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冒険初心者のお仕事

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 おかしいな…私は自分の寝床をなんとかしたかっただけなのに、気がついたらケモミミのあるソロンっていう男の人と一緒に町の外へと出ている。しかも横わきに抱えられて…どうやらこれは迷子防止と身長差のせいで手を繋ぐことが出来ないためらしいのだけど、かなり視線を集めているので本当はやめて欲しい。突き刺さる視線が痛くて私は顔も上げられないし、足元近くに見えるのが怖くて目も開けていられないんだよね。

「ほら着いたぞ」

 やっと地面に下ろしてもらえた…あー揺れないってすばらしい。ところでどこについたのかな? たしか初心者でも出来る仕事? っていうやつを受付で受けてきたはずなんだけど。疑問に思ってちらちらとソロンの方を見ると、とてもいい笑顔でこう言うのだった。

「さあ草取りをするぞ」
「………」

 草取り…地面を眺めると確かにいろんな草が生えている。つまりこれを取るお仕事っていうことなのかな。

「正確には薬草採取な。でもまあ草取りには違いないだろう? それに薬草を間違わずにとるのは結構むずかしいからさ、もう全部引っこ抜けばいいってことよ。そんなかにはいくつか薬草もあるだろうしな。気を付けるところとしてはだ、薬草かもしれないから根っこまで引き抜けってくらいか」

 …大雑把なんですが。でも言いたいこともわかるんだよね。たしかに草って葉っぱの形とかいろいろあるんだけど、似たようなものも多い。ほんの少しの違いを見分けないとわからないものもある。

「ああ心配すんな。ただの雑草も買い取ってもらえるぞ。家畜の餌にするみたいだからな。ただやっぱり薬草のほうが高く買い取ってもらえるってだけだ」

 つまり要約すると草を取ればお金になる、ということね。さっさと済ませて私は自分の用事に戻りたい。だからしゃがみこみ草を引っこ抜き始めた。結構あっさりと綺麗に抜ける…根っこの長い草も多いね。引き抜いた草はすぐにそのままアイテムBOXにポイポイとしまいこむ。こうしておけばしおれたり枯れたりしないから薬草とかにはいいんじゃないかな? あれ…それとも乾燥させてから使うのものなのかな? そうだとするとアイテムBOXにしまうのはあまりよくないかもしれない。雑草もどっちのほうがいいんだろうか…家畜が食べるっていってたからこっちは新鮮な方がいいのかな? まあ乾燥してからでは戻せないからどっちにしても新鮮なまましまっておけばどうとでもできるよね。

「なあ…引き抜いた草はどうした? 見間違いじゃなければ引き抜いた瞬間消えてるんだが…」
「…ある」

 アイテムBOXから取り出して見せる。するとソロンは眉をひそめた。

「BOX持ちかよ…おい、その魔法はやたらと周りで見せるなよ。だいたい厄介ごとに巻き込まれるからな」

 …すでに関係なく厄介ごとに巻き込まれているんですけど? 私のやりたいことと違うことをやらされるのはすでに厄介ごとだと思うんだけど。

「………」
「なんだ言いたいことがあるならいっとけ」
「…別に」

 じと~~っと視線を抜けてからぷいっと顔を横にそらす。人によって厄介だと思うことは本当に様々なんだと痛感した。

 ひとしきり草取りをした後腰が痛くて、立ち上がって上体をそらす。結構草取ったしもういいんじゃないかな…というかお腹空いてきた。多分そろそろ昼になるんだと思う。私の体内時計があっているならだけどね。

「おっ そろそろ一度報告に戻って昼飯にするか」

 よかった。昼なしって言われたら倒れるところだったよ。

「でもその前に…よっと」
「…っ」

 な、何…急に足を振り上げて踏み下ろしたその動作! …あと足元にいるぶよぶよ。わ…逃げようとしているのか足の下にいるのにグネグネと動いていて気持ち悪いっ

「せっかくだから魔物を倒してみるか。武器はあるか?」

 魔物…ダンジョンにいたやつとかと同じかな。見た目はそもそも顔がないからかわいいかどうかわからない。ただグネグネと動く軟体な体をしていて気持ちが悪い。まるでナメクジのような…つまり駆除対象。塩! 塩はどこっ

