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私は荷物じゃない

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 えーと…知らない天井だね、しかも2回目の体験。でもサーニャのとこで見た天井と作りは同じかな? まずは確認から。両手を眺める…小さめな手だ。つまり私は12歳かな? 服は…サーニャに借りたもの。どうやら夢ではなかったらしい。ゆっくりと体を起こして室内を眺める。とても狭い部屋だ。ベッドと棚が一つ。棚の前の壁には小さな窓があるだけだ。

 あ、私の靴。ベッドの足元に今日買った木と布で作られた小さな靴が置かれていた。

「んっしょ…」

 ベッドから降りその靴を履き窓へと近づく。外は日が落ちていて真っ暗だった。ほんのりと月あかりで照らされているだけなのであまり外はよく見えない。

「はぁ…」

 反対側にはこの部屋の扉があった。内側から木製のかんぬき錠で閉めるタイプみたい。現在鍵がかかっている。だけど鍵の位置は低いので私でも手が届く。なんの問題もなく鍵が開いた。そっと扉を開け外の様子を確認する。まあ…廊下だね。壁にはいくつも扉があるのが目に入った。ますますここがどこなのかわからなくなるだけだった。

 扉を閉め中へと戻り、ベッドに腰掛け直前のことを思い出してみる。私はスキルを使って姿を隠していた…すぐ横にいる人でさえそんな私に気がついていなかったのに、背後から声をかけられたんだ。

「逃げないのか?」
「……っ」

 突然部屋の中に声がした。誰もいないのに…なんで? キョロキョロと四隅をみたけど誰もいない。もしかして幽霊とかいたり…

「あ、わりぃ…ここだ」

 声が聞こえたと思った方…扉のあたりを見ると男の人が立っていた。この人…! 店で私に話しかけてきた人だっ 急に怖くなりベッドの上を後ずさる。そんなことはお構いなしと男の人はベッドに近づいて来てそのまま腰掛ける。私はベッドの上であり部屋の角に追いやられ身動きが取れなくなった。そうだよ…内側から鍵がかかってたんだものおかしいとどうして気がつかない私!

「体調はどうだ? 急に倒れたから怪我とかないといいんだが…あと家がわからんかったから、俺の借りている宿の部屋に連れてきた」

 …へ? え、何??

「いきなり声をかけた俺も悪いが、お前あの店で何してたんだ? 子供が勝手に布とか触ったら怒られるだろう?
?」

 ん? あれ…この人もしかして私が怒られないように止めてくれたってこと? いやいやいや…そうだとしてもなんで私が見えたのよっ まずそこがおかしい!

「私…隠密つか……んで?」
「なんだ隠密中だったのか。でもそれまだレベル低いだろう? 俺みたいに耳がいい奴だと意味がねぇーな」

 男の人が上の方を指している先にはもちろん耳が。耳がいい…あれ? この人の耳…横じゃなくて上の方に。け…ケモミミ!!

「あ…」
「やたらと大きな心臓の音が聞こえてたからな~ 気になってつい声かけちまった」

 恥ずかしいいいいいいいいっ 顔が熱くなるのを感じた今すごい顔が赤くなっているかもしれない。そして心臓の音ってそんなに聞こえるものなの~という疑問が!! ケモミミがっ 心臓がっ どうすればいいの私!

「ぶっはっ お前顔がコロコロ変わって面白いな!」

 さらに笑われたーーーーーー!! なんか悔しいっ

「はーーーまあいいや。外暗くなっちまったから今日はこのままここで寝ていけよ。朝になったら家まで送ってやるからな」

 え? ここで寝るの?? ベッドは一つしかないんだけど。

「俺は床にでも座って寝るからお前は気にせずそこで寝ろよ」

 ベッドと男の人を交互に見ていたら気がついてくれた。結構いいひと? いやいやいや…騙されないもんね! そもそもこの人のせいでこんなことになっているんだしっ

「それとも一人で寝れないとかか~?」
「!」

 私はすぐに布団を被った。

「くっくっくっ…」

 くそうっ 笑うな! 見た目小さいからって子供扱いするな! こう見えても私は12歳…子供だったわ……布団の中で一人落ち込んでしまった。



「…い、おーい」
「んん…」

 うるさい…

「そろそろ起きてくれないかな? 俺にも仕事ってもんがあるからさ」
「……」

 !!! 顔近っ というか誰! あ、ケモミミ!! 
 あわてて飛び起き壁際まで後ずさる。起こすにしても起こし方ってもんがあると思うんだけどっ というか私こんなところで熟睡して…昨日は色々ありすぎて疲れてたんだな~私……

「んじゃいくぞ~」
「え、どこ…に?」
「どこってとりあず飯だな」

 飯…そういえば私昨夜ご飯食べ損ねて…と思い出した途端、ぐううううううっという大きな音が鳴り響いた。

「おいおい、そりゃどんな返事だ?」
「~~~~~~っ」

 うっさいバカっ しね! 思ってても口にはださないけどね! 熱くなった顔を両手で隠すとふわりと体が浮く感覚がやってくる。

「え?」
「ほらさっさといくぞ」
「ひっ…ひぎゃあああああああああっ!!!」
「ばっ ばか大きな声だすなって!」

 バカはお前だーーーー! この人私を抱えてっ というか小脇に抱えるとか荷物扱いか!! いやそうじゃない…おろせばかああああああああっ

「ひっく…ひっく…」

 結局あのまま廊下に連れ出され階段を下りた。はっきり言ってかなり怖かった…揺れるたびに階段の段差が顔に近づいたり離れたりするんだ。いつ顔をぶつけるかとひやひやだ。そして涙が止まらない。まるで本当に子供になってしまったかのようにポロポロと勝手に流れ落ちる。

