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11.テスト1
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「…さて、今日も頼むぞ」
クラウスは、そう言って首に掛けた赤水晶を固く握りしめた。この赤水晶は、体のどこかに触れていたら効果を発揮すると分かったため、普段は服の下に隠している。
…これのことは、絶対誰にもバレてはならない。バレたら、俺に魔力がないと分かってしまう。
この赤水晶に効果で魔法を使えるようになったクラウスだが、あれから劇的に何かが変わったかというと、そうでもない。
正直この赤水晶を舐めていた…。
少し使っただけで、体力がごっそり無くなるのだ。昨日調子に乗って色々練習してみたが、それだけでベッドに行く頃には気絶しそうだった。
一度使うだけでいいならレベルの高い魔法も使えそうだが、クラウスは毎日学園で魔法を使わないといけないため、初級魔法ぐらいしか使えないだろう。
命を削って魔法を使う、ってこういうことか…クラウスは背筋が寒くなるのを感じた。
…俺、もしかしてとんでもないものに手を出したのか──?
*
「クラウス!」
最近、授業では毎回助けてくれているシリルとノアがやってくる。
「今日も基礎の練習だ。ほら、やってみよう」
…さて、初めて皆の前で魔法を使うけど…大丈夫かな?
「昨日復習してた火魔法、またやってみよ!僕がやるみたいにやってみて」
ノアがそう言い、手を出して小さな火柱を立てる。
クラウスは頷くと、今まで何度もイメージ訓練した通り、手を広げる。
ボンっ
すると、クラウスの手から燃え上がる火柱が立った。小さいが、ちゃんと魔法が手から伝わっているのが分かる。
──…できた…!!やっぱり赤水晶の効果は確かだ。
「っえ?…」
目の前のノアがこれでもかと目を見開く。シリルが固まった。
周りがザワリとして、周囲にいた生徒たちも驚いたようにこちらを見ているのが分かる。
え、皆なぜか注目してる…?
クラウスは若干居心地が悪くなる。
「…い、いつから魔法使えるようになったの?」
「いや…今なんとなくできた」
ノアの問いにクラウスは誤魔化し笑いをしながら答える。いや…我ながら下手くそか!
「よかったじゃん!」
ノアは見るからに目を輝かせ自分のことのように喜んでくれた。なんて素直で良い子なんだ…ノアは一見すると毒舌キャラではあるが、その心根は素直で純粋だと分かる。少しは友達と思われているのかもな…
一方で、シリルは一瞬眉をひそめてクラウスを見た。その目が、「なぜ急に?」と言っているようで、クラウスはギクリとした。
「…すごいな。よかった」
それでも彼はどこかほっとしたように呟いた。彼も実直で優しい青年だ。
それから、皆と同じように驚いた顔をしたモーリス先生が駆け寄ってきて、改めてクラウスはいくつかの魔法を披露した。どれも初中等部の子が使うような初歩魔法だったが、赤水晶の力を使ったクラウスはどっと疲れてしまったのをバレないように気をつけた。
…あのお婆さんは赤水晶を使い過ぎるな、としきりに言っていたが──別にこのぐらい使う分には大丈夫だろ。大きな魔法を使わなければいいだけで…
「…急に使えるようになったとは聞いたこともない話じゃが…まあ、よく使えるようになったのう。驚いたよ…とてもね」
モーリス先生は何か言いたげな表情でチラリとクラウスを見ながらも、そう言った。
そうして、クラウスが魔法を使えるようになったことは、瞬く間に学園中に広がっていった。
*
「あ~、どうしよう」
クラウスは予定表を見ながら困り果てていた。
というのも、魔法を使えるようになったということで、クラウスも学期末テストを受けなければならなくなったのだ。
今までは魔法が使えなかったのでクラウスだけ特別に免除されていたが、もう魔法が使えるためクラウスも皆と同じ扱いになる。クラウスは入学してから、勉強だけはしていたため、不安なのは実技だった。
『テストか…。クラウスくんは免除でいいと思うんじゃが…。なぜか学園長が勝手に決定してしまったのじゃよ』
モーリス先生はクラウスがテストを受けることに難しい顔をしていた。
とはいえ、初中等部をすっ飛ばしたクラウスは皆より簡単なテストらしいが、変に期待する先生たちや悪意のある生徒たちの前でテストするというプレッシャーがやばかった。
俺プレッシャーに弱いんだよな…
クラウスは、前世でプレゼンのある日に、プレッシャーで腹を痛めながら電車に揺られていた朝を思い出してどんよりした。
その学期末テスト、その内容は、『対戦』である。
しかも皆の前で、皆に囲まれながら、あの合同大会の時のように1対1で対戦するらしい。俺は先生を相手にテストを受けるようだが、それでも不安だ。
そのため、クラウスはまた1人、訓練場に来ていた。
この人知れず行っていた訓練では、今まで誰にも会ったことがなかった。
しかし、今日は違った。
クラウスが的に向かって魔法を放っていると、ガサリと後ろから何者かが来た音がした。
!
