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序
* * *
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「――ということなのだが、ユーリ殿、おわかりいただけただろうか」
相手の口調はおごそかで重々しく、表情もひどく真剣だった。しかもなまじ彫像のように整った顔立ちなので、その威圧感はものすごい。
だが、わかったかと言われても、とうてい納得できるような内容ではなかった。
(そもそもユーリなんかじゃないし)
私の本名は水口真由利。
とはいえ、この国のみんなが真由利はすごく発音しにくいというから、便宜上ユーリと呼ばれることを許容しているだけだ。正直私にとっては、彼らの名前の方がよっぽどややこしかった。
だいたい目の前にいる五人は、
知の騎士がリュミエール。
武の騎士はセザール。
徳の騎士はリシャール。
愛の騎士で、騎士団長も務めるのがアルトゥール。
そして彼らを教え導くのが、神の声を聞くという天為魔導師のダ・ヴァロワだ。
雰囲気的にはフランス風で、響きもすてきだと思うが、たまに舌を噛みそうになる。だから私もこっそり別の呼び方をしているのだけれど……いやいや、問題なのは今そこじゃない。
五人とも揃いも揃って、まばゆいくらいの男前なのだが――。
「ユーリ殿、お迷いになられるのも当然だろう。しかしながらここはぜひにも頷いていただかなければならない。あなたが聖乙女として目覚め、そのお力で、われらが王太子殿下をお救いいただくためには、四騎士の誰かひとりを選び」
見るからに謹厳そうなダ・ヴァロワはかすかに頬を赤らめた。
「その者から誠の愛を捧げられ、身に精を注がれなければならないのだ。衷心よりお願い申し上げる。ユーリ殿、どうかご承知いただきたい」
相手の口調はおごそかで重々しく、表情もひどく真剣だった。しかもなまじ彫像のように整った顔立ちなので、その威圧感はものすごい。
だが、わかったかと言われても、とうてい納得できるような内容ではなかった。
(そもそもユーリなんかじゃないし)
私の本名は水口真由利。
とはいえ、この国のみんなが真由利はすごく発音しにくいというから、便宜上ユーリと呼ばれることを許容しているだけだ。正直私にとっては、彼らの名前の方がよっぽどややこしかった。
だいたい目の前にいる五人は、
知の騎士がリュミエール。
武の騎士はセザール。
徳の騎士はリシャール。
愛の騎士で、騎士団長も務めるのがアルトゥール。
そして彼らを教え導くのが、神の声を聞くという天為魔導師のダ・ヴァロワだ。
雰囲気的にはフランス風で、響きもすてきだと思うが、たまに舌を噛みそうになる。だから私もこっそり別の呼び方をしているのだけれど……いやいや、問題なのは今そこじゃない。
五人とも揃いも揃って、まばゆいくらいの男前なのだが――。
「ユーリ殿、お迷いになられるのも当然だろう。しかしながらここはぜひにも頷いていただかなければならない。あなたが聖乙女として目覚め、そのお力で、われらが王太子殿下をお救いいただくためには、四騎士の誰かひとりを選び」
見るからに謹厳そうなダ・ヴァロワはかすかに頬を赤らめた。
「その者から誠の愛を捧げられ、身に精を注がれなければならないのだ。衷心よりお願い申し上げる。ユーリ殿、どうかご承知いただきたい」
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