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31 アレンの正体

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「――聖なる神の子?」
「うむ。それこそがアレンの正体かもしれんぞい」

 聖なるコアの騒ぎも収まり、島に再び穏やかな平和が戻ってきた。
 クーやガトーも交えて、皆でアレンの作った料理をモシャモシャと美味しそうに食べている中、エンゼルがアレンの謎について切り出した。

「またいきなりだな、ジーサン」

 アレンの作ったココナッツジュースをすすりながら、ガトーがエンゼルをジト目で睨みつける。

「ウマいメシ食ってる時に、そんな軽々と話すようなことか?」
「内容的にはかなり重要なものじゃが、むしろタイミングとしては、今のほうが好都合じゃと思ってのう」
「……意味分かんねーし」
「まぁ、とりあえずワシの見解を聞いてくれ」

 エンゼルは苦笑しつつ、改めてアレンたちを見渡した。

「数百年に一度の確率で生まれる奇跡の存在――それが『聖なる神の子』じゃ。もっともその中身は、聖なる魔力の器を持つ男児というだけじゃがな」
「でも、それって確かに珍しい話よ?」

 クーに焼いた肉の塊を切り分けてあげながら、ディアドラが言った。

「聖なる魔力を持つのは、人間の女性だけだと言われているわ。仮に聖女と呼ばれている人が男の子を生んだとしても、聖なる魔力を持つことはあり得ないと」
「うむ。じゃがそこに例外があるとすれば、どうじゃ?」
「例外……」

 アレンは顎に手を当て、なんとなく頭に浮かんできたことを口に出してみる。

「俺の母親が元聖女かなんかで、たまたま俺が、聖なる魔力と馴染める素質を持って生まれてきちゃった?」
「その可能性が極めて高いとワシは見ておる」
「何かの間違い、ってことは?」
「まぁ、それも普通にあり得るじゃろうが……整理して考えてみれば、色々と辻褄も合ってくるでのう」

 エンゼルは空を仰ぎながら、懐かしむような表情を浮かべた。
 思えばたった数日のことでしかないのに、随分と色々なことがあったと、改めてしみじみと感じてしまう。

「まず第一に、アレンたちがこの島を見つけ、上陸できたことじゃ」
「あぁ、アレには驚いたぜ。まさか外から誰か来るなんてよ」
「ぼくもだよー」

 ガトーに続いて、クーも声を上げる。

「たまたまおさんぽしてたら、いきなりあれんたちがくるんだもん。あやしいのかなっておもったけど、すぐにそうじゃないってわかったし」
「クーにソッコーで認められるなんて、オレもスゲーなぁと思ったぜ」

 ココナッツジュースを飲み干したガトーが、ぷはぁと景気よく息を鳴らした。

「こう見えてコイツ、結構気難しいトコロがあってよ。見たことがないモノに対する警戒心ってのがスゲーんだわ」
「うむ。それも恐らくは、アレンの中で聖なる魔力が共鳴していたのを、クーが無意識に感じ取ったからかもしれんな」
「うーん……」

 エンゼルの言葉に、クーが首を傾げる。

「よくわかんないけど、あれんをみていたら、なんかすぐにしまのみんなみたいなかんじするーって、そうおもったよ?」
「なるほどね」

 クーの言葉を聞いたディアドラは、なんとなく分かったような気がした。

「島の外から来たアレンが、何故か聖なる魔力じみたものを持っていた……要はそういうことでしょ?」
「うむ。それを決定的に裏付けるのが、こないだの件じゃ」
「そうね」

 ディアドラも、エンゼルの言いたいことはすぐに理解できた。

「アレンが暴走した聖なるコアに触れた瞬間、一気に収まっちゃったものね。あれはどう考えても偶然じゃないわ」
「うむ。アレンの中に眠る聖なる魔力の器と共鳴した、と考えるのが自然じゃな」

 ディアドラとエンゼルの言葉に、皆がアレンに注目する。クーは凄い凄いとはしゃぎながら、アレンに抱き着いているほどだ。
 しかしながら、肝心のアレン本人は、戸惑いの表情を浮かべている。

