。
2度目のオリバーはそれをぽけっと見ていた。初めて見たゴードンと教官は目を見開いていた。
しかし、驚きから醒めた教官はすばやく王都行きの手配をすませると箱に花を入れ、ゴードンに手渡した。
「すぐにこの花を王太子に届けろ。直接渡すんだぞ。
オリバーも一緒に行くように。下に馬と護衛の騎士が用意してある。
詳細は同行のビンセントに聞け」
2人は直ちに出て行った。
出来る男だ。有能なおじさんは一味も二味も違う。
「それで王子、男爵令嬢のことですが」
「あの、その王子というのは止めていただけませんか。
もう、ただの平民ですし、たぶん、きっと、聞いていませんけれど」
「なにを言われているのですか。
いまだに立派な第2王位継承者ですよ。
王宮発表では、ショックを受けられて、離宮で静養していることになっています」
「・・・・・・」
「なにを呆けられているのですか」
「いや、自由に動けていましたし、手切れ金も渡されて・・・」
「あれは王子の気が済むように、そういって渡されただけで、皆様の心づくしの品々が入っていたと伺っていますが」
入っていたな、確かに。特にまくらが圧巻だったよ。
あれは母上の指示なのだろうか、もしや兄上?父上だったら爆笑してやる。
「大体王子には騎士が100名、姿を変えて、護衛しております。
王子もご存知で放って置かれたのだと思っていたのですが」
知っていたとも、ただ監視だと思っていただけだ。
「修道院での態度もご立派だったようで、クールで王族としての威厳もあり、感激したと院長も申しておりました」
「え”っ」
「ジェフリーも自棄酒を飲まれたあと、ふっきれたように行動されていたので、頼もしく思ったそうです。
その報告を聞いた王族の方々も、安心され、喜んでおられたようです。
2年ほど前ですか、あの令嬢が現れて以来、ご家族とも口をきかず、人が変わったように行動される王子に皆が心配しておりました。
ただ、下手に手を出してはまずいだろうということで、見守られていたのです。」
がんがんと押してくる教官。もう俺のライフはゼロだよ。
「それに・・・その状況は、ある意味よかったというか、ワーストよりバッドのほうがいいというか。
まあ、そんなわけで、あの方々もお止めにならなかったようで・・・」
教官はぶつぶつと言い訳のようなことを言い始めた。そして俺の肩を叩くと、
「彼らは馬に乗っていったので、明日中には戻るでしょう。
とりあえず、時間が余るので訓練でもして待っていましょう」
とほざき、訓練所に向かっていった。
何で時間が余ったからといって、訓練せにゃいかんのよ。今日は盾になってくれるオリバーもいないというのに。
俺はとぼとぼと教官の背中を追った。
教官はゴードンの様子を見てほっとしたようで、
「よう、目が覚めたか」
と声を掛けると、そのまま2階の小部屋に俺たちを案内した。
教官は俺たちに椅子を勧めると、さてと続けた。
「とりあえず、状況を話してもらえないか」
「私の場合は・・・そうですね、初めはただジル様がお気に掛けている令嬢だと思っていたのですが、なんども会う内、もっと会いたくなって・・・彼女の言葉を疑うなど思ったこともありませんでした」
オリバーがとりあえずといった感じで話始める。
「私は今思い出したのですが、最初はうさんくさく思っていたのです。
男爵令嬢が子爵家ならともかく伯爵家の夜会にまでしょっちゅう現れるのは不自然でしたから。
始めのころはジル様も彼女を伴って夜会に来られたわけではないので、どこで招待状を手に入れたのかと。
ジルベスター様をたぶらかしに来たのかと思いました。
でも、男爵令嬢は夜会ではいつも側に来てくれていて、だんだんと彼女の心の優しさ、控えめで、思いやりのあるところ・・・・・
あれ、おかしい・・・・」
「そうだよ、控えめで優しい令嬢が、しょっちゅう擦り寄ってくるわけがない。
自慢じゃないけれど、俺の側に来るには他の令嬢とか令嬢とか近衛騎士をすり抜けなければいけない。
ハードルが高いんだよ。上級貴族でない令嬢が俺の側に来れる事がおかしい。
それに最初のころの招待状はどのようにして手に入れたのだろうね、頻繁に夜会で出会っていたからね」
ゴードンはがっくりと肩を落とした。
「そこから可笑しかったのですね。
あと、彼女と会えないといらいらがつのって、彼女と会うまでは何も手に付かない状態でした」
「それは私も同じです。ほかの事を考えられないのです。
毎日毎日、彼女に会うこと、彼女の側にいることしか考えられませんでした」
「それで、あの荒んだ姿だったのか」
「状況はわかった、それで今はどうなんだ」
教官はあっさりと続ける。まあ、若者の感傷に付き合っていたら、時間が幾らあっても足りないからな。
「分かっているんですが、きついですね」
「私は理性で判っていても、感情が納得しないというか・・・・・
