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いいことと悪いこと
291. ノノさんとの別れ
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俺の顔を見ながらゆっくりと近づいてくるノノさん…その表情は影になっていてはっきりとは見えない。ゆっくりと右手が背中の腰辺りへと動きその手が再び前へ戻ると、ノノさんの手には月あかりを反射して光るナイフが握られていた。
「…っ」
でかけた声を飲み込み、俺はじっとノノさんの動きを眺める。ナイフを手に持ち次にとる行動なんてわかりきったことだ。まさかここでいきなりリンゴの皮むきが始まるわけもないのだ。
ナイフを前に構えノノさんが切り込んできた。あんなに強く感じていたノノさんの動きが俺にはゆっくりに見えている。少しの動きで俺はかわし続けた。するとノノさんの動きがピタリと止まり構えていたナイフを持つ手をおろした。
「流石異世界の人間というところですか…もうこんなに力量が離れているのですね」
「ノノさん…」
「私はムコン伯爵に雇われている身。基本逆らうことが出来ないのです。ですが…これは無理ですね~」
そういったノノさんがニコリと笑い手に持っていたナイフを逆手にかまえた。
「何をっ!」
俺の声と同時にそのナイフがノノさんの腹部へと吸い込まれていった。さらにナイフを引き抜き自身の首へと突き付ける。
「…近づかないでください。それ以上近づくようなら…刺します」
「ノノさんなんで…」
ぽたりぽたりとナイフから腹部から血が零れ落ちる。
「リョータ様との旅は楽しかったですね…珍しい食べ物や一緒にスキルの検証をしたり、こうやって…一緒に星を見たり…」
「……」
「…私の力量ではリョータ様を押さえつけ腕輪を着けることは不可能。このまま…戻ったところ、で…また次の手が用意される…だけ…だったら…っ 私が…いなくなるのが早いのですよ?」
息も切れ切れにノノさんが言う言葉に耳を傾けつつも俺はノノさんを止める方法を考えている。足元には血だまりが出来始めていて顔色も悪い。
「なぜ…最初から首じゃないんだ?」
「…はぁ、そうしたら会話が…出来ないじゃないですか…」
立っているのもつらいだろうにまだ笑顔を俺にノノさんは向けた。
「でももう…おわり……ふふっ」
「ノノさん!!」
ゆっくりと倒れていくノノさん。いつの間にか右手に持っていたナイフも足元に落ちている。俺は走ってノノさんを抱き起しすぐにヒールをかけた。
「なんで! ヒールッ ヒールッ 傷が塞がらない!! …そうだ響子っ」
すぐにイヤリングで響子に声をかける。向こうから眠そうな響子の声がすぐに聞こえてきた。
『なぁにぃ~?』
『今すぐ家の外に出てきてくれっ』
『今すぐ…?』
『いいから早く!!』
『わ、わかった…』
ノノさん…
すでに目は閉じられ全く動かなくなってしまった…なんでこんなことに? ヒールさえかければ傷は塞がるんじゃないのか? まさかヒールだと回復出来ない領域があり、ノノさんはそれを狙っていた…? だとすると最後の笑顔も頷けないこともない。
「りょーちゃんっ? なにこれどうしたの?」
「響子まだ回復間に合うか!?」
「……うん、まだ間に合うよ! 回復のエキスパートの私に任せてっ」
「頼むっ」
響子の両手がノノさんの体に触れ、触れた先から光が広がっていく。2人が眩しい光に包まれて見えなくなった。それでも俺は腕の中にある重さや感触のある方に顔を向け助かることを祈り続けた。
「…っ」
でかけた声を飲み込み、俺はじっとノノさんの動きを眺める。ナイフを手に持ち次にとる行動なんてわかりきったことだ。まさかここでいきなりリンゴの皮むきが始まるわけもないのだ。
ナイフを前に構えノノさんが切り込んできた。あんなに強く感じていたノノさんの動きが俺にはゆっくりに見えている。少しの動きで俺はかわし続けた。するとノノさんの動きがピタリと止まり構えていたナイフを持つ手をおろした。
「流石異世界の人間というところですか…もうこんなに力量が離れているのですね」
「ノノさん…」
「私はムコン伯爵に雇われている身。基本逆らうことが出来ないのです。ですが…これは無理ですね~」
そういったノノさんがニコリと笑い手に持っていたナイフを逆手にかまえた。
「何をっ!」
俺の声と同時にそのナイフがノノさんの腹部へと吸い込まれていった。さらにナイフを引き抜き自身の首へと突き付ける。
「…近づかないでください。それ以上近づくようなら…刺します」
「ノノさんなんで…」
ぽたりぽたりとナイフから腹部から血が零れ落ちる。
「リョータ様との旅は楽しかったですね…珍しい食べ物や一緒にスキルの検証をしたり、こうやって…一緒に星を見たり…」
「……」
「…私の力量ではリョータ様を押さえつけ腕輪を着けることは不可能。このまま…戻ったところ、で…また次の手が用意される…だけ…だったら…っ 私が…いなくなるのが早いのですよ?」
息も切れ切れにノノさんが言う言葉に耳を傾けつつも俺はノノさんを止める方法を考えている。足元には血だまりが出来始めていて顔色も悪い。
「なぜ…最初から首じゃないんだ?」
「…はぁ、そうしたら会話が…出来ないじゃないですか…」
立っているのもつらいだろうにまだ笑顔を俺にノノさんは向けた。
「でももう…おわり……ふふっ」
「ノノさん!!」
ゆっくりと倒れていくノノさん。いつの間にか右手に持っていたナイフも足元に落ちている。俺は走ってノノさんを抱き起しすぐにヒールをかけた。
「なんで! ヒールッ ヒールッ 傷が塞がらない!! …そうだ響子っ」
すぐにイヤリングで響子に声をかける。向こうから眠そうな響子の声がすぐに聞こえてきた。
『なぁにぃ~?』
『今すぐ家の外に出てきてくれっ』
『今すぐ…?』
『いいから早く!!』
『わ、わかった…』
ノノさん…
すでに目は閉じられ全く動かなくなってしまった…なんでこんなことに? ヒールさえかければ傷は塞がるんじゃないのか? まさかヒールだと回復出来ない領域があり、ノノさんはそれを狙っていた…? だとすると最後の笑顔も頷けないこともない。
「りょーちゃんっ? なにこれどうしたの?」
「響子まだ回復間に合うか!?」
「……うん、まだ間に合うよ! 回復のエキスパートの私に任せてっ」
「頼むっ」
響子の両手がノノさんの体に触れ、触れた先から光が広がっていく。2人が眩しい光に包まれて見えなくなった。それでも俺は腕の中にある重さや感触のある方に顔を向け助かることを祈り続けた。
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