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「ぎゃーっ!!」



 どうやらジャックは高所恐怖症だったらしい。

 ジャックのつん裂くような悲鳴を聞きながら、カイたちはドラゴンの中でも大型種である、ストームドラゴンの背に乗って空を飛んでいた。
 ドラゴンの首の先頭に乗って操っているのは、アランの妹のアンナだ。

 ゴーッ。ストームドラゴンは空気を切り裂きながら飛ぶ。

ッ──。ひっ。

 実を言うと、俺も高所は得意ではない。いや、誰でも無理だろ。ドラゴンの背に乗るというのは、スカイダイビングより怖いんじゃないか、と、前世の記憶のある俺は死にそうになりながら思った。…スカイダイビングもしたことないけど。

 だが俺が声もなく怯えるたびに、後ろから支えるように座っているアランが腹に回した逞しい腕に力を込めるので、俺は何とか意識を保っていられた。



 アランの故郷でイーブルと対峙してから、俺たちはついに魔王に会いに『ノースランド』へと旅立った。
 当初の予定だった、魔王を倒しに行くのではなく、本当の悪であったイーブルについて全てを暴きに行くのだ。

 …また、ストーリーのシナリオ通りではないな。
 そもそも、裏切り者だったカイが死んでいない時点で、俺の目的だった「裏切らないこと」が達成できている。…良かった。

 カイは、お腹に回っているアランの腕にそっと手を添えた。

 …生きて、またアランに会えて良かった。

 これからどうなるか分からないけど、皆が一緒だったら何でもできる気がした。







 魔王の住む城は、北の山々に囲まれた大きな谷にどっしりとそびえていた。黒々とした外見で、カイは初めて見る城に目を見張った。イーブルの元で育ったカイだったが、ここに来たことはなかった。

 ストームドラゴンは、城の真上から、一気に飛んでバルコニーに飛び乗った。
 飛び乗った瞬間からモンスターが襲ってくるかと思ったが、静寂に包まれており何も起きない。

 カイたちは顔を見合わせた。







「お前たちが勇者の一行か。噂には聞いているぞ」

 カイたちが静まり返った城を通り、中央の大広間に入った途端、低い声が響き渡った。

 魔王は、真ん中の玉座に座っていた。
 魔王を初めて見るが、想像していた通り見た目はゲームのボスそのものだった。魔王はとても大きな魔族で、黒い角と翼がある大男といった外見だ。だが、そのイカつい見た目に反して、低音の声で穏やかな語り口だった。

「ふむ。そんなに怯えるでない。他の冒険者と違って、ドラゴンで来るとは随分反則的な登場だな。お前たちは何か目的があって来たようだな?」
「そうだ。俺たちは、あなたを倒しに来たわけじゃない。話をしに来たんだ…世界の脅威である存在について」

 アランが凛とした声で言うと、自ら魔王の目の前に進んでいった。

 しかし、その時、あの嫌な声が広間全体に響いた。

「…おやおや。魔王様、その者は嘘をついていますよ」

 白い悪魔、イーブルが、ゆっくりと魔王の後ろから現れたのだ。

 …ッ!!

 カイはイーブルの姿を見た瞬間、絶望した。
 魔王は側近であるイーブルを信じるかも知れない。先手を打たれた。魔王がイーブル側についたら、今度こそカイたちの敗北が決まる。

「…ッ!…イーブル」

 アランからどっと殺気が立ち、カイはゾクっとした。彼の本気の怒りに触れるのは2度目だ。その場の全てを圧倒する力により、アランが本物の勇者として覚醒したのは明白だった。

「ほら、あの勇者は話し合いなどするつもりはないのです。なぜなら、魔王様を倒すためにここに来たのですから」

 イーブルは蛇のように魔王の背後にするりと回ると、低い囁き声で彼に語りかける。
 
「ッ違う。俺たちは、イーブルが黒幕だというのを伝えにきたんだ。魔王、あなたはイーブルに騙されている。イーブルは、何年も前から、モンスターを操って世界を脅威にさらしてきた。その原因を全て魔王のせいにして、イーブルはあなたを倒すつもりだ」
「戯言です、魔王様。勇者はあなたを倒そうと嘘をついている。前にも見せたでしょう、勇者は、どんな手を使ってでも魔王様を倒そうと考えているのですよ」

 魔王は目を細めてアランを見た。そして、ふいに玉座から立ち上がる。立った魔王は巨大で、ラスボスのような強い力をビリビリと感じた。

「……なるほど、イーブル。嘘つきがいるようだな。ついにワシが動く時が来たようだ」



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