「ほんとデリカシーのかけらもない男ね」
「う…うっせ~…」

 テーブルの上にお皿が並んでいく。その食事を運んできたのはエプロンを付けた人なので多分この宿の従業員。背が高めで可愛らしい服装をしているが声がちょっと低くて…多分男の人。肩ががっしりとしていてのどぼとけがある…

「ひぐっ」
「ああ~ほらほら泣かないで…あんたのせいよ!」

 違う…また女の人だと思ったのに男の人だったあんたのせいだよっ 性別がなかったり…ケモミミがあったり…女の人だと思ったら男の人だったり…どれだけ私を混乱させればいいのか! 昨日会っただけのサーニャが恋しいよ…サーニャも普通じゃないってことはないよね? っていうかこの男女なれなれしい…重たい、のしかからないで欲しい。

「で? この子はどこの子なの」
「さあ?」
「さあってあんたね…」
「仕方ないだろう? 昨日声をかけたら目の前で倒れちまったんだから」

 あ、はい…すみません。でもそんなことよりお腹が空いたので、目の前の食べ物を食べてもいいですかね? と、ちらりと様子をうかがう。

「ん? ああごめんね~ お腹空いてるわよね食べていいわよ。こいつが払ってくれるから」

 やった許可が出たっ そういうことなら遠慮なくいただきまーす。まずはこの白いスープから…んっ おいしい! これシチューっぽい。優しい味と温かさがすきっ腹にしみわたるぅぅぅぅぅ…でも、パンはやっぱり硬いのね。まあ割ってスープに入れてしまおう。

「ああそうだ。パン硬いから割ってあげましょう…か?」
「?」

 え、なに?? パン自分で割って食べたらいけなかったの? じっと見られるととても食べにくいのですが…

「ソロン…この子本当にただの子供なの?」

 ソロンって誰? というか私は普通の12歳なんだけど…多分。ただちょっと別の世界から来たってくらいで。あーそれとステータスが若干高いかもしれないかな? …もぐもぐ。

「うーん…どうだろう? 魔法とか使ってたしな」
「え…まだ7歳くらいでしょう? いくらなんでもまだ魔法なんて…」
「…12、です」

 私そんなに小さいのかな? ちゃんとステータスには12って書いてあるから間違いないと思うんだけど。

「…ちょっといいか?」
「?」

 ケモミミの男の人が私の首のあたりへと手を伸ばしてきた。ちょっと引っ張られる感覚がして首から提げていたものが服の中からずるりと滑り出す。

「アイアンタグ…冒険者か」

 あーこれって冒険者の印みたいなのだったんだね。冒険者ギルドで登録したときに貰って首から提げているようにって言われただけだから、何のためか知らなかったよ…ふぅ、ごちそうさま。

「じゃあ俺と同じか…そういうことなら家に送ってやるのは違うな」
「!」

 そうだよ家だよ! 私部屋を整えたかったんだよっ 

「アイザック、代金おいておくぞ」
「ひゅあっ」
「もう、アイちゃんってよびなさいよ!」

 ケモミミの男の人…多分ソロンって名前の人がまた私を小脇に抱えた。だから私は荷物じゃないんだよおおおおおおっ そして学習した私は大人しくしていた。目を開けていたり暴れる方が危険だということをね! この状態から抜け出せないのなら力を抜いて目を閉じていよう。このほうが怖くないしそれに…

「おいあれ…」
「人さらいか?」
「誰か助けて来いよ」

 と、むしろ周りが勘違いしてざまあ見ろだ! 私を荷物扱いするからこうなるんだよねっ さあ~ 早く下ろすんだ~~ もちろん下ろされたら逃げるけど。

「ああっ? ただの迷子防止だぞ!」

 ええ~…迷子防止だったの? というか私はどこに連れていかれるのかな…目を開けて確認すればいいんだけど怖いし…視線も怖いし…絶対色んな人が見てるよ…目を閉じて気がつかないままでいたい。

 ん…空気が変わった。どこか建物の中に入ったみたい。気のせいか突き刺さるような視線をビシバシと感じる。周りからは賑やかな声とひそひそ喋る声。

「おいニーナ。なんか新人によさそうな仕事ないか?」
「あらソロンさん今日は新人教育をするんです…か? ってアイリちゃんじゃない」

 …ん? 私を知っている人?? たしかに聞き覚えのあるような声だけど…

「…」

 顔をあげて見たら昨日ここで登録をしたときのおねーさんだった。通りで聞いたことがあるはずよね。流石の私も昨日聞いたばかりの人の声は忘れないし。知っている顔にちょっとだけ安心した。そして無言の視線で訴える。この人何とかして! と。

「新人教育ってアイリちゃんのこと?」
「ああアイアンの冒険者だろう? 出会った縁もあるからちょっと鍛えてやろうかと思ってな」
「まあそうよね…いくら強いかもといっても冒険者としては初心者だものね…基本的なことを教わるのは悪いことじゃないわよね…」
「ん? アイリっていうのか。しかも強いのか…見えないな」
「名前も知らなかったんですか…どんな縁か知りませんがほどほどにお願いしますね? で…仕事でしたよね」
「ああ」

 だめだ…このおねーさんは助けてくれそうもない。私は部屋を整えたかったのに…
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