初めてのことにビビって振り向くと、そこにはギルバートがいた。
ギルバート…まともに会うのはあの日以来で、クラウスは何故か心が躍る感覚と同時に、ギルバートの剣呑な表情を思い出してブルリと震える気がした。
はっきりとこちらを見て近づいてきたギルバートは、想像と違ってじっと穏やかにクラウスを見ていた。
「…いつもここで訓練してるよな」
え…?
俺がここで訓練している事を…知っている人がいたとは。
咄嗟に頷くと、ギルバートはちょっと眉をひそめた。
「…この間は悪かった。…君が努力してないと馬鹿にするような事を言ってしまった。君がずっと頑張っていたことを、俺は知っていたのにな…」
確かに、ギルバートには魔力がないと嘘をついていると疑われ…俺は落ち込んだ。だが納得もしたのだ。それに、それ以上に鋭い言葉を投げかけられることもあるから、彼の言葉に落ち込んだわけではない。
…俺は、もっと違う…ギルバートに、嫌われているということをまざまざと感じて、それで…悲しくなったのだ。…何でかは、分からないが。
「…いえ、俺は気にしていませんし…こうして声をかけてくれたことが嬉しいですよ」
落ち着いた声で言うと、ギルバートは何かぐっと考えるような顔をした。
「…それでも、謝る。君が魔法が使えるようになったと聞いて、どうしても話したくなった…よく頑張ったな」
ギルバートはそう優しい眼差しでクラウスを見つめながら言った。
思いがけない事を言われ、クラウスははっと顔を上げる。
頑張った…か。
そう言われ、なんとも言えない込み上げるようなものが胸の中に浮かんでくるのと同時に、クラウスは無意識に服の上から赤水晶を握りしめた。
嬉しい。こんな風に俺を見ていてくれたなんて…
けど、俺は本当の努力で魔法を使えるようになったわけじゃない。チートみたいな力を使って、小狡い手で成し遂げた、偽りの力だ。この赤水晶が無ければ…俺は今まで通り、"何にも出来ないただの人間"なんだから。
その罪悪感がクラウスの喜びに染まりそうだった胸をじわじわと塗りつぶした。
「…ありがとうございます」
「良かったら、俺もこの秘密の訓練に加えてくれないか?」
「え?」
「実は、俺も朝はこうして1人で訓練していたんだ。早く、強くなりたくて。でも君が訓練しているのを見て、正直俺より頑張っていると思い知らされた。俺はまだまだ学ぶことが多い。…君と一緒に訓練して、もっと多くを学びたいんだ」
ギルバートは真っ直ぐクラウスを見て言った。
すでに強いのに、もっと強く、多くを学びたいとは。
ギルバートの底知れない思いを見た気がした。
「はい。俺も一緒に訓練したいです」
そこまで言われてしまったら、クラウスは頷く他なかった。それに、ギルバートと訓練できるのは想像すると心が踊った。俺は、やはりギルバートが魔法を使う姿に見惚れ、また見たいと思っていたんだ。
*
〈ブラッド伯爵の屋敷〉
クラウスは、久しぶりに寮で泊まらず、ブラッド伯爵の屋敷に来ていた。
クラウスが魔法を使えるようになった、と聞いたブラッド伯爵が、ぜひまた屋敷に来てほしい、と言ってきたのだ。いつでも来ていい、と言われていたが、クラウスはブラッド伯爵の屋敷が豪華すぎて場違いな感じがするし、あの暗い部屋の絵が怖かったし、あんまり行きたくなかったのが正直な気持ちだ。
「おお!クラウスくん、よくぞ来てくれたね」
ブラッド伯爵は相変わらず、ニコニコと薄く笑っていた。
「早速、私にもその魔法を見せてくれるかね?」
クラウスが言われた通り、初級の火魔法を出すと、ブラッド伯爵はニッコリ笑った目を薄く開けた。