思い出がありすぎて、つらいです、でも彼女に会わないといけないという、焦燥感はなくなりました」
「あー、お前は目が覚めたばかりだから、しかたないか。う~ん」
教官は腕を胸の前で組み、うなった。
「まあ、1年後に同じ事を聞こう。先輩を信じて、それまでは王子と冒険者でもやっていろ。
それで王子の話が聞きたいのですが、よろしいでしょうか」
「特に話すことはないような。
私には感情に残るものもありませんし・・・そういうことがあったという記憶のみしか残っていないので、特に思うこともないかと。
そして、とある方法で彼らの魅了を解きました。ただ彼らには感情を伴った記憶が残っているので気の毒には思っています」
「いや、そんなに簡単に済ませないでください。
王子が変わった理由とか、そのとある方法とか教えていただきたいのですが」
う~ん、どこまで話そうかな。ある程度の自由は確保したいし・・・・
そこにひらひらと手紙が舞い降りてきた。自由に過ごせという割にはかまってくるのな、あの神は。
はっしと掴み、手紙を見る。
「関係者に告げる。王子の状態異常を浄化の力で元に戻したのは私である。
彼にはこの国を導く王となる者の、助けとなる運命が課せられている。
そのために、このように力を振るい、また彼の手足となる側近たちの状態異常を解く手段を与えた。
王太子が国王となり良き治世を行うためには必要なことである。
神の奇跡を慮ることなく、ただありのままに受け入れよ。
人間が疑い深い存在であるとは理解しているので、王太子、そなたには白い花を一輪とどけさせよう。
そして我が奇跡を受け入れよ。
************************
この手紙が変化した花を王太子に届けよ。王太子が花に触れれば手紙に変化する。
そして読了後に消滅したのを目にすれば、王子の今回の行動は神の奇跡で押し通せる。説明はいらないだろう。
つくよみ」
最初は威厳があったのに最後にくずれた。あの神も慣れないことをするから・・・・
皆が読み終わった手紙は例のごとく金色の粒子を振りまきながら白い花に変わった。
2度目のオリバーはそれをぽけっと見ていた。初めて見たゴードンと教官は目を見開いていた。
しかし、驚きから醒めた教官はすばやく王都行きの手配をすませると箱に花を入れ、ゴードンに手渡した。
「すぐにこの花を王太子に届けろ。直接渡すんだぞ。
オリバーも一緒に行くように。下に馬と護衛の騎士が用意してある。
詳細は同行のビンセントに聞け」
2人は直ちに出て行った。
出来る男だ。有能なおじさんは一味も二味も違う。
「それで王子、男爵令嬢のことですが」
「あの、その王子というのは止めていただけませんか。
もう、ただの平民ですし、たぶん、きっと、聞いていませんけれど」
「なにを言われているのですか。
いまだに立派な第2王位継承者ですよ。
王宮発表では、ショックを受けられて、離宮で静養していることになっています」
「・・・・・・」
「なにを呆けられているのですか」
「いや、自由に動けていましたし、手切れ金も渡されて・・・」
「あれは王子の気が済むように、そういって渡されただけで、皆様の心づくしの品々が入っていたと伺っていますが」
入っていたな、確かに。特にまくらが圧巻だったよ。
あれは母上の指示なのだろうか、もしや兄上?父上だったら爆笑してやる。
「大体王子には騎士が100名、姿を変えて、護衛しております。
王子もご存知で放って置かれたのだと思っていたのですが」
知っていたとも、ただ監視だと思っていただけだ。
「修道院での態度もご立派だったようで、クールで王族としての威厳もあり、感激したと院長も申しておりました」
「え”っ」
「ジェフリーも自棄酒を飲まれたあと、ふっきれたように行動されていたので、頼もしく思ったそうです。
その報告を聞いた王族の方々も、安心され、喜んでおられたようです。
2年ほど前ですか、あの令嬢が現れて以来、ご家族とも口をきかず、人が変わったように行動される王子に皆が心配しておりました。
ただ、下手に手を出してはまずいだろうということで、見守られていたのです。」
がんがんと押してくる教官。もう俺のライフはゼロだよ。
「それに・・・その状況は、ある意味よかったというか、ワーストよりバッドのほうがいいというか。
まあ、そんなわけで、あの方々もお止めにならなかったようで・・・」
教官はぶつぶつと言い訳のようなことを言い始めた。そして俺の肩を叩くと、
「彼らは馬に乗っていったので、明日中には戻るでしょう。
とりあえず、時間が余るので訓練でもして待っていましょう」
とほざき、訓練所に向かっていった。
何で時間が余ったからといって、訓練せにゃいかんのよ。今日は盾になってくれるオリバーもいないというのに。
俺はとぼとぼと教官の背中を追った。
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