上 下
4 / 23

第4話 冒険者ギルドにいくぞっ

しおりを挟む
私の話を最後まで黙って聞いていた彼女はしばらく一人で何やら考え込んでいるみたいだった。それほど難しい言葉を使わずに説明したはずなので、幼い彼女でも理解は出来るはずなのですが…

「う~~ん…つまり冒険者ギルドってのは仕事をくれるところ…ってことでいいのかのう?」
「そうですね簡単に言うとそうなります」
「それのどこが勇者らしいのじゃ?」
「困っている人の仕事を手伝うので、とても喜ばれるあたりですかね?」
「ふむぅ…勇者というのは人に喜ばれることをするのが仕事なんじゃな」

ああ、なるほど。彼女は勇者がどういったものなのかがそもそも理解できていなかったみたいです。まあもともと魔王として勇者が挑んでくるのを待っている毎日でしたから…勇者は魔王に挑むもの、としかわかっていなかったのかもしれません。でもこれはあくまでも魔王が悪いことをすると勇者がやってくるだけであって、実際害のなかった元魔王である彼女の元へは勇者は来ることがなかったということなんですが…きっとその辺もよくわかっていないんでしょう。

「じゃあとりあえずその冒険者ギルドとやらにいってみるかのう」
「そうしましょう。そろそろ少しでもお金を稼がないとお腹が空いてくるのではないですか?」
「え…あっ」

タイミングよく彼女のお腹がぐううううっと鳴りました。お腹を押さえながら彼女は頬を軽く染め視線をさまよわせます。

「うう…っ 違うのじゃ、わらわではなく鳴ったのはアルクウェイの腹なのじゃっ」
「そうかもしれないですね。では取り急ぎ冒険者ギルドへ行きましょうか」
「う、うむっ そなたの腹の虫が訴えておるしのう」

空間庫から地図を取り出し私は現在の場所から一番近い町を探す。どうやらこの精霊の森は最南西にあるようで、この森を北へと抜けると転職の泉で職業をもらった冒険者たちが最初に訪れる町…ファスティアがあるらしい。そのため私達は地図に従い、森を北へと抜けるために歩き出すのだった。

体感として30分ほど経過したころ、彼女の歩く速度が下がり始めた。

「うう…妙に疲れるのじゃ…こう、魔法でばびゅんといけないものか」
「精霊の森での魔法使用は無理だと思いますよ? ほら私も道具を使っていたでしょう??」
「あーそういえば魔法は使っていなかったのう…」
「それにしっかりと歩けば体力も増えますよ」
「うぬう…それはわかるのじゃが……ぬあっ?」

足がもつれ何もないところで彼女が膝をついて転んだ。LV1というのはここまで貧弱なものだったのだろうか。

「むむむ…膝が痛いのじゃっ」

うっすらと涙を浮かべならが彼女は自分の擦りむいた膝を眺めている。

「魔王様」
「勇者じゃ…」
「その勇者ともあろうお人がその程度で泣いていていいのですか?」
「うぐぅ…っ 泣いてなどいないのじゃ。レベルが下がったせいで少しだけ痛かっただけなのじゃ!」

乱暴に目元を袖でこすると彼女は立ち上がり再び歩き出した。足を前に出すたび、ちょっとだけ走る痛みを我慢しているのが表情からうかがえる。すでに強くなり始めたころの彼女しか見たことがなかった私は、そんな姿を見て少しだけほっとしてしまった。年相応というかなんというか…

「あっ あれが町じゃないのか? ほら、門みたいなのが見えてきておるぞっ」
「ほんとですね。たぶんファスティアで合っていると思います」

町の入り口である門が見えてくると彼女はさっきまで感じていた痛みを忘れたのか、とてもうれしそうにはしゃぎ始めた。

「アルクウェイよ急ぐのじゃ~っ」
「急がなくても町は逃げないですよ」
「わかっておるわっ それでも早く冒険者ギルドとやらへいくのじゃーっ へぶぅ…」

急ぐあまり彼女は再び転んでしまった。今度はさっきと反対側の膝を擦りむいたようで、寝そべったまま中々起き上がろうとしない。

「ううう…アルクウェイ…」
「仕方ありませんね」
「うぬぬ…早くレベルをあげるのじゃ~…」
「はいはい」

目に涙をためている彼女を私は横向きに抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこというものなのだそうだが、両膝を擦りむき、目に涙をためている彼女を抱えてもわいてくる感情はいわゆる庇護欲とうものだろうか…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...