「…素晴らしい!まだこれより上級の魔法は使えないのかね?」
「そうなんです。まだまだ訓練が必要で…」
実は、これ以上の魔法も使えないことはなかったが、赤水晶の体力消費を考えると、これが限界だった。このところ、毎日赤水晶を使うので、クラウスはずっと疲れた感じが体に残っている。そろそろ、これに慣れてしまいそうだ。
「…なるほど!しかし、君に魔法の素質があるようで安心したよ。魔力がないと言われていた中、これほど魔法が使えるようになるとは──やはり、君は偉大な力を持っているようだね」
偉大な力…?なんか引っかかる言葉だが、褒められているのだろうと思ってクラウスは曖昧に微笑んでおいた。
ま、これも全部赤水晶のおかげなんだけどな。騙してすみません。
「これからも、学園で大いに学ぶといい。お金のことは気にしないで。私がいつでも出すよ」
にっこりと笑う彼。
ありがたい言葉だが、クラウスは毎日超節約生活をしており、まだ送ってもらっているお金にほぼ手をつけていなかった。
…これからどんな職に就けるか分からないから、今使い過ぎると返せないな、って思って。
でも、街に買い物くらい行ってもいいかも知れない。魔法が使えるようになったから、クラウスの将来の仕事の幅も広がって希望が見えてきた。
「ありがとうございます」
その日、クラウスは屋敷に泊まったが、あの黒い翼の絵の部屋の近くには行かなかった。なんか、怖い雰囲気なんだよな、この屋敷全体。
クラウスは、そう言って首に掛けた赤水晶を固く握りしめた。この赤水晶は、体のどこかに触れていたら効果を発揮すると分かったため、普段は服の下に隠している。
…これのことは、絶対誰にもバレてはならない。バレたら、俺に魔力がないと分かってしまう。
この赤水晶に効果で魔法を使えるようになったクラウスだが、あれから劇的に何かが変わったかというと、そうでもない。
正直この赤水晶を舐めていた…。
少し使っただけで、体力がごっそり無くなるのだ。昨日調子に乗って色々練習してみたが、それだけでベッドに行く頃には気絶しそうだった。
一度使うだけでいいならレベルの高い魔法も使えそうだが、クラウスは毎日学園で魔法を使わないといけないため、初級魔法ぐらいしか使えないだろう。
命を削って魔法を使う、ってこういうことか…クラウスは背筋が寒くなるのを感じた。
…俺、もしかしてとんでもないものに手を出したのか──?
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「クラウス!」
最近、授業では毎回助けてくれているシリルとノアがやってくる。
「今日も基礎の練習だ。ほら、やってみよう」
…さて、初めて皆の前で魔法を使うけど…大丈夫かな?
「昨日復習してた火魔法、またやってみよ!僕がやるみたいにやってみて」
ノアがそう言い、手を出して小さな火柱を立てる。
クラウスは頷くと、今まで何度もイメージ訓練した通り、手を広げる。
ボンっ
すると、クラウスの手から燃え上がる火柱が立った。小さいが、ちゃんと魔法が手から伝わっているのが分かる。
──…できた…!!やっぱり赤水晶の効果は確かだ。
「っえ?…」
目の前のノアがこれでもかと目を見開く。シリルが固まった。
周りがザワリとして、周囲にいた生徒たちも驚いたようにこちらを見ているのが分かる。
え、皆なぜか注目してる…?
クラウスは若干居心地が悪くなる。
「…い、いつから魔法使えるようになったの?」
「いや…今なんとなくできた」
ノアの問いにクラウスは誤魔化し笑いをしながら答える。いや…我ながら下手くそか!
