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34.襲撃2
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…お願いだ…
…助けてくれ…
しかし、願いは虚しく、俺の体は攻撃魔法に包まれる。
「ッおい、アイツ防御魔法も出してなくね?」
彼らの誰かが焦った声を出したが、それも分からなくなる。ぐるぐると熱や体を切り裂く痛みに頭が真っ白になった。
──しかし、俺が苦しみの声をあげようとした時、その熱が一気に断ち切られたようにフッとなくなり……
「何をやってるのかな?」
と聞き慣れた声がした。いや、その声は彼によく似ているけれど、彼の声じゃない。彼より少し明るいが深みのあるこの声は…
「ア、アーサー殿下……」
男の1人が怯えたような声を出し、ドサリと地面に膝をつく音がした。
「…事情は大体分かった。彼らを連れて行け」
どうやらアーサーは近衛兵と共に来ていたらしい。
傍に誰かが駆け寄って来たのが分かり、温かい治癒魔法をかけられる。ようやく目を開くことができると、俺に治癒魔法をかけていたのはアーサー自身だったことが分かった。アーサーは青い目に何の感情も乗せず、ただ眉をぎゅっとさせていた。
「…君が消えたと弟が焦っていたから、俺も手分けして探していたんだよ。もう平気か?」
「…はい…ありがとうございます」
アーサーは何か言いたげに言葉を止めると、連れて行かれている男たちを振り返った。
「彼らは…『黒い集団』の被害者のようだね」
クラウスは力なく頷いた。
「…俺のことを…憎んでいるようでした。…『黒い集団』の首謀者だと言われて…」
「『黒い集団』の被害者は増え続けている。燻っていた怒りが、ついにこうして過激派を生み出してしまった」
厳しい声でアーサーは言った。
「…君はこれからも狙われ続けるよ。君が『黒い集団』と関わりがないと、ハッキリ証明しない限り…。──この際聞くが、君は、奴らと関わりがないと断言できるのか?」
「お、俺は何も関わりはないです!」
クラウスは弾かれたように顔を上げた。
てっきり、助けてくれたアーサーは少なくとも俺に敵意はないのかと思っていたが、見上げた彼の顔には好意的な感情は一切なく、ただ冷たく見下ろしていた。
心がギュッと苦しくなった。
「本当にそうかな?じゃあ、なぜ隠し事をする?その出自も、魔力がないと偽った理由も、君は何も話さないではないか。…さっきだって、なぜ攻撃を防がないんだ?普通は無意識に体を守ろうと防御魔法が出るはずだが、君はまるでほとんど何もしなかったかのように…ボロボロだ。いくら魔力が少ないと言ったって…そんな人間見たことも聞いたこともない。
──いや、1人いたな。アイザック…アイツは魔力がないと偽っていた。君のやっていることを見ると、アイツを思い出すんだ…っ」
アーサーの表情が険しくなった。
「──君は一体、何を隠しているんだ?」
胸元に隠された赤水晶のことが頭をよぎった。
「……何も…」
「嘘だね。俺には嘘をつかない方がいい」
アーサーがぐいっと俺の顔を上げさせた。
「…君の隠していること、俺に話す気はないか?」
「………」
アーサーの威圧のある目に見つめられて耐え難かったが、俺は何も言わなかった。
…ここで正直に言った方が楽なのか。それとも、言ったことで今より最悪な状況になるくらいなら…。
「…分かった。君が隠す以上、俺は君を疑い続けるよ」
アーサーは失望したようにさっと表情を変えた。
「君を助けはしたが…それは無抵抗の者への一方的な攻撃が許せないからだ。正直、早く弟の前から消えて欲しいと思っているよ」
冷たく言い放つと、アーサーは立ち上がって俺を見下ろした。
「…ギルバートにとって、君の存在は危険だ。ギルバートだって、『黒い集団』の後を追ってる1人だ。君はそんな弟のそばに、ずっと居られると思っているのか?」
一瞬、今朝見たギルバートの部屋で見た、『ゼト信仰者』に関しての膨大な資料が思い出された。
「…ギルバートは、なぜそこまで『黒い集団』のことを──『ゼト信仰者』のことを調べているんですか…?」
「…それを知りたいなら、今夜俺たちの書斎に来るといい。──俺も、君には聞きたいことが山ほどある」
「──兄さん!いるのか?!」
その時、遠くからギルバートの声がして、彼が息を切らせながら走ってくるのが見えた。
「弟は本当に君のことが大事らしいね」
アーサーは低い声で言って、俺に手をかして立ち上がらせた。
「ッ!クラウス!…無事か?」
ギルバートは俺の顔を見た瞬間、心底安堵した顔をした。何か言う前に、温かい腕に力強く抱きしめられる。
「大会が終わって、君のもとへ行こうとしたら居なくなっていて…焦った」
温かい手が頭をそっと撫でた。
「──大丈夫か?もっと早く来ていれば…」
「…ごめん。探してくれてありがとう」
「…兵士から、犯人のことは聞いた。用心しなければと思っていたが、まさか王宮でこんなことが起きるとはな」
「…彼ら過激派は、最近どんどん増えているみたいだからね。…さあ、城に戻って休もう」
アーサーに促され歩き出すと、クラウスは酷く疲れているのが分かった。
…また、赤水晶を酷使してしまったか…。
