上 下
203 / 356
マリジアナの町

187. 認識の齟齬が激しい

しおりを挟む
 ラージビットを仕留めたシズクがその後ろ脚を掴んで血を滴らせながら戻って来た。その光景にさらに眉を俺はひそめた。

「なあなあ今日はこいつを食おうぜ!」
「シズクさんっ あまり血をそこらに撒かないでください」
「ん? これくらい問題ないだろう?? ついでに血抜き出来るしさ」

 いやそうかもしれないけどさ…ビジュアル的によろしくないと俺は思うんだ。見た目小さい獣人の女の子が嬉しそうにウサギの足を掴んで血を垂らしながら歩いてる。どうよこれ?

「さらに魔物が来たら面倒でしょう?」

 そっち? ルー的には気になるのはそっちなんだね。見た目はどうでもいいってことなのか、これが普通なのか俺にはよくわからない。

「それならそれで食いもんが増えるだけだろ」
「そうなんですが、それが私たちを狙ってくるとは限らないのでは?」
「あー…言われてみればそうかも。他のやつのために呼ぶのは違うかもな」

 …迷惑が掛かるって話じゃないのか?

「わかったのならしまってください」
「ほいよ」

 ……なんだろうさっきから認識の齟齬が激しい。もしかしなくてもこっちの常識とあっちの常識は結構違うのか?

「では出発しますね」
「ん、おおよろしく」

 何事もなかったように馬車が走り出す。背後では食料が増えて機嫌がいいシズクが。右横には何もなかったと言わんばかりのルーが馭者をしている…深く考えるのはやめておこう。目の前に怒ったことはそれが事実だったということだけわかればいい。うん…

「あ、そうだルー次の町まではどのくらいかかるんだ?」
「そうですね大体4日くらいかと」

 ぼちぼちかかるんだな~

「安心しろって食料はしっかり仕留めてやるからさっ」
「……」

 そんなことは心配していない。複製と魔力がある限り困らないし。まあシズクには話してないから心配しても仕方ないか。実際さっきの町で食料の買い足しをしていないし。

「リョータさん昼は川の傍にしますので、そこで先ほどのラージビットを解体しましょうか」
「ウォッシュじゃダメなのか?」
「ダメじゃないですけど…その先で少しの間魔力が回復しない場所を通過するので、念のために魔力の温存をしておいて欲しいのです」
「え、ポーションでの回復は問題ない?」
「はい大丈夫です」

 それなら問題ないと思うんだが…

「盗賊がよく出る場所ですので確実に戦闘があると思っておいてくださいね」
「え?」

 よく出るってわかってるなら捕まえるなりなんなりすればいいんじゃ? なんで野放しなんだよ。

「誰も捕まえないのか?」
「町まで連れて行くのが面倒ですよ? だからと言って全員殺すのも片付けが大変ですし…ですからお互いにどちらかが数人やられたりすると撤退するんです。こちら側が負けたら交渉して命だけは助けていただかないと…まあリョータさんに結界を張ってもらって走り抜けるのが無難だと思いますが」

 なんなんだそれはっ 

「迂回出来ないのか?」
「出来ますけど…移動だけでさらに4日ほどかかりますが」
「ぐぬ…」

 馬車での移動が長いのは嫌だな。結構尻がいたいんだよなこれ。実は気がつかれないように定期的に尻にヒールかけてるし。

「…突破にしようか」
「はいもちろんです」
「ところでなんでそこは魔力が回復しないんだ?」
「たしか…近くにあるダンジョンが周辺の魔力を吸い込んでいるとかなんとか」
「魔力を吸い込む?」
「はい、私はそう聞いていますけど入ったことがないのでなんとも」
「なんだなんだ? 魔吸ダンジョンへ行くのか??」

 よくわからないがシズクが嬉しそうに話に入ってきた。

「そこはなーさっきも言ってたみたいだが魔力が回復出来ないから主に力技で挑むダンジョンなんだよ。俺たちの間では力試しをする場所って言われてるぜ! しかも結構いい肉が手に入るから、たまーに俺も行くんだっ」

 肉が手に入るダンジョンか…なるほど肉が好きそうだもんな獣人たち。

「そろそろ街道から少し外れますね」
「ああ」

 どうやら最初の休憩地に到着のようだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...