「ほらほらどうした冒険者ならこのくらいやれないとやってけないぞ? そんな強くないし適当に何度か殴りゃ倒せるから…」
「塩…な……ぐるっ」
「ん?」

 私はアイテムBOXから木の棒を取り出しブニョブニョな物体を目掛け思いっきり振りかぶった。

「おっと」

 ソロンも一緒に殴りそうだったのは気のせいだ…うん、気のせい。殴りつけるとびちゃっと弾けた体の一部がほほに飛んだ。気持ち悪い…塩がないから!

「お、おい?」

 何度も何度も殴った。だって殴っても殴ってもオーブに変わらないんだよっ ただひたすらびちゃびちゃと音を出すだけで…

「もう死んでるから!」
「…? ない、よ…オーブ…」
「オーブ? ああっ それはダンジョンの魔物しか落とさないものだぞ。ってかすでにダンジョンに入ってみたことがあるのか…」

 オーブはダンジョンからしか出ない? そういうものなのか…じゃあこのでろでろはどうしたらいいの?

「あーあー…こんなにぐちゃぐちゃにしちゃって」

 ご、ごめんなさい? ビローンとソロンが持ち上げるがそこからさらにぽたぽたと液体が落ちている。やっぱり気持ちが悪い…

「ほら持ち帰れよ。一応討伐した証明だからな。スライム1匹でも鉄貨2-3枚はもらえるんじゃないか?」

 スライム…デロデロ…いや、こんなのいらないよ! え? だって他のものと一緒にしまうんだよ? 液体がしたってるものと一緒にだなんていやだよっ まあそんな状態にしちゃったのは私だけども! 首と両手を横に振って後ずさった。

「こら、ちゃんと最後まで責任もてっ 持ち帰らないなら埋めるか燃やすかしないとだめだぞ」

 そうなの? 燃やす…火をつける手段がないから出来ない…となると埋めるのが無難。うーんこの枝で地面掘れるかな? ぐりぐりと地面を枝でえぐってみる。ほれ…っ ないことは…ないけど、中々穴が深くならない。くぅ~~~スコップとかが欲しいよ。


【『穴掘り』を獲得しました】


 …そうかスキルか。さて…このスキルでどこまで掘れるのかなっ

(穴掘り!!)

 木の棒を持ち上げ思いっきり地面にたたきつけた。結論から言うと穴が開いた。うん…スキルはすごいね!

「おい…スライム何匹埋める穴だよ。でかすぎだっ」

 何か聞こえてきた気もするけど気のせいだ。いいから早くそれを埋めてお昼ご飯を食べよう! あ…そうか町に戻るってことはまた人混みの中に行かないといけないのか…ちょっと沈んだ気持ちのままとりあえずスライムを埋めた。

 町に戻って来た。まずは冒険者ギルドに向かうらしい。そして私はまた荷物になる…もうね流石にちょっとこの姿勢も慣れてきましたよ。周りから突き刺さる視線さえ気にしないようにできれば楽ちんなのです…出来てないんだけど。ほんとあんまりじろじろ見ないで欲しい。緊張してだんだんと息が荒くなるし、冷や汗もやばい。うう…お風呂入りたい。

「ニーナちょっといいか」
「あらもう新人教育終わり?」
「とりあえずな。で、ちょっと部屋貸してくれないか」
「開いているからいいわよ」

 ニーナ…ああギルドの受付のお姉さんか。あ、はいまだこのまま移動するんですね。わかりました大人しくしています。

「それでどうかしたの?」
「ああ、こいつBOX持ちみたいなんだ」
「そういえば昨日もどこからともなくオーブを出していたわね。小さいものだから気にもしていなかったけど…なるほどそれでこの部屋ってわけね」
「おいおい…」
「まあそれで? 何を持ってきたのかしら。やっぱり薬草?」