ふらつく体を、ギルバートはずっと支え続けてくれた。
…助けてくれ…
しかし、願いは虚しく、俺の体は攻撃魔法に包まれる。
「ッおい、アイツ防御魔法も出してなくね?」
彼らの誰かが焦った声を出したが、それも分からなくなる。ぐるぐると熱や体を切り裂く痛みに頭が真っ白になった。
──しかし、俺が苦しみの声をあげようとした時、その熱が一気に断ち切られたようにフッとなくなり……
「何をやってるのかな?」
と聞き慣れた声がした。いや、その声は彼によく似ているけれど、彼の声じゃない。彼より少し明るいが深みのあるこの声は…
「ア、アーサー殿下……」
男の1人が怯えたような声を出し、ドサリと地面に膝をつく音がした。
「…事情は大体分かった。彼らを連れて行け」
どうやらアーサーは近衛兵と共に来ていたらしい。
傍に誰かが駆け寄って来たのが分かり、温かい治癒魔法をかけられる。ようやく目を開くことができると、俺に治癒魔法をかけていたのはアーサー自身だったことが分かった。アーサーは青い目に何の感情も乗せず、ただ眉をぎゅっとさせていた。
「…君が消えたと弟が焦っていたから、俺も手分けして探していたんだよ。もう平気か?」
「…はい…ありがとうございます」
アーサーは何か言いたげに言葉を止めると、連れて行かれている男たちを振り返った。
「彼らは…『黒い集団』の被害者のようだね」
クラウスは力なく頷いた。
「…俺のことを…憎んでいるようでした。…『黒い集団』の首謀者だと言われて…」
「『黒い集団』の被害者は増え続けている。燻っていた怒りが、ついにこうして過激派を生み出してしまった」
厳しい声でアーサーは言った。
「…君はこれからも狙われ続けるよ。君が『黒い集団』と関わりがないと、ハッキリ証明しない限り…。──この際聞くが、君は、奴らと関わりがないと断言できるのか?」
「お、俺は何も関わりはないです!」
クラウスは弾かれたように顔を上げた。
てっきり、助けてくれたアーサーは少なくとも俺に敵意はないのかと思っていたが、見上げた彼の顔には好意的な感情は一切なく、ただ冷たく見下ろしていた。
心がギュッと苦しくなった。
「本当にそうかな?じゃあ、なぜ隠し事をする?その出自も、魔力がないと偽った理由も、君は何も話さないではないか。…さっきだって、なぜ攻撃を防がないんだ?普通は無意識に体を守ろうと防御魔法が出るはずだが、君はまるでほとんど何もしなかったかのように…ボロボロだ。いくら魔力が少ないと言ったって…そんな人間見たことも聞いたこともない。
──いや、1人いたな。アイザック…アイツは魔力がないと偽っていた。君のやっていることを見ると、アイツを思い出すんだ…っ」
アーサーの表情が険しくなった。
「──君は一体、何を隠しているんだ?」
胸元に隠された赤水晶のことが頭をよぎった。
「……何も…」
「嘘だね。俺には嘘をつかない方がいい」
アーサーがぐいっと俺の顔を上げさせた。
「…君の隠していること、俺に話す気はないか?」
「………」
アーサーの威圧のある目に見つめられて耐え難かったが、俺は何も言わなかった。
…ここで正直に言った方が楽なのか。それとも、言ったことで今より最悪な状況になるくらいなら…。
「…分かった。君が隠す以上、俺は君を疑い続けるよ」
アーサーは失望したようにさっと表情を変えた。
「君を助けはしたが…それは無抵抗の者への一方的な攻撃が許せないからだ。正直、早く弟の前から消えて欲しいと思っているよ」
冷たく言い放つと、アーサーは立ち上がって俺を見下ろした。
「…ギルバートにとって、君の存在は危険だ。ギルバートだって、『黒い集団』の後を追ってる1人だ。君はそんな弟のそばに、ずっと居られると思っているのか?」
一瞬、今朝見たギルバートの部屋で見た、『ゼト信仰者』に関しての膨大な資料が思い出された。
「…ギルバートは、なぜそこまで『黒い集団』のことを──『ゼト信仰者』のことを調べているんですか…?」
「…それを知りたいなら、今夜俺たちの書斎に来るといい。──俺も、君には聞きたいことが山ほどある」
「──兄さん!いるのか?!」
その時、遠くからギルバートの声がして、彼が息を切らせながら走ってくるのが見えた。
「弟は本当に君のことが大事らしいね」
アーサーは低い声で言って、俺に手をかして立ち上がらせた。
「ッ!クラウス!…無事か?」
ギルバートは俺の顔を見た瞬間、心底安堵した顔をした。何か言う前に、温かい腕に力強く抱きしめられる。
「大会が終わって、君のもとへ行こうとしたら居なくなっていて…焦った」
温かい手が頭をそっと撫でた。
「──大丈夫か?もっと早く来ていれば…」
「…ごめん。探してくれてありがとう」
「…兵士から、犯人のことは聞いた。用心しなければと思っていたが、まさか王宮でこんなことが起きるとはな」
「…彼ら過激派は、最近どんどん増えているみたいだからね。…さあ、城に戻って休もう」
アーサーに促され歩き出すと、クラウスは酷く疲れているのが分かった。
…また、赤水晶を酷使してしまったか…。
ふらつく体を、ギルバートはずっと支え続けてくれた。
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