「……そもそもの疑問なんだけどさ」

 色々と思うところはあるが、これだけは言っておきたかった。

「僕、そもそも魔法とか全く使えないただの人間だよ? 聖なる魔力の器とか、そういうの言われても、ピンとこないってゆーか……」

 アレンは頬を掻きながら苦笑する。理屈は確かに通っているだろうが、それでも実感がないため、どうにも納得できないでいた。
 偶然が重なっただけで、聖なる魔力とは無関係――その可能性もあり得る。
 しかし――

「魔法が使えるかどうかは、この場合さして問題ではない」
「えっ?」

 エンゼルからのまさかの言葉に、アレンは目を丸くする。

「問題ではないって……魔法が使えなくても大丈夫って感じに聞こえるけど」
「あ、そっか!」

 アレンが全く意味が分からない様子を見せる中、ディアドラは気づく。

「聖なる魔力は、コアの魔力を使うだけ……極論を言えば、その人の持つ『器』がしっかりしていることが重要ってところかしら?」
「うむ。あくまで推測の域を出ないが、恐らくアレンの中にある『器』が、思いのほかちゃんとしとったんじゃろう」
「ある意味、類稀なる才能ね」
「そうなるかの」

 エンゼルとディアドラが、互いに納得だと言わんばかりに頷き合う。そんな中、アレンは未だ意味がよく分からなさそうに、呆然としていた。

「……とりあえず僕は、聖なる魔力に選ばれた存在、ってことでいいのかな?」
「そう思っておけばいいじゃろう。別に肩ひじを張る必要もない。聖なる魔力を使って何かしろ、というわけでもないのだからな」

 言われてみれば、とアレンは思った。よく考えてみれば、自分たちはただ、この島で平和にのんびり暮らしていくだけなのだ。特に大きな使命もない。
 事実が分かったところで、気にするようなことはないのだ。
 そう考えれば、どうということはない――アレンは少しだけ気が楽になった。

「おぉ、ついでに言うならば、この料理もじゃな」

 ここでエンゼルが、思い出したように言う。

「アレンの作った料理には、強い聖なる魔力が込められておる。検証してみる必要はあるじゃろうが、これも立派な証拠と言えるじゃろう」
「……いや、この島の素材を使ってるんだから、聖なる魔力が込められてるのは、むしろ当然なんじゃない?」

 流石に考え過ぎではないかとアレンは思う。しかしエンゼルは、確信しているかのように目を閉じ、首を左右に振った。

「確かにこの島の果物や野草には、それが込められておる。しかしこの料理には、それらよりもはるかに強い魔力を感じてならん」
「つまり、僕が料理したことで、聖なる魔力が増大したってこと?」
「簡単に言えばな」
「ふーん……」

 アレンは生返事しつつ、ココナッツジュースをすする。そして、なんとなくクーやガトーに視線を向けてみると――

「どーりでチカラが湧いてくると思った……単純なウマさだけじゃなかったのか」
「あれんってやっぱりすごーい♪」

 何事もなさそうに料理をモシャモシャと頬張っていた。むしろより嬉しそうに喜んですらいる。少なくとも心配する意味はないと判断できそうだった。

(まぁ、見る限り特に何事もなさそうだけどなぁ……)

 そう思いながら、アレンはもう一口ジュースを飲む。
 話したいことが粗方済まされたのか、エンゼルも一息ついたかのように、口直しの水を飲んでいた。
 とりあえず色々と判明したことがあったのは、いい収穫だったかもしれない。
 アレンがぼんやりと思った、その時――

「でもそれだと、アレンの料理を食べ続けた人が聖なる魔力を宿して、勘違いされちゃうケースもあり得そうよねぇ」

 ディアドラがケタケタと笑いながら切り出した。
 それを聞いたアレンは、山奥の村で一緒に過ごした幼なじみの少女の姿が、何故か鮮明に思い浮かんできたのだった。

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