「よかったじゃん!」
ノアは見るからに目を輝かせ自分のことのように喜んでくれた。なんて素直で良い子なんだ…ノアは一見すると毒舌キャラではあるが、その心根は素直で純粋だと分かる。少しは友達と思われているのかもな…
一方で、シリルは一瞬眉をひそめてクラウスを見た。その目が、「なぜ急に?」と言っているようで、クラウスはギクリとした。
「…すごいな。よかった」
それでも彼はどこかほっとしたように呟いた。彼も実直で優しい青年だ。
それから、皆と同じように驚いた顔をしたモーリス先生が駆け寄ってきて、改めてクラウスはいくつかの魔法を披露した。どれも初中等部の子が使うような初歩魔法だったが、赤水晶の力を使ったクラウスはどっと疲れてしまったのをバレないように気をつけた。
…あのお婆さんは赤水晶を使い過ぎるな、としきりに言っていたが──別にこのぐらい使う分には大丈夫だろ。大きな魔法を使わなければいいだけで…
「…急に使えるようになったとは聞いたこともない話じゃが…まあ、よく使えるようになったのう。驚いたよ…とてもね」
モーリス先生は何か言いたげな表情でチラリとクラウスを見ながらも、そう言った。
そうして、クラウスが魔法を使えるようになったことは、瞬く間に学園中に広がっていった。
*
「あ~、どうしよう」
クラウスは予定表を見ながら困り果てていた。
というのも、魔法を使えるようになったということで、クラウスも学期末テストを受けなければならなくなったのだ。
今までは魔法が使えなかったのでクラウスだけ特別に免除されていたが、もう魔法が使えるためクラウスも皆と同じ扱いになる。クラウスは入学してから、勉強だけはしていたため、不安なのは実技だった。
『テストか…。クラウスくんは免除でいいと思うんじゃが…。なぜか学園長が勝手に決定してしまったのじゃよ』
モーリス先生はクラウスがテストを受けることに難しい顔をしていた。
とはいえ、初中等部をすっ飛ばしたクラウスは皆より簡単なテストらしいが、変に期待する先生たちや悪意のある生徒たちの前でテストするというプレッシャーがやばかった。
俺プレッシャーに弱いんだよな…
クラウスは、前世でプレゼンのある日に、プレッシャーで腹を痛めながら電車に揺られていた朝を思い出してどんよりした。
その学期末テスト、その内容は、『対戦』である。
しかも皆の前で、皆に囲まれながら、あの合同大会の時のように1対1で対戦するらしい。俺は先生を相手にテストを受けるようだが、それでも不安だ。
そのため、クラウスはまた1人、訓練場に来ていた。
この人知れず行っていた訓練では、今まで誰にも会ったことがなかった。
しかし、今日は違った。
クラウスが的に向かって魔法を放っていると、ガサリと後ろから何者かが来た音がした。
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初めてのことにビビって振り向くと、そこにはギルバートがいた。
ギルバート…まともに会うのはあの日以来で、クラウスは何故か心が躍る感覚と同時に、ギルバートの剣呑な表情を思い出してブルリと震える気がした。
はっきりとこちらを見て近づいてきたギルバートは、想像と違ってじっと穏やかにクラウスを見ていた。
「…いつもここで訓練してるよな」
え…?