 …ん? ああ出せってことかな? 顔をあげてお姉さんの方を見るとじっとこっちを見ていた。

「あ、ちょっと待って。BOXってことは種別されているわよね。籠もってくるからそこに種類別に入れてもらえるかしら」

 そういうとおねーさんは部屋から出ていった。ふぅーん…アイテムBOXって珍しい魔法だけどその辺の仕様とかはちゃんと知られているのね。

 お姉さんの持ってきた籠に種類別に分けて薬草を入れた。やっぱり雑草が多め。買い取り額は530ギルカ。ついでにタローのオーブも買い取ってもらう。こっちは5個しかないけど1つ20ギルカで100ギルカ。うん、オーブ集めたほうがおいしい。冒険者としていろいろ教えてくれようとしてたんだろうけど…私としてはあくまでもお金を稼ぐ手段だ。登録抹消とかされない程度の働きでいいと思っている。

「じゃあ630ギルカね」
「…あい」
「ねえソロンさん…もう外に出ないのならアイリちゃんの服装何とかしてやってね? 結構泥だらけだから」
「ん? 冒険者やってればそんなもんだろう?? というか俺別に世話係じゃないんだが…」
「いいからせめて気を使ってあげなさいよ。ねえアイリちゃんお着替えはあるかな?」
「…ない」
「あーそれでそのままなのか…」

 え、この人私が好きで汚い服装のままだと思ってたの? …バカじゃないの? 服がないからだよ! お風呂に入る手段がないからだよ!

「ほらね。買い物に連れてってやりなさいよ。後お風呂ね」
「わかったよ…はぁ」

 やった! お風呂入れるっ 人がたくさんいなければなおよし!

 冒険者ギルドを後にして私とソロンは店を見て歩いた。まあ正確には私は横わきに抱えられて、だ。私が着れそうなサイズを扱っている店を探して数件回る。3着ほど買い、適当な屋台で昼食をとる。外で食べるのは相変わらず人が多くてびくびくした。

「おーいアイザック。お湯を用意してくれ」
「もう、アイちゃんって呼びなさいっていてるでしょう? で、お湯?」
「ああこいつを綺麗にしてやるんだ」
「あらあらずいぶんと泥だらけね。わかったわ。お湯が用意出来たら部屋に持って行くから」

 どうやらお風呂は宿でお湯を沸かして入るみたい。

 部屋に入ってお湯が用意出来るのを待つ。さんざん抱えられたけれどやっぱりまだちょっと警戒してしまう。なので今はソロンから離れて部屋の隅で座っている。まあ部屋せまいんだけどね。

 無言で待つこと数分、部屋がノックされてお湯が運ばれてきた。というかこのアイザックと呼ばれた人力持ちね…大きな木で出来たタライにお湯が張られていてそれを肩に乗せて持ってきた。お風呂ってこれなのね…部屋の中央に置かれ、アイザックって人はソロンの背中を押して部屋から出ていった。うん…流石に見られながら入るとか無理だから助かる。

 さて…座ってぎりぎり私の腰辺りまでのお風呂か…ないよりはましだよね~ で、実は私は気がついてしまったのです。

「コピー」

 目の前に置かれたタライをコピーする。タライがなくなる…うんこれは当然なんだよね。で、さらにコピーされたものをアイテムBOXに移動してお湯の入ったタライを増やす。再び表に出した。これで元通りな上に私の手元にはお風呂が手に入った。今日は服も買えたし、お風呂が手に入ったね。毛布がまだないけど…んー…ちょっと人が使ってたやつって言うのがあれだけど、そこは我慢しようか。ベッドに近づき…

「コピー」

 そしてベッドを持ちに戻す。ちょっと大きな音がしてしまった。

「おーいなんだ今の音は!」
「だ…だめ!」

 扉を押さえ入れないようにする。

「こら、女の子がお風呂に入ってるんだから開けちゃだめよっ」

 そうそう。開けちゃだめよ。よし、これでベッドも手に入ったね。お風呂、着替え、ベッド…軽い食料もある。これでしばらく町に来なくてもいいだろうか…あ、サーニャに服を洗って返さないといけないよね。まあ…乾くのに時間掛かるかもだしそれまではいいでしょう。

 アイテムBOXからミニコアを取り出し私はこの部屋から脱出するのだった。
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