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23.舞踏会への招待状2

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と、いうわけで、俺は今王宮に向かう馬車の中にいるのだが。

隣には、俺を迎えにきたギルバートの直属らしい近衛兵の彼が座って、色々と教えてくれた。

ギルバートは、俺が冬季休暇中に帰る場所がないことを知って、王宮に招く手筈を整えてくれたらしい。

俺を招く名目は、『冬の舞踏会』への招待だ。

『冬の舞踏会』は、毎年前世でいうクリスマスの時期に開催される、宮廷関係者のみが参加する舞踏会らしい。
その中でも、王族や王家に近しい者、高い位の官職者しかいないという。

そのため、『冬の舞踏会』の内情はよく知られておらず、誰が参加したかなどは徹底的に秘密にされているらしい。
世間では、"王族が参加する秘密の華やかな舞踏会"ということで、皆の憧れの的になっているとか。

…そ、そんな所になぜ俺が…?

そういえば、前ギルバートが城に来てみないか、と誘ってくれたな…それを覚えていたとは。って、まさか舞踏会に誘われるとは思ってなかったよ!

しかし、彼は良いにしても、この「黒目黒髪」の平民の俺を招くことを、王宮関係者たちは反対しなかったのかな。

"宮廷関係者は皆、あの事件の被害者だ…"

「黒髪黒目」である俺は、彼らにどう思われるのだろう…?

そう思うと王宮に行くのが怖い気もするが、ギルバートがいるということを思い出すと少しホッとする。

…何があるにせよ、ギルバートが俺を思って招待してくれたのは確かだ。俺はそれが嬉しい。

…休みに入る前に会えなくて忘れ去られていると思っていたが、そうではなかったことに、どうしようもなく胸が温かくなるのを感じた。

「…あれが、王城です」

近衛兵が指差す方を見ると、丘の向こうに陽の光を浴びて堂々と聳える、王城が見えてきた。

ついに、王宮に着いた。







王宮に着くと、濃紺の正装に身を包んだ目が潰れそうなほどイケメンオーラを出しているギルバートに出迎えられた。

俺を見つけると、彼は目を輝かせた…ように見えた。

「急に招待して悪かった。君が冬休み学園に残ることを聞いて、それならば王宮に来てもらいたかったのだ」
「驚いたけど…招待してもらって嬉しいよ」

ほんとに、自分が前世でも到底行けないような所に来てしまって、ガチガチに緊張してしまう。そんな俺をギルバートはやんわりとエスコートしてくれた。できる男め。

そこからの流れは早かった。
そのままクラウス用らしい離宮の豪華すぎる部屋に通され、なんか高級そうな香りの立つ紅茶やらお菓子を出されたかと思ったら、いつの間にか仕立て屋だというおじさんがやって来てクラウスの全身の寸法を測り、あれよあれよという間に舞踏会の衣装まで用意してくれる流れになってしまった。

ハッ!

いけない、意識が飛んでいた。

「ん?どうした?」

目の前で優雅に座ってお茶を飲むギルバートが柔らかく問いかけてくる。

「っいや!どうしたもこうしたも、舞踏会の衣装をオーダーメイドなんて…申し訳ないんだけど…俺払えないかも──」
「何を言ってるんだ。衣装は俺からのプレゼントだよ」

心なしか、優しい目をしたギルバート。

「元々、君を強引に招待したのは俺なんだ。それくらいさせてくれ」

はぁー!そのイケメンオーラをやめてくれ!そろそろ俺の目が潰れる。

クラウスは目をしょぼしょぼさせながらかろうじてお礼を言った。

…確かに、俺の持ってる服といえばもうボロボロになってしまった平民ぽい服しかないし、舞踏会に着ていく衣装をどうしようかと思っていたのだが…

「…俺の選んだ服をクラウスが着る…いいな(ボソ)」

ん?何か言ったかな。

…しかし、改めてギルバートを見ると、濃紺の正装を着ているためかいつもよりカッチリとして威厳があり、サラサラしたプラチナブロンドも整えられていて大人びて見える。こうして見ると、やっぱり王子なんだなぁと実感する。お茶を飲んでるだけなのに滲み出るオーラがすごい。

「そんなに見つめられると、照れるな」

…うん。そして、彼は今日少しおかしい。

なんでそんなふわふわした雰囲気なんだ。あの無表情がデフォルトの彼が、いつもより表情筋が豊かだ。
ギルバートの氷色の目が、優しげに細まって俺を見つめていることに気がついて、俺は耳が熱くなるのを感じた。

…ほんと、おかしい。



それから、ギルバートが連れて行ったのは、彼の父──オスカー国王陛下の所だった。

会議室に居たオスカー王は、やって来たクラウスたちを快く招き入れた。

彼は、流石賢王と呼ばれるだけある、威厳のあるイケオジだった。ギルバートが壮年になったら、こんな感じになるのだろうな。思慮深そうな青い目はギルバートより幾分か深い色で、目尻に皺のある顔は厳しいだけじゃなく、優しさも感じた。幾度もの苦難を経験してきたような、そんな凄みのある男性だ。

俺は自分の容姿のため、少し王に会うのを不安に思っていたが、彼の俺を真っ直ぐ見る目には、特に嫌な感情も良い感情も浮かんでいなかった。感情を隠すのが上手いのか。

「──クラウスくん。ギルバートとは仲良くしてくれているようで、私も一目会ってみたいと思っていたよ」

お互いの挨拶の後、オスカー王は穏やかな口調で言った。

「ギルバートが誰か友人をここに連れてくることは初めてなんだ。どうか休みの間、王宮でゆっくりしてくれたまえ」
「ありがとうございます」

オスカー王の目がじっと自分を見つめていることに気づく。
その目がまるで心を見透すように鋭く感じ、俺は固まった。

「父上、見過ぎだ。彼が緊張している」

ギルバートがポンと俺の肩に手を置いた。

「…ふ、彼のことが大事なのは本当のようだな」

ボソリと王が何か言ったが、ちゃんと聞き取れない。

「…君は、確かに珍しい見た目をしているね。…いや、気にせんでくれ。悪い意味ではなく……私もこれまで様々な人に出会ってきたが、君のような容姿の者はいなかった。本当の意味で、君のような見た目の人には」

王の目がぐっと細まった。
黒髪黒目に偽装した、ゼトのことを言っているのだろうか…。

「…これまで大変な目に遭ってきたことはギルバートに聞いている。私としても、君の容姿には大変興味があるが…その容姿で差別されることは何があっても許されないことだ」

…オスカー王は、彼の妻であるミア王妃をゼト事件で亡くしている。それなのに、彼からは俺に対する敵意を全く感じなかった。彼は俺を観察するように見ているだけだ。

「では、2人とも、舞踏会でまた会おう」

オスカー王はこれから忙しくなるようだ。何せ、宰相──シリルの父──を始め、多くの者がこの『冬のお祭り』中、家族の元に帰っているため、政務はいつもより負担が多いのだとか。それでも休みを設けるこの王は、ブラック企業育ちの俺としては上司にしたいランキング1位だ。



こうして、俺の王宮生活がスタートした。
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