俺がここで訓練している事を…知っている人がいたとは。
咄嗟に頷くと、ギルバートはちょっと眉をひそめた。
「…この間は悪かった。…君が努力してないと馬鹿にするような事を言ってしまった。君がずっと頑張っていたことを、俺は知っていたのにな…」
確かに、ギルバートには魔力がないと嘘をついていると疑われ…俺は落ち込んだ。だが納得もしたのだ。それに、それ以上に鋭い言葉を投げかけられることもあるから、彼の言葉に落ち込んだわけではない。
…俺は、もっと違う…ギルバートに、嫌われているということをまざまざと感じて、それで…悲しくなったのだ。…何でかは、分からないが。
「…いえ、俺は気にしていませんし…こうして声をかけてくれたことが嬉しいですよ」
落ち着いた声で言うと、ギルバートは何かぐっと考えるような顔をした。
「…それでも、謝る。君が魔法が使えるようになったと聞いて、どうしても話したくなった…よく頑張ったな」
ギルバートはそう優しい眼差しでクラウスを見つめながら言った。
思いがけない事を言われ、クラウスははっと顔を上げる。
頑張った…か。
そう言われ、なんとも言えない込み上げるようなものが胸の中に浮かんでくるのと同時に、クラウスは無意識に服の上から赤水晶を握りしめた。
嬉しい。こんな風に俺を見ていてくれたなんて…
けど、俺は本当の努力で魔法を使えるようになったわけじゃない。チートみたいな力を使って、小狡い手で成し遂げた、偽りの力だ。この赤水晶が無ければ…俺は今まで通り、"何にも出来ないただの人間"なんだから。
その罪悪感がクラウスの喜びに染まりそうだった胸をじわじわと塗りつぶした。
「…ありがとうございます」
「良かったら、俺もこの秘密の訓練に加えてくれないか?」
「え?」
「実は、俺も朝はこうして1人で訓練していたんだ。早く、強くなりたくて。でも君が訓練しているのを見て、正直俺より頑張っていると思い知らされた。俺はまだまだ学ぶことが多い。…君と一緒に訓練して、もっと多くを学びたいんだ」
ギルバートは真っ直ぐクラウスを見て言った。
すでに強いのに、もっと強く、多くを学びたいとは。
ギルバートの底知れない思いを見た気がした。
「はい。俺も一緒に訓練したいです」
そこまで言われてしまったら、クラウスは頷く他なかった。それに、ギルバートと訓練できるのは想像すると心が踊った。俺は、やはりギルバートが魔法を使う姿に見惚れ、また見たいと思っていたんだ。
*
〈ブラッド伯爵の屋敷〉
クラウスは、久しぶりに寮で泊まらず、ブラッド伯爵の屋敷に来ていた。
クラウスが魔法を使えるようになった、と聞いたブラッド伯爵が、ぜひまた屋敷に来てほしい、と言ってきたのだ。いつでも来ていい、と言われていたが、クラウスはブラッド伯爵の屋敷が豪華すぎて場違いな感じがするし、あの暗い部屋の絵が怖かったし、あんまり行きたくなかったのが正直な気持ちだ。
「おお!クラウスくん、よくぞ来てくれたね」
ブラッド伯爵は相変わらず、ニコニコと薄く笑っていた。
「早速、私にもその魔法を見せてくれるかね?」
クラウスが言われた通り、初級の火魔法を出すと、ブラッド伯爵はニッコリ笑った目を薄く開けた。
「…素晴らしい!まだこれより上級の魔法は使えないのかね?」
「そうなんです。まだまだ訓練が必要で…」
実は、これ以上の魔法も使えないことはなかったが、赤水晶の体力消費を考えると、これが限界だった。このところ、毎日赤水晶を使うので、クラウスはずっと疲れた感じが体に残っている。そろそろ、これに慣れてしまいそうだ。
「…なるほど!しかし、君に魔法の素質があるようで安心したよ。魔力がないと言われていた中、これほど魔法が使えるようになるとは──やはり、君は偉大な力を持っているようだね」
偉大な力…?なんか引っかかる言葉だが、褒められているのだろうと思ってクラウスは曖昧に微笑んでおいた。
ま、これも全部赤水晶のおかげなんだけどな。騙してすみません。
「これからも、学園で大いに学ぶといい。お金のことは気にしないで。私がいつでも出すよ」
にっこりと笑う彼。
ありがたい言葉だが、クラウスは毎日超節約生活をしており、まだ送ってもらっているお金にほぼ手をつけていなかった。
…これからどんな職に就けるか分からないから、今使い過ぎると返せないな、って思って。
でも、街に買い物くらい行ってもいいかも知れない。魔法が使えるようになったから、クラウスの将来の仕事の幅も広がって希望が見えてきた。
「ありがとうございます」
その日、クラウスは屋敷に泊まったが、あの黒い翼の絵の部屋の近くには行かなかった。なんか、怖い雰囲気なんだよな、この屋